「まったく…、なんだよ急に機嫌悪くなっちゃってさ…」
 ぶちぶちと呟くのだが、シンジはアスカに聞こえないように押さえていた。
 アスカはちょっと先を歩いている、その怒り肩には、檻の中のライオンでさえも脅えていた。



GenesisQ' Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'48

星くずパラダイス12



「あの名札ってさぁ?」
 ギロ!
 う、恐い…
 肩越しの目に、シンジは激しく震え上がった。
「…何で残してるの?」
 素朴な疑問に、アスカの不機嫌さは増していく。
「そんなの、…あんたに関係あんの?」
 うう…
 アスカ恐いよっと、全身で物語ってしまう。
「だって僕の名札なんだし…」
 ふんっとアスカはそっぽを向いた。
「自分で思い出せばいいでしょ?、あんただって知ってんだから」
「え!?」
 僕があげたんだっけ!?
 シンジは驚き、立ち止まった。
 アスカもそれに合わせて立ち止まる。
 どうだっけ?
 シンジはゆっくりと首を捻った。
 …あんまり覚えてたく無かったはずなんだけど…
 アスカの背を見ようとすると、アスカは振り向いてシンジを睨んでいた。
「なにやってんのよ?」
「え?」
 シンジは怒ってたんじゃなかったの?っと驚いた。
「いいからもう、さっさと来なさいよ」
「でも…、だってさ」
 気になる事がそのままでは気持ちが悪い。
「もういいわよ、時間がもったいないでしょ?、せっかくの…」
 デートなんだし。
 デート。
 その言葉を思い浮かべるだけで優しくなれる。
「ねえ、お願いだからさ…」
 しかしシンジはぶち壊した。
「なによ?」
「ヒントぐらいくれない?」
「嫌よ」
 恥ずかしい…
 そう想ってるのは間違い無い。
 顔が真っ赤になっているから。
「あ!」
 シンジは急に大口を開いた。
「なによ?」
 ちょっと驚くアスカに、真っ赤になったアスカが重なる。
 その胸に抱かれているおサルの幻影。
 それは幼い頃の姿である。
「思い出した…、アスカ?」
「な、なに?」
 急に真剣な表情をするシンジに戸惑う。
 ドッキ、ドッキ、ドッキ…
 鼓動が跳ね上がっていく。
 やだ…、こいつほんとに思い出したのかしら?
 期待が表情を固くする。
「アスカ…」
 ごくり。
「よく僕のことを「おさる」っていじめてたよね?」
 がくーっと、アスカは力尽きた。


「ほらバカシンジ!」
 得意満面、小学校低学年のアスカが、シンジの前にお猿のぬいぐるみを突き出した。
「あんたにそっくりでしょ!」
「やめろよぉ…」
 シンジはそれを嫌がって逃げようとする。
 ムッとするアスカ。
「なによぉ、お猿のくせに生意気なんだからぁ…」
 アスカはふと、机の上にあるシンジの名札に気がついた。
 にんまりとする。
「あ!」
 シンジもその視線に気がついた。
「やめてよ!」
 遅かった。
 シンジの手よりも早くアスカの手が延びていた。
「ほぉら、これでこいつはバカシンジよ?」
 アスカはその名札をお猿にくっつけた。
「やめてよ、お願いだよ!」
 泣きそうになるシンジ。
「やぁよ、はいシンちゃん、今日は一緒に寝ましょうねぇ?」
「お願いだからぁ!」
「何よシンジ?、あー、わかったぁ!、あんたあたしと一緒に寝たいんでしょ?」
「ち、違うよ!」
 シンジは真っ赤になって否定した。
 だがアスカはからかうのをやめなかった。
「シンジってば子供なんだからぁ…、まだおねしょだってとまんないしぃ?」
 これにはシンジもむきになって反論した。
「もうしなくなったよ!」
「嘘ね」
「嘘じゃないよ!」
「だってこの間もお布団干してたじゃない」
「あれは違うよ!」
「違わないわよ!」
「違うってば!」
「なによ!」
 アスカはついに怒り出した。
 シンジの顔も、膨れ上がって真っ赤になっていく。
「うっく…」
 びくっと、アスカは言葉に詰まった。
「し、シンジ?」
 ひっくと、シンジがしゃくりあげた。
「なによ?」
 涙がポロポロとこぼれ出す。
 うわーんっとシンジは泣き出した。
「冗談なのにぃ…」
 アスカも声が震え出した。
「泣くこと…、ないじゃない」
 そしてつられるように泣き出してしまう。
 二人はユイが気がつくまで泣いていた。


