「疲れた…」
 ホテルのレストラン、ぐったりとしているシンジ。
「だらしないわねぇ」
 アスカの言葉に、つい「誰のせいだよ…」と口を尖らせてしまう。
 年齢にふさわしく、そして容姿に反比例したアスカの食欲に、見ているだけでゲップが出そうになってしまった。
「元はと言えば、もぐ、シンちゃんに、はぐ、隙が、んぐ、あり過ぎるからいけないの!、ごっくん」
「…レイさん下品ですぅ」
 誰のせいで焼け食いしてると思ってるのよ…
 恨みがましく見てしまうのだが、ミズホは全く気付いていない。
「あ、シンジ様、これ美味しいですぅ」
 がたんと立ち上がるシンジに、キョトンとしてしまうミズホ。
「シンジ様?」
「…部屋へ先に戻ってるよ」
 そのままふらふらと行ってしまう。
 先に部屋へ戻って…
 それって!
 ミズホの頬が真っ赤に染まる。
夜とぎのお誘い!
「「んなわけあるかぁ!」」
 大合唱が響く中、ミサトは…
「恥ずかしい…」
 と別のテーブルで頭を抱えていた。

きゅうだっしゅ、その参拾五話
「まもって守護月天!」

 後ろ手にぽたんと戸を閉じと、「はぁ…」っとシンジは大きくため息をついてしまった。
「どうして三人揃うと、ああなんだろう…」
 つい贅沢な悩みをぶちまけてしまう。
「でも、三人揃ってないと嫌なんだもん、しょうがないか…」
 そのままばたっと、ベッドに伏せてしまう。
 寂しいの?
「いつも騒がしいから…」
 静かになると恐いのね…
「うん…、って、え!?」
 シンジは飛び起き、部屋の中をきょろきょろと見回した。
「空耳?」
 誰もいない、電気も付けていないため、月明かりがやけに明るい。
 カラカラカラ…
 シンジはベランダへ出てみた。
「月だ…」
 それ程大きくは無いが、雲が少ないので良く見える。
「奇麗だな…、そう言えば、もうずいぶんと二人っきりで眺めてないなぁ…」
 誰と?
「レイと…、!」
 シンジは急に振り返った。
 だがやはり誰も居ない。
 おかしい…、確かに聞こえたのに。
 確信めいたものが広がるのだが、どうしても証拠が見つからない。
「…気味悪いや、まさか幽霊!?」
 ぞっとして、青くなる、
 体中を悪寒が駆け巡った。
「…寝よ!、きっと疲れてるんだよ」
 そう思い込もうと、乾いた笑いをなんとか浮かべた。
 シンジは部屋に戻り、再びベッドに倒れ込んだ。
 バフ!
 だが同時に、ムニッという感触が…
「ええ!?」
 シーツの下に誰か居る!?
 シーツごしに腕が回された、シンジを抱きしめるようにからめ取る。
「だ、誰!?」
 シンジは慌てた、顔で感じるぐにぐにとした感触、それは間違いなく…  胸だ!
「んふふ〜、やぁっと捉まえた!」
「そ、その声、まさか!」
 シンジの記憶に引っ掛かる。
「き、霧島さ…」
 バフゥ!
 シーツが一度だけ大きく「跳ねた」
 そして奇麗にふわりと落ちる。
 残されたのは…、何事も無かったかの様に整然と整った、無人のベッドだけであった。






「で、先生、部屋取れたの?」
「とりあえず一部屋だけ、ね?」
 嫌ではあったが、一応引率者である。
 ミサトは我慢してアスカたちの輪に混ざっていった。
「ホテルの方はキャンセル続出!、まああんなことのあった後じゃねぇ…」
 オペラハウスの事件が、営業に響いているらしい。
「でも予算がちょっち、それで人数分は、ね?」
「まあいいわ、で、どこの部屋なの?」
「シンジ君の隣の部屋よ?」
 げ…
 アスカは露骨に嫌そうな顔をした。
「それって、やっぱりベッドが一つってことですか?」
 デザートのプリンをパクつくレイ。
「まあねん、女の子二人ならなんとか寝られるっしょ?」
「それじゃ一人余っちゃうじゃない!」
「あ、でしたらわたしがシンジ様の部屋に…」
「却下!、あんたも寝起きの顔見られたくないって言ってたでしょうが!」
「え〜、場合にもよりますぅ」
 ジト目のアスカ。
 こいつ、天然なんだか計算なんだか分かんないとこあるわね…
「まあ良いじゃない、アスカとミズホが一緒でさ」
「なによレイ、あんたがシンジと寝るってぇの?」
「うん、元々シンちゃんとあたしの部屋だったんだし…、それに」
「それに、なによ?」
「…やめた」
 意味深に中断し、プリンを一口ふくむ。
「おいしぃ〜」
「おいしぃ〜じゃなくて!、なんなのよ!?」
「ん〜」
 上目づかいにアスカを見る。
「だって、アスカ怒るから言わない」
「言わないともっと怒るって言ってんの!、どっちが良いの?」
 ポキポキポキ…
 にたりと、指の関節を鳴らす。
「わかったわよぉ…、別にシンちゃんと同じベッドで寝るのって、初めてってわけじゃないし…」
なんですってぇ!?
 ああもうまた…
 人目を気にするミサト。
「いつそんなことしたのよ!」
「引っ越す前はしょっちゅう…、シンちゃんが寝た頃に潜り込んで、アスカが来る前に戻ってたの…」
「あんた二度寝だから眠そうにしてたのね!?」
 てへっと舌を出すレイ。
「シンちゃんの寝顔ってね?、可愛いいの☆」
「この犯罪者が…」
 プルプルと肩を震わせる。
「とにかく!、あんたもあたし達と同じ部屋で寝るのよ!」
「え〜〜〜?、ベッド狭いよぉ」
「んなもん、ソファーがあるでしょうが!」
「じゃ、アスカがソファーで寝てくれる?」
「冗談!、ベッドで寝ないと髪がぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない」
「あ〜〜〜差別よそれって!、あたしだけ髪短いって…」
「ああもう分かったわよ!、ベッドはクジでもなんでも公平に決めてあげるから!、ミズホ…って、あら?、ミズホは?」
 静かだと思えば姿が無い。
「先生、ミズホは?」
「さっき、こそこそと出ていったわよ?」
 落ち着き、コーヒーをすすりながら答える。
「ええ〜〜〜!?、なんで止めてくれなかったんですかぁ!」
「だって、あなたの視界に入らないように、ちゃんとしゃがんでたもんだから…」
「はっ!、さてはシンジの所ね!?」
「どうしてそうなるの?」
 不思議そうに訊ねるレイ。
「あんたバカァ?、シンジ先に寝ちゃってるに決まってるじゃない!」
「だから?」
「ああもう!、あんたの話を聞いて、自分も潜り込むつもりなのよ!」
 ああ!
 ポン。
「なるほど」
 っと手を打つレイ。
「くううううう!」
 アスカは苛立って地団駄を踏んだ。
「アスカ良く分かったね…って、そっか、アスカも同じこと考えたとか?」
「うっさい!」
 真っ赤になっているのが、何よりの答えかもしれない。
「ほら、さっさと行くわよ、急ぎなさい!」
「は〜い…」
 レイは皿を舐めてから立ち上がった。
 どうせシンちゃん爆睡モードだから、大したことになってないと思うけど…
「どうしてそうのんびりしてんのよ、あんたわ!」
 急ぐと警戒されちゃうんだもん。
 実は今から、皆が寝静まった瞬間を狙っているレイであった。






