カンカンカンカンカン…
 講堂内に響く音は、大道具に釘を打ち付ける金槌の音だ。
「なんだかなぁ…」
 組み立てられた街並みは第三新東京市。
「ん?、どうしたんだい、シンジ君」
「カヲル君…」
 白いウルトラマンのような着ぐるみ、そのにやけた赤い唇の奥に、カヲルの赤い瞳が見える。
「いや、着ぐるみモノだからアフレコだったのかと思って…」
 舞台の端っこには不釣り合いな椅子が置かれている。
 そこにマナが座って、全ての解説、台詞をこなしていくのだ。
「それだけなのかい?」
「え?」
 浮かない顔の、頬を這う指。
「学校に来てからずっと、そわそわしていなかったかい?」
 あ、そっかっと思い出す。
「…カヲル君、今朝も部屋に居なかったもんね?」
 着ぐるみの指はちょっと臭い。
「なんだ、僕が居なかったから寂しかったのかい?」
 シンジの顎のラインをなぞる。
「ち、違うよ、そうじゃなくて…」
 その指から逃れようとするシンジ。
「違うのかい?」
 だがカヲルは逃さない。
「あ、あの…」
 真っ赤になってうつむくしかない。
 着ぐるみに口説かれている図と言うのはおかしなもので…
 パシャ!
 切られるシャッター。
「この写真、後でみんなに売っちゃおうっと」
 マナはしっかり収めていた。



GenesisQ’39話
「星くずパラダイス3」



 みんなの様子がおかしくなったのは、一週間程前からだったと思うんだ…
「はぁ、ただいまぁ…」
 一人で靴をいそいそと脱ぐ。
「お帰りなさい、今日は一人?」
 奥のキッチンから覗き見るユイ。
「ミズホとアスカは買い物だって、レイは…追っかけを巻いてる」
 あらぁ…と、ちょっとユイは非難の目を作った。
「だめよ?、見捨てて来るなんて…」
 先を言われなくても分かってる。
「ごめん…、でも僕が一緒だと足手まといになるから」
「あたしに謝ってもしょうがないの」
 えいっとシンジの額をつつくユイ。
「後でちゃんと優しくしてあげるのよ?」
「うん…」
 だから僕は、子供部屋で待ってたんだ…


「お帰り、遅かったね?」
「うん、結局アスカとミズホと一緒になって…」
 レイの後ろから二人も顔を見せる。
「シンジ様?」
 すざぁ!っと畳で膝で滑るように、勢いよくミズホは座りこんだ。
「な、なに?」
「あのですねぇ、シンジ様のフガ!」
「フガって…」
 アスカが口を押さえている。
「あんたバカァ?、シンジに聞いてどうすんのよ!」
「フガフガフガ…」
「あの、僕がどうかしたの?」
 協力して、羽交い締めにするレイ。
「あははは、ごめんね?、シンちゃんにはちょーっと話せない事だから…」
「そう…」
 アスカはミズホを引きずって、レイも自分の部屋へと戻る。
 また隠し事か…
 ちょっと寂しげに目を伏せるシンジ。
「あ、シンちゃん!」
「え?」
 自分の部屋の戸を閉める前に…
「期待しててね☆」
 と、レイはこっそりウィンクした。






「なるほど?、仲間外れにされちゃったのか」
「違うんだよ、それからみんな、そわそわしてるって言うか、殺気立ってるって言うか…」


「シンジ様ぁ…」
 朝から不景気な顔を見せる。
「ん…、ミズホ?」
 カヲルは寝ている、シンジは揺すり起こされた。
 なんだ…、まだ6時!?
 しかしミズホの切羽詰まった声に二度寝はできない。
「どうしたのさ?」
 シンジの布団脇で、申しわけなさそうにしょげ返っている。
「あのぉ、今日からしばらく、お弁当はお母さまにお願いしますので…」
 本当に心苦しそうに言葉を紡ぐ。
「そう…、なの?」
「はい」
 そっか…、でも律義だなぁ。
 ついおかしくなって、頭を撫でてしまう。
「し、シンジ様!?」
「ちょっと残念だけど…、仕方が無いね」
「え?」
 シンジは微笑んで、つい普段カヲルにされているように指を耳の裏から首筋へ持って行ってしまう。
「ミズホのお弁当、母さんの味とはちょっと違ってて好きだったんだけど…」
「シンジ様…」
 急に目がウルウルとしだす。
 あ、つい…
 これは来るかな?っと身構えたが…
「うう、ミズホは三国一の果報者ですぅ!」
 ばっと身を翻して、どたどたばたと降りていく。
 そのミズホらしくない、でもやっぱりらしい反応に惚けてしまう。
「なんだろう?」
 いつもとノリが違うなぁ…
 シンジはちょっと、戸惑っていた。


