「ふむ、みんな揃ったようだな…」
「あ、お父様」
ふらりと現われたゲンドウにも微笑んでしまう、上機嫌のレイ。
レイはシンジの正面に座っていた。
すでにニコニコと勝利者面をしている。
シンジの右脇はミズホが、左はアスカが固めている。
…が、やはり圧倒的に差を付けられたのが悔しいのか、微妙に渋い顔をしてしまっていた。
「誕生日だというのに、不景気な顔をしているな?」
ニヤリとゲンドウ。
ゲンドウが腰を下ろしたのはレイとユイとの間だった。
「シンジ…」
「なに?、父さん」
シンジはニコニコと若鳥骨付き肉をほばっている。
「それで、もうみんなからプレゼントは受け取ったのか?」
「うん、まあ、一応は…」
シンジは言い渋るように言葉を濁した。
「なによ、どうせあたし達のプレゼントなんて大したこと無いわよ」
「シンジ様ぁ…」
袖口をつかむミズホ。
逆にアスカは怒ったようにプチトマトを口の中に放り込み、まったくシンジを見ようとしない。
はぁ…
シンジは嘆息した。
張り合わなくてもいいじゃないか…
「いくらなんでも怒るよ、アスカ、ミズホも…」
シンジの言葉に、二人は惚けた。
「え?、今あんた言い返した?」
ぱくっと、知らん振りをして、口の中に空揚げを放り込む。
「あんたねぇ!、言いたいことがあるんなら、ちゃんとはっきりと言いなさいよ!」
食って掛かってきたアスカに焦る。
だって、嬉しかったんだもの…
レイからのものだけではなく、アスカからのものも、ミズホからのプレゼントも…
なにに気分が悪くなるような事、言わなくてもいいじゃないか。
しかしそれを口に出来るだけの度胸も無い。
シンジはちょっとだけ、言い訳を探した。
「…僕はただ」
「ただ?、ただ何よ!」
なんで今日は隣に座ってくれなかったんだろう?、レイ…
シンジは恨めがましそうに見やってしまう。
しかしレイは自分の世界に入っているのか?、やたらとニヤニヤしているだけだ。
はぁ…、っとシンジは諦めた。
「僕はただ、カヲル君はどうしたのかなと思ってさ…」
「カヲルぅ!?」
アスカは素っ頓狂な声を上げた。
「なにあんなやつのことなんて気にしてんのよ」
「そうですぅ、あんな、あんな汚らわしい…」
ミズホの脳裏に、昨夜のキスシーンが鮮明に蘇った。
口を重ねるシンジとカヲル。
カヲル君…
シンジ君…
お互いのトロンととろけた瞳と、まだ閉じられない余韻に浸っている唇。
「いぃやぁでぇすぅーーーーー!」
「わっ、ばか!」
アスカはミズホに飛び付いた。
「近所に聞かれたらどうすんのよ!」
「きゃあああ!、シンジ様が、シンジ様が犯されて!」
むぐぅ!
アスカは素早く、ミズホの口に布巾を搾ってねじ込んだ。
「むぐーむぐーむぐー…」
ふぅ、ぱたんと倒れ伏すミズホ。
「み、ミズホ!?」
焦りまくるシンジ。
「ふぅ、これで静かになったわね?」
「し、静かになったって…」
心配して抱き起こす。
「うにゃぁん、シンジ様ぁ☆」
「ま、心配ないわよ」
そうみたいだ…
シンジは部屋の隅っこにミズホを横たえ、自分の座布団を枕にしてあげた。
「それはそうとシンちゃん」
「ん、なに?」
シンジは気付かなかったが、一人4つはあった手羽先が一人2つに減っていた。
「みんなからはプレゼント、貰ったの?」
シンジは席に座り直しながら、ちらりと背後を見やった。
「うん、まあ…」
レイの持ち返って来た紙袋、それにもたれ掛かるように、遥かに小さな小箱が二つ並んでいる。
「あ、それなんだ?」
「まあね」
答えたのはアスカだ。
「どうせあんたよりは格が落ちるけどね?」
「そんな言い方するなよな…」
シンジはアスカのプレゼントを手に取った。
でもまだ中を見るつもりはない。
「なぁによ、今日はやたらと突っかかるじゃない…」
「…昔のこと、思い出しちゃってさ」
「昔のこと?」
「そ、アスカが泣いちゃった時のこと」
かーっとアスカの顔が赤くなった。
「なになに?、何の話しなの!?」
身を乗り出すレイ。
「なんでもないわよ!、バカシンジ!、古い話を掘り起こすんじゃないわよ!」
「ご、ごめん…」
ちょっと懐かしくって、口にしただけなのに…
悪気が無かっただけにムッとしてしまった。
「いいだろう?、ちょっとぐらい…」
「だめよ!、あんた人の嫌がることして楽しいってわけ?」
嫌、なのかな?
