しーんちゃーん…
かりかりと引っ掻く音がする。
「レイ?」
「うん、アスカが謝りたいってぇ…」
きゃっと言う叫びと、言い争うような声が聞こえて来た。
「またやってる…」
クスッと笑って、シンジは重しをのけて聞き耳を立てた。
誰が頭を下げるって言ったのよ!
アスカ、謝って!
い・や・!、先にバカにしたのはシンジでしょうが!
あれのどこがバカにしてるの?
あんたには関係無いの!
あー!、またそうやって隠すぅ!
レイが膨れちゃってる…、アスカは照れ隠しにそっぽを向いてるんだろうな…
何故だか容易に、想像できてしまった。
そっか、さっきのもだから恥ずかしくって…
シンジは階段を降ろそうと、蓋にぐっと手を掛けた。
「ねえ、アスカまだ怒ってるの?」
二人ははっとして、天井を見上げた。
「バカシンジ!」
「シンちゃん!、この通りアスカも謝ってるから!」
「ってやめなさいよ!」
頭を押さえつけれるレイの手を振り払う。
「シ〜ンジぃ、あんたが悪いって分かってるんでしょうねぇ?」
シンジはこそっと端っこに隠れた。
「あ、こら!、隠れてないで階段降ろしなさいよ、ずるいわよ!」
アスカはガタガタと、先程レイが蓋を引っ掻くのに使っていた椅子を引っ張った。
あーもぉ!、なんてバランス悪いのかしら!?
その上に立ってみたのだが、ぐらぐらと揺れて危なっかしい。
あそこ!、あそこに手が引っ掛かれば…
体を引き上げられるのに!っと、アスカは歯噛みして天井に開いている虚空を見上げた。
ば、ばかにしてぇ!
そこから笑いを含んで覗き見ているシンジ。
「あのさぁ…」
「なによ!」
苛立ちが頂点に達しつつある。
「プレゼントって、金額じゃないよね?」
「だからなんだってのよ!」
持って回った言い方に、レイはキョトンと二人を見てしまう。
でも遠回しに言わないと、レイに全部知られちゃうじゃないか…
しかしアスカとしては、ストレートな方が、精神衛生上良かったかもしれない。
「あの時…、嬉しかった、アスカが僕の欲しい物を覚えててくれてて、嬉しかった」
シンちゃん…
やたらと回りくどく、レイに言っているのだと勘違いしている。
両手を組み合わせて、幸せそうにするレイ。
「あんたレイが自分の欲しがってるもののこと、調べてくれてたからって言いたいわけ?」
「ちが…、違うよ!」
「え〜、違うのぉ?」
ギロリ!っと睨まれて、レイは「ひゃっ」っと首をすくめた。
「あの…、それで僕、まだアスカのプレゼント、見てないんだよね…」
はっとするアスカ。
「そう、まあ、そうよね…」
「だから、怒ってるなら叩かれてもいいけど…」
言われて叩けるわけがないでしょうが!
「せめて、アスカのプレゼントを見た後じゃ、だめかな?」
お願いするような目にそっぽを向いてしまう。
「しょ、しょうがないわね!、じゃあ続きは明日にしてあげるわよ!」
「うん!」
ガタガタと、慌ててハシゴを下ろすシンジ。
「ありがと、アスカ!」
笑顔で脇をすり抜け、一階へと階段を下りていく。
「まったく…」
アスカは苦笑した。
「護魔化すのがうまくなったんだから…」
むぅっと、そんななんとなく幸せそうなアスカを、レイは不満顔で睨んでいた。
「あれ?、ミズホまだ寝てたんだ…」
座ったシンジの頭を、ユイがこつんと軽く小突いた。
「…なんだよ?」
「食事中に立たないの」
「ごめん…」
強気な口調も沈んでしまう。
「それに、あなたのことで倒れちゃったんでしょう?」
「うん…」
伏せ目がちになるシンジ。
「だったら、もっと優しくしてあげなさい、いいですね?」
「わかってるよぉ…」
シンジは食卓の上を見た。
ほとんどが食い散らかされ、ほんのわずかにしかおかずは残っていない。
「ぐずぐずしてたから、お父さんとレイちゃんで食べちゃったわよ」
しかたないっか…
シンジは小皿に残った空揚げなんかを寄せ集めると、それでご飯を食べ出した。
「むぐ、でも、カヲル君は食べたのかな?」
「あら、帰ってるの?」
口に物を入れているので、噛みながら頷く。
「屋根の上で、月を見てたよ?」
「そう…」
シンジは話すだけ話したので、また口の中いっぱいに頬張った。
「シンジ様…、シンジ様、シンジ様、シンジ様!」
むぐぅ!
