NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':60 


 勝った…
 部屋から見渡せる景色はなかなかのものだった。
「あ、芦の湖が見える」
 白々しいシンジのセリフ。
 勝利感に酔っているのはレイだけだった。
 結局じゃんけんだもんなぁ…
 原始的な手段こそが手っ取り早さを保証してくれるのだろう。
 シンジはレイを放ってテーブルに着いた。
 お茶、これかな?
 一応二人分いれる。
 お茶菓子少ないよなぁ…
 おかきの詰め合わせだ。
 …まだあっちの世界にいるのかな?
 一向に帰って来ないで、レイはずっと感涙を流し続けている。
「お風呂入って来よう…」
「え!?、も、もうお風呂に入っちゃうの!?」
 突然帰って来たレイだった。


「もう!、なんでこんなに部屋があるのよ!」
 旅館なのだから仕方がない。
「どうして場所を聞いておかなかったんだい?」
「菊の間とかなんとか言われたって、わかんないわよ!」
 むきーっと地団駄を踏みまくる。
「なんで番号で書いてないのよ!」
 前後に延々と続く廊下。
 消防法を守るぎりぎり一歩手前で、なんとか迷路化を踏んでいなかった。
「その方が雰囲気が出るからだそうだよ?」
「…あんた詳しいわね?」
「聞いたからね?」
「誰によ?」
 無言。
「くっ、ばかにして…」
 ぎりぎりと歯ぎしりをする。
「大体なんであんたと同室なわけ?」
「随分な言い草だね?」
「当ったり前じゃない!、あたしだってあんたよりは加持さんの方が良かったわよ…」
 つまりはドベを引いたわけだ。
「あんたミズホの扱いがうまいんだから…」
「それだと僕がシンジ君を守ってあげられなくなるからね?」
「…なによそれ?」
 さすがに、レイの居所を感じられるとは言い辛いね?
 はっきりとはしないが、方向ぐらいは確定できる。
「ま、いいさ…、それでどうするんだい?」
「なにがよ?」
「シンジ君は見つからない…、まさか僕と温泉を楽しむつもりはないんだろ?」
 なにを当たり前…、と言いかけてはたと止まった。
「温泉…、それよ!」
「そうなのかい?」
「お風呂で待ち伏せ、これしかないじゃない!」
 お酒の持ち込みは良かったかな?
 カヲルの意識は移っていた。


 ふふふ、これで変装は完璧ですぅ…
 髪を結い上げタオルでくるむ。
 口元までお湯の中に沈んでいた。
 お風呂場。
「へえ…、結構大きいじゃない?」
 混浴の岩風呂だ。
「でも、お風呂に水着は邪道と言うものだよ?」
「なに言ってんのよ!」
 赤い水着で振り返り、アスカは嫌そうに顔をしかめた。
「あんたねぇ…」
「なんだい?」
 くいっと腰を突き出すカヲル。
 タオルの中央が変な盛り上がりを見せている。
「悪いとは思うよ?、でもタオルが小さ過ぎてね…、シンジ君への愛がどうにも隠し切れないんだよ」
「この変態が…」
 頭が痛い。
「さあてシンジはっと…」
 シンジはこちらには居なかった。


「へえ、なんだかがら空きだ…」
 第一印象はそんなもの。
「銭湯よりは大きいよなぁ…」
 かなり失礼な事を言う。
 大理石、湯船の向こうはガラス張りになっていて、芦の湖の様子が一望できた。
「シンジ君じゃないか!」
「加持さん!?」
 かけ湯をしてシンジも浸かる。
「加持さんもこっちですか?」
「ああ、向こうに俺が居ると、警戒心も沸くだろうからな?」
 混浴風呂があれば、当然そちらへ流れるだろう。
「加持さん…、監視するために来たんじゃないんですか?」
 シンジはいかがわしそうな目を向けた。
「おおらかなんだよ、うちの校風は」
 まだできたばっかりなのに。
 加持のにやけに呆れ返る。
「いいんですか?、不祥事で問題になるかもしれませんよ?」
「その一番確率の高そうな子はここに居るからな」
 シンジはふてくされて、すい〜っと泳いだ。


