話はちょっとだけ遡って…
「アスカかくまって!」
「レイ?」
 家に帰らず商店街へ来ていたのに、アスカはその途中で追い越された。
「なんでしょうかぁ?」
「あれでしょ?」
 そう言って肩越しに背後に振り返る。
 きょろきょろと辺りを見回している野郎連中、頭にははちまき。
 あ!っと、その内の一人がアスカに気がついた。
「惣流さんですよね!」
 駆け寄って来る。
 やめてよね、仲間だと思われちゃうじゃない!
 面倒臭いのに…、と思うが実害は少ないので気にする程度。
「なによあんた達?」
「綾波レイ公認ファンクラブのものです!」
 うそぉん!、そんな泣き叫びが聞こえて来た。
「レイちゃん見かけませんでしたか!?」
「凄い勢いで走ってったけど…」
 レイが目当てなのよね、こっちに絡んでこない分だけマシなんだけど…
 しかしそれはそれで面白くはない。
「ありがとうございます!」
「あの子足速いから」
「すみません!」
 ひのふのみ…、ミズホが指折り数えている。
「何やってんのよ?」
「15人いましたぁ」
 ミズホは能天気に報告する。
「あんたももう出てきたら?」
 空色の髪が、パチンコ屋の看板の影から見えていた。


「はああああ、今日もシンちゃんと帰れなかったしぃ…」
 三人は取り合えず喫茶店に身を潜めていた。
 テーブルに顎を乗せて愚痴るレイ。
 その口で、ストローがひょこひょこ上下に揺れている。
「なに贅沢なこと言ってんのよ?、だったら「公認」しなきゃ良いじゃない」
「してないって!」
 だーっと涙が流れ出す。
「あれは相田君が勝手に…」
「は?」
「写真販売、クラブ通して売ってるらしくて…」
 頭痛いわ…
 頭痛を堪える。
「売り上げ回って来てるから、こっちも強いこと言えないし…」
 ミズホのポニーがぴょこんと跳ねる。
「どうしてそんなにお金が必要なんですかぁ?」
 それは至極もっともな質問、だけど…
「教えたげない」
 レイは「べ〜」っと舌を出した。
 当然その態度には疑問が残る。
「…妖しいわねぇ?」
「なんで?」
「相当稼いでたはずよ?、あんた一体何するつもりなのよ」
 答えは決まりきっている。
「だから大したことじゃないって…」
「嘘ですぅ、絶対シンジ様がらみですぅ」
 ずずずずっと、コーラを最後まで飲み切るミズホ。
「目が泳いでるわよ、レイ」
「そ、そっかな?」
 すばやくレモネードを追加するミズホ。
「あ、そう言えば、レイさんはもうシンジ様の誕生日プレゼント、用意なさいましたかぁ?」
 瞬間、表情が引きつった。
「誕生日…」
 レイの体が堅くなる。
「…あんた、まさか忘れてたとか?」
 一汗。
 二汗。
 青ざめる。
「どうしよぉ…」
「信じらんない、忘れてたのね?」
 えぐえぐと下唇を突き上げるように、レイは鼻をすすり出した。
「アスカはぁ?」
「それをミズホと見に来たのよ」
 レイはうだうだと考えを漏らす。
「あんまりお金、使いたくないしなぁ…」
 おかしいわね?
 ピンと来る。
 シンジのために溜めこんでるくせに。
 それを使いたくないんですかぁ?
 目だけで確認し合う二人。
「ま、いっかぁ、誕生日にはサービスしちゃってごまかそう…」
「ってあんた、一体何するつもりなのよ…」
 聞き捨てならない言葉に突っ込む。
「食事の用意でしょ?、お風呂は背中流してあげて、やっぱり夜は…」
 続きは無いが、赤くなった耳でわかる。
「レイさんフケツですぅ!」
 突然ヒカリの真似をする。
「フケツって…、ミズホだって狙ってるくせに…」
 普段と違うリアクション、だからちょっと扱いかねる。
「そんなふしだらな事はもうしません!、わたしはこれから、いつでもお待ちするだけですぅ!!」
 不純だか何だか良く分からないが、とりあえずレイは冷たく返す。
「待ってるだけじゃ、シンちゃん何もしてくれないと思うんだけど…」
 うっとミズホは詰まってしまった。
 実は先日、小和田先輩に擦り込みを受けていたのだ。
 貞淑な日本の妻の歴史。
「信濃さんはそのカガミのようですね?」
「ふえ?」
 それは舞いを見てもらっていた時のこと。
「カガミ、ですかぁ?」
「そう、一人の男性だけを想って、つくして…、少し常軌を逸した所は直さないといけませんけど…、それは間違った事ではありません、むしろ羨ましいぐらいですわ…」
 羨ましいぐらい…
 ミズホは我を忘れて浮かれまくった。
 もちろん小和田は知っている。
 それは横暴な人につくして、堪えることとは違います。
 シンジの人と成りは聞いている。
 優しいというよりは優柔不断、けれど微笑む事を知っている人。
 頼りない部分を支えてあげられるようになりませんと。
 それがミズホに望んでいるもの。
 ミズホ、頑張りますぅ!、いつまでもアスカさんとレイさんに…
 例えばオーストラリアに行く前のこと…、自分もシンジの心を軽くできるとは気がついていない。
「でもでも、きっとシンジ様はいつか振り向いてくださいますぅ」
「…無駄ね」
 そんなミズホの言い訳を両断する。
「アスカきっつぅい…」