「あらあら?、何してるの?」
 うわーん、うわーん、うわーん!
 二人同時にユイに抱きつく。
 ユイは腰の辺りにある二人の頭を優しく撫でた。
「アスカが、アスカがおサルっていじめるんだ!」
「シンジが…、冗談なのに、ふわーん!」
 あらあら?
 ユイはちょっと困り顔を作った。
 そして問題のぬいぐるみを目にとめる。
「…可愛らしい人形じゃない」
 一旦二人を解放して、ぬいぐるみを抱き上げた。
「大事にしてあげなくちゃ、ね?」
「いら、ない…」
 だがアスカは、泣いたまんまで受け取らなかった。
「あら?、どうしてなの?」
「だって、シンジ嫌いだって、だから、いらないの…」
「シンジ?」
 ユイはシンジに語りかけた。
「だって、そっくりだって…」
「いいじゃない…」
 ユイはシンジとアスカを抱きしめた。
 その中央には、おサルのぬいぐるみが挟まっている。
「このぬいぐるみ、アスカちゃんのお気に入りだものね?
 うっくとしゃくりながらも、小さく頷く。
「だからシンジってつけたのよね?」
 アスカは素直に頷いた。
「シンジは嫌なの?」
 シンジは返事できなかった。
「アスカちゃんは一番大事だからって、シンジってつけてくれたのよ?」
「うん」
 シンジはようやく頷いた。
「うん、嫌じゃ、ないよ…」
 ぐしっと、鼻をすすりながらアスカも顔を上げる。
「ほんと?」
「うん…」
「ほんとにほんと?」
「うん」
「じゃあ…」
 アスカはユイからぬいぐるみを返してもらった。
「この名札、貰ってもいい?」
 おずおずと尋ねて来る。
「…うん」
 二人はようやく笑っていた。


「あ〜、思い出した思い出した…」
 シンジはその続きをさらっと吐いた。
「それで僕たちそのまま、ままごとして疲れて寝ちゃって、「川の字」とかよくわからないこと言ってからかわれたんだっけ…」
 ふいっとアスカに顔を向ける。
「ねえ?」
「なによ…」
「どうしてあの名札、捨てなかったの?」
 ボッと赤くなるアスカ。
「あああ、あんたには関係無いでしょ!」
 焦る姿を可愛く思う。
「だってさ、アスカ「あの後」、もうしない、いじめないって言ってたのに…」
 アスカはしおらしく頬を染めた。
「そんなの…」
 決まってるじゃない。
 口をモゴモゴと動かすだけ。
 余計な事思い出すんじゃないわよ…
 ホントは思い出して貰えて嬉しいのと半々だった。
「なんだよもぉ…、新しいのに付け替えてあげればいいのに…」
 この朴念仁が!
 アスカは隠れて拳を握った。
「そういえばさ、アスカあの人形抱きしめて、首落としちゃった事もあったよね?」
 ぎくりと、振り上げようとした拳が固まった。
「そ、そんなこともあったかしら?」
「あったよ…、あの時はまた泣いちゃって…」
 ちょっと罪悪感が込み上げて来る。


 ほらアスカちゃん、ちゃんとシンジを抱いて?
 うん!
 ユイの言葉に、アスカはぬいぐるみを抱きしめた。
「お母さんまで…」
 赤くなっているシンジ。
 ユイはアスカにカメラを構えた、今日着ているのは新しいお洋服なのだ。
 そのレンズの前で、アスカはギュ〜ッと抱きしめた。
 ぎゅーっと。
 ぎゅーっと。
「シンジ…」
 にっこりと微笑むアスカ。
 ぽてん…
 そしてあまりにもきつく抱き過ぎたのか、首がコロッともげてしまった。
「あ、シンジ、首落ちちゃった…」
「あらあら?、ダメよアスカちゃん、もっとシンジを大切にしてあげないと」
「うん…」
 そのやり取りは、シンジを泣かせるに十分だった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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