「じゃあ、わしらはこっちやし」
 ぺこっと頭を下げる薫。
「あの、ちゃんと和ちゃん送り届けてあげて下さいね?」
「わかったよ」
 苦笑するケンスケ。
「わしこんなことするために行ったんとちゃうでぇ」
 少しお仕置きが過ぎたのか、和子はトウジの背中で気持ちよさそうに気を失っていた。
「じゃあ!」
 元気に、機嫌よくカヲルと夜道を帰っていく。
 ケンスケとトウジは二人が見えなくなると同時に顔を引き締めた。
「…行ってもうたで?」
「もういいんだろ?」
 和子はゆっくりと薄目を開けた。
「はあ、薫ってば怒ると長いから…」
「悪いのはおのれやろが…」
「人のこと言えるんですかぁ?」
「もっと上手くきり抜けなきゃな?」
 和子はトウジの背中から降りた。
「んじゃ、わしは帰るさかいに」
「ああ、じゃあまた明日な?」
「明日も行くんかいな!?」
「明日は芦の湖だよ、じゃ」
「あ、待って下さいって!、それじゃあ!」
 和子は先に行くケンスケに追い付くと頭を下げた。
「ごめんなさい、知らなかったんです、あなたがあの相田さんだったなんて…」
 苦笑するケンスケ。
「悪い噂なんだろう?」
「とんでもない!、惣流さんとか碇さんに渚先輩、みんな先輩が有名にしたって話じゃないですか!」
 ますます苦笑いを深めてしまう。
「ただ友達だったってだけさ」
「それにしても、普通他の学校どころか、街中に名前が広まっちゃう何てことありませんよ、それもこれも先輩が写真集作ったりとか…」
「待った!」
 ケンスケは足を止めた。
「もしかして、俺って凄い奴だとか思ってる?」
「え?、違うんですか?」
「違うな、少なくともこの街には、俺より凄い人がもう一人居る」
「そんな人が!?」
 ケンスケの脳裏には、親友の彼女のお姉さんが映っていた。
「そうそう、それにさ、俺、気がついちゃったんだよな?」
「え?」
「君さ、渚のことが好きだろ?」
「ええー!?」
 びっくり仰天する和子。
「まさか、そんな…」
「ほら、またそうやって派手に驚いてごまかそうとする」
「いや、これは地なんですけど…」
「ホントに?」
「考え過ぎですよぉ、あ、あたしここなんで、じゃあ!」
 また逃げ出すように走り出した。
 ケンスケは無言でカメラのファインダーを覗く。
 その向こうにある和子の背中には、何かの想いがあるように見えた。


 ああ、おっどろいたぁ…
 和子は走りながら動悸を押さえようと試みていた。
 まあいいか、薫にバレてないんなら。
 少しずつ勢いを落とす。
「好きだけど…、人裏切ってまでするものじゃないし」
 恋なんて。
 パスケースを取り出し開く。
 その中に挟まれているのは、薫と撮った初めての写真だ。
「ただいまぁ!」
 和子は元気に、誰もいないアパートに帰っていった。






「あ、カヲル君、ジュース飲まない?」
「喉が渇いたのかい?」
「うん、あたし奢ったげる!」
 財布を勢いよく抜き出す薫。
 ポタ…
 その財布のすき間から、何か破局的な物が地面へと落ちた。






