「あたしね?、こっちに残るから」
「え?」
 二人で並んで座る、洞窟の奥。
 シンジは自分の耳を疑った。
「どういう…、こと?」
「こっちでシンちゃんを見送るの」
 洞窟に差し込む夕日。
「そんな、だって!」
「また会えるから…」
 マナはシンジと肩を合わせた。
「マナ…」
「うん」
 素肌で触れ合う肩と肩。
 この時ばかりは、シンジも嫌とは言わなかった。






「まったくもぉ!、シンジ君何処行っちゃったのよ!」
 ホテル、ロビー、慌てる葛城ミサト。
「まあ落ち着けって」
「これが落ちついていられますか!」
 あああああっと、一人落ち込む。
「これ逃しちゃったら無断欠勤じゃない、いくらなんでもヤバ過ぎるわ、きっとリツコなんてもう…」
 ふふふ、このリツコ印のホホエミ・コボレールで、明日の朝礼台は爆笑の渦よ?
「なんてやるに決まってるわ、ぜったいいいいい!」
 それはそれで見物なんだがな…
 つい笑ってしまう加持。
「まあシンジ君が見つからないことには、他の三人もな…」
 加持は既に達観してしまっていた。


「シンジ様ぁ…」
 浜辺でミズホ。
 頭の上に、髪が一本立っている。
「それって、心拍数とか調べるだけだったんじゃないの?」
「大丈夫ですぅ、昨夜バージョンアップ差分を受け取りましたからぁ」
 どうやってよ!?
 アスカの心配を余所に、ミズホの説明は続く。
「現在は距離100メートル圏内にいる、シンジ様の反応を探ることができるんですぅ」
「100メートルなら見えるよね?」
 あうっと、レイの突っ込みに涙する。
「まったくもう!、陽が暮れちゃうじゃない!」
 アスカが叫んだのと、ミズホが反応アリと見たのがほぼ同時であった。


「なんでこーなるの!」
 動揺のためか欽ちゃんが入っている。
「ちょっと熱々し過ぎたね?」
 余裕のマナ。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、閉じ込められちゃったんだよ?」
「大丈夫よ、潮はここまで来ないから」
 満ちて来た潮が、入り口を塞いでしまったのだ。
「でも飛行機に乗り遅れちゃうよ」
「ちゃんと送ってあげるから、ね?」
 マナは何故か平然と落ち着いている。
 まさかわざと?
 ちょっと疑いたくなってしまう。
「いいじゃない、ね?、ちょっとだけ一緒にいられる時間が延びたんだから」
 マナに擦り寄られる。
「どうしたの?」
 硬直しているシンジに気がつく。
「その…、暗くて」
「恐い?」
「違うよ!」
 だが本当のことは言えない。
 なんだか、妙に意識しちゃって…
 シンジは昼間のことを思い出した。
「あ、あのさ、サヨコさん…」
 普通女の子と二人っきりの時に、他の子の話するかなぁ?
 それでもにこやかな態度は崩さない。
「前に会った時はお姉さんとか、お母さんとかそんな感じがしたんだ、でも…」
「胸が大きくて驚いた?」
「うん…、って、そうじゃなくて!」
 かなり慌ててる。
「前にケンスケとさ、話してたんだ、女の子って色んなことして体形変えるって」
「へえ…」
「パットとか…、ケンスケとトウジと、騙されたぁ!って騒いで…、あれ?」
 妙な気配に気がつく。
「ふうん、そんなに騙されてたんだぁ」
「あ、いや、その…」
「で、どんな人を見てたの?」
「ご、ごめん…」
「なんで謝るのかなぁ?、ん?」
 マナに頬をつねられる。
 だめだ、よけいなことまで話しちゃう、黙ってよ…
 …
 ……
 ………
 間が保たない。
 ひと…
「!」
 急に触れた肌に驚いた。
「ごめんね、寒くて…」
 マナがもぞもぞと動いている。
「な、なにしてるのさ?」
 暗くて良く分からない。
「移動、んしょっと」
 マナはシンジの背後に周り込んだ。
「それでっと…」
 シンジの体に腕を回す。
「わわ、ちょっと!」
「凍えちゃうと、死んじゃうよ…」
 ぎゅっと、脇の下から手が回される。
 背中に押し付けられている胸よりも、そこから伝わって来る鼓動の方が気になってしまう。
「ふふふ、シンちゃん緊張してる…」
「ま、マナだってそうじゃないか…」
 とくん、とくん、とくん…
 マナの息が首筋をくすぐる。
 何かが触れた、痛みが走る。
 なんだったんだろう?
 分からない。
 とくん、とくん、とくん…
 時間だけが過ぎていく。
 ずっとこんなことをしてるわけにはいかないんだよな…
 シンジは意を決してマナから離れた。
 立ち上がるには狭い、水の中に腰まで浸かる。
「シンジ君?」
 シンジはすうっと息を吸い込んだ。
アスカー!、ミズホ、レイーーー!
 そして力の限りに叫ぶ。
 ガコン!
 金色の光が洞窟の入り口側を削り取った。
 ズズズズズ…っと、切り取られた部分が崩れ落ちる。
 そこから覗きこんで来る人影。
「シンちゃん!」
 シンジはニコッと、軽く微笑んで返事にした。






