Episode:21_3 Take5



「みんなケンカしてばっかりだ…」
 それもこれも態度をはっきりさせない、僕のせいなんだ…
 シンジは一人、夜の街をぶらぶらと歩いていた。
「もう疲れた…」
 呟いて見るが、当然のごとく反応は返ってこない。
 家に帰るとみんなが恐い、それで逃げ出して来たのだが…
「どうして僕に怒るんだろ?」
 確かにはっきりしないのもいけないが、かといってマナの行動にまで責任は取れない。
「シンジ君?、シンジ君じゃないか」
「え?、あ…」
 驚いて立ち止まる。
「タタキさん…、それに、加持さん?」
「やあ、校長と打ち合わせの帰りでね?」
「打ち合わせ…、ですか?」
 ネクタイを頭に巻いて、シャツの胸元をだらしなく開けている。
 それに心なしかお酒くさい。
 どっからみてもただの酔っぱらいだ。
 シンジはそんな二人をジト目で見た。
「良いんですか?、葛城先生に言っちゃいますよ?」
「おおこわ…」
「相変わらず意地が悪いなぁ」
「あ、ご、ごめんなさい…」
 そんなつもりじゃなかったのに…と、シンジは自戒した。
「いや、すまない、俺達も少々酔ってるみたいだ」
「やあ、教頭と違って話せる人で助かります」
「なになに、実験校でもあるから?、それに内容上、アルバイトを認めないわけにはいかないからね」
 何だかすっかり意気投合している二人を見ていて、シンジは馬鹿馬鹿しくなって立ち去ろうとした。
「じゃあ…」
「まてよ、シンジ君」
 その肩をつかむ。
「なんですか?」
 刺のある言い方。
「ぼく…、これから行かなきゃならない所が…」
「嘘だな、もっと演技力を磨いたほうがいいぞ?」
 加持の鋭い眼光に縫いとめられる。
「ど、どうしてそう、言い切れるんですか?」
「女だな?」
 タタキの言葉に、ドキッとするシンジ。
「図星か…、まあこの間から様子がおかしかったからな」
「どうだ?、お兄さん達に話してみないか?」
 でも…と、シンジは迷った。
 何だかお酒のつまみにでもされそうな気がする…
 今ひとつ二人を信用できないシンジであった。