腹が立つのと、同じぐらいの戸惑いを感じた。
僕は嬉しかったのに…
良い思い出、何度でも思い出したくなるような古い記憶。
「そっか、アスカは恥ずかしくって嫌だって思ってたんだ…」
「な、なんでそうなるのよ?」
すざっと立ち上がる。
「もういいよ、バカ!」
ばっ!?
「バカとはなによ!、ちょっと待ちなさいよ、こらぁ!」
真っ赤に膨れ上がったアスカを残し、シンジは階段を駆け上がっていった。
シンジの背中を追ってから、レイの冷たい視線がアスカを見上げた。
「な、なによ…」
口ごもるアスカ。
「あ、あたしは、悪くないわよ?」
「誰がどう見たってアスカのせいじゃない…」
あたしの何処がいけないって言うのよ!?
アスカはかろうじて、その叫びを飲み込んでいた。
●
シンジは自分の部屋まで引き上げると、入り口のハシゴを上げ、蓋をして重しを乗せた。
「アスカのバァカ…」
ばふっと、折り畳んだ布団に寄りかかり、寝っ転がる。
「ま、いいや…」
勢いで引きこもってしまったものの、一人になれば急に頭が冷えて来た。
「後で謝っとこうっと」
わずかに立場の弱さが見えてしまう。
怒らせると恐いしね…
シンジは「よっと」起き上がった。
天井を見上げる、タペストリーの向こうに明るい光。
「満月だっけ…」
シンジは最近ニュースで良く見ていた、「満月まで後…」と言うのを覚えていた。
すっくと立ち上がり、なんとなくタペストリーに手をかける。
外して下に置くと、眩しいぐらいの光が降って来ていた。
ガチャリと窓を空けて、テーブルを台によじ登る。
「…雲が無いや」
とても奇麗な星空が見えていた。
しばし見とれていたが、鼻歌のようなものに気がついた。
「カヲル、くん?」
屋根の頂上部にカヲルが腰掛けていた。
どうやって昇ったんだろう?
窓は閉まっていたし、他に昇ってこられるような場所は無い。
「やあ、もういいのかい?」
「え?」
「誕生日会だよ」
「ああ…」
シンジもカヲルの隣まで昇って座った。
「つまらなくなったのかい?」
「そんなことないよ!」
シンジは強い調子で答えた。
「あ、ごめん…」
「いつもすぐに謝るんだね?」
クスリと笑う、その調子に冗談なのだと感じるシンジ。
「だって、お祝いしてもらえたんだもん、嬉しくないわけないよ…」
「じゃあどうしてここに居るんだい?」
どうしてって…
シンジは口をつぐんだ。
どうしてなんだろう?
場当たり的に逃げ出しただけだ。
考え込む。
「今日はもう少ない」
?
シンジはきょとんと、カヲルの言葉を噛み砕いた。
「それって、生まれた日が過ぎちゃうって事?」
「そうだね…」
カヲルは笑みを絶やさずに続ける。
「人に祝ってもらえる、ここに居る事の喜びを感じられるのは幸せな事だよ…」
「うん…」
それは分かるような気がした。
「幸せに包まれるということは、存在する価値の確認に繋がる…」
「そうかな?」
シンジは首を捻って考えた。
「そうだよ」
にっこりと微笑むカヲル。
「シンジ君が僕たちに笑いかけてくれないのなら、僕たちはどうやって確認すればいいんだい?」
はっとして、カヲルを見る。
「カヲル君…」
「そうだろう?、シンジ君…」
「カヲル君」
「シンジ君…」
カヲルの体がわずかに傾いた。
シンジの顔を照らしていた月明かりが、カヲルによって遮られた。
あ、えっと…
カヲルの瞳が近付いて来る。
また、怒られるかな…
シンジは一瞬、瞳を閉じかけた。
それ程カヲルの笑みが、男女を越えて美しいものだったから…
瞼を完全に閉じてしまう、カヲルはシンジが逃げないと確信しているのか、ゆっくりと触れ合おうと近付けた。
パッ!
シンジの瞼の裏に、瞬間フラッシュのように光が瞬いた。
ミズホ!?
何故かアスカでもレイでもなく、見えた姿はミズホだった。
シンジ様ぁ…
すがるような瞳。
「あ、ごめん!」
シンジはカヲルの両腕をつかみ、押し返していた。
「…どうしたんだい?」
嘆息の後に、一応の理由を求める。
「こんなのは…、だめだよ」
「どうして?」
「どうしてって…」
シンジは顔を上げた。
「僕はまだ、迷ってるから」
「シンジ君!」
シンジは危なっかしく屋根を走り、部屋の中へ飛び降りていった。
ふうっと、もう一度吐息を吐き髪を掻き上げる。
「まあ、残念だけどね…」
カヲルはようやく苦笑を浮かべる。
その正直さ、好意に値するよ…
カヲルは再び、元のお月見へと戻っていった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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