「やったぁ!」
「レイ、注意して、もう時間が無いよ!!」
 制限時間があるわけでは無かったが、これを逃すともう帰り支度をすることになってしまう。
「わかってる!」
 慎重に…、慎重に、だめ!、よけい緊張しちゃう!
 そうだ!、こういう時は一番恥ずかしかった時のことでも考えればいいって、確か…
 レイは記憶を掘り起こした。
 突如、レイがシンジの家に引き取られた日の事が思い浮かぶ。
 シンちゃんの、あ・そ・こ・☆
「はっ!?」
 気がつくと、レイはバスを釣り上げてしまっていた。
 目の前にぶら下がっている魚。
「あたしって、凄いかも…」
 自分で自分に驚くレイ。
「やったねレイ、おめでとう!」
 おめでとう!
 おめでとう!
 おめでとう!
 シンジの微笑みが何度もリフレインされる。
「うん…、うん!、やったよシンちゃん!」
 レイは瞳に涙を光らせながら、シンジと手を取り合って喜んだ。
「うう、感動的ですぅ」
 ハンカチで涙を拭うミズホ、その隣でアスカは苦笑している。
 釣り上げたバスは、アスカのものより小さかったのだ。
「でもまあ、勝負は勝負、あたしの勝ちってことで…」
 ご機嫌に振り返るアスカ。
「クエ?」
 その顔がヒキッと引きつった。
 アスカのバスを咥えて、気まずげな表情をしているペンペン。
「クエ」
 ごっくん
「ああ!、なに飲み下してんのよ、あんたわ!」
「クエーーーー!」
 走り、逃げる途中でジャンプ!
「ぶぎゅる!」
 ミサトの顔を踏んづけて逃走する。
「何よあのペンギンは!」
「いったぁ…、なに?、勝負は終わったの?」
 どうやら結局寝てしまっていたらしい。
 ミサトはむくりと起き上がると、きょろきょろして状況を確認した。
「あら、綾波さんは釣れたのね?、アスカはボウズ?」
「違うわよ!」
「え?、アスカ逃がしちゃったの!?」
「やったぁ!、じゃああたしの勝ちだぁ!!」
 ぴょんっと大きくレイが跳ねた。
「んなわけないでしょ!、あたしは確かに釣ったんだから!!」
「え〜?、証拠が無いじゃん、証拠が」
 ニヤリ。
「かああああ!、シンジ!!、あんた証人になりなさいよ!」
「ええ!?、で、でも逃がしちゃったんならしょうがないと思うし…」
「あのバカペンギン、どこ行ったのよぉ!」
 実は車の下でほくそ笑んでいる。
「じゃあそういうことで…」
 レイが一歩前に出る。
「勝者はこの…」
「信濃さんで決まりみたいね?」
「ええ!?」
 ぎょっとするレイ。
「ほら、一番大きいじゃない」
 ミサトはイケスを覗き込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってってば!、って言うか、ミズホも勝負に入ってたの!?」
「ほえ?」
 よくわかってないミズホ。
「ちょっとそんなの聞いてないわよ!、無効よ無効!、この勝負は!」
「無効じゃないもん、あたしの勝ち!」
「勝ちとか無効とか、何のお話ですかぁ?」
「「うっさい!」」
 ミズホの前髪を、二人の叫びが吹き飛ばす。
「う〜んこれは困ったわねぇ」
 頬に人差し指を当てるミサト。
「じゃあこうしましょう、ミズホちゃん、今シンジ君に何をしてもらいたい?」
「ふえ?」
 ミズホはキョトンと、シンジを見た。
「良いよ、ミズホなにが良い?」
「えっと、じゃあ一緒に記念の写真を撮ってもらいたいですぅ!」
 無邪気にミズホは微笑んだ。


「じゃあ行くわよぉ?」
「はいですぅ」
「ミズホ、しっかり持ってね?」
 シンジとミズホが並ぶ、二人は共同でバスを手に持ち、前にさし出した。
「じゃ、ピーカー・チュ☆っとね」
 カシャ☆
「もう一枚、行く?」
「お願いしますぅ!」
 邪気無く笑う、だがアスカとレイには、それは勝者の笑みにしか見えていた。
「うう、良くわかってないってところが、余計に腹が立つわねぇ…」
「シンちゃんも何よ!、鼻の下伸ばしちゃってさ」
 調子に乗ってるミズホとミサトを置いて、シンジはふうっと一息ついた。
 あれ?、どうしたんだろ…
 睨まれているのに気がつく。
「どうしたの?」
「「なんでもない!」」
 同時に言ってから、二人ははっとして背を向け合った。
「…まあいいけど」
「シンジ様ぁ、最後の一枚ですぅ」
「あ、うん、いま行くよ」
 シンちゃんの…
 バカシンジ!
 怒りの行き場を探して、シンジを目で追うアスカとレイ。
 その目にとんでもない光景が飛び込んで来た。
「じゃ、シンジ様?」
「え?」
 チュッ☆
「「あーーーー!」」
 ほっぺたにキス。
「ナイス!、ちゃんと撮ったからね?」
「はいですぅ!」
「もうやめてよミサトさんもって…、あれ?」
 ゴゴゴゴゴっと、重苦しい空気を感じる。
「あ、あの…、今の僕のせいじゃないって、わかって…」
 わかってないね…
 涙が流れそうになる。
「あー、こらこら、これは勝利者の特権なんだから」
「「わかってるわよ!」」
 強い叫びにびくっとする。
「あのぉ、わたし何か悪いことでもしましたでしょうかぁ?」
「あ、あの…、良いんだよミズホは、別に悪いことなんてしてないよ」
 ミズホはしてもいいことをしただけなんだから…
 と言ってシンジは微笑んだ。
 していいことなんですかぁ。
 ぽわぁっと、のぼせるミズホ。
「じゃあもっとしちゃいますぅ!」
「わあ!」
 押し倒される。
 やめて、やめてよ!っと言う声が、ちゅっちゅとキスの音に混じって聞こえる。
 拳をフルフルと震わせる二人。
「シンちゃん!」
「バカシンジぃ!」
 あーーーーー…
 何処からか聞こえて来た悲鳴に、カンガルーが耳を立てる。
 夕日にはまだ、遠かった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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