そんなこんなで試験終了。
 その後3日の息抜きとも言える時間が入る。
「アスカァ!」
「何で効かないのよ、この、この、この!」
 人を模した赤い巨大宇宙人が、白い宇宙人に向けて銃を乱射している。
 背景は第三新東京市、宇宙人は着ぐるみで、白にはカヲルが入っている。
 シンジの出番はまだ先だ。
「はぁ、良くやるわねぇ…」
 マナが効果音とBGMに負けないノリで、一人アフレコを入れている。
 それを並べられた座席で見ているアスカ達。
 3日のお休みの内、その午前中は芸能専科の発表会に当てられていた。
 五段階評価で、一般生徒に票を入れて貰う。
「見学は自由っての、辛い人も居るんじゃないかなぁ?」
 レイの呟きはもっともで、人気の無い人だと誰も見に来ない。
 カヲルとシンジを利用したマナ、それに便乗した人間というのは、わりとしたたかと言えるだろう。
「まあシンジ様がカッコ良ければ問題無いですぅ」
 怪獣大戦ウルトラマン・エヴァは、一部の女子に大ウケのまま終了した…






「まあ何が納得いかないかって、シンちゃんとカヲルのラブシーンかな?」
 レイはいつでも投げ付けられるように、缶ジュースを飲みながら鑑賞していた。
「ちょっとドキドキしちゃいましたぁ…」
 もちろん大半の女子とは理由が違う。
「あのままカヲルが押し倒したら、どうしようかと思ったわよ」
 アスカも非常時用に缶を握っていた、こちらは中身を入れたまんまだ。
「ま、いいわ、死ぬ役だったけど、美味しい所は貰えたし…」
 もちろん、アスカ役の子には不満があったが。
 ちょっと胸が傷んでいるのはレイだった。
 …劇でのあたしって、あの子にそっくり。
 あの子とは、もう一人の自分のことを差している。
「それよりシンジは何処行ったのかしら?」
 講堂の裏手に回る。
「あれじゃない?」
 人垣。
 きゃーきゃーと騒ぐ女の子達。
「カヲル君、後頼んだよ!」
「シンジくぅ〜ん…」
 情けない声と共に、カヲルが押し流されていく。
 シンジはカヲルをダミーにして、一気に走って逃げて来た。
「シンジ!」
「アスカ、ごめん後で屋上で!」
 言いながら駆け抜けていく。
 追っかけて通る女の子達。
「アスカ、シンちゃんなんて言ってた?」
 嬌声がじゃまで聞こえなかったらしい。
「ん?、後でってさ」
 にやり。
 アスカはちょっとだけ、抜け駆けをした。






 はぁはぁはぁ…
 手すりにもたれ掛かって息をつく。
「なんだ、みんなまだ来てないのか…」
 急いで屋上に来たのにな…と、ちょっとだけがっかりしてしまう。
「シ〜ンちゃん☆」
 いきなり背後から目を塞がれた。
「だ〜れだ?」
「アスカだろ?」
「ちえ、騙されないわね、やっぱり」
 指のすき間から光が戻る。
 間違えたら何されるやら…
 これも一つの教育の形。
「あれ?、レイとミズホは?」
 アスカはんふふ〜っと意味ありげに笑った。
 それだけでシンジは大体分かってしまう。
「…後で怒られるの、僕なんだけどな」
 半分諦めてため息をつく。
「なによ?、最近相手してあげてないからと思ったのにさ」
 アスカは背を向けて地面を蹴った、爪先で。
「また何か企んでるでしょ?」
 寂しげに演出された背中。
 だがシンジは疑惑の目を向けている。
「そんなに警戒しなくていいわよ」
 すねたフリをやめて微笑みを投げる。
「それとも、ちっとも寂しくなかったの?」
 シンジは胸が苦しくて、ほんのちょっと素直に答えた。
「ちょっとね…」
「ふうん…」
 5月と6月の境目にもなると、お昼前の陽射しはきつい。
 アスカの髪、色抜けて来たな…
 金色に輝いている、昔は夕日の中でだけ光っていた。
「なによ?」
 じっと見られていた事に気がついたのか?、ほんの少しだけ戸惑っている。
「シャツ、透けてる…」
「え?」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「あ、いや…、ごめん」
 何を言ったのか自覚するシンジ。
「ばぁか、なに意識してんのよ」
 そう言ってまた景色を眺める。
 バカ!、どこ見てんのよまったく…
 早くも半袖の白シャツにかえている。
 確かにブラなどは透けて見える。
 なに意識してんのよ…
 でも中学の頃からそうだったはず。
 シンジも大人になったって事かしら?
