Episode:23 Take4



「で、このペンギンどうするのよ…」
 冷たい視線を向けるミサト。
「ま、このまま見捨てるのも寝覚めが悪いしな、俺が預かるさ…」
 ペンペンはとうとう、ミサトのビールにまで手を出していた。
「預かる…、ねえ?」
「なんだよ、何か不満か?」
 おかしそうに、加持もビールを開けていた。
「ま、好きにすればいいわよ、あたしには関係の無いことだしね」
 ミサトも当然のごとく、だ。
「でも…」
 じっとペンペンを見る。
「つまみ…」
 ドキッとするペンペン。
「ちっ」
 ミサトは本当に惜しそうに舌打ちした。
 胸を押さえて、ペンペンは荒い息をつく。
「お前なあ…、ペンギンなんて食べられると思ってるのか?」
「実験用でしょ?、臭みなんて無いわよ」
 それにっと思い出す。
「南米で出されたゴキブリの油通し、あれに比べりゃお肉なだけマシなんじゃない?」
 ペンペンは本当に息苦しそうだ。
「おいおい…」
 釘をさしとくか…と、極秘情報を公開する。
「やめてくれよ?、大事な金づるだ」
「なによそれ?」
「養育費が出るってことさ」
 缶に口をつけたまま、固まるミサト。
「養育費?」
「ああ」
 おいしいわね?
 じ〜っと値踏みする。
 ついでに非常食にもなる…か。
 ぞわわわわっと、ペンペンの背中を何かが逆昇った。
「ねえ?」
「ああ?」
「この子、あたしに預ける気、ない?」
 やれやれっと、胸の内を読む。
「だったら素直に、俺の部屋に移ったらどうだ?」
 嫌よ。
 ミサトは小さく答えた。
「あんたまだ大事なこと、言ってないじゃない」
 やれやれ…
 七年前に言えなかったことを言うよ…
 いや、今はもう八年前か?
 どの道遅過ぎる言葉だ。
 歳がかさむと、恥ずかしくて言えないもんだな。
 自分をあざける加持。
 それにしても、こだわるもんだ、女ってぇのは…
 言葉を接がずに、胸の内だけで済ませてしまう。
「ま、いいさ、好きにしろ」
「クエーーー!」
 加持の足にすがりつく。
 じゅる…
 ミサトは涎を拭いていた。






「わあ、良いんですかぁ、ごちそうになっちゃって…」
 マヤの前には豪勢ではなくとも、沢山の料理が並べられていた。
「ええ、子供達が出かけちゃって…、わたし達だけじゃ食べ切れないんですよ」
 量が多いゆえに、その下準備も早くから始められている。
「今日はみんな夜も遅くなりそうだし」
 それをそのまま捨ててしまうのは惜しい。
「そうですね」
 二人で微笑みあい、テレビを見た。
 追跡!、浮気者を追えは不定期に中継しております、しばらくお待ちください。
 画面の左上に、そんな表示が映っていた。
「忙しいことですね、まったく」
「あら、渚君」
 薄手のコートを羽織ったカヲルが、部屋の中を覗きこんできていた。
 どうも、とお互い会釈しあう。
「カヲル君は出かけなかったのね?」
 言いつつ、ちゃんとカヲルの茶碗も用意しているユイ。
「いえ、今帰って来た所です」
「ごくろうさま、手を洗ってらっしゃい?」
「はい」
 っと洗面所へ向かう。
 ごくろうさま、ですか。
 かなわないなと、髪を掻き上げるカヲル。
「さ、あなたもいつまでもメモを取ってないで」
「ああ、わかっているよ、ユイ…」
 無言で黙々とメモを取っていたゲンドウは、最後にもう一度最終ページを確認した。
 そこには、アスカ、レイ、ミズホなどと名前が書かれている。
 そしてそのそれぞれの欄には、丸の中に棒三本で怒った顔、笑った顔が書かれていた。
 そしてアスカの欄には、なんだか爆弾マークが書かれている。
「もうすぐだな、シンジ…」
 にやり。
 マヤはその笑みを見て、内心恐がりまくっていた。