 やだなぁ、友達でしょうが。
 いつだったかな?、あたしがそう言ったのは…
 二間しかないアパートの自室で、和子は布団の上にひっくり返っていた。
 先程の写真をかざし、電灯に透かしている。
「苛々してたのよね、薫ってば他人行儀で」
 うん!
 泣きそうになるぐらい喜んじゃってさ…
 ごろんと横になる。
 ほんとは横恋慕、羨ましいだけ。
 純粋な薫の笑顔。
 それを一身に注がれているカヲル。
「はあ、ヤバヤバ!、あたしってばなに暗くなってんのかなぁ?」
 さっきの相田先輩のせいか…
 どうして気付かれたのか分からない。
「良く勘違いされてたからなぁ…」
 男子にも女子にも、わりと隔てることなく友達している和子である。
「男の子はみんな勘違いして付き合ってくれって言って来るし、友達はみんな裏切り者って…」
 返して!
 思い出した叫びに、胸がちくりと痛んだ。
 二年の時のこと、勝手に告白して来た先輩。
 泣いて訴えて来る同級生。
 思い出したくないなぁ、せっかく第二東京市から逃げて来たんだから。
「でも、薫だけは裏切らないからね?、絶対に」
 今は薫が一番だから!
 薫の写真にキスする和子。
「お休み!」
 和子は電気を消すと、着替えもしないでそのまま寝付いた。






 固まる空気。
 自販機が照らしている薄暗いアスファルトの上に落ちたのは、たった一つの「明るい家族計画」だった。
「あ、ご、ごめん!」
 慌てて拾い上げる薫。
 しかし耳まで真っ赤にしてしゃがみこんだままだ。
 隠すように胸元に手を組み合わせている。
「…それは?」
「なんでもないんです!」
「君が持って来たのかい?」
「ち、違います!、お父さんか誰かが…」
「なら恐れることは無いよ」
「え?」
 顔を上げる薫。
「ただのいたずら…、違うのかい?」
 薫はブンブンと首を振った。
「なら気にすることは無いさ」
 カヲルは微笑むと、自販機からコーラを二本買った。
「さあ」
「うん…」
 ジュースを受け取り、立ち上がる。
「帰ろうか?」
「あ…」
 薫はカヲルのシャツの裾をつかんで立ち止まらせた。
「なんだい?」
「…でも、お父さん、許してくれてるんだなぁって」
 つーーー…
 カヲルの額に、汗が浮かんだ。






「あれ?、父さん仕事は」
 家に帰ったケンスケは、いつもは見かけない姿に驚いた。
「あしたは大事な用があるから帰って来た」
「ふうん、デートだっけ」
「からかうな!」
「照れる歳でも無いだろう?」
 テーブルに差し向かいで座る。
「すまんな」
「気にしなくても、俺なら上手くやるって」
「お嬢さんな?、独りでこっちに来て暮らしてるらしいんだ」
「そうなんだ」
「ああ、それでできたらここで暮らしてもらおうかと思ってる」
「って、ええ!?」
 ケンスケはさすがに驚いた。
「すまん!」
 だんっと、テーブルに額を付ける。
「だって父さんほとんどここに居ないのに、それって居候とか同居じゃなくて同棲になっちゃうじゃないか!」
「いや、しかしお前の何と言ったかな?、そうそう碇君だ、彼だって…」
「シンジん家にはいつもお母さんが居るじゃないか!、せめてそういうのは、向こうの人と一緒になってからにしたらいいだろう?」
「そうもいかないんだ、今年は受験らしいし、それにな?」
「それに?」
「結婚したら、しばらくだけでも二人で暮らしたい」
「どうして?」
 ケンスケは必要以上に驚いた。
「お前、夜中どうしろってんだ?」
「…息子にそう言う話題ふらないでくれよな」
 呆れ返る。
「どうせその時には二人だけでやってかなきゃならないんだし、いいだろう?、な!?」
 なって…
 途方に暮れるケンスケ。
 こうして、それぞれの夜が過ぎていった。






 そして余談が一つある。
「ええー!、明日は映画見に行くって…」
「すまん!、ケンスケには逆らえへんのや!」
「すぅずぅはぁらぁ?」
「は、はいぃ!?」
「正直に話しなさい!、そんなに女の子の写真を撮りに行きたいの!?」
「ちゃ、ちゃう!、わしはただ…」
「うるさい、ばか!」
 ガシャンと叩きつけられる電話。
「まっずぅい…」
 受話器を手に固まっているトウジの背中を、ハルカがニヤニヤとバカにした。



続く








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