Episode:21_3 Take2



「で、またなのかい?」
 そうよっと振り返るレイ。
 二人は屋上に居た。
「君も知っている通り、僕は彼の監視で忙しいんだけどね…」
 ふっと自嘲気味に笑みを漏らす。
「だから今の僕には、授業ぐらいしかシンジ君と共有できる時間がないって言うのに…」
 シンジくぅんっと、身悶える。
「気持ち悪いからやめてってばもう…」
 鳥肌を立てるレイ。
「それより…、最近のシンちゃん、どう?」
「どうって…、なにがだい?」
 口元に張り付いた笑みが、バカにしているように見えた。
「もう!、最近のシンちゃんおかしいのよ!、なんだか冷たいし…」
 不安に瞳が揺れる。
「僕よりも君達の方が、共有している時間は多いだろうに」
 すこし羨ましげなものが混じる。
「不安なのかい?」
「自信がないのよ…」
 口を尖らせる。
「シンちゃんとクラブとバイト、みんなシンちゃんのためなんだけど、それをうまく見せられないの…」
「自分のため…、じゃ、いけないのかい?」
「違うもの、あくまで全部シンちゃんのため…、さり気なくそれを見せて…」
「気を引きたいんだね、シンジ君の…」
「うん」
 ニヤリとレイ。
「ねえ、どうすれば良いと思う?」
 珍しく相談してみる。
「さあね?」
「さあって…、冷たいね、カヲル」
 肩をすくめるカヲル。
「僕もシンジ君を取られたくはないからね」
「あっそう!」
 ぷんっとレイ。
「いいもん!、自分で何とかしてみるから!」
 昇降口へと歩き出す。
「じゃあね!、さよなら!!」
 今日もカヲルが帰ってこない事を知っていての意地悪。
「自分を取って、何かを失うのか…、それとも自己を犠牲にして、何かをつかみ取るのか?、それを決めるのはレイ、君自身だよ…」
 ぎりぎり聞こえるカヲルの言葉。
「人は欲張りだからね…、結果、すれ違う事が増えても、僕はシンジ君の喜ぶ顔を望むよ…」
 カヲルは平和そのものに見える学園に向かって一人ごちた。






「さて、それでは今日の課題です…」
 シンジ達のクラスには、週に三度の特別授業が組みこまれていた。
 アスカがうるさいので黙っているが、その担当講師は何と加持である。
「一通りの授業はしたからね、もう内容については理解してもらえたと思うが…」
 やだなぁ…
 シンジはぼうっとしながら聞いていた。
 苦手なんだよな、この授業…
 これはアイドル専科だけの特別授業で、週に一度ずつ、歌、踊り、演技の指導に割り振られていた。
 ちなみに今日は演技の日だ。
「…さて、今日のお題は「カップル」だな」
「え?」
 シンジはつい口に出してしまっていた。
「なんだシンジ君?、慣れてるから必要ないか?」
 どっと笑いが上がった。
「ち、違いますよ…」
「そうだな」
 笑顔から一点、マジな顔になる。
「君と付き合いのある子達は、半ば幼馴染のようなものだからな?」
 へぇ〜っと、そうだったんだぁという声が聞こえて来た。
「家が遠ければ送り向かいをするかい?」
 シンジに尋ねる。
「…わかりません」
 加持は満足げに頷いた。
「そうだな、一回目の授業でアンケートを取らせてもらったが、以外と恋愛経験のある子は少なかった…」
「碇君が特別なだけですよぉ」
 また笑いが上がる。
 シンジは赤くなって、顔を伏せてしまった。
 だが加持は笑っていない。
「違うな、厳しいレッスンやオーディション漬けの生活、すでにコネがあるのなら、スキャンダルにも気をつけているはずだ」
 心当たりのあるものが、皆一様に頷いた。
「そこで今日これから一日、諸君らには「恋人」を演じてもらう」
 えー!?っと女子からブーイングが起こり、男子からはナイス!と嬌声が上がった。
「そんなの嫌です!、好きでも無い人とどうして…」
 最もらしい意見が聞こえて来たが…
「好きな相手では困る、「演技」の練習だからな?、ただ…」
 ちらりと視線を動かした。
「早くしないと、良い相手は取られてしまうと思うぞ?」
「シンちゃん、あたしと組もうよ、ね?」
「え、どうして…」
 シンジの席にマナが駆け寄っていた。
 しまった!っと言う顔をするクラスメート一同が、それをきっかけに動き出した。
 カヲルの元へ走る大半の女子。
「カヲル君、あたしと!」
「ちょっと、あんた!」
「なによ!」
 っという、取り合いの中に…
「ちょっと通してくれる?」
 っと、男の子が一人紛れ込んでいた。
「やあ、カヲル君」
「なんだい?、浩一君」
 軽く笑みを浮かべる浩一。
「僕と組まないか?」
「…それも面白いかもね?」
 クラス中が呆気に取られる中、加持がぽつりと呟いた。
「なるほど、そういうのもありなわけだな?」
 それをヒントに女生徒同士が「妖しい関係」を作り出したがために、余った男子が「つまらない関係」を作らざるをえなかったのは、言うまでもないことだろう…






