「まったく、薫が居ないと話になんないじゃない!」
「でもいいのかい?、荷物番をしていなくて?」
 苦笑しながら、和子の後をついていくカヲル。
「え〜?、渚先輩はぁ、あたしなんかより薫の方がいいんですかぁ?」
 カヲルの体に擦り寄っていく。
「そうだね、僕は彼女の方が心配だ」
 ちえっと和子は体を離した。
「…君は楽しそうだね?」
「え?」
「笑顔が多いからね?、気になったのさ」
 浜が途切れて岩場になる。
 その直前で立ち止まる二人。
「あははははって、何事も楽しむのが心情なだけですよん☆」
 び、びっくりしたぁ…
 和子は赤くなったのをごまかした。
 サンダルなので、注意しながら岩に登る。
「そうなのかい?」
「だって損するじゃないですか?、嫌な事も泣きたい事も、状況に酔っちゃえば楽しめますもん、それが一番、いつでも明るくできるから!」
 よっと、岩の上から飛び降りた。
「強いね?、君は…」
 きゃっとよろけた瞬間を抱き留める。
「ありがとうございます!」
 らっきぃ☆っとばかりに抱きつく和子。
「じゃあ、あそこで隠れて張ってますから、適当にあしらって下さいね?」
「わかったよ」
 カヲルは苦笑しながら請け負った。






「海はいいねぇ、黙っていても被写体が通りがかってくれる、海水浴場、まさに人類の生み出した最高の娯楽地だよ」
 なんだかんだと言っていても、結局やっていることは同じである。
「お、Aランク!って、あれは!?」
 女の子の二人連れが、誘われるように一人の少年に寄っていく。
「渚じゃないか、何でこんな所に…、んん!?」
 カヲルが適当な受け答えをしている間に、女の子が岩影から隠れてカメラを構えていた。
「そうか、そう言う事か、なんて邪道な!」
 でもうらやましぃ〜〜〜
 ケンスケははぁっとため息をつくと、「地道に行こう」っとその場を去った。


「まったくもう…、真正面から撮ると怒るしぃ」
 そしてカシャッとまた一枚。
「でも感謝してよね?、渚先輩とお話できるんだからラッキーでしょ?」
 レンズの向こうの女の子は、やたらと愛想を振りまいている。
「そうそうその表情が欲しかったのよねぇ…」
「かーずーちゃあん!」
 言わばに寝そべり、盗撮していた和子の上に、夜よりもなお暗い影が降り落ちた。
「こんの節操無しがぁ!」
「はうううん!」
 薫にカメラを取り上げられて、和子は泣きそうな声を出した。






「全く何考えてるの!」
 元のビーチパラソルの上に正座させられている和子。
「写真ぐらい撮ったっていいじゃない…」
「だったらカヲル君を餌にして隠れないで、ちゃんと真正面から撮りにいきなさいよ!」
「いじわるぅ」
 和子は瞳をうるませた。
「それにカヲル君も!」
「ごめんごめん」
 カヲルは誠意も薄く答えた。
「和子ちゃんの命令でやむなくね…」
「だからってこんなことに付き合うことはないんです!」
 高々とカメラを持ち上げる。
「ああ!、あたしのカメラ!?」
 思わず立ち上がりかける和子。
 かがんでその鼻先に鼻先をくっつける薫。
「ぼっしゅう☆」
「ふええん!」
「泣いてもダメ!」
「あう〜ん、渚先輩も何とか言ってくださいよぉ!」
「悪いね、僕にとっては等価値なんだ、君達はね?」
「「え?」」
「つまりどちらの言うことにも逆らいたくは無いのさ…」
 その時まで黙っていたトウジが口を挟んだ。
「なんや、二股かいな?」
「違うさ、最近学んだんだよ」
「なにをや?」
「女の恐さと言う奴をね?」
 何気に薫を見てしまう。
 真っ赤になりながらもごまかす薫。
「とぉにかく!、今日はもう撮影無し!」
「ええーー!?」
 和子は悲鳴に誓い声を上げた。
「せっかく海に来てるんだから遊ぶの!」
「さっきは寒いとか言ってたくせにぃ…」
 ギン!っときつく睨まれた。
「わわ、わかったって」
「よろしい」
 うん!っと気持ち良く微笑む薫。
 甘いな。
 ニヤリと和子はポケットカメラでその顔を収める。
 呆れているトウジ。
「ほんま、がめついのぉ…」
「そうそう、だってここら辺が稼ぎ時だし…、あら?」
 つい口を滑らせ、和子はまたしても墓穴を掘った。






