NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':57 


 真夜中に、シンジを見下ろす影があった。
 ゲンドウだ。
「う〜ん」
 気配を察しているのか、シンジは酷くうなされている。
「休みだからと言ってだらけおって」
 やたらとうっとうしげに見下している。
「しかしそれももう終わりだな」
 ニヤリと笑い、その上に何かをそっと乗せる。
「ふにゃ?」
「静かにするのだ」
「ふにー!、ふぎー!」
 今にも首を捻られそうな勢いで悲鳴を上げる物体。
「ん…、誰?」
「寝ていろ」
 フシュ!っと謎のガスを吹き掛ける。
「ふむ、これで問題無い」
 僕は見ていましたよ?
 カヲルは布団の中で、ニヤッと皮肉な笑みを浮かべていた。


第五拾七話『教科書にないッ!


「シンちゃん、はい、お茶」
「うん…」
 シンジはもぞっと動いた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっとね?」
「ふうん…」
 レイの部屋だ、いつの間にやら折り畳み式のパイプベッドが入れられている。
 今は半分に曲げられ、隅に追いやられていた。
 部屋の真ん中には、まぁるいちゃぶ台。
「どこまで進んだの?」
「数学はもう終わるよ?」
 今日は二人で宿題を片付けている。
「シンジ、電話よ?」
「ん、誰から?」
「マナちゃんよ?」
 その一言に「ガタガタガタ!」っと騒がしい音が立ったが、いつものことなので気にしない。
 シンジは子供部屋の方に置いてある子機を取った。
「はぁい、マナ?」
「シンちゃん…、助けて…」
 やたらと苦しそうな声が聞こえた、息も荒い。
「ど、どうしたのさ、マナ!?」
「じつはカクカクしかじかと言うわけで…」
「カクカクしかじかじゃわかんないよ!」
「うう…、カクカクしかじかって言ったら、ああそうなのって納得して、お願い…」
「バカな事言ってないで、なんなんだよ?、大丈夫なの!?」
「ちょっと、ダメかも…」
「とか言っている間に、早く説明すればいいじゃない…」
 電話の向こうで、マユミのひどく冷めた台詞が聞こえた。


 マナはぼうっと外を眺めていた。
 青い空に白い雲。
 口に咥えていたアイスバーをキュポンと外す。
「平和ねぇ…」
 なのにマユミは黙々とノートに向かってキーを叩いている。
 もうすぐ騒ぎ出しそうな気がする。
 なんとなくそんな予感を、マユミはたくさんはらんでいた。
「ねえ?、マユミ…」
「ん?」
 ほら来たっと生返事。
「なにしてるの?」
「宿題」
「宿題?」
「そうよ?」
 顔を上げて、眼鏡を外す。
「まっじめぇ!」
「するのが当たり前でしょ?」
 相当なくらいの呆れ顔。
「何言ってるのよ?、そんなの夏休みの終わりにババッとやっちゃうのが常識じゃない!」
 はぁ?っと言うマユミに力強く力説する。
「電卓片手に数字を埋めて、後書き読んで感想文書いて、後何時間ってカウントダウン!、あの緊張感がたまらなくってもう!」
 自分を抱きしめて、ぞくぞくぞくっと浸っている。
「変態?」
「違う!」
「いいけどね、マナの勝手なんだし」
「あ、冷たい!」
 両の拳を口元に当てて、うるうると瞳を潤ませる。
「そんなことしてもダメ、遊びません」
「どうしてぇ?」
「今しないとなんにもならないから」
 再びノートに向かうマユミ。
「後でもどうにかなるじゃない、ねえ?、あそぼ?」
 はあ…っと、マユミは呆れ返った。
「これを見て?」
 くるっとノートの向きを変える。
「え、なあに?」
 そこに映し出されているのはカレンダーだ。
 今日の日付は…
「え?」
「え、じゃないでしょう?、夏休みももうお終い!」
「うそ!?」
 がたんとノートを凝視する。
「そんな!、この間休みに入ったばっかりじゃない!」
 ショックがマナを突き抜ける。
「冗談よね?、冗談でしょ!?、まだシンちゃんとエッチな事もしてないのに、あたしの夏って終わっちゃうの!?」
 どういう頭をしてるのかしら?
 つい目頭をマッサージしてしまう。
「月日の感覚、ないの?」
「どうしよう!、そうだ宿題!、宿題よ!、マユミちゃん!」
「だめ」
「ええ!?、なんで!、どうしてよぉ!!」
 悲痛な叫びは近所に轟く。
「クラスが違うんだから、見たって意味無いでしょ?」
「そんなぁ!?」
 うわわわわっと頭を抱える。
「マユミだけが心の支えだったのにぃ!」
「そんな支えはちょっと嫌なんだけど…」
 困るマユミ。
「浩一さんは?」
「うう…、砂漠が僕を呼んでるんだとか、わけわかんない事言って失踪中…」
「諦めればいいじゃない…」
「そうだ!」
 いきなり勢いを取り戻して立ち上がる。
「シンちゃんが居た!」
「…そうね?」
「シンちゃんからディスクを借りて…、そうだわ、返す時に「シンちゃんラブ☆」とか、「今度身体で返してあげる☆」とか、「愛してる☆」なんて書き加えちゃって、もうやだあ、きゃー!」
 いやんいやんを始めるマナを、マユミは冷たい視線で見守る。
「じゃ、さっそくっと、電話貸してねぇ?」
 マナはきゅぼっと、アイスバーをマユミの口に突っ込んだ。


「それで僕を呼び出したってわけ?」
「ごめん!」
 パンッと両手を合わせるマナ。
「…ふう、まあ、いいけどね?」
 シンジ宅の近くの喫茶店だ。
 シンジの前にはカレーライス、マナの奢り。
「でもシンちゃん…、ご飯食べてなかったの?」
「…おかわりが足りなくて」
 子供が5人もいれば、食卓は戦場と同じである。
 シンジは夕飯についても「残しといてね!」っと、特にレイに釘を差してから出て来ていた。
 まあ、無駄なんだろうけど…
 そう思うから、ここで軽食をぱくついているのだ。
「なに笑ってるのさ?」
「やっぱり男の子かなって思って」
「へ?」
「食べる量違うもんね?」
「そっかな?」
「そうよ…」
 シンジはパクッと一口はみながら考えた。
 …でもみんなよりは少ないよな?
 ふと外の様子を眺める。
 ぴょこん…
 一瞬目の前を、黒い何かが跳ねるように動いた。
 尻尾?
 そう、尻尾だった。
「あんたバカァ?、なにやってんのよ!?」
 跳ねたのはミズホのポニーテールだった。
「ふええん、ごめんなさいですぅ!」
 尻尾を押さえてうずくまる。
 びたっと壁に張り付き、あるいは植え木の下に寝転がっている二人。
「バカシンジもなによ!、のこのこと出て来ちゃって…」
「君に必要なのは節度と謹みじゃないのかい?」
「なんですって!?」
 見上げる、店の看板の上にはカヲルが腰かけていた。
「君の胃袋はまるで四次元ポケットのようだね?、幾らでも入るのに体形は変わらない」
「なによ!、シンジの分まで食べちゃったのはこいつらじゃない!って、レイは?」
「酷いですぅ!」
 ポカポカと訴えるミズホは捨て置く。
「…中だよ」
「中ぁ!?」
 バッとシンジに見つからないように覗き見る。
「あんなところに!?」
 奥まった所でパバナナサンデーをつついていた。






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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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