「アスカ、ここみたいだね?」
「わ、わかってるわよ…」
 二人は緊張しながら、「綾波レイ」と書かれている貼り紙を見た。
「でもさ…」
「なによ?」
 シンジはちょっと緊張している。
「ちゃんとしたデヴューもしてないのに、個室を貰えてるのって凄くない?」
「そんなの…、あたしに聞いたってわかるわけないでしょう?」
 そりゃまあ、そうなんだけどさ…
 会話にならなかったのでシンジはすねた。
 コンコンコン…
 その間隙をぬってノックした。
「ああっ!、ちょっと待ってよミズホ!?」
「まだ心の準備ができてないってぇのに!」
 ミズホはぷりぷりと振り返る。
「ダメですぅ!、レイさんには一緒にアスカさんを怒ってもらうんですぅ!」
「なんでよ!?」
 キスか…
 シンジは、ミズホにだってしたのにと、やっぱり話せない爆弾を抱えている。
 しかし鼻先と唇とでは、その差に大きな隔たりが存在していた。



GenesisQ' Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'49

星くずパラダイス13



「そろそろ出番だね?」
「そうね?」
 そっけないレイ。
「緊張してるのかい?」
「まさか…、シンちゃんを探してるだけ」
「いないのかい?」
 カヲルはちょっと困惑した。
「うん…」
「おかしいね?、加持校長がさっき教えに来てくれたのに…」
 一番に僕に会いに来てくれると思ったのに…
 カヲルは自分がここに居ると言う事を話していない。
 それでもシンジ君は感じてくれているはずだよ、僕の存在を…
 ぞくりと、その頃うろつき回っていたシンジの背中に悪寒が走ったのだが…
「…シンちゃん、やっぱり怒ってるのかな?」
「なにがだい?」
 カヲルはレイの呟きに無双を止められてしまった。
「だって、せっかくのシンちゃんの好意だったのに…」
 特にあのマッサージは捨てがたい。
「取り返しのつかない事を悔いても仕方が無いよ?」
「でも…」
 カヲルは優しく微笑んだ。
「なら、やってみせることさ」
「なにを?」
 その笑みが好意的なものではないと知っているレイ。
「完璧にさ、…そしてシンジ君に、「コンディションを保ってもらったおかげ」だと伝えるしかない…」
「それしかないの?」
「他にあるのかい?」
 レイは考え込んだ。
「それしか、ないっか…」
 いかないと思うけどね?
 カヲルは姑息な笑みを隠れて浮かべた。
 シンちゃん!、見て?、あたし頑張ったの、えらいでしょ?
 そうだね?
 あたし頑張れたの!、それもこれもシンちゃんのおかげ!
 なにがさ?
 え?
 頑張ったのはレイ、僕はいらないサポーターじゃなかったの?
 そんなことない!
 でも事実だよ、認めなきゃ。
 シンちゃん!
 やっぱり…、レイに僕は必要なかったんだね?
 違う!
 さよなら…
 シンちゃん!
 行こう、シンジ君?
 カヲル君…
 僕には、君が必要なのさ。
 うん…
「ニヤリ」
「ほっほぉ…」
 カヲルは全部、その独り言を聞かれてしまっていた。






「ごめんなさーい」
 レイはニコニコと悪びれもせずに頭を下げた。
「あのなぁ…」
 頭痛を堪えているタタキ。
 厳戒体制のスタッフルーム、二人の足元にはズタボロになったカヲルが転がっていた。
「これから出番だってのに、何考えてるんだ?」
「てへ☆」
 ごまかしにかかるレイ。
 なんとなく爪先でカヲルの頭を小突いている。
「てへ、じゃないだろう?、これで君と組む人間はいなくなっちゃったんだぞ?」
 レイは笑顔から一転、真剣な表情を作った。
「シンちゃんがいます」
「しかしどこにいるのかわからないんだろう?」
 レイは負けない。
「探して来ます」
 愛ある限り、戦う予定だ。
「…呼び出しかけた方が早いんじゃないのか?」
「もう開場しちゃってますから」
 ニコニコと、しかしタタキは「予定通りなら指定席に居るはずだな…」と、シンジを呼びに行く準備に入った。






