NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':60 


「ミズホちゃん…、何だ寝てるのか?」
 かくんと頭を後ろに倒し、大口からは涎がだらだらと滴れている。
「シンジ君には見せない方がいいな…」
 ガタン、ガタタンっと電車が揺れるのに合わせて、その首もわずかに振れていた。
 と!
「うけけけけけ!」
 突然びくりと反応し、奇声のような寝言を吐きだす。
「人選…、誤ったかな?」
 ちょっぴり後悔している加持であった。


GenesisQ' 第60話
『ジャングルはいつもハレのちグゥ』


「しっかし、生徒会で温泉旅行の金を出すって、すっごい学校だよなぁ…」
 なんのために追いかけられ、何のために逃げていたのかわからない。
 レイ達に後押しされて参加したはずなのに、追いかけて来たのはアスカ達だった。
「ここまで来れば…」
 階段を下り切った所で息をつく。
 びよ〜ん・どすん!、びよ〜ん・どすん!
 そんな響きが聞こえてきた。
「なんだろ?」
 上の踊り場を覗き込む。
「シンジさまぁ!」
 ドスン!
「お〜も〜い〜!」
 跳んで来たのは、うさミズホだった。


「それからずっとああなのね?」
 自宅。
 シンジの上で、「もふぅ〜☆」っと幸せそうなミズホが居る。
「怒らないのかね?」
「はい、今日の所は許してあげます」
「ほお?」
 いつもと違うアスカの態度に、ゲンドウは奇妙な違和感を感じた。
「ねぇねぇシンちゃん、こぉれ!、混浴風呂があるんだって、一緒に入ろうねぇ?」
 シンジにパンフを突き付けるレイ。
「ちょっと…、誰があんたと一緒に行くのよ?」
「シンちゃん☆」
「だあっ!、んなわけないでしょうが!?、あんたなんてカヲルと一緒で十分よ!」
 なるほどな…
 ゲンドウは大体の状況を分析した。
「それで…、君達も一緒なのかね?」
 落ちついた表情のカヲル。
「はい…、僕はシンジ君と行ければそれでよかったんですが、あいにくとシンジ君も旅行券を勝ち得てしまいましたからね?」
 ふむ…、っと肘をつき、手を組み合わせる。
「万が一、間違いがあってはいけませんから…、僕とシンジ君が相部屋で…」
「「却下!」」
「どうしてだい?」
「わたしも行くからですぅ!」
「「不許可!」」
 ふええ〜んっとミズホは泣き出した。
「どうしてですかぁ!?」
「「ミズホは参加しなかったでしょ!」」
「シンジ様をお守りしてましたのにぃ」
「「それが抜け駆けだっつーの!」」
 二人の牙は、そのままカヲルへ矛先を変えた。
「それにあんたも!、あんたが権利持ってんだから、シンジと一緒になってどうすんのよ!」
「後で部屋を代わればいいさ…、誰も気にはしないよ?」
「する!、あたしがする!」
「それで…、権利を持ったのはどれぐらい居るのかね?」
「…10組みぐらいだったかな?、卓球部の人達が異様に盛り上がってたんだけど、なんだったんだろ?」
 ミズホが泣き出してくれたおかげで自由になった。
「で、お前は誰と行くつもりだ?」
「行かないよ、僕は…」
「「「ええ〜〜〜!?」」」
 泣きそうな感じのアスカとレイ、ミズホは嬉しそうな所を二人に叩かれた。
「痛いですぅ!」
「なんで行かないのよ!」
「だって…、カヲル君も言ってたじゃないか…、間違いがあったらどうするんだって…」
 へら…
 アスカの刺し殺しそうな視線の鋭さに、ついそんな笑いを浮かべてしまう。
「…そうか、知らなかったぞ、お前にそんな常識があったとはな?」
「やだなぁ、父さんよりはしっかりしているつもりなんだけど…」
 お互い歪んだ笑いのままで対峙し合う。
「シンジ…、お前はわかっているのか?」
「なにをだよ?」
「そうやって曖昧にする事で、彼女等の一番輝かしい時を無為に消費させているのだぞ?」
 ふられれば次の恋にも行けるだろう。
「だが希望が彼女達を縛り付け、足踏みさせている」
「だからって…、普通極一般的に子供達だけで温泉旅行に送り出す親なんて居ないよ」
「そうか?」
「そうだよ」
「ここにいるが?」
「父さん!」
「冗談だ…、わたしはレイやアスカ君を信じているからな?」
 僕のことは信用してないんだね?
 ついさめざめと泣いてしまった。


