NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':62 


「あんたなんて嘘をつくのよ!」
「てへ☆」
「てへ☆、じゃなーい!」
 シンジのクラスに怒声が響く。
「あ、じゃあほんとにしちゃうかとか…」
「そんなのだめですぅ!」
 シンジを振り回すように頭を抱く。
「く、首が…」
 抜けてしまいそうでもがくシンジ。
「ふ、不祥事だ…」
 一方校長室ではうなだれている教頭と…
「ま、おおらかな校風が売り物だからな?」
 達観している加持が居た。


第62話『ひなたぼっこ』


綾波すわん!
「わぁ!」
 ううっと耐えるように堪えた後、じわっと鰯水の目に涙が溜まった。
「うわあああああああん!」
「おっはよぉ、きゃあ!」
 ぶつかりそうになった鰯水に、鞄の角がクリーンヒット。
「なに?、どしたの?」
 角に血の付いた鞄を抱きしめ、マナは驚きに立ち尽くした。
「い、鰯水君…」
 今までの踏まれる張り飛ばされるとは違い、今度こそ死んだかもしれない状況。
 鼻っ柱が三角形にへこんでいる。
「バカのことなんて気にしなくていいわよ!」
 今はそれどころでは絶対にない。
「それってシンちゃんのこと?」
「何でシンジよ!」
「だってアスカ、いっつも「バカシンジ」って言ってるでしょ?」
 ビシッと指差す。
 さすがに言葉が返せない。
「それよりどうだったの、温泉☆、いいことあった?」
 マナの余計な一言が怒りを誘発する。
 アスカのこめかみに血管が浮かんだ。
「…またぁ?」
 呆れるようなマナの声。
「シンジじゃないわよ、このバカよ!」
 首根っこを抑えられているのはレイだった。
「へぇ?、珍し」
「なんだよう」
「いえいえいえ…」
 シンちゃんじゃないんだ?
 ちょっとおかしい。
「で、なにしたの?」
 アスカの脇の下で笑っているレイに、そのホッペをつつきながら尋ねてみた。
「別に何にもしてないんだけどぉ…」
「したでしょうが!」
 首が締まる。
「く、苦しいって!、ちょっと行き違いが…」
「へぇ、どんな?」
 話せそうに無いので、シンジに尋ねる。
「あ、うん…、レイが僕と…」
「ん?」
「何だか色々…」
「なぁに?」
「言っていいのかな?」
「何で聞くのよ?」
 アスカは不機嫌そうに睨み返した。
「あの…」
 真っ赤になってうつむくシンジ。
「だからなにって?」
シンジ様はそんなにふしだらかもしれませんけどやっぱりやっぱり、あうあうあうー!
 唐突に叫び出したミズホに唖然とする。
「あ、あー…」
 ま、そう言う事でさ?
 シンジの目がそう語っている。
「ふぅん…」
 マナもようやく事情を飲み込んだ。
「そっかぁ、シンちゃんって、まだだったんだ?」
 えっ!?
 クラス全員が潮を引くように一気に引いた。


 知的というよりは控え目な印象を与える大きめの眼鏡。
 きちっと揃えられた髪型は、無個性を象徴しているようで、逆に普通の中では浮いている。
 そんな感じの山岸マユミ。
 彼女がレイに惹かれたのは偶然ではない。
 うん…、恐かったけど。
 第一次接近遭遇。
 お友達になってくれて…
 第二次接触。
 名前で呼ぶのを許してくれて…
 とても不思議な感じがした。
 そう、あれはあそこに居た時と同じ…
 ふうっとアンニュイな感じで、先日までレイが座っていた座席を眺める。
 暗い部屋。
 あるいは暗い何かの中に彼女は押し込められていた。
 体に纏わりつくのは、まるでその生涯分を一度に伸ばしたかの様な長い黒髪だ。
 まるで癖がなく、不自然なくらい痛んでいない。
 それも当たり前…
 自分の髪をいじってみる。
 その時は何かの液体で満たされていた。
 無菌以上にクリーンな環境で成長したのだ、それも当然の事なのだろう。
 そしてある日始まった。
 なに?
 体が作り変わっていく。
 この感じ…
 苦しさが取れていく。
 嫌だったのに…
 自分の全てが。
 なのに苦しめていた物が消えていく。
 それは細胞が正常な物に置き変わっていっただけの話なのだが、当然彼女にはわからない。
 わたしを助けてくれた人。
 綾波レイ。
 そのレイさんの心の支え。
 碇シンジ。
 浩一君がそれを教えた。
 どんな人だろうって思ったの。
 初めは優しい人だなって思ったけれど…
 右を見ても

 左を見ても
でれ 
 でれ
でれ 
 でれ
でれ 
 でれ
でれ 
 でれ!
 ねえどうして?
 どうしてそんなにすがるんですか?
 そんなに碇君がいいんです?
 わたしにはまるでわかりません…
 少しチェロがうまいだけ。
 少しだけ悲しみに気付くのが早いくらい。
 弱ってるのに敏感で…
 でもその原因も碇君なのに。
 わたしにはまるでわか…
ねぇ、聞いた?
聞いた聞いた、碇君でしょ?、やっぱリって感じよねぇ?
 きっぱり絶対分かりません!
 何故だか静かに燃えている…


 再び戻って、シンジの教室。
「えー?、だってあたしオーストラリアに住んでたしぃ」
 やっぱり向こうって進んでるんだ?
 そんな揶揄する声が聞こえて来る。
「あ、だからってあたしはまだなんだけどぉ」
 続けるマナ。
「やっぱり普通の子ってとっくにって感じだったから、コンプレックスって感じで…」
「あんた…」
 アスカはジト目で突っ込んだ。
「護魔化してるみたいよ?」
「ふええええーん!、シンちゃんは信じて…、あれ?」
 いつものように抱きつくが反応が無い。
 直立不動のまま固まっている。
「…想像力豊かなんだ?」
「ちょっとね…」
 その向こうで『みゃうみゃう』とミズホが悶えている。
 アスカは両方に溜め息を吐いた。
「ま、いいんだけどね…」
 マナもつまらなさそうに離れてしまう。
「あら?、以外とあっさりしてるじゃない」
 うん?、っとマナは首を傾げた。
「どして?」
「え?」
「だって好きになってからそんなこと気にしたってしょうがないじゃない?」
「そりゃまあ、そうだけど…」
 しかし釈然としない物がある。
「多分…、アスカだからよね?」
「レイ?」
 ちょっと物思いにふけっていたらしい。
 アスカより後の人間にだけ分かる気持ち。
 マナとレイが持っているのは同じ想いだ。
 シンジとアスカはどんな関係?
 好きになる直前にかかるブレーキ。
「まあ初めての相手が渚くんじゃなかったみたいだから、良しとしとこう!」
「「全然良くない!」」
 アスカとレイのダブルヘッドロックに、マナははうーんっと泣き叫んだ。







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