「それじゃいっせーの!」
 せっ!っと続く。
誕生日おめでとー!
 ぱんぱんぱんっとクラッカー。
「ありがとう」
 シンジは照れながらはにかんだ。


GENESIS Q’44
Neon Genesis Evangelion
星くずパラダイス8


「はい、シンジ様」
「うん…」
 ミズホからのプレゼントか、なんだろう?
 シンジはすごく丁寧に受け取った。
「いま開けて良い?」
「う〜、恥ずかしいからぁ、後で見てくださぁい」
 なにやらもぞもぞモジモジとしながら離れていく。
 なんだろう?
 昨日からのこともあるので、ちょっとだけ警戒心が溢れて来ていた。
「…それでこっちがあたしからよ」
「うん…」
 ミズホの時と同じ言葉だが、トーンがわずかに下がっている。
「なによ?」
 ギロリと睨むアスカ。
「このあたしからは受け取れないってわけ?」
「そ、そんなのじゃないよ!、ただ…」
「ただ?」
 ちゃんと手渡しで貰ったのって、初めてのような気がする…
 アスカは怪訝そうに眉をひそめた。
「なによ、今度はニヤついちゃって、気持ち悪いわねぇ…」
「うん、ちょっとね…」
 はいこれ!


 いつもと変わらない仏頂面。
 小学校中学年のアスカが、ぶっきらぼうに差し出したのは、お小遣いで買った筆箱だった。
「ありがとう!」
 シンジの屈託の無い笑みに、照れたようにそっぽを向く。
 ちょっとだけ笑顔が陰るシンジ。
 …嫌だったのかな?
 手元の筆箱を見る、流行のアニメマンガのキャラクターが描かれていた。
 ちょっと高いもんね、これ…
 お小遣い使わせちゃった。
 ずず…
 シンジは泣きそうに鼻をすすった。
 ぎょっとするユイとアスカ。
「な、なに泣いてんのよ、シンジ!」
「まさか泣くほど嬉しかった…、なんて」
 え?
 ユイを見上げるアスカ、続いてシンジに視線を戻す。
 そうなの、かな?
 アスカもきゅっと唇を咬んでうつむいた。
 しかしシンジとは理由が違う。
 もっと良いのにしとけばよかった…
 プレゼントを探していた時のことを思い返す。
「シンジ、これ欲しがってたっけ…」
 文房具店で手に取るアスカ。
 母親から臨時に貰ったお小遣いなら、十分手に届く値段だった。
「まったく!、なんでシンジなんかの為に悩まなきゃいけないのよ!」
 本当は照れ臭いだけ。
 それはほっぺの赤さが物語っている。
 プレゼントを買うのも、おめでとうと言うのも恥ずかしい。
 まったく!、おば様ってば強引なんだから…
 アスカちゃん、ぜひ来てね?
 ユイに誘われては断れない。
 ま、いっか、これならお小遣い余っちゃうし…
 それでマンガでも買おうと決める。
 そうやっていいかげんに決めたのがその筆箱だった。
「ほらほら!、二人とも暗くなってないで…、シンジ?」
「なに?、お母さん…」
 ぐしゅっと鼻をすすり上げる。
「嬉しくないの?」
「嬉しい、けど…」
 アスカの様子を探ってしまう。
「だったら笑わなくちゃダメよ?、アスカちゃん、喜んでくれなかったんだって泣いちゃってるじゃない」
「え?」
「あ、あたし泣いてないもん!」
 それにそんな事思ってない!
 その一言は飲み込んだ。
 クスッと笑うユイ。
「アスカちゃん?」
「はい…」
「アスカちゃんはどうなの?」
「何がですか?」
 ユイはじっと数秒、アスカの目を見つめた。
「迷惑だったかな?」
「えっと…」
「シンジのお誕生日会、誘ったの迷惑だった?」
 アスカはちらりとシンジを見た。
 シンジは情けない顔で答えを待っている。
「違うの…」
「……」
 ユイは急かさず、アスカが自分で言うのを待った。
「違うんです」
 何が違うの?
 その一言を押さえて待つ。
「あたし、お小遣い浮かそうと思って、それでこれならシンジも欲しがってたしって、いい加減に…」
「選んじゃったの?」
 うつ向き、頷くアスカ。
「シンジだってそんなに期待してくれてないって思ってたの、なのに…」
 前に垂れた髪を両手で握り、引っ張る。
「シンジに悪いことしちゃって…」
 髪に隠れて見えなくなる、でも泣いているのは間違い無い。
「ほらシンジ、何か言うことは無いの?」
 えっと…
 シンジは困ったように母とアスカを交互に見た。
「…僕は、嬉しかった、よ」
 ピクリとアスカの肩が震える。
「でも、これって高くて、買えなかったから…、そんなのをアスカがプレゼントしてくれるなんて、思わなかったから」
 シンジはまたも「えっと…」と言葉を探した。
「悪いと思ったのね?」
「…うん」
 ユイは軽くシンジの髪を撫でた。
「母さん?」
 にっこりと微笑むユイ。
「シンちゃんは幸せ者ね?」
「どうして?」
 今度はうつむいているアスカの頭を撫で、上を向かせる。
「だって、シンジの好きな物、欲しい物を、ちゃんとわかってくれているお友達が居るんですもの…」
 ぱあっとシンジの表情が明るくなる。
「うん!」
 元気いっぱいに、もう一度ありがとうを伝える。
「ありがとう!、アスカ」
「うん…」
 喜んでくれてるんだ…
 アスカは悔やみながらも、ちゃんと返事をした。
「大事にしてよね?」
「うん!」
 シンジは今でも、ぼろぼろになった筆箱を捨てずに取っている。
 来年からは、ちゃんとした物を贈ろう…
 シンジは、アスカがそう心に決めたことは知らない。