「こっちで水着もいいけど、あっちの小川で戯れてるってのもくるものがあるよな…」
 やたらマニアックな事を言いながら、ケンスケは先程カヲル達の居た岩場の上に座り込んでいた。
 ペンを走らせている手帳には、びっしりと今日の下見の結果が書き込まれている。
「試し撮りもそれなりにしておいたけど、天気によりけりだよなぁ」
 今日は実際に撮った時の感じをつかむために、α7000を持ち出して来たらしい。
 Xデーには、そのフィルムに写っている女の子が、とある美少女三人組に変わる予定だ。
「後は夕日でも撮って…、そう言えばトウジの奴どうしたんだ?」
 カメラを構えるケンスケ。
 夕日、撮っておくか…
「るーるるるるる、るるるる、るーるるー」
「なんだぁ?」
 素っ頓狂な声を上げて、妙に軽快な第九は歓喜の出所を探る。
「海はいいよねぇ、被写体でいっぱいだぁよ」
「君は…、ああ、確か渚と一緒に居た…」
 和子だった。
「どうしてこんな所に?」
「うう、実はカメラ没収されちゃってぇ…」
 横目でケンスケのα7000を見やる。
 ゾクッと悪寒を走らせるケンスケ。
「こ、これはだめだからな!、現存してる数少ない本物の…」
 ちちぃ…
 和子はそうですかっと、作戦を変えた。
「…今時フィルムのカメラって珍しいですよね?」
「あ、まあ…」
「現像してくれる所も少ないし、自分でやっちゃってるんですか?」
「そりゃあね、それぐらいできないと…」
「いいなぁ、凄いなぁ、尊敬しちゃうなぁ」
「そ、そうかなぁ…」
「そうですよねぇ、それならカメラの腕にも納得いくなぁ」
「え?、俺の写真知ってるの?」
「知ってますよぉ、もちろん」
「そうかぁ、俺ってそんなに有名になってたのかぁ」
 そっかぁと鼻を天狗にする。
 知るわけないじゃんっと、和子は当然のように舌を出す。
「それでですねぇ、貸してくれなくてもいいから、あたしの代わりに撮ってもらえません?」
「誰を?」
「あそこの二人」
 和子が指差した先には、後片付けを終えて寄り添うように座っている二人が居る。
 ははぁん…
 ケンスケは和子の腹の内を読んだ。
「渚の写真はプレミアも付くもんな」
「そうそう、ここが稼ぎ時って、ぎっくぅ…」
 冷や汗をたらりと流す和子。
「ど、どうしてそれを!」
「わからないわけないだろ!」
「うう、みんながあたしをいじめるのぉ…」
「まあ、そりゃそうだろうね…」
 ケンスケでさえも呆れる惨めさである。
「一生涯たたってやるぅ!」
「あ!」
 ケンスケが声を掛けるよりも早く立ち去っていく。
「悪いことしちゃったかな?」
 ケンスケはポリポリと頭を掻いた。
「しょうがない、撮っといてやるかぁ!」
 そしてカヲル達の元へと歩いていった。






「…なるほどね?、それでなのかい」
「まあな、今日はそんなにフィルム持って来てないから、無駄に撮りたくは無かったんだけどさ」
 ケンスケがデジタルではなく、フィルムカメラを持ってきているのには理由があった。
「シャッターチャンスってのは一瞬だからさ、デジタルだと高速での連写も効かないし困るんだよ」
「そういうものなのかい?」
「これでいいですかぁ?」
 にこにことカヲルの腕に組み付く薫。
「自然にしてくれてていいよ、良いと思った所を勝手に撮るから、そのためのカメラなんだ」
「これで自然なんですぅ!」
 行きましょうっと、やたら不自然にカヲルを引っ張る。
「あ、なるべく逆光の中には立たないでくれよ?」
「そんなことを言っている内はまだまだね?」
「誰だ!?」
 ケンスケは荷物の置いてあるシートの方を見た。
「なんだ、さっきの子じゃないか」
「和ちゃん…って、ああ!、まぁたカメラなんて持って!」
「これは使い捨て!、さっきのとは違うわ!!」
「撮影禁止って言ったの!」
「言ってない!」
「言った!」
「まあまあ…」
 苦笑しながらケンスケは間に割ってはいった。
「いいじゃないか、後は二人でツーショットといくんだろう?」
「う…」
「それなら別に撮られたって…」
「ま、まあいいかも…」
 甘いわね。
 ニヤリとほくそ笑む和子。
 そんなの合成で消しちゃえば…
 さらには他の人を合成しちゃえば…
 カヲルくんとあなたのデート写真を!
「これは売れる!、売れるわぁ!、は!?」
 またしても冷たい視線が突き刺さる。
 ポンっと和子の肩を叩くケンスケ。
「世知辛い世の中だと思うよな?」
「あたしのおばかさん☆」
 こつんと自分の頭を叩いても、白けた空気の前には無力であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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