 コンコンコン…、カチャ。
「シンジ様ぁ?」
 キィ…っと戸が軽い音を立てる。
 それなりのホテルの、それなりの部屋だ、入り口から覗き込んだくらいではベッドが見えない。
 お返事が無いですぅ…
 それをチャンスと決め付け、忍び込もうと足を踏み出す。
 少しだけ「はしたない」と言う言葉が過ったのは、日本舞踊の修行、精神を教え込まれたからかもしれない。
 ですけどぉ、元々はシンジ様との熱〜い…きゃ☆
 続きは頭の中で暴走する。
 ミズホは妄想が新婚二ヶ月目に入り、かっぽう着を着て味噌汁の味を確認している所で正気に返った。
 ぶるるるる、いけません、今は将来の楽しみよりも目先の幸せですぅ。
 楽しみの方には多分の「希望」が盛り込まれ、利己的に展開されていたはずなのだが…
 いいんです!、目先の幸せが十分美味しいんですから!!
 誰にでも無く、言い訳がましいミズホ。
 ほふく前進でベッドまで進行する。
「ではシンジ様、いざ…」
 そのまま足元の方からずるずると潜り込もうとする。
 が!
「そうはさせないわよ!」
 パッ!っと明かりが付けられた。
「もう来たんですかぁ!?、シンジ様ぁ!って、ふえ?」
「往生際が悪いわよ!」
「ああ!、ちょっと待ってください!」
「問答無用!」
 シーツの中に潜り込んだミズホに飛び掛かる。
「バカシンジはそこかぁ!」
「うきゃん!、アスカさんエッチですぅ!」
「え、え、え、エッチって!?」
「…何どもってるの?、アスカ」
「うっさい!」
 一人冷静に見ていたレイに突っかかる。
 顔が赤くなっていた、明らかに照れ隠しだ。
「…それより、シンちゃんは?」
「いませぇん」
 シーツを頭から被ったまま、ミズホはちょこんと座り直した。
「なんだ、じゃあ未遂だったのね?」
「ちっ、ですぅ…」
 心底悔しそうに漏らすミズホ。
 こいつ、どこまで本気なのかしら?
 アスカの顔に一筋の汗が流れる。
 ミズホの表情は髪に隠れて見えなかったので、判断がつかなかったのだ。
「で、シンちゃんは?」
「…お布団はちょっとだけあったかいですぅ」
「じゃあ、さっきまで居たのね?」
「あ、ちょっと待ってくださいぃ…」
 ミズホは急に、シーツをくんくんと嗅ぎ出した。
「…なにやってんのよ?」
「女の人の…、シャンプーの香りがしますぅ」
「アスカじゃないの?、昨日髪をちゃんと乾かさなかったでしょ」
「シンジも居たのに、そんなとこ見せらんないでしょうが!」
 赤くなるアスカ、身繕いしている所は見られたくなかったらしい。
「でもぉ、これティモテですぅ」
 自宅で使っているシャンプーの香りに驚く二人。
「あんたなの?」
「ちがうもん、昨日みんな、ホテルのを使ったよねぇ?」
「それに普通、シーツって取り替えられてると思いますぅ、ホテルですしぃ」
 それじゃあ!
 レイ、ミズホの頭の中に、急に映像が浮かび上がった。
 手を取り合い、見つめ合う二人。
「き、君は誰!?」
「一目惚れしましたぁ、お付き合いし下さいぃ」
「ま、まずいよ、アスカ達が来ちゃうよ、と、とにかくここじゃ…」
「では、わたしのお部屋にぃ…」
って、ミニドラマすんなぁ!
 レイとミズホの暴走を止める。
 今日はやたらと血管が切れてるアスカであった。







[BACK][TOP][NEXT]


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。

本元Genesis Qへ>Genesis Q