「それじゃ行って来まーっす!、ほらシンジもちゃんと遅れないの!」
「わかってるよぉ…」
 玄関先で待つ三人、シンジはゆっくりと靴紐を締める。
「…でも珍しいね、みんな一緒に学校行けるなんて」
「あんたと違ってこっちはテスト中なの!」
「そうなんだ…」
 シンジはちらりとレイを見る。
 昨日のはなんだったんだろう?
 今度はミズホに目を向ける。
 アスカに口止めされてたよな…
 結局、みんなグルらしい。
 でものけ者にしたかと思うと、次には思わせぶりなこと言うし…
「あんたねぇ…、あたしたちがなんで勉強してると思ってたのよ」
「勉強…、してたの?」
 シンジは本当に気付いていない。
 はぁ…っと、派手に脱力する。
「影の努力って空しいわね…」
「じゃあのんびりなさったらどうですかぁ?、アスカさんは何もなさらなくても、そこそこ点は取れるんですからぁ」
 ミズホの笑みには、何故だか意地悪なものが混ざっている。
「そうそう、家帰って部屋に閉じこもってガリ勉してるよりは、シンちゃんとの触れ合いを大事にしないと」
 ねー?、シンちゃんっと、腕を絡ませる。
「そ、そりゃ僕は嬉しいけど、でも…」
 あうっと、逆側の腕をアスカに取られた。
「それはこっちの台詞よ!、ミズホだってお弁当作るのやめちゃってさ、そっちの方を大事にすれば?、特に、今回は!」
 あうーっと、痛い所を突かれたのか、ミズホは押し黙る。
 えい!
 ミズホはシンジの背に飛びついた。
「ぐえっ!」
 首に腕を引っ掛けられる。
「いいえ!、今回だけは負けられません、特に、絶対に!」
 入ってる、入ってるよ!
 頚動脈が絞まり始める。
 シンジの耳元で怒鳴りまくるミズホ。
 ずーる、ずーる、ずーる…
 結局シンジは三人を引きずるように、学校へ向かって歩き出した。






「ふ〜ん、なるほどね…」
 意味ありげに頷くカヲル。
「ねえ、カヲル君は何か知らないの?」
 ニヤリとうすら笑いを浮かべる。
「シンジ君?」
「な、なに?、カヲル君…」
 カヲルの雰囲気に飲み込まれる。
「罪な人だね、君も」
「え?」
「でも僕なら何事に変えてもシンジ君と共にあることを願うよ…」
 わけわかんないよ…
 だからシンジは、いつもの笑みにいつもの言葉で返した。
「…ありがとう、カヲル君」
「シンジ君…」
「はーーーい、そこのおホモ達ぃ」
 マナがメガホンで声を掛ける。
「そろそろ行くから、準備してねぇ」
 そして今日も、また練習が始まった…






「くっ、選択科目は来年からだから、みんな同じ問題のはずなんだけど…」
 アスカとレイ、二人は英数字を凝視していた。
 はっきり言って、わからない。
 教科書通りなら余裕なのに…
 それは二人の共通見解。
 数学の担当教師がやたらいい加減で、参考問題を解かせるだけの、そんな授業を続けていたのだ。
「分からない所があったら聞くように」
「先生!」
「ん?、何だこんな所もわからんのか?、自分で考えろ」
 よって、みんな数学は投げ出していた。
 これじゃミズホに有利じゃない!
 思わずペンを持つ手に力がこもる。
 ちなみにミズホのクラスはまともな先生に当たっていた。
 負けられないのに、今回だけは!
 アスカは数学の神様に祈っていた。


「ここ、ここで引き離しておきませんとぉ…」
 ミズホはミズホで、ちょっとばかり焦っていた。
 英語ではかないませんしぃ。
 しかも英語は、A・Bとある。
 来年は選択次第でCもつく。
 その他の教科は似たり寄ったりだ。
 勝負は平均点。
 くっ、卑怯な手を、でもミズホは負けません!
 二科目ある分、二人に有利。
 見ていてください、シンジ様…
 頭の中が、数字からピンク色へ。
 今度のミズホは、シンジ様だけのミズホですぅ!
 それから端末機に映し出されてる問題を、まるで敵でも見るように睨み付ける。
 気合い入ってるなぁ…
 担当教師は、そんなミズホを微笑ましく眺めていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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