 一方レイは女風呂でのんびり…、できないでいた。
「ふう…、意外と人が多いんだ?」
 いそいそと身体を磨いている子が幾人か居る。
 明らかに…、その…、だ。
「あのぉ…、綾波さん、やっぱり碇君と?」
「え、ええ…」
 自分は知らなくても、相手はこちらを知っている。
 うう、やりづらい…
 これからのことを考えたいのだが、どうにもその時間を貰えない。
「綾波さんって、肌が透けてるみたいですね?」
「…うん、よく言われる」
「え!?、それって誰にですか!」
 二人ほどさらに寄って来る。
「誰って…」
「ばか!、他に誰が居るのよ」
「ですよねぇ?」
 テヘッと言う冗談に苦笑する。
 ほんとに言ってくれたら嬉しいんだけど…
 困ってしまう。
「やっぱり碇君って、〜〜〜で、〜〜〜なんですか?」
「え?、あ、うん…」
「「「きゃーーーっ、すっごぉいっ!」」」
 今なんて言ったのかなぁ?
 気にしたいが、気になるのは別のことである。
「ねえ…、みんなはそのぉ、二人っきりになったらどうするの?」
 えええーー!?
 今度は意外そうな声が上がった。
「そんなの…、言えませんよぉ」
 ってのが一人。
「ん〜〜〜、取り敢えず本を読んだりとかぁ…」
「あ、それある、ずっと二人で漫画読んでたり、何してるのかなぁって…」
「あるよねぇ?、ねぇ!?」
 ちょっと蚊帳の外になってしまうレイ。
「綾波さんはなにをしてるんですか?」
 え!?っとちょっと焦ってしまった。
「やっぱり…、言えないこととか?」
「そうじゃなくって…、滅多に二人っきりの時ってないし、あっても時間少ないから…」
「そうなんですかぁ?」
「碇くんって、ひっどぉい!」
 レイは乗り出すようにお湯に沈んだ。
「それって、やっぱり酷いのかなぁ?」
「そうですよぉ!」
「もうしちゃってるんでしょ?」
「へ?」
「さっき言ってたじゃないですかぁ!」
 あ、あれ?
 記憶に薄い。
「えっと…」
「そこまでしちゃってて、時間作らないってさいってぇー!」
「でもでも、みんなの前で隠れて手なんて繋いじゃったりして…」
「抱きしめられるのって、ホントに気持ち良いんですかぁ?」
 みんな耳年増なのが、その一言でバレてしまう。
「うん…、でも抱きしめるのも気持ちいいけど」
「「「へ?」」」
「シンちゃんって、よく落ち込むから…」
「そう…、なんですか」
「へぇ…」
「抱きしめる…」
 ポワンとした目が、レイの胸元に注がれる。
 ここに…
 碇君が…
 それもいいかも!
 なんとなくフワフワと密集状態から離れていく。
 シンちゃんとかぁ…
 誤解を解かなくてはと思うのだが考え直す。
 ま、いっか☆
 見栄ぐらい張ってもいいよね?
 考えを切り換えるために、レイはパシャッと顔を洗った。


「あの二人、いつ来るのよ…」
 アスカはすっかり湯立っていた。
 それはこちらの台詞ですぅ…
 ブクブクと泡を立て、必死に背中を向けている。
 監視の目は薄い方が動きやすい。
 ここはもっと我慢ですぅ…
 いそいそともうこれ以上は無いというぐらい隅に寄る。
「そろそろ諦めたほうがいいんじゃないのかい?」
 カヲルは頭に冷やしタオルを乗っけたまま、からかうように微笑んだ。


 大きな浴槽は幾つも種類ごとに分かれている。
「ふう…」
 のぼせて来たのか?、幾分辛い感じがする。
「どうしよう」
 レイは迷っていた。
 シンちゃん…
 牛乳風呂で下は見えない。
 わずかに胸の双丘、その盛り上がりが顔を覗かせているのみだ。
「今更迷うことはないよね?」
 でも邪魔者はいる。
 アスカにカヲル。
 二人に部屋の場所は教えてない。
 だからまだ会ってはいない。
 …シンちゃんも、我慢できなくなることってあるのかな?
 そっと唇に指を当て、すっと横になぞってみる。
 少し甘い味がする。
 首筋から流れた滴が、鎖骨に溜まって、溢れて滑る。
 汗ではない、湯気の粒だ。
「あたしがOKでも、シンちゃんは?」
 あるいはアスカ達を盾に拒むかもしれない。
「わかんないよね?」
 この間は、苦し紛れでも好きだと叫んだ。
「あれって…、効果があるって知ってるからだよね?」
 ならシンジにはどうなのだろう?
「言ってみようっかな…」
 でも嫌われちゃったら、どうしよう?
 断られちゃったらどうしよう?
 いつもの冗談ではすまなくなる。
 でも今の状況も、冗談のままでは乗り切れない。
 酷いって言ってた…
 さっきの会話が蘇る。
 待たされた時間が思い出される。
 あれ?
 そんなに待った覚えが無いのは何故だろう?
「ま、いっか!」
 ザァッと音を立てて立ち上がる。
 シンちゃんに決めてもらおうっと☆
 やや盛り上がりに欠けたお尻を、白いお湯が流れ落ちた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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