 少し残念な気もしてしまう。
 そんなとこより、あたしの顔でも見つめて欲しかったな…
 急にシンジがくだらない人間に思えてきた。
 言い寄って来る奴等とおんなじ…
「ごめん…」
 また呟きが聞こえた、ドキッとする。
 やだ、口に出しちゃってたかな、あたし…
 シンジはその前の台詞に対して謝っただけだ。
「ねぇ…」
 聞いて見たい事がある。
「あたしのこと、好き?」
 え!?
 アスカの思わく通りに、シンジは真っ赤になって慌てまくった。
「…す、好き、だけど」
「じゃあ…」
 この先は迷う。
「もし…、あたしが離れてっちゃったら、どうする?」
 ズキン!
 二人の胸が、同時に傷んだ。
 答えが恐い。
 答えるのが恐い。
 でも、答えなきゃいけない義務がある。
「アスカ…、好きな人ができたの?」
「ばか!、そんなわけないでしょ!!」
 そんな情けない顔しないでよ…
 それをちょっとだけ嬉しく感じてしまう。
「嫌なら嘘でも言えばいいのよ…」
「何を?」
「自分で考えなさいよ!」
 アスカの気性についていけず、シンジは頬を掻いてしまう。
「…えっと、嘘で言っていいことと悪い事があると思うんだ」
 よかった、まだシンジのままだ…
 他の男とは違う、そう思える。
「さ、さっきの、答え、だけどさ…」
「待って…」
 アスカはすうっと息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「レイや、ミズホだったらどうなの?」
 シンジはちょっとだけ時間を貰い、考えた。
「ミズホは…、ミズホは傷つけない限り、ずっと側に居てくれそうで…」
 ズルいよな、それって…
 急に自分が情けなくなる。
「レイは?」
 二人のレイが、同時に浮かぶ。
「レイは…、恐いんだ」
 シンジを見つめる、二種の瞳。
「恐い?」
 赤くて、温かく…
「うん…」
 そして冷たい瞳。
 顔を伏せるシンジ。
「いつか、居なくなっちゃいそうで、恐いんだ…」
 その感じは、わかりそうで、わからない。
「不安なんだ、いつかふっと消えちゃいそうで、恐いんだ」
 特に月を見ている時の「綾波」が。
 アスカは綾波に数回しか触れていないから、その横顔を眺めたことは無い。
「それじゃ…」
 聞きたい…、でもこれ以上聞くべきじゃない、そう思って、次に否定する。
 違うわ、恐いから聞きたくないって思ってるのよ…
 でも聞かないと、次のステップに歩み出せない、そんな気がする。
「あたしは?」
 シンジの顔に、笑みが過る。
 陽射しの中に、男の子の顔が蘇る。
 え?
 アスカの鼓動が、早くなる。
「アスカは…、ずっと居たから」
 ずっと?
「うん、そうだね、ずっと一緒だったから、居て当たり前って感じがして…」
 アスカに顔を向けるシンジ。
「居なくなっちゃったら、何か足りないって気がして、いつまでも探し回っちゃうような気がするよ」
 トクン、トクン、トクン。
 やだ、なに言ってんのよ、こいつ!
 頬が赤くなるのが分かる。
「それって、いつまでよ?」
「いつって…」
 アスカは赤くなったままで怒鳴り飛ばした。
「いつまでよ!」
 どうしても答えて欲しい。
「ずっとだよ!」
 シンジも勢いで怒鳴り返す、が、気恥ずかしくなる、なってしまう。
「ずっと…、だよ」
 赤くなる、アスカがうつむいてしまったから。
 震えてる、怒ってるわけじゃないってわかってる。
 だって真っ赤になってるもん…
「ほんと…ね?」
「え?」
 アスカは確認してしまう。
「あたしが居なくなったら、寂しい?」
「う、うん…、寂しいと思うよ?、そんなこと、考えたくもないんだけど…」
 顔を上げるアスカ。
 よっし!
 両の頬をパン!と張る。
「あ、アスカ?」
 何がしたいのか良く分からない。
「気が狂っちゃうぐらい、探し回る?」
「う、うん…」
「足が疲れて、へたり込むぐらい?」
「たぶん…、あ、いや、きっと、うん!」
 最後はアスカの顔色をうかがってしまう。
「…はあ、それさえなきゃ、あんたもいい男なのにねぇ?」
「悪かったね?」
 シンジはブスッくれて手すりに頬杖を突いた。
「あー!、シンジ様ですぅ」
「アスカ!、ちょっと何してるのよ」
 下から二人が見上げている。
「すぐ行くからね!、シンちゃんそれまで逃げ回ってて!!」
「あたしを一体なんだと思ってるのよ…」
 さすがに答えるような愚を犯さないシンジであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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