「さってと」
 出よ?
 そう言って薫はシンジを外に連れ出していた。
 二人で並んで、ガードレールに腰掛ける。
 ちょっと路地に入った、銀行横。
「アスカ達にさ、酷い事をしたんだ…」
「酷いこと?」
 大通りの車の音が騒がしい。
「うん、だと、思えること」
 歯に物が挟まったような言い方をシンジはしていた。
「具体的に、何したの?」
 それが苛ついてしまう薫。
「…抱きついて、キスマーク付けた」
 一瞬、沈黙に包まれた。
「…シンジ君って、やっぱり」
「ち、違うよ!、僕はあの時、変だったから…」
「でも覚えてるんでしょ?」
「…うん」
 否定するつもりは無いらしい。
「一応、我慢強かったんだって、言おうと思ったんだけどね…」
 シンジは赤くなってうつむいた。
「なんて言うと思ったの?」
「意地悪しないでよ…」
 薫はくすくすとシンジを笑う。
「そんなことぐらいで、考え込んじゃうんだ、シンジ君って…」
「そんなこと、じゃないだろ?」
 薫はペロッとシンジに舌を出した。
「ごめんね?、でも羨ましいのが半分あったから…」
「え?、どうしてさ」
「うん…」
 薫はちょっと迷ってから口にした。
「あたしがシンジ君だったら、迷わずそういうことしちゃうんだけどなって…」
「へっ!?」
「だってね!?」
 恥ずかしいのをごまかすために助走する。
「あたし、そういうのできないの」
 薫は勢いを付けて打ち明けた。
「できない?」
 したくないなら、まだわかるけど…
 シンジは薫の言葉を待った。
 しかしなかなか続かない。
 シンジは焦れて、だからだろうか?、嫌な考えが浮かんでしまった。
「まさか、病気のせいで?」
 口に出してから、シンジははっと自分のミスに気がついた。
「ご、ごめん!」
 僕はバカだ!、無神経で…
 薫はキョトンとシンジを見ている。
 それから、ぷーっと我慢し切れなくなったように吹き出した。
「か、薫さん?」
「ごめん、紛らわしかったね?」
 へ?っと、シンジは間抜けな顔を見せた。
「心臓が激しい運動に堪え切れないんだって、ずっと寝てたから…」
「うん…」
「そういうのって、けっこう、その、激しくって、負担かかるんでしょ?」
 パン!
 やだもう!
 薫はシンジをはっ倒した。
「な、何するんだよ!」
「だってシンジ君がこんなこと言わせるから!」
「勝手に言い出したんじゃないか!」
 薫はしゅんとしょげ返った。
「あ、ごめん…」
「ううん、こっちが悪いのよね?」
 薫は深呼吸してから、話を元に戻して進めた。
「…だから、ね?、一年ぐらいは控えなさいって」
「なにをさ?」
「男女交際」
 付き合うなって事?
 その具体的な理由を尋ねる。
「ドキドキしたり、泣いたり、怒ったり…、ならまだ良いんだけど、勢いで突っ走っちゃったらどうするんだって…」
 カヲル君に限って、そんなことあるのかなぁ?
 シンジは首を捻ってしまう。
 相手をカヲルに限定している辺りは、自然に浮かんだ考えだ。
「一年?」
 その具体的な数字の意味を一応聞いてみる。
「うん、ちょっとずつ運動量増やしていけば、健康になれるって」
「ああ…」
「それから…、カヲル君と…、って嫌だもう!」
 パン!
 再び真っ赤になった薫に叩かれた。
「うわぁ!、だから照れるんなら口に出さないでよ!」
「えへ、ごめんね?」
 ペロッと舌を出す。
「でもシンジ君、わかってるの?」
「なにがさ?」
「もうシンジ君、16でしょ?」
「え?、それがどうしたのさ?」
「シンジ君を好きなみんなも16になって…」
「そんなの当たり前だろ?」
 はあっと、薫はため息をついた。
「やっぱりシンジ君、わかってない!」
「え!?」
 突きつけられた指にドキッとする。
「16ってね、もう結婚だって出来るんだから!」
 結婚…
 シンジは想像のらち外にあった言葉に、激しく動揺してしまっていた。






 スゥ…
 暗幕の引かれた視聴覚室の暗闇の中に、一人の少年が浮かび上がった。
「シンジの誕生日、これが何を意味するか分かっていると思う…」
 ざわざわとざわめきが巻き起こる、かなりの人数がいるらしい。
 ケンスケが手をあげる、その手に収まっているのは、夕べの碇家で撮影したディスクだ。
「では彼女なし男達(みなしご)の叫びの会の、定例集会を始めよう」
 そう厳かに宣言したのは、誰であろう鰯水だ。
 待っていろよ、碇シンジ…
 ふはははははっと、鰯水は嫉妬の炎を吹き上げた。
 良く燃えるよなぁ…
 そんな鰯水に対してケンスケのテンションは、シンジが学校に来ていない事を知っているだけに低かった。



続く







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