 じーっと、レイは隣の席の少女を見ていた。
 友達を作ろうともせず、ずっと本を読んでいる。
 山岸マユミ、転校生。
 長い黒髪はさらりと流れるわけでも無く、かといって痛んでいるわけでも無かった。
 余り個性を感じさせない髪型、ただ前を切りそろえているだけの…
 だがその飾り気の無さが、逆に彼女を浮き立たせていた。
 化粧っ気も無いし、今時こういう人も居るんだぁ…
 ぼうっとしているレイ。
「あの…」
 なにか言いづらそうに、マユミはレイに声をかけた。
「あの…」
「あ、なぁに?」
 遅れて反応する。
「あの…、なにか御用ですか?」
 しばしきょとんとしてから、レイはようやく気が付いた。
「あ、ごめんね?、なに読んでるのかなぁって思ったの」
 適当にごまかす。
「図書室で…、借りて来た本です」
「ふぅん…」
 分厚くて字が小っちゃい。
 そんな感想をレイは持った。
「本好きなの?」
 ぶしつけに聞く、ちょっと戸惑うような表情をマユミは浮かべた。
「えっと…、好き…、と言う程じゃありませんけど、他に時間の潰し方を知らなくて…」
「ふぅん…」
 何となくシンジのことが思い浮かぶ。
 シンちゃん、一人の時ってなにしてるんだろう?
 特に大した趣味を持っていない少年のことだ。
 なにも思い浮かばない。
「でも、なにも一日中時間潰さなくても…」
「あ、ご、ごめんなさい…」
 本を閉じ、慌てる。
「あたし、人と話すの、苦手で…」
 へ?っとレイ。
「でも、さっきからあたしと話してるよ?」
「え?」
「ほら、普通に話してるもん」
 にこっと笑う。
 頬を染めて、マユミはドキンと胸を弾ませた。
「そ、そう言えばそうですね?、あたしったらどうしたのかしら?」
 両手で頬を挟んで慌てる。
「こら」
 スパーン!っと、レイの頭をはたくアスカ。
「いったぁ!、もうっ、おばかさんになったらどうするのよ!」
「それ以上ならないから安心しなさいよ」
 冷たい視線。
 ちなみにアスカとレイは同じクラスだ。
「あんたなに女の子くどいてんのよ?」
「な、なにそれ?」
「そういう風に見えるのよ」
 マユミを見る。
「そ、そんなの、違います…」
 語尾が小さくなって、かすれて消える。
「冗談よ、あったりまえじゃない」
 なんだろう、この人…
 ちょっと嫌な印象を持つマユミ。
「ふ〜ん…」
 じろじろとねめつけるアスカ。
「冴えないのね」
 マユミはムッと口を尖らせた。
「い、いくらなんでも、初対面の人にそんなこと言われる覚え、ありません!」
 自分でも思っていた以上に大きな声を出してしまって、驚いた。
 集中するクラスの視線、口元を「あっ」と押さえてしまうマユミ。
「あんたバカァ?」
 いつもの調子で、アスカ。
「初対面って、転校して来てもう丸一日経ってるんでしょうが?」
「え、ええ…」
 ぐっと顎を引き、それでもアスカを睨み返そうとする。
「だったらクラスメートの顔ぐらい覚えときなさいよ、まあボケボケっとしたタイプみたいだから?、名前まで一致させろとは言わないけどね?」
 笑顔でウィンク。
 言葉の汚さとのギャップに苦しむマユミ。
 その前に手が差し出された。
「え?」
 なんだろうと判断に苦しむ。
「握手よ、あくしゅ!、あたし惣流・アスカ、よろしくね?」
「あ、はい…」
 ついつられて手を握ってしまった。
 自分も名乗ろうとして、思いとどまる。
「で、あんたのことはなんて呼べばいいわけ?」
「あ、それあたしも聞いときたい」
 レイが話に加わって来たので、マユミは少しだけほっと胸をなで下ろした。
「マユミで良いです…」
「オッケー、じゃああたしはアスカで良いわ」
「あたしはレイね?」
「は、はい…、アスカさんにレイさん…、ですね?」
 ぴしっとおでこにデコピンをかまされた。
「痛っ!」
「あんた何聞いてたのよ?」
「え?、で、でも…」
「あたしは、アスカって、呼べって言ったのよ」
 むーっと怒ったような表情で迫る。
 ちらりとレイに助けを求めると、ごめんね、こういう人だからと視線で返された。
「わかりました…、アスカ」
 ちょっと不満足、なアスカ。
「あんたその堅苦しい話し方、なんとかならないの?」
「ご、ごめんなさい…」
「いちいち謝まんじゃないわよ、まったく、どこかの誰かじゃあるまいし」
 あ…っと、レイはアスカを見上げた。
 アスカもなんだ…
 マユミに同じものを感じているのだと気がつく。
「とにかく!、そのおどおどとした態度はやめなさいよね?」
「そ、そんな事…、いわれても…」
 やはりアスカが恐いのか、勢いがしぼんでいく。
「あー、またそう言う顔するぅ!、それじゃあまるであたしが虐めてるみたいじゃないのよぉ!」
 違ったのか…
 聞き耳をたてていたものは、皆全て同じ感想を持たざるをえなかった。







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