 ミズホは半泣きになっている。
「もう泣かないの!、あんたねぇ、シンジはあたし達しか見てないんだから、振り向くも何も無いでしょうが!」
 ぱっと表情が明るくなる。
「最近虫が付いてるんだけど…」
 余計な事を言うレイ。
「そう言えば、マナってシンジの誕生日知ってるのかしら?」
「チェック済みじゃない?、抜け目無いし」
「改めて思うんだけどさぁ…」
 あ、アイスコーヒー、ガム抜きでねっと追加注文。
「シンジってモテるのよねぇ…」
 う〜んっとテーブルに突っ伏す三人。
 半分自分達のことは棚上げしている。
「相田さんのデータベースのこともありますしぃ、きっと競争率高いですぅ…」
 しかしもちろん、トップを独占できることは確定している。
「ついでに告白、なんてのも多いんじゃない?」
「なんであのバカがそうもてるんだか…」
 同じ穴のむじなが三人。
「顔より中身だし…」
「酷いですぅ!、シンジ様はかっこいいですぅ」
「ここで問題なのは、甘いマスクって奴よ」
 アスカの脳裏に誰かが浮かぶ。
「例えば加持さん?」
「そ、あ〜ん☆、加持さんだったら迷わずネクタイ送っちゃうのになぁ」
 アスカはタイを締める振りをする。
「ネクタイ?」
「そうよ、それであたしが「曲がってる」って直してあげるの」
 瞬間、レイとミズホは結託した。
「浮気者」
「ですぅ」
 ユニゾンに不利を感じるアスカ。
「なによハモること無いじゃない!」
 にやっとレイは意地悪く笑う。
「アスカってそうやって嫉妬心煽るんだもん、ズルいよねぇ?」
 ねぇっと首を傾げた先で、ミズホもうんうんと頷いている。
「わたしはシンジ様一筋ですから、よくわかりませぇん」
 明らかにアスカに対するあてつけだ。
 二人はニヤリと、アスカを見た。
「ってわけで、アスカは今回脱落ね?」
「ですぅ」
 アスカは勢いで立ち上がる。
「なんでよ!」
「浮気してるから」
「違うわよ!」
 アスカの顔が、怒りで膨らむ。
「あたしは何にしようかなぁ?」
「聞きなさいよ!」
「CDや本の方が、シンジ様は喜んでくれそうですぅ」
 二人の方は、聞く耳持たない。
「あ〜いいわよもう!、わかったわよ!!」
 アスカは簡単に切れてしまった。
「なにが?」
「シンジを一番に考えればいいんでしょ!」
「当たり前ですぅ」
 アスカはパタパタと手を振った。
「はいはいはい、シンジにはあたしの大切なもんだって、なんだってプレゼントしちゃうわよ」
 え?っと二人は発言を問題視した。
「一番大切ってぇ…」
「アスカってば、だ・い・た・ん・☆」
 違うわよ!っと叫びかけて、アスカはふと思い直した。
「くふ…、くふふ、くふ」
 そして根暗な笑いを漏らす。
「あ、あれ?」
「アスカさん?」
 からかい過ぎたかとちょっと焦る。
「そうね、それもいいわね」
「あ、あの…、暴走はよくないんじゃないかなぁ?」
「そうですぅ、もっと御自分を大事にして…」
 バン!、アスカは派手にテーブルを叩いた。
「うっさい!、今回だけは負けないわよ!」
 店中の視線がアスカに集まる。
「負けって…」
「シンジには貰ってもらう…、いいえ、奪ってもらうわ!」
 バイトのウェイトレスがおろおろしている。
「アスカさん、声大きいですぅ…」
 恥ずかしくなってうつむくミズホ。
「シンジにはそれぐらい突っ走ってもらわないと困るのよ!」
「突っ走ってるのはアスカじゃない…」
 レイもうつぶせになって他人のフリ。
「とにかく、今度の誕生日はあたしが貰うわよ!」
 がばっと二人は起き上がった。
「それは許せません!」
「そうよ、アスカなに言ってんの!」
 しかしアスカは冷たく見る。
「だめよ、もう決めたんだから、シンジには学校サボってでも付き合ってもらうわ!」
 頭の中では最後にホテルに向かう方向で、デートプランが立てられていく。
「そんなの横暴ですぅ!」
「シンちゃんにはあたしとの「あま〜い」一時が待ってるんだから、邪魔しないで!」
 ミズホは敵性体をサイドにも捉えた。
「そんなのもあり得ません!」
「あるの!」
「ないですぅ!」
 三人揃って立ちあがり、テーブルに手を突いて牽制し合う。
 う〜っと威嚇し合ううなり声。
「シンジの一日は貰ったわ!」
「シンちゃんはあたしと過ごすの!」
「シンジ様ぁ☆」
「「って、妄想入ってんじゃない!」」
「人の勝手ですぅ!」
 はぁっと、ため息をつき合うアスカとレイ。
「こうなったら…」
「ええ、仕方が無いわね」
 どさっと椅子に腰を下ろす二人。
「で、方法は?」
「ちょうど試験が近い事だし…」
「総合得点?」
「平均点でどう?」
「乗ったわ」
「OK」
「シンジ様ぁ☆」
 ミズホは一人両手を組んで、いまだ妄想の中で暴走している。
 こうして、第何次だかわからないシンジ争奪戦が開始された。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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