 そんなわけで冒頭のちょっと前のホームに戻る。
「なんでミズホがここにいるのよ!」
「加持さんのお供ですぅ!」
「え?、加持さん!?」
 ミズホは加持の腕に抱きついた。
「よお、みんな集まってるみたいだな?」
 遅れてやって来る男、加持リョウジ。
「え〜〜〜!?、なんでぇ?、どうして加持さんがいるんですかぁ!?」
 アスカの嫌そうな顔に苦笑する。
「一応間違いがあっちゃ申しわけが立たないからな?、引率さ」
「間違いって…」
 呆れるレイ。
「それ自体が目的のような…」
「ま、本音と建前って奴…、それで、シンジ君は?」
「ミズホ…」
 後ろに居た。
「あ、シンジ様ですぅ!」
 ミズホは誰に抱きついているのかを忘れていた。
「ミズホも来たんだ…」
「はい!」
「そ、そう…、よかったね?」
 なんだかシンジの様子がよそよそしい。
「どうかなさったんですか?、シンジ様ぁ…」
「あ、うん…」
 ちらちらと様子を見るように盗み見ている。
「ちょ、ちょっとね?」
「ふえ?」
「知らなかったから…、ミズホ、加持さんが好きだったんだ」
 !?
 ミズホは真横の顔を驚き見上げた。
「ち、違いますぅ!、好きなのはシンジ様だけですぅ!、おじさんなんて相手にしませんー!」
「おいおい酷いな…」
 苦笑い。
「俺はこう見えても校長なんだぞ?」
「うあうあ!、違いますぅ、そう言う意味では無くて…」
「じゃあやっぱり、そうなんだ…」
「だから誤解なんですぅ!」
 あっちを正せばこっちが狂う。
 お目々がぐるぐる回り出す。
 そんなミズホがぶっ倒れるまでに、そう長い時間はかからなかった。


「で、誰がどの部屋に泊まるのか決まってるのかい?」
 加持は目の前に座るカヲルに尋ねた。
「いいえまだですけど…、この様子だとまたのけ者にされてしまいそうですね?」
 くすくすとカヲルはシンジ達を笑っている。
「それじゃあ…、いくからね?」
「Gehen!」
 アスカとレイが同時に駅弁をかき込んでいく。
 じっとそれを見ているシンジ。
 バシ!
 箸が空箱に置かれた、それも同時に。
「「どっち!?」」
「えっと…」
 アスカの何かを確信した瞳と、レイの半分夢うつつに跳んだ目がかなり恐い。
「ど、同時、かな?」
「「ちっ!」」
 二人はそれ以上言葉も無しに、次の弁当箱を膝に置いた。
「…君はそれで良いのか?」
 カヲルは加持の言葉に視線を戻した。
 加持の肩は隣のミズホの涎によって、かなり酷い事になっている。
「楽しみましょう?、それが僕たちの目的ですから」
 カヲルは足を組んで余裕を見せた。


「着いたぁ〜〜〜!」
 ドスッとバッグを落とすアスカ。
「…ねえ?、一泊二日で、なんでそんなに多いのさ?」
「うっさいわねぇ、色々あるのよ!」
 色々かぁ…
「ちょっとシンちゃんに変な妄想埋め込まないで!」
「変な事考えてんのはあんたでしょうが!」
 う〜〜〜っと威嚇し合う二人。
「ははは、大変だな、シンジ君」
「笑い事じゃないですよ…」
「それで、結局部屋割りは決まったのか?」
「まだです…」
「シンジ君は誰と一緒の部屋がいいんだ?」
 ピタ…
 お互いの髪をつかみ合ったまま動きがとまる。
「僕は…、そうですね?」
「俺はダメだぞ?」
「そんなぁ…」
「びえええーーーん!」
 シンジの台詞に、いきなりミズホが泣き出した。
「ちょ、ちょっとなによ!?」
「シンジ様は、シンジ様は『男のかた』の方がおよろしいんですかぁ!?」
「え!?、そうなの?」
 ちょっとわくわくし出すレイ。
「それは嬉しいね?」
「ばっか、んなわけないでしょうが!、シンジも何とか言いなさいよ」
「あ、うん…、その、あのね?」
「言い淀んでますぅ、ぶえええええ〜〜〜ん!」
 処置無しね?
 アスカはレイにタッチした。
「ほらミズホ、泣きやまないとシンちゃん困っちゃうぞぉ?」
「うっく、ぐしゅ、でもシンジ様…」
「シンちゃんはぁ、あたし達がこうだからケンカになっちゃうし、だから加持さんの方がいいなぁって言ってくれてるの」
 わかってるんならさぁ…
 また涙する。
「ケンカになるからですかぁ?」
「楽しかったら一緒に居てくれるから、ね?」
「はいぃ…」
 ぐしゅぐしゅと鼻をすする。
「ね?、シンちゃんもそうよね?」
 レイのウィンクに「うん…」と冴えない返事をする。
「ほら!、シンちゃんもお部屋一緒でいいって」
「え?、そ、それは…」
 ミズホの半泣きの目に言葉を失う。
「はい、その通りです…」
「さ、シンちゃんも納得してくれたから、さっさとお部屋を決めないとね?」
「はいですぅ!」
 ようやくミズホに笑顔が戻った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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