四角い石柱が並んでいる、墓地、のつもりなのだろう。
 実際にはただの発泡スチロールなのだが、一応そうは見えないように作ってある。
 しとしとと振る雨。
 その一つの前にシンジがしゃがんでいる。
「早いものだね、アスカが死んでもう3年か」
 ぴくっと誰かの眉が跳ねる。
 振り返るシンジ、そこにはカヲルが黒い傘を差している。
 3年経っている割には、まったくその容姿に変化はない。
 当たり前だ、実際の時間はGWが明けてまだ間もないのだから。
「ぼく、決めたんだ」
 立ち上がるシンジ。
「アスカが死んで、どうしようもなくなって、でもそんな時、カヲル君が助けてくれて…」
 シンジはカヲルの傘の中に入った。
「わかったんだ、僕、誰が本当に必要なのかってことを」
 ぴくくぅ!
 シンジ達の居る舞台の下で、アスカは怒りに血管を浮き上がらせた。
「だ、だから、あの、その…、ぼ、僕はカヲル君の事が、す…」
はーい、カットぉ!
 講堂内に響き渡る声。
 がやがやと緊張感の解かれた生徒たちがざわめき始める。
「もーシンちゃん、何やってるよのぉ」
「ご、ごめん…」
 舞台上で頭を下げる。
 マナは監督としての立場を誇示するためのメガホンで、サンバイザー(死語)をくいっと持ち上げた。
「だから部外者を入れるのは嫌だったのよねぇ…」
 ちらりと背後を見るマナ。
 そこにいるのは、見学の名目で潜り込んだアスカとミズホだ。
「なによ!、せっかくシンジが主役だって言うから見に来たのに…」
「そうですぅ!」
 アスカの背後に隠れるミズホ。
「百歩譲って、あたしが死に別れたシンジの彼女ってことは許容するけど!」
「それも嫌ですぅ!」
「うっさい!、でもだからって!、何でそこで転んじゃう相手がカヲルなのよ!」
「ぶー!」
 ぽりぽりと頭を掻くマナ。
「だってしょうがないじゃない、ウケを取るには耽美、これしかないわ!」
「そんなのあたしは認めない、もぉ!、やり直しを要求するわー!!
 凄く懐かしいフレーズが耳に痛い。
 そんなわけで、シンジは今中間試験に向けて特訓中であった。



GenesisQ’37話
「星くずパラダイス1」



 パコーン、パコーン、パコーン…
 気持ち良くボールがコートを跳ねている。
「う〜ん、久しぶりの光景、今まさに学生生活をエンジョイしてるって感じぃ」
 ポカ!
 その頭を殴りつける栗末部長。
「いったぁい…」
「そんなとこでサボってないで!、中間テスト一週間前からは部活禁止なんだからね!」
「うう…、だからそれまで頑張ろうかなぁって…」
「あなたはサボり過ぎなの!、やればできるんだから、することをする!、ちゃんとやらないで怠けてんのはあなたの性格!、そのくせそこそこできるんだから、これってばもう凡人に対するあてつけよ!」
「ほほぉ…」
 はっと我に帰る栗末。
 その背後に腕組みをしている女子テニス部一同。
「で、その凡人というのは誰の事なのかしら?」
「や、やあねぇ、みんなあたしが目をかけてわざわざ引っ張って来たぐらいなのよ?」
「でも部長がねぇ…」
「これじゃあねぇ…」
 皆の見る目が冷たい。
「なによ、みんな…」
「あ、もしかして…」
 レイがこっそりと教えてあげる。
「部長、スコート履きわすれてます」
 え?、え?、ええ!?
 焦る栗末、それで今日のギャラリーはやけに多かったのだ。
「きゃーいやー!、みんなあたしを見ないでー!!」
 パパパパパコン!
 ラケットを振り回しボールを撃ちまくる。
「すごい!、百発百中ね!」
「もう!、こんな時にバラさないでよ」
「ごっめーん」
 てへっと舌を出すレイ。
 ボールの飛び交うコートを、身を低くして這いずり逃げる。
「おおおおお!、男だったら涙を流すべき状況だね、これはって、うわぁ!」
 必死でカメラを構えていた少年も撃沈される。
 カメラ、僕のカメラが…
 薄れ行く意識の中で、彼が最後に心配したのはもちろんその事だ。
 ピンポンパンポーン…
 部長が暴れまくる中に放送がかかる。
 1年三組の綾波レイさん、綾波レイさん、至急校長室まで…
「あれ?、なんだろ…」
「あなたまさか不祥事?、もう!、活動停止処分食らっちゃったらどうするのよ!、あー!!、だから問題児を抱え込むのは嫌だったのにィ!」
 不用意に起き上がった彼女の頭を、栗末のボールが直撃する。
「あ〜あ…、不祥事だったら生徒指導室だと思うんですけど?」
「そ、それもそうね…」
 真っ赤になった鼻頭を押さえている。
「んじゃ、取り敢えず行ってきまぁす」
「ってちょっと待ちなさいよ!、部長放っておく気!?」
「え〜?、だって呼び出しじゃしかたないしぃ、ってことで、じゃ!」
「じゃ!、じゃないわよ、どうすんのよもう!」
 レイはカサカサカサカサと、ゴキブリのように這ってコートを脱出した。






