和子が住んでいるのは今時無いような二階建のアパートで、炊事場はあってもお風呂はない、トイレも洋式ではなく和式であった。
「レトロ、それともアナクロなのかい?」
 使い方も分からないカヲル。
「ジャイアントシェイクも乗り越えた年期もののアパートなのにぃ!、何てこと言うかなこの先輩は?」
「…シェイク前は山の中じゃない、和ちゃん嘘ばっかり付くんだから。
「てへぇ〜」
 自分のおつむをこつんと叩く。
「さて…っと、和ちゃん電話借りるね?」
「なんで?、どこに電話するの?、あ、男だな!?」
「家に決まってるでしょ!」
「すぅぐムキになるんだから…」
 部屋には床に敷かれた布団とクッションが一つしか無い。
「いいのかい?」
 布団の上に座らされるカヲル。
「クッションは薫が自前で持ち込んだんですよぉ」
「和ちゃん万年床だから」
「うっさい!」
 枕を投げるが、片手でバスッと取られてしまった。



Neon Genesis
Evangelion
GenesisQ'52
「カフカ」


「まったく…」
 受話器を手に背を向ける薫。
 和子は何気にカヲルの隣に座っていた。
 そしてはいっと、何かの缶を手渡してあげる。
 トルルルル、カチャ。
「あ、ごめんお母さん?」
 ぶっと飲んでいたものを和子は吹いた。
「ごほ、げほ、ごほ!」
「大丈夫かい?」
 その温かい背をカヲルは撫でる。
「げほ!、お母さんだって、いつもはママとか言ってるくせに…」
 じっと会話に聞き耳を立てる。
「うん、今日は帰らないから、え?、カヲル君のとこかって?、ち・が・う・わ・よ、和ちゃんのとこ!」
「そうやって嘘をつくんですよ?、女の子って」
「そうなのかい?」
 耳元で呟き合う。
「え?、気をつけなさいねってなんで?、もう!、和ちゃんはそういうのとは違うの!、被ってるけど…」
「ほほぉ」
「何を言っているんだろうね?」
 興味が湧く。
「そっち入ってるのはちょっとだけだってば!、うん、じゃあ…」
 かちゃっと切って戻って来た。
「あれ?、どうしたの?」
 雰囲気の悪さを感じ取る。
「で?、あたしのどこに何が入ってるって?」
 薫は一瞬固まった。
「い、いやぁん☆」
「可愛子ぶるなぁ!、あんたの本性は知ってるんだから!」
「カヲルくぅん!」
 泣き付く薫。
「なんだい?」
 カヲルが飲んでいたのはえびちゅだった。
「あー!、高校生がお酒飲んじゃいけないのにぃ!」
 それをひったくろうと体を伸ばす。
「アルコールは百薬の長だからね?、それに和子ちゃんには逆らえないさ」
「そうそう」
 カヲルにぴったりくっついて隠す。
「あーーー!、まぁたビール買い込んでるしィ!」
 二人の後ろには箱が丸ごと転がっていた。
 薫は回り込んでそれをかかげる、空だった。
「あれだけビールはやめなさいって言ったのに!」
「ごめん!」
 両手のひらを、パンッと合わせた。
「この間もお金が無くなったぁって、ミサト先生みたいにお金借りて回ってたじゃない!」
「そんなぁ、あたしの唯一の楽しみなのにぃ〜」
 そういうところまでそっくりだ。
「二人とも葛城先生のことを良く知っているんだね?」
「先輩も!、なに当たり前って顔して飲んでるんですか!」
 缶の頭を指でつかむように持っている。
「小さな頃から飲んでいたからね?、当たり前の事なのさ」
 カヲルはくいっと小さくあおった。
「そうそう、だからあたしもね?」
 そろそろと転がっている缶に手を伸ばす。
 ギロッと睨まれてしまう和子。
「嘘付くんじゃないの!、日本は20になるまで飲んじゃいけないの!」
「それはこの国の法律だね?」
「え?」
 薫は予想外の言葉を聞いた。
「僕は日本の生まれじゃないからね?」
「え?、あ、そうなんだ、先輩って実はげーじん?」
 ちょっと尊敬の眼差しを向ける。
 その手もとでプシュッと鳴る缶。
「じゃあやっぱ、先輩も一人だけで飲んでちゃつまんないだろうって感じがするんで」
「嘘言うなー!」
「絶対そうだって?、そうですよね!」
「そうだね?」
「ほら!」
 勝ち誇ったが無駄だった。
「和ちゃんだからダメなの!」
「なんでよぉ〜」
「この間お腹に髭三本描いて踊ってたの覚えてないでしょ!」
 ギクッとする。
「そ、そんなことするわけ…」
「ふふふ、ここにその証拠ディスクが…」
 カヲルの股の間、布団の下に手を差し込む。
「あーーー!、人の部屋になに隠してるのよ!」
「気がつかなかったのかい?」
「いや、どうせまたゴミでも入り込んでるのかと…」
 さすがにバツが悪い。
「こんなこともあろうかと、やめさせるためにここに隠しておいたのよ☆、カヲル先輩、お酒のつまみにいかがですか?」
「やめー!」
 飛び掛かる。
「いいのかい、ビールを飲みながらでも?」
 笑いが漏れる。
「もうかなり空けちゃってるみたいだから良いです、あたしは…、まだアルコールはダメですけど」
 薫はちょっと寂しそう。
 しかしそのわざとらしさにピンと来た。
「薫!、自分が飲めないからって」
「にやり」
「口でゆーなー!」
「カヲル先輩、和子を押さえて!」
「わかったよ」
 和子のお腹に腕を回す。
「これで良いのかい?」
「う、ちょっとむかつく…」
 ぴったりと密着した体勢に嫉妬心がわいてしまう。
「へへんだ!、先輩の腕が胸に当たってるのぉ〜いいだろう」
 和子はその腕を持ち上げて、自分の胸を揺らして見せた。
 むっかぁっと髪を逆立たせる薫。
 勢いのままにデッキにディスクを差し込んだ。
「もうやめてあげない!、和ちゃんの裸踊りをどーぞー!」
「あーもー飲まなきゃやってられないってかんずぃ?」
 カヲルの缶を取り上げる。
「結局飲むのかい?、嬉しいよ、一人だと味気ないからね?」
「カヲル君のいけず…」
 薫はいじけてしまいそうだった。






