Episode:28 Take1



 なにこれ?、なんなの?、この感じ…
 堪え切れなくなって、ついにミヤは崩れ落ちた。
 頭の中に入って来る…
 息を荒げて、酸素を求める。
 この先に…、誰か居るの?、誰?
 はぁはぁと、暗い通路をミヤの呼吸音が満たしていった。
 シンジ君?
 その音が奥の闇へと吸い込まれていく。
 意思とは関係無く、ゆっくりと顔を上げるミヤ。
 レイ?、ミズホ?、カヲル?、誰?
 その双眸が、金色に輝き始めていた。
 この感じ、誰かの匂いがする…
 不安定に明滅している。
 ミヤは壁に手を突き、立ち上がった。
 ミヤちゃん?
 サヨコ?
 問いかけるような声に、返事を返す。
 ミヤ?
 カスミ?
 まただ。
 ミヤ?
 マイ?
 心配そうな声。
 ミヤか。
 テンマ?
 それは確認。
 ミヤなのか?
 リキ…
 だんだんわからなくなって来る。
 ミヤ、どうしたの?
 ツバサね?
 ミヤは自分を保とうと頑張った。
 ミヤ、ミヤ、ミヤ。
 だがどんどんどんどん入って来る巨大な情報に飲み込まれてしまう。
 中には無言で返した者もいた。
 あたしは、誰?
 どんどん自分がわからなくなっていく。
 あたしは、誰?
 自分自身に問い続けるミヤ。
 次の瞬間、ミヤの瞳から閃光が発せられていた。

GenesisQ’第28話
ハーフムーンにかわるまで

 ドォン!
 爆発と轟音、瓦礫と石材が煙と共にジョドーを襲った。
「なに!?」
 メイの囚われている部屋までの一本道だ、他に通路は無い。
 隠し通路についても、ミヤ達の隠れている場所が最後の一本だった、それはジョドーの5メートル前にあったのだ。
「なにごとだ!?」
 隊列を組んで、黒づくめ達が待ち構えていた、その真上までもが崩壊を始めてしまっている。
「下がれ!」
 ジョドーに続いて待避しようとする、だがもうもうと立ちこめる煙の向こうに、ヒュンヒュンと光る帯の様なものを認めて、つい立ち止まってしまっていた。
「馬鹿者が!」
 叱咤するジョドー、重なるようにヒュン!っと、その帯が黒づくめに向かって伸びていた。
「あ…」
 ジョドーの左右に控えていた二人が、小さな声を漏らして倒れ込んだ。
「これは…」
 瞼と唇が小刻みに震え始める、ジョドーはその脅えを隠すかのように仮面のようなマスクを被った。
 なんだ、これは?
 だが相変わらず情況がよくわからない、しかし煙の向こうに人の影を見た時、ジョドーはいつもの指揮力を取り戻していた。
「やれ…」
 小さく、ぼそりと命じる。
 黒ずくめ…、20人が一度にその手甲の指先を揃えて前に向けた。
 シュボ!
 指の根元から火が吹き出し飛んだ、ショボボボボっと人影に向かって集中する。
 だが…
「なんだと!?」
 ガガガガキン!っと不可解な音を立てて、それらは全てはじき返されてしまっていた。
「バカな、ありえん!」
 煙の向こうに金色の光がちらついていた。
 何かの防御兵器か!?
 ジョドーは反射的に左の手甲の隠し刃を抜いていた。
 跳び下がるジョドー、再び閃いた光の帯に、その刃は切り落とされていた。
「くあ…」
 またも3人、避けそこなって倒れ伏してしまう。
 ドォン!
 下がろうとしたその背後で、またも爆発が起こった。
「何を起爆させている!?、まさかこの城に仕掛けを施したとでも!?」
 あり得ない話だった、この城は常にジョドーの配下である「影」によって管理されているのだ。
 そもそも、既にここまで侵入していたのなら、何をいまさら襲撃する必要があるのだろう?
「しかし、これは!?」
 降って来る瓦礫を、壁際に寄ってジョドーは避けた。
 またも爆煙に視界が塞がれてしまう。
 うわあ…
 キィン!
 トサ…
 そんな音だけが、ジョドーにさらなる恐怖を与えていた。
「バカな、「影」であるこのわたしが恐怖を覚えるなど…」
 はっとしてジョドーは煙の向こうを凝視した。
 音が聞こえなくなっている。
「そんな…、我ら影がたった一人の敵に?」
 気配は一つしか感じない。
「何てことだ、このわたしが我を失うなど…」
 戦慄に指先が震えていた、喉も渇いている。
 逃げる術すらも思い付かないジョドー。
「死が敵を倒す布石となれば、命つきるまで戦おう…、しかし正体すらも捉えられん」
 煙の動きを凝視する。
「これではただの犬死にではないか…」
 空調に煙が流されていた、それが不自然な流れを見せる。
「そこか!」
 右の手甲から剣が伸びる、それは極薄の特殊鋼だった。
 リボンのように敵に迫る、だがそれよりも素早い、鞭のような光の動きが、特殊鋼のリボンを切断し、舞い散らせていた。
 その元であるジョドーにも鞭が迫った。
 バシ!
 だが散らしたのは、その背後の壁の破片だった。
 ジョドーは一瞬の隙を誘い、姿をくらましたのだ。
 煙が晴れる、そこに立っていたのはミヤだった。
 金色の瞳がゆっくりと本来の茶色に戻っていく。
 かくんと膝から力が抜けた。
「え?、あっと…」
 ミヤは自分が倒れかけているのを知って、なんとかバランスを崩すまいと踏ん張った。
「あれ?、あたし…」
 自分の手を突いているものが、天井の一部なのだと気がついた。
 瓦礫に無残な惨状。
「なにがあったの?」
 黒づくめ達が、そこら中に倒れていた。
 みな一様に、同じく高熱のもので腹部を一突きにされている。
「…し、死んでるの、かな?」
 ゆっくりと近づき、足でつついてみた。
 身じろぎする。
「…よかった、生きてる」
 ミヤは廊下の奥を見た。
 そこに目的の部屋の扉があった。
「行かなくちゃ…」
 ミヤは瓦礫を乗り越えるように歩き出した。
 全ては、たった62秒の出来事であった…