突然起き上がったミズホに驚く。
「ああ!、し、シンジ様が大変ですぅ!、はっ!?、これはまさか某秘密組織の陰謀でわ…」
ち、違うから、水…
もがくシンジ。
そんなシンジを、今日は珍しく黙ってゲンドウは見つめていた。
●
「シンジィ、早くしなさいよ!」
「分かってるよぉ!」
シンジはドタドタと階段を駆けおりた。
「じゃ行ってくる!」
「車には気をつけるのよ?」
「「「「はーい!」」」」
アスカ、レイ、ミズホ、それにシンジの返事が重なり、和音を奏でた。
それを見守るように、一人遅れて靴を履くカヲル。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、シンジ達をよろしくね?」
ユイの微笑みに、カヲルもはにかむような笑顔で返していた。
揃って歩く通学路。
「ふわぁ…」
シンジは生欠伸を噛み殺した。
それを見て、「なんだ…」と気落ちするような、ほっと胸をなで下ろすような三人。
「ところでシンジ君」
「なに?、カヲル君…」
「夕べは良く眠れなかったのかい?」
「ううん、ちゃんと寝たよ?」
「そうなのかい?」
カヲルは本当に不思議そうに首を捻った。
「どうしてそんな事を言うのさ?」
「だってなにかぶつぶつと口にしていたろう?」
シンジの動きが、ギシッと一気に堅くなってしまった。
「…聞いてた、の?」
「良くは聞こえなかったけどね?」
素知らぬ顔で爆弾を転がす。
「ただみんなの名前を口にしていたのは分かったけどね?」
キラーン!
六つの眼が光を放った。
「シ〜ンジぃ…」
「あ、なに?、アスカ…」
アスカはまるで悪友のように、シンジの肩に腕を引っ掛け頭を下げさせた。
「それであんた、あたしが贈ったもの、ちゃんと確認したんでしょうねぇ?」
意地悪い笑みを浮かべる。
「み、見てない、見てないよ!」
シンジは慌てて首を振った。
「へ?」
思わず、自分を見失うアスカ。
「だだだ、だってあんた、昨日…」
「うん…、ミズホのプレゼントを見たら、頭痛くなっちゃって、それで…」
二人で視線をミズホに向ける。
きゃっと、恥じらうように両頬を掌で包むミズホ。
「…何が出て来たわけ?」
「パンツ…」
「へ?」
この時、あまりにもアスカの顔は情けなかった。
●
まったくもう!、何考えてんのよこの子は!
そう言って、アスカは嫌がるミズホを引きずっていってしまった。
入っていたのは黒のビキニパンツだった。
「大人になったシンジ様へ☆」と、御丁寧なカードまで添えられて…
で、あんたそれ履いて来たんじゃないでしょうねぇ?との質問には…
ここで口にすると、きっとミズホが泣き出すよな?との配慮から、「ノーコメント」とさせてもらったおいた。
まあそれはそれで、いいとして…
シンジは自分の教室の扉に手を掛けた。
●
いつもの会議室にいつもの二人。
「良いのか?、碇…」
「ああ、アイドルプロジェクトは順調に進んでいるよ」
いまさら何を…
ゲンドウの声には、その色が多分に含まれていた。
「そうか、なら良いのだがね…、それよりも計画の方、準備は出来ているんだろうな?」
珍しく、ゲンドウの返事が遅れた。
「碇?」
「10%の遅れが出ている、修正は今週末に終わる予定だ…」
冬月は息を呑んでいた。
てっきりいつもの、「問題無い」が聞けると思っていたのだ。
「どうしたんだ?」
「ああ…、シンジが思ったよりやる気を出していてな、それで計画に若干の手直しを入れさせてもらったよ」
遅れているのはそれが原因か…
冬月は実際にその作業の追われているスタッフ達に同情した。
「まあ、せっかくの晴れの舞台だ、せいぜい派手にやる事だな?」
「ああ…」
ニヤリとほくそ笑むゲンドウ、シンジはその頃、運命の扉に手をかけていた。
続く
[BACK][TOP][notice]
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'はGenesis Qのnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者naryさんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元Genesis Qへ>Genesis Q