「シンジ、大丈夫だった?」
「うん、マナさんが元気づけてくれたから…」
 マナがつつっとシンジに寄る。
「ねえ、どうして分かったの?」
「なにが?」
「みんなが来てるって…」
 ああ…と、シンジは胸をなで下ろしている三人を見た。
「なんとなく」
 かなわないなぁ…
 マナももう、微笑むしか無かった。
「さあシンジ様、帰りましょう」
「うん」
 シンジはマナに振り向いた。
「じゃあ…、またね!」
「うん」
 その場で微笑む。
 寂しくなる…、かな。
 むー…
 シンジはミズホが首筋を見ているのに気がついた。
「どうしたの?」
「シンジ様、この赤くなってるのは…」
「なに?、キスマーク!?」
「シンジィ!」
「う、うわ、ち、違うよ!、虫にでも刺されたんだよ、きっと!」
 言いながら、シンジは思い出していた。
 背後にマナから抱きすくめられた時のことを。
「160センチぐらいの虫…、にね」
「あん?、何か言った?」
「別に!、さ、急ごうよ、ミサト先生怒ってるよ」
「当ったり前じゃない、大体誰のせいで…、こら!」
 シンジは駆け出した。
 いいよね、これぐらいの嘘…
 マナの胸の鼓動、それも思い返しながら…






 飛行機が飛び立っていく。
「さ、じゃあ僕たちも行こうか?」
「うん…」
 空港で、シンジ達の乗る飛行機を見送るマナと浩一。
 金網の外、二人でジープに乗っている、ホロはかけていない。
 ブオオオオ…
 浩一の運転で、ジープは走り出した。
 まるでシンジ達を追うように。


「さってと…」
 前の座席から、行儀悪く後ろを覗く。
「な、なにか…、な?」
 引きつるシンジ。
「あんたバカァ?、あんな所で何してたのか、あらいざらい白状してもらいましょうか?」
「そうですぅ、そもそもシンジ様が、あの人とお出かけになられたのが問題なんですぅ」
「ふが」
 一人物食ってるレイ。
「な、なんにもしてないよ、ただ助けを待ってただけで」
「ほぉ?」
「寒くなかったですかぁ?」
「うん、温かかった」
「ふぁにが?」
 ……
「バカシンジィ!」
「うわぁ!、アスカここ飛行機の中!!」
「関係ないわよ!」
「危ないですぅ!」
 この騒ぎのために、シンジは窓の外を飛ぶ黒い影に気がつかなかった。






 空港、エスカレーターを上がるシンジ達。
「疲れた…、どっと疲れた」
 シンジの顔は、憔悴し切っている。
「シンジくぅ〜ん」
「あ、カヲル君」
 あははははっと、満面に笑顔を浮かべてカヲルが駆けて来る。
 背後にユリかなんかの効果が見える。
 ドン!
 そのカヲルを突き飛ばし、代わりにシンジに抱きついた。
「ま、マナさん!?」
「お帰りぃ!」
 目を白黒させるシンジ。
「ど、どうしてここに…」
「そうよ!、あんたあっちで見送ってたじゃないの!!」
「一体どうやって…」
「え〜?、シンちゃんにお帰りって言ってあげたくてぇ、先回りしたのぉ」
「だからどうやって?、それにあっちに残るって言ってたじゃないか」
「うん、だから残ってたでしょ?」
「そ、それに…」
「シンちゃんまたねって言ったよね?」
「うん…いてててて!」
 シンジは両耳を一度に引っ張られた。
「レイ、ミズホ、痛いよ!」
「あんたも離れるのよ!」
「いや〜ん」
 引きはがされるマナ。
 ぼ、僕はどうなるんだい?
 その隅っこで、植木鉢に頭をぶつけて横たわっているカヲルの姿があった。
 ドクドクと流れ出る血が、血溜まりを広げていく。
 寒いよ、シンジ君。
 とりあえずシクシクと、その場で丸くなって見るカヲルであった。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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