 …アスカ、あれから値段じゃなくて、ちゃんと僕の欲しい物を選んでくれるようになったもんな。
「だから何ニヤついてんのよ、あんたわ!」
「いらい、いらいよあふは!」
 苛ついたアスカにほっぺをつねられた。
 でもその分、アスカの誕生日のプレゼントが難しくなったけど…
 下手な物を贈ろうものなら、問答無用で不機嫌になってしまう。
「まったく…」
 アスカも今日ばかりは深く怒らず、比較的あっさりと離れていった。
「そう言えば…」
 きょろきょろと見回すシンジ。
「レイとカヲル君は?」
 ゲンドウは書斎に引きこもっている。
 だがテーブルの上には、ちゃんと人数分のお皿が用意されていた。
「お父さんは、みんなが揃ったら呼んでくれって」
 にこやか…と言うよりは、なにやらニヤついているようなユイ。
「レイちゃんとカヲル君はまだ帰って…」
「ただいまぁ!」
「…来たみたいね?」
 ガラッと勢いよく襖が開く。
「シンちゃん!」
 帰って来るなりレイは、すざっとシンジの前にお座りした。
 いや座ったというより滑り込んだと言った方が近いかもしれない。
 さっと紙袋を差し出すレイ。
「はい!、遅くなってごめんね?」
 ペロッと舌を出すレイ。
「なに?、これ…」
「もう!、誕生日プレゼントに決まってるじゃない!」
 シンジは受け取りながらも戸惑った。
「いや、そうじゃなくてさ…」
 紙袋の中に、やたら丁寧に包装された物が入っている。
 それも大きい。
 アスカたちはむうっと唸った。
 明らかにレイのプレゼントの方がグレードが高い。
「こんなの貰ってもいいの?」
「そういうのは、中を見てから言って欲しいな?」
「うん…」
 シンジは恐る恐る紙袋から出し、包装を解いていった。
「これは!」
 シンジは出て来たものに驚いた。
「レコードプレイヤーと、それに本物のレコードじゃないか!」
 それもシンジの好きなジャズセッション物。
「うん!、タタキさんに交渉してね?、倉庫に埋まってたのを売ってもらったの」
 ニコニコとしているが、シンジはちょっと心配になった。
「でもこれって高かったんじゃないの?」
 プレイヤーは骨董品屋まで行かなくとも、その辺で手に入れることはできる。
「うん、シンちゃんの好きそうなのって、なかなか見つからなくって…」
 ペロッと舌を出したが、欲しいと言ったからと言って、簡単に貰える物ではない。
 そうだよなぁ、これってCDからギリギリDVDになったって奴だから…
 シンジは大事に胸に抱いた。
「ありがとう、大切にするよ…」
 極上の微笑み、それは間違い無く、レイにだけ向けられたものだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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