「ほんと、バカみたい…」
「だよねぇ?」
 その頃三人は…
「トホホですぅ…」
 と言う状態にはまっていた。
「まったくもう!、レイのやつどこに行っちゃったのよ?」
「その間に入場始まっちゃってさ…」
 指定席は会場の中央前列付近である。
 すでに自由席の一般客が入っており、席を探すことは不可能になっていた。
「でも遅れちゃった僕たちも悪いんだし…」
「あんたバカァ?、だからってむさいやつらに混じって、なんで『れーいちゃーん!』なんて練習してなきゃなんないのよ?」
 シンジ達が入り口から入ると、そこにはちょうどレイのファンクラブの人間が溜まっていた。
「なんだかケンスケもいたみたいだけど…」
「あのぶわぁか、なに考えてんだか…」
 三人は結局、人いきれに負け会場のロビーでソファーに座り込んでしまっていた。
「とにかく!、あたしはちょっと行って来るから、あんた達はここで待ってなさいよ?」
「え?、何処に行くのさ?」
 素早く立ち上がるアスカに声をかける。
「コネがあるのよ、コネがね?」
 アスカは明るく、ウィンクした。


 それから5分。
「シンジ様?」
 ミズホは「二人っきりですぅ!」っと緊張していた。
「ねえ?、ミズホ…」
「はいぃ?」
 シンジはゆっくりと隣のミズホを覗き込んだ。
「ミズホ、なりたいものってある?」
「なりたいものですかぁ?」
 んーとっと、ミズホは唇に人差し指を当てて考え込んだ。
「…それって、夢と言う事でしょうかぁ?」
「…うん、夢でも」
 そう言うと、ミズホはにこぱっと微笑んだ。
「わたしの夢は、シンジ様のお嫁さまになることですぅ!」
 勢い抱きつくミズホ。
 バランスを崩して、折り重なるように長椅子の上に倒れ込んだ。
「お嫁さま…、か」
 ごろごろとミズホはシンジの胸に頬をすりよせ、喉を鳴らしている。
 思い浮かべたのは台所の風景。
 誰かが朝食を作っている、吹いているお鍋は味噌汁、リズミカルに刻んでいるのはおネギだろう。
 僕は誰がいいと思ってるの?
 その後ろ姿はアスカでもミズホでもレイでもなく、もっと落ちついた腰をしている誰か他の女性のものであった。






「まあねぇ、頼れる時に頼らなくっちゃ、大人なんて居てもいなくても一緒よねぇ?」
 酷い事を言いながら、弾むようにステップを踏んでいるアスカ。
 廊下を無目的に進み、アスカは加持を探していた。
「まあ加持さんがどうにかしてくれるとも思えないんだけど…」
 アスカは誰かに聞いてもらいたくてしかたがなかったのだ。
「シンジと…」
 またキスしちゃったんだもんね!
 感触を思い出すように、何度も唇を軽く舐める。
「あら?」
 アスカは加持の代わりに、違う知り合いを見つけていた。
「おじ様?」
 誰かに迫られている。
 詰め寄っているのは、アスカと同い年か少し下の女の子だ。
 出演者なのかしら?
 見覚えはあるが、記憶していない。
 それがどうしておじ様と?
 切羽詰まった表情の女の子。
 だがゲンドウは冷たく見下ろしているだけだ。
 何を言っても聞く耳持たない様子で、不意にくいっとサングラスの位置を正した。
「君には失望した」
「プロデューサー!」
 叫んでくれたおかげで、ようやく何を言っているのか聞きとれた。
 プロデューサー?
 おじ様が?
 ゲンドウが一体なんの仕事をしているのか?、アスカもそれは詳しく知らない。
 まあ、テレビアニメ作ってたぐらいだし、そういうのもあるんでしょうけど…
 アスカはどうしようか迷った。
 ゲンドウが背を向けて歩き去ろうとしている。
 おじ様の方がなんとかしてくれそう…
 でもその間には、まだゲンドウに向かって叫んでいる少女が居る。
「はじめっから期待なんてしてなかったくせに!」
 そう叫ぶのが聞こえた。
 うわぁ…
 アスカは修羅場に口を開けなかった。
 女の子がうつむいた。
 その肩が震えだしている。
 泣いてるの?
 ポリポリと後頭部を掻く。
「もう、しょうがないわねぇ…」
 気分の良かったアスカは、放っておくなどできなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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