「はぁ、はぁ、はぁ、ごめん、ミズホ…」
 ミズホはしゃがみこんでいた、靴擦れができてしまって痛いらしい。
「大丈夫?」
「痛いですぅ…」
 目に涙がにじんでいる。
「でも、捕まりたくなかったんだ…」
 恐いから。
「そうですね…」
 邪魔されたくはなかったから。
 それぞれに違うことを考えていながらも、お互いにそっちもかっと微笑み合う。
「でも…、これじゃあしばらくは帰れないね」
「そうですねぇ…、あ…」
 ミズホの腕を取るシンジ。
「シンジ様?」
「ちょっと立って?」
「はあ…」
 立ち上がる。
「僕の背中に手をついててね?」
「え?、あ…」
 シンジはしゃがみこむとミズホの足を取り、そして優しく靴と靴下を脱がせた。
「シンジ様?」
「じっとしてて…」
 ミズホは倒れそうになって、慌ててシンジの背に手をついた。
「酷いな…、薬買わなきゃ」
 そして今度は靴下を履かせる、靴も。
「で、でも…」
「だめだよ、僕のせいなんだから…、だからちゃんとさせて欲しいんだ」
 逃げ出した理由…
 ミズホちゃんのことを真剣に考えてみなさい。
 不真面目ってわけでも無いんだけど、やっぱりはっきりできないから、言い訳しかできないわけで…
「でもぉ、時間がもったいないですぅ」
 両手の人差し指同士を突きあわせて、ミズホは口を尖らせた。
「なんだ、そんなこと気にしてたの?」
 くすりと笑うシンジ。
「母さんには悪いけどさ、アスカたち、きっと母さんが予約してくれた店に張り込んでるよ」
 ミズホもそれは承知していた。
 シンジも立ち上がる。
「だからどこかよそに行こうよ、それからあまり歩かなくて良い場所でゆっくりして…、遅くなっても良いって言ってもらってるんだからさ」
 そう言って、シンジは腕をくの字にした。
「さ、行こう?」
「え?」
「捉まってよ、痛いんでしょ?」
 は、はいぃ…
 照れながらも、ちゃんと助けを借りる。
 シンジ様からこんなことをしてくださるなんて…
 今までは追いかける立場だったのに。
 それが凄く嬉しいミズホであった。



「ふええ〜ん、ごめんなさぁい、シンちゃん見失っちゃいましたぁ!」
 テレビ画面、レイがいきなり泣いて現れた。
 遅れて番組タイトルが現れる。
「だから現在、情報の提供をお待ちしておりまぁす、番号は…」
「ってあんた!、勝手に人の番号公開しようとしてんじゃないわよ!」
「え〜?、だってアスカの携帯って全然かかってこないから、寂しいんじゃないかって気をつかったんだけど…」
「余計なお世話よ!」
 カメラを向けられていても、テレビに映っていると言う意識が無いためか、アスカはいつもの調子を見せていた。
「あたしはもう帰るわ、あんたはずうっと探してらっしゃい!」
「ええ〜!?、そんなの寂しいよぉ…」
「うっさい!、元はと言えば、あんたがさっさと取り押さえなかったからでしょうが!」
「いいのかなぁ、そんなこと言ってて…」
 ピクッとアスカ。
「シンちゃん、今日は帰ってこないかも…」
 ピクク…
「そのためのお小遣い、持って出てるみたいだし…」
「は、はん!、それがどうしたってぇのよ、バカシンジにそんな度胸あるわけないじゃない!」
「でもさっきの会話…」
 表情にかげりを見せるレイ。
「ミズホ、ほんとに奇麗になったよね?」
 アスカの頬も引きつり出した。
「シンちゃん、雰囲気に弱かったりして…」
 痛い所をついてくる。
「ねえ、言い逃れできない所で押さえちゃわないと…」
 ぐっとアスカは唇を噛んだ。
「…わかったわよ」
 ニヤリとレイ。
「協力するわよ、すればいいんでしょ!?」
「そうこなくっちゃ」
 レイは携帯を取り出し、短縮ボタンを押した。
「ピ!、はい、山岸です…」
「あ、マユミちゃん、どう?」
「は、はい、いまお二人は薬局で何かを買っていらっしゃる所です」
「ちょっと!」
 レイの肩をぐいっとつかむ。
「なんであの子が…」
「伏兵って言うのは大事ってこと」
 またもニヤリとレイ。
 あの子も不敏ね…
 アスカは少しばかり同情した。
「あ、なにか照れてるみたいです、なんでしょう、何を買っているのでしょうか?」
 だんだん口調が実況レポート化していく。
「薬局…、ねえ?」
「…は!、まさかシンちゃん」
 弾けたようにアスカを見るレイ。
「…女の子と一緒に買いには行かないでしょ?、たぶん…」
「なにを?」
 アスカは真っ赤になって顔を背けた。
「もしもし?、レイさん?」
「あ、アスカをからかってる場合じゃないわ、で、マユミちゃん、ふたりは?」
「はい、あの…、あ!
 ブツッ!、ツーツーツー…
「ちょっと、あ!って何よ、あ!って!!」
「すっごくテレビ的に切れちゃった…」
 どうしよう?っとアスカを見る。
「…あんたも役に立たない手下、飼ってるわねぇ」
 なんだか非常に情けない顔をするレイであった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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