NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':67 


 タラララン…
      ララン…
 タラララン…
      ララン…
 タラララン…
      ララン…
 タラララン…

 夜の河原、月明かりが川面に反射する中を、シンジは控え目にギターを鳴らし始めた。




いつも そばにいたくて
君の… 笑顔を見たくて

悲しい事ばかり、積み重ね過ぎて
本当の気持ちを、遠く…



隠して



心…  伝えることなく
君の  笑顔を曇らせ…

夢に見る事で、幸せ噛み締め
立ち去る事ばかり、選び…



苦しいよ



I can't come true.

Remember my heart to you.

二度と  戻れない君の


温もりが恋しい…


曇らせないでいて…




 歌い終わってもシンジはギターを止めなかった。
 レイはそれを邪魔しない程度に、そっと寄り添う。
「…シンちゃん、詞、色々書いてるんだ?」
「…うん」
「英語んとこ、ちょっと間違ってるかも…」
「う、…勉強するよ」
 まあいま適当に考えちゃったしなぁ…
 ぼうっとそんな事を考えている。
「ねぇ、シンちゃん?」
「なに?」
「どうして詞を書くようになったの?」
 弦の音が止む。
「うん…、もやもやしてたから」
「もやもや?」
「考え始めると止まんないし、でもずっと考えちゃうし…」
「だから書くの?」
「吐き出しちゃうと楽なんだ、書いておくとすっきりするし…、日記、みたいなものなのかもね?」
「そう…」
 レイはさらにピッタリと寄り添い直した。
「…ね、もういちど聞かせて?」
「う…」
 なぜかシンジが硬直する。
「…どうしたの?」
「…適当に作っただけだから、あんまり覚えてなくて」
「そういうとこ、いけてないね」
「ごめん…」
 レイはシンジらしいとクスリと笑った。
「適当でもいいから、その代わり」
「なに?」
 レイの潤んだ瞳をごく自然と受け入れる。
「ちゃんと作って、プレゼントして欲しいなぁって…」
「いつになるか分からないよ?」
「それでも、いいから…」
「…うん」
 わかったよ。
 シンジは再び弦を弾いた。


 事の始まりはカヲルが姿を消していた数日間に遡る。
「温泉はいいねぇ」
 以前はシンジの怪我のためにこれなかったここ、魅奈神山へと訪れていた。
「その上振る舞い酒がまた極上、シンジ君も喜んでくれるかな?」
 カヲルは今年の冬を前にして、一応の下見に訪ねていた。
「去年の騒ぎで今年の営業は危ぶまれていたけど…」
 カヲルは「あの社」があったはずの場所に向かった。
 まだ雪が降っておらず、いまはハイキングにも適したのどかな風景が広がっている。
 カヲルはそこで、社の掃除をしている青年に気がついた。
「精が出ますね?」
 出雲だった。
「精も何も、ご神体がなくちゃね?」
 どこか丸くなった印象を受ける。
「ご神体?」
「去年の騒ぎでね?、この下だよ…」
 出雲は足の下を指差した。
「それじゃ…」
 ご神体、ね…
 しかしカヲルは知っている。
 受験前の騒ぎにそのご神体が関っていた事を。
 でもあの人が確認しているのは、キクと言う女の子が持つもの、一つだけのはず…
「少し調べてさせてもらおうかな?」
 こうしてカヲルは浩一へと連絡を取った。


「思えばその下見そのものがあの人の計画だったのかもしれないね?」
 シンジ達から少し離れた橋の上に、車が一台停まっていた。
 双眼鏡を覗いて歯噛みしているマユミ。
 マナはハンドルにもたれ掛かって考えている。
 話していたのはカヲルだった、彼はボンネットの上に腰かけている。
「でもそこまで計算できる人っている?」
「あの人なら、あるいは僕の不信感を利用するかもしれない」
「でもカヲルって、そういうのに興味ないでしょ?」
「そう見えるのかい?」
 マナは真剣な表情を崩さずに頷く。
「…直接自分達に関らない限りはそうよね?」
「否定する要素はないね?」
「それでも動いたのは、レイが狙われているから?」
 わずかに口元を釣り上げるカヲル。
「…レイの事なら心配ないさ」
「じゃあ?」
「シンジ君はそれでも身を投げ出そうとするからね?、見ていて危ない…、来たようだね?」
 空を見上げる。
 誰かがゆっくりと降り落ちて来た。
「…浩一」
 かなりの高さからだというのに、音もなく橋の手すりに着地する。
「オリジナルはあの子の手から離れていたよ」
「何処にあるかはつかんだのかい?」
 手すりの上に立ち、浩一はポケットに手を入れる。
「この河さ」
 999と名付けられた列車が謎の転移を遂げた場所。
「勾玉に取り付かれた少年が居たが…」
「そう言えば彼の勾玉、破片の回収には失敗していたね?」
「この河に流されたと見るのが妥当だ」
 マナはゆっくりと顔を上げた。
「それって…」
「この街に滋養分の多い土地は限られている、そして水のある場所も」
「ここなら…、プラントが作れる、そう言いたいの?」
 浩一は頷く。
「キクちゃんが狙いなのか、それともレイが狙いか、シンジ君か…、それがまだはっきりとしない」
「餌は撒いたのかい?」
「もうすぐ、かかるよ」
「あ、帰るみたい…」
 マユミが双眼鏡から目を離した。
 肉眼でも手を繋いで二人は見える。
「…それじゃあ、僕は行くよ?」
「マナ、護衛は任せる、でも次もシンジ君に頼らなきゃならないようなら、ロデムが動くから」
 そう言ってマユミの方に顔を向ける。
「マユミもだ、本来彼らに遠く及ばない力しかないんだから、無理をしないで」
「わかってます…」
 それでも悔しそうに顔を背ける。
「じゃあ行こうか?、カヲル」
「そうだね…」
 二人で国道へ向かって歩き出す。
「何処へ行くの?」
「…この解析をしてもらいにだよ」
 そう言って月明かりに照らした物は、青く反射する何かのかけらであった。


続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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