「シンジ様ぁ〜〜〜」
 その頃碇家では、ベランダの柵にミズホが噛り付いていた。
「ああもううっとうしいわねぇ」
 読んでいた雑誌から顔を上げるアスカ。
「ぐしゅぐしゅぐしゅ」
 ミズホはお月様を見上げている。
「まったく、いないもんはしょうがないでしょうが!」
 そのポニーテールにつまんでいたピーナッツをピンと弾いた。
「そうそう、物事は前向きに考えなくちゃ、必殺ポジティブシンキングって」
 明るい二人にどんよりと振り返る。
「お二人は心配じゃないんですかぁ?」
「マユミとどうにかなるって言うの?」
 肩をすくめるアスカ、レイは情報を二人にも教えていた。
「ふうん、ミズホはシンちゃんのこと、信じてないんだ…」
レイもからかうように目尻を笑いに歪ませる。
「シンジ様の事は信じてますぅ!、でもマユミさんがシンジ様のお優しさに触れて…、あああああ!、シンジ様が獣のようにむさぼられて!?」
 いやんいやんをするミズホ。
「…普通逆じゃないのかなぁ?」
「ミズホって時々おかしな妄想するわね?」
 二人で顔を見合わせる。
「ああうーーーん!」
 ミズホは急に吠え出した。
「月に向かって吠えるんじゃないの!」
「届いてくださいぃ、わたしの気持ちぃ!」
 どこまでも近所迷惑なミズホである。
「まったく、届くわけないでしょうが…」
「え?、でも届くかも」
「はぁ?」
 レイはぽんっと手を叩いている。
「やぁ〜、シンちゃん時々あたし達の「力」使ってるし、まだそんなに月も欠けてないから「声」が届かないかなぁって」
「あんたばかぁ?、そんな便利なもんが使えたら逐一報告させてるわよ」
「そっかなぁ?」
 首を捻る。
「少なくとも赤点は取らせないわね?」
 アスカはクスッと呟いた。
「カンニング?、そっか、その手があったんだ…」
「あんたがしたってしかたがないけどね?」
「そうじゃなくって!っ、シンちゃんを普通科に連れ込めたんだなぁって…」
「そううまくはいかないわよ」
 でもちょっと心惹かれる。
「あ、今考えてたでしょ?」
「考えてないわよ!?」
「ほんとぉ?、シンちゃんが困ってる時にはいつも助けてあげちゃうとかぁ、考えなかったぁ?」
 それもいいわね?
 だんだんちょっと毒されていく。
「あ、シャンプーが無いや、シンちゃんがどうしようか迷って言うの、レイ〜、シャンプー持って来てよぉ」
「それでシンジが背中流してくれとか言うわけね?」
 うんうんと頷くレイ。
「…睡眠暗示と言う手もあるかな?」
「はぁ?」
「寝てる間にシンちゃんはあたしのことが好きって」
「…そんなの耳元で呟いてなさいよ」
「シンちゃん、ほんとにどうして行っちゃったんだろ…」
「寂しいわね?」
「うん…、やっぱりあたし頑張ってみよう!」
「はあ?」
 立ち上がるレイを怪訝そうに見る。
「はう〜〜〜ん、シンジ様ぁ!」
「届け、あたしのこの想いーーー!」
 まだ騒いでいるミズホの隣で、レイも手でメガホンを作った。
「…結局バカが増えるわけね?」
 アスカはため息をついて雑誌に戻る。
 でも届くといいわね…
 アスカも少しだけ、「シンジ…」と小さく想いを込めて呟いた。


 シンジ…
「ふえっくしょい!」
 急にくしゃみをし、両腕に抱えていたたきぎを落とす。
「どうかしたんですか?」
「え?、あ、うん、ごめん」
 急いで薪を拾い上げるシンジ。
 それを両腕に抱えて月を見上げた。
「ほんとにここ、無人島なのかなぁ?」
 木々の生い茂る中、少し目を凝らせば浜辺が見える。
 反対側は完全な闇の中だ。
 時折奇怪な声が聞こえて来る。
 雑草の生い茂る場所に空き地があった。
 横倒しになっている木の上に、マユミが背筋を伸ばして座っている。
 黒のスクール水着に、シンジの白シャツを肩に掛けて。
「早くしてくださいね?、火が消えたら凍えちゃうんですから」
「あ、うん…」
 無人島にいて、お風呂にも入っていないと言うのに、マユミの黒髪は全く艶を失わない。
「まあ気のせいだよな、きっと…」
 シンジはマユミの向こうにコンビニの袋を見つけても、そう思い込もうと努力していた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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