「…そうか、レイちゃんがなぁ」
「はい…」
 結局打ち明けられる範囲で話してみたシンジ。
「直接聞いてみたのか?」
「こ、恐くてできませんよ…」
 そんなこと、と、シンジは小さく呟いた。
 三人は適当な自販機を見つけると、その隣にたむろしはじめた。
「なぜ恐がる必要がある?」
「そうだぞ?、レイちゃんは君に惚れてる!、これは間違いなく事実だ!」
 シンジはゆっくりと首を振った。
「嘘ですよ、そんなの…」
 驚く加持とタタキ。
「おいおい、シンジ君…」
「君はレイちゃんの目を見た事があるのか?」
 くっと唇を噛む、レイの目を思い出したからだ。
 平気で嘘をつく時の目…と、シンジが思いこんでいる目を。
「あれが嘘をつく目だってんなら、女ってのは恐いぞぉ?」
 からかうが、今のシンジにはシャレにならない。
「そう…ですか、そうですね、僕には女の子のことはわかりません…」
「なるほど…」
 加持は重傷だなと、荒療治に出る事を決めた。
「で、シンジ君はどうしたいんだ?」
「どうって…」
 返事に困る。
「そうやって、しょうがないといつまでもウジウジウジウジしているつもりかい?」
「…だって、他に何ができるって言うんですか」
 感情のこもっていない声。
「あるさ!、君にしかできない事が」
「あるんですか?」
「ああ!、すっぱりと諦める事だ!」
 おいおいっとタタキ。
「いいのか?、無責任過ぎると思うが…」
「どうしてだ?、ウジウジしてるってことはまだこだわってるって事だろ?、ならすっぱりと諦めて、他の恋へ走った方が気が楽なんじゃないのか?」
 シンジを見る。
「幸い君には、好意を抱いてくれている子がたくさんいるだろ?」
 例えば霧島さんとか…と続く。
「ど、どうしてそこで霧島さんが出てくるんですか!」
「今日の授業、良い雰囲気だったじゃないか」
 ニヤニヤと加持。
「だって…、彼女は」
「シンジ君、信じないのは勝手だが、それを人に押しつけちゃいけないぞ?」
 真剣な言葉に戸惑うシンジ。
「押しつける…って、ぼくはそんな…」
「いいや、少なくとも俺には良い子に見えたな、それはもちろん俺が持った印象にすぎないが、君はそれを否定するつもりかい?」
「そんなつもり…、ないですよ」
 思った通りの返事にうなずく加持。
「正直、今の君は目が曇っているとしか思えないな」
「だって…、みんな僕のことなんて置いていくようになったし…」
「ほらまただ」
 遮るタタキ。
「でも僕が悪いんだ、何もしなかった僕が悪いんだ、はっきりしなかった僕が悪いんだ、か?、いいかげん聞き飽きたぞ?」
「じゃあどうすればいいんですか?」
 濁った目を向ける。
「僕にはもう、どうすれば良いのかわかりません…」
 正直、泣き出さないのが不思議な位だった。
「君はただ、逃げてるだけじゃないか」
「逃げてませんよ…」
 それだけは否定できる。
「逃げてません」
 力のことから逃げ出すのはやめていた。
 そんなことで繋がっているのではないと信じているからこそ、シンジはレイなりの愛情表現を受け取らずとも、下手に避けたりせず、普段通りに接していようとしていたのだ。
 笑顔の仮面を被ってまで、ミズホがそれは「縁」だといったのと同じように捕らえて。
「だから…、逃げてません」
 力のことを避け、なるべくうまく言葉にする。
「それが逃げてるって言うんだよ」
「なぜですか!」
 シンジの瞳に輝きが戻った。
「逃げてはいないって言ってるでしょ!」
 それは怒りの光だった。
「アスカだって言ったんだ、今の関係が壊れるのが恐いって!」
「ほら逃げてるじゃないか」
 タタキは容赦しなかった。
「何もしなかった?、誰も選ばなかった?、なら今はどうなんだ?」
「い、今って…」
 言いよどむ。
「ほら、それがわかった上でも、今だにまだ何もしていない…」
「ああ、シンジ君、すんでしまったことに嘆くのは勝手だ…、だがまだ間に合う事だってあるんじゃないのかい?」
 え?、っとシンジは加持を見た。
「選べなかった、何もしなかった、それはまあそれとして、今から頑張ってもいいじゃないか、それから選んでみてもいいじゃないか、まだ間に合うかもしれない、そうだろう?」
 そうだろうか…と、シンジは考えこんだ。
「レイちゃんは本当にその…、浩一君だったかな?、その子のことを受け入れたのか?」
「まだだったらどうする?、シンジ君の勘違いだったら?、まだお友達の域だったら?」
 シンジの中で、レイと浩一についての記憶が渦を巻いて蘇った。
 確かにレイと浩一君は仲良くなっていってる。
 だがそれでシンジを避けはじめただろうか?
 違う、避けたのは僕だ…
 だがシンジとではなく、浩一と下校していったのも事実である。
「…だめです、ぼくにはもう、何が本当で何が嘘なのかもわかりません」
 加持とタタキは視線を合わせた。
 考え進もうとしたその様子が、先程よりはマシに見えたからだ。
「…なら、確かめてみないか?」
 タタキが声をかけてみた。
「え?」
 顔を上げるシンジ。
「明日、またロケがあるんだ」
「でも、僕は…」
「決めるのはシンジ君だ、俺達は当事者じゃないからな…」
「だがいま逃げたら、一生レイちゃんから逃げなくちゃいけないようになる、どうする?」
 シンジは顔を伏せた。
「僕は…」
 奥歯を噛む。
「僕は」
 シンジの迷いは、晴れるどころかより一層深くなってしまっていた。
 もし…、もしそれで悪い結果が出てしまったりしたら?
 僕はもう、レイとは顔を合わせられない…
 その事がとても辛かった。
「僕は!」
 だけどこのままでも同じだから。
 シンジは自らを追い込もうと決意するほか無かった。






 黄色い液体で満たされたシリンダーの中に、水着姿のレイが浮かんでいた。
「え?、いつ会わせてくれるのかって?」
 きょとんと浩一。
「君達がKEYって勝手に呼んでた子だろ?、もう会ってるじゃないか」
 ガボガボガボっと、レイの口から肺に残っていた空気が漏れていった。
 じたばたと踊って驚きを現しているレイ。
「第三高校に転校生として入ったろ?」
 ピッと、二人の少女の映像が映し出された、LIVEと表示されているところから、リアルタイムの映像なのだろう。
「覗きとは感心しないね?」
「仕事だからね」
 またしてもどこからともなく現れたカヲルに、浩一は肩をすくめて見せた。
「あたし達を覗いたりしてないでしょうねぇ?」、と眉間に皺をよせるレイ。
「してないって、嫌われたくはないからね」
 くくくっと、笑いを漏らす浩一。
 少女は知っている子たちだった。
 なにかとシンジにちょっかいを出している少女と、奇妙なぐらいにすんなりと仲良くなれた女の子。
「君やシンジ君のパターンを使ったからね、似てたろ?」
 浩一は意味ありげに笑った。
「どちらがそうなんだい?」
「秘密さ」
 浩一はからかうようにごまかした。
「今はまだ、ね?、でないと君は戦自からの使者をどうにかしてしまうだろう?」
 カヲルは答えなかった。
「力の発現が無い以上、君達に区別はつけられない、あの子を戦いに巻き込むつもりは無いが、戦自とのトラブルについては僕の仕事だ、手は出させないよ?」
 浩一の髪が風も無いのにふわりと舞った。
「トラブルを起こさないで欲しいね、まったく…」
 二人の少女に、平等で同等の視線を送る浩一。
「彼女には、世話になった事もあるしね…」
 その瞳には優しさが溢れていた。
 だからカヲルは、深く追求しようとはしなかった。



続く




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