 車はまだホテルに着かない。
「…おさまった?」
 シンジは一人ごちると、半分窓から出すようにしていた頭を戻した。
「シンちゃん、ホントに大丈夫なの?」
 レイが心配そうに覗きこんで来る。
「う、うん、なんとか」
 シンジは笑って、車酔いで通そうと考えた。
「ま、シンジ君にはホテルで休んでいてもらってもいいし」
 ルームミラーごしに加持。
「レイちゃんは大丈夫かい?」
「はい!」
 んっ!っと、両腕を脇に引くようにして元気って顔を見せる。
「もう何時間かで本番なんだ、慌ただしいけどローカル番組の予算枠じゃ、あまり滞在時間が取れないらしくてね?」
 苦笑する加持に、レイは「え〜!?」っと不満気に頬を膨らませた。
「それじゃあもしかして、あんまり遊んじゃう時間がないんじゃ…」
 レイはぶつぶつと指折りしたかったことを数え始めた。
「プールでしょ?、浜辺でしょ?、オイル塗ってもらって、それから…ディナーってホテルかな?、夜はシンちゃんと…」
 むふふふふっと想像を膨らませる。
「でもそれが瓦礫のように崩れていくんだね」
 シンジは引きつりながらもレイの夢を突き崩した。
「シンちゃん酷いぃ!」
 ぽかぽかと泣きながら殴るレイ。
「いたたた、ご、ごめん!」
「ははは、そう残念がることは無いさ、そのために俺がいるんだからな?」
「「え?」」
 防御と攻撃をやめて加持に向く。
「ゴールデンウィークが終わるまでの後三日は、こっちで遊べるようにしてある」
「ほんと!?、加持さん大好き!」
 後ろからシートごしに抱きつくレイ。
 キキィ!っと車が左右に揺れた。
「あ、危ないよ、レイ」
「ごめぇん」
 てへっと、シートに抱きついているシンジに謝った。
「こりゃまた、アスカちゃんにばれたら怒られちゃうな?」
 ついでにミサトにも、と言いたい加持であった。






「どうやって進入する?」
 姿を消したままでヨウコに話しかける。
「問題無い、あの程度の城を落とすことなど造作も無い」
 物騒なことを言う。
 ヨウコは海岸線に沿って城へ向かっていた。
 テンマの気配だけが、頭上のわずか左に感じる。
 ヨウコはテンマに運んでもらっていたボストンバッグを背負っていた。
 中ではガチャガチャと何かが鳴っている。
「ライには見せられんな…」
 もちろんテンマはその中身を知っている。
 その頃ライは…
 ベベン!
 っとクルーザーの上でギターをかき鳴らしていた。


「正念場か、良い言葉だね」
 テンガロンハットの奥から瞳を覗かせる。
 その目が明らかに情況を楽しんでいた。
「とっとと」
 吹いてきた風にテンガロンハットを押さえ、ひっくり返るライ。
 恐くない恐くない…
 呟いているのは、操舵室にいる少年だった。
 昨夜マイを襲った少年だ。
「親父の船なんだ、もし傷でも付けられたら…」
 そんな心配をよそに、その背後の窓の向こうに、よっこらしょっと起き上がるライが見えた。
 その肩に無反動砲をかついでいる。
 ライは何気にその照準を伯爵の館にあわせた。
「世の中、理不尽なことってあるものさ」
 カチッとスイッチを押す瞬間、高波によってぐらりと船が傾いていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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