「なんだろ?、アスカじゃあるまいし、加持さんってちょっと苦手なんだけどなぁ…」
 相手が校長ともなればなおさらである。
 言っている間に校長室に着く。
 その扉は他とは違い、多少厚くできている。
 レイは緊張を解きほぐすように、大きく息を吸い込んだ。
 コンコンッとノックをする。
「失礼します」
 返事を待たなかったのは、防音だと分かっていたからだ。
 ノックも一応の形式に従っただけにすぎない。
 レイはドアを開け驚いた。
「お父様、お母さま!?」
 中央の応接セットに腰掛けている二人。
 ユイは取り繕ったように微笑み、そしてゲンドウは不機嫌そうな顔で腕を組んでいる。
 何かあったのかなぁ?
 ちょっとだけ不安になる。
 …が、その背後に担任教師の姿を見止め、レイは胸をなで下ろした。
 よかった、…ってあんまり良くはないみたいだけど。
「綾波さんも座ってくれないかな?、ああ、別に叱るために呼んだわけではないから安心して…」
「はあ…」
 釈然としないものの、レイは碇夫妻の前に腰を下ろした。
 ガチャ…
 またドアが開く。
「すいませんねぇ、遅れちまって」
「いや…」
 苦笑して片手を上げる加持、タタキだ。
「よっと、レイちゃんごめんよ?」
 強引に隣に座る、レイはちょっと横へ避けた。
「さて、それでは御一同揃った所で…」
「わたしは反対です!」
 その怒声に、レイは思わず首をすぼめた。
「創設間もないこの時期に…」
「まあまあ…」
 加持がいさめる。
「そのために、今日は教頭にもおいで頂いているのですから…」
 え?っと、レイは二人を見た。
 ユイの方がニコッと小さく微笑む。
 そっか。
 何となく納得する。
「特例は早い内に作った方が良い…、とは思いませんか?」
「早過ぎます!、こういうことはもっとじっくりと考えてから…」
 ゲンドウが腕組みを解いた。
 ただそれだけのことで、加持も、レイの担任である男も口を閉ざした。
「この高校は実験校でもある、基本校則にもこの事は記載してあるはずだが?」
 この男は本当にただの保護者なのだろうか?
 何故ここまで尊大なのかが分からない、心の底から震えが来る。
「まあそれもレイ次第だが…、レイ?」
「はい」
「加持校長の説明を受けなさい」
「はい…」
 レイはちらりと加持を見た。
 加持はニヤリとそれに返した。






 一人残る講堂。
 もうみな引き上げてしまっている、中間テストは…、シンジ達の場合実技のみであった。
 歌、ダンス、劇、なんでもいいのだ、観客による得票結果が全て。
 ただし落ちこぼれた場合には、通常と同じ中間テストが待っている。
「そりゃ歌とかダンスよりはよっぽど良いんだけど…」
 舞台袖。
「だからって、マナ監修ってのがどうも」
 嫌な予感がしてならない。
 シンジの背後には、相当数の楽器が用意されている。
 当日劇に使う小道具らしい。
「…でも、もったいないよな」
 シンジは何気なく、近くにあるパイプ椅子に座った。
 手のとどく所にチェロがある。
 それを持ち寄せ、シンジは軽く鳴らしてみた。
 キーィ…
「なんだこれ?、音ずれてるじゃないか…」
 チェロなどと言う物を扱える学生の方が珍しいのだから仕方が無い。
「ま、いっか…」
 調弦を始める。
 キーィ、キー…
 弾いている内に、少し心が軽くなるのを感じた。


 何かのファイルブックを胸に抱え、少し寂しげに歩く少女。
 黒く長く、飾り気のない髪に大きな眼鏡、マユミだ。
 ーーー、ーーー、ーーー、ーーー…
 流れて来た音に顔を上げる。
 これは?
 知っている曲だ、クラシック?
 名前はどうしても思い出せない。
 少し重く、何かを訴えかけるような音律。
 シンジ君?
 なぜそう感じたのかは分からない。
 講堂を覗き込む。
 姿は見えないが、確かに居る。
 マユミはまるで何かに誘われるように、講堂の奥まで入り込んでいった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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