NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':67
「一言で言っちゃえば…」
残ったココアを持て余す。
「シンちゃんが優しいから、かな?」
「え…」
むず痒さが込み上げる。
「そんなに…、優しくしてたかな?」
意識していなければ覚えていない。
「たぶん気がついてないよ、シンちゃんは…」
それはシンジがいつも必死の時だったから。
「シンちゃんが優しいから「好き」になったの、ね、こうは考えられない?」
「なにさ…」
「好きだけど…、好きって言っちゃったら負けなの」
「どうして?」
「だってそうでしょ?、あたしはシンちゃんが好き、でもシンちゃんに嫌いって断られたらあたしの恋は終わっちゃうもの」
「そんな!?」
「ううん…」
いつものようにからかわず、レイは真剣なままで想いを凝らす。
「先に口にした方が負けなの、だって告白されたら「この子は僕には合わない」って、振ることができるんだもん」
不意にシンジはアスカが、レイが、ミズホが告白を断っていたのを思い出した。
みんなそうだったのかなぁ?
告白しに行く男の子達。
断られ、死刑宣告を受けたような気分に陥る。
顔を上げる。
男の子は自分、女の子は…
ズキン!
胸が傷んだ。
「辛いね、それ…」
「うん…、でもシンちゃんは悩んでくれてるから…」
悩みもせずに断られた彼らの立場は?
シンジは考えた事も無かった。
「僕も…、酷いよね」
「え?」
「そんなこと…、させてたんだ」
レイ達に。
そう思うとますます情けなくなって来る。
でも言えない。
まだ言えない。
自分の彼女だから。
だから構わないでって…、言えるわけないよ。
シンジはココアのおかわりを作った。
それを考えれば、「どうしたらいいと思う?」、そう相談したくなるレイ達の気持ちも分かろうと言うものだ。
「僕は…、はっきりさせた方がいいの?」
思わずシンジは聞いてしまった。
「急いで決めて欲しくない…」
レイの一瞬の憂いた表情をシンジは見抜く。
僕はバカだ!
他人の告白を断らせていたのと同じ。
また逃げて、レイに決めさせて!
だがレイは気付かれたとは思わずに先を進めていく。
「もしシンちゃんの決めた人があたしじゃなかったら…、だって高校ってまだ二年ちょっともあるのに、ずっと暗いままでいなくちゃいけないんだもん…」
その口調は、もしかするとと言う危うさを感じさせる。
「…出て、行っちゃうの?」
「あ…」
「ここを、出て行くんだ…」
「シンちゃん…」
お互いがお互いに、わずかな反応を過剰に捉えてしまっている。
「でも…、でも嫌なんだ!」
シンジは感情を爆発させた。
手にしていたココアがカップの縁からわずかに漏れる。
「一人になるのは嫌なんだ!、だから僕に愛想をつかすならそれでも良いと思った、誰かを見付けて捨てられるならそれでもって」
「うん…」
「誰か一人だけでも残ってくれたらいいやって…、バカだよね?」
「そうね…」
レイはマグカップを一旦置いた。
そして身をすりよせるように横になる。
「レイ?」
「だから…、言いたくなかったのね?」
「うん…」
こんな事を話せば、きっとレイは居てくれるから。
きっと離れづらくさせてしまうから。
「僕のせいで自分の考えを変えるような事、して貰いたくなかった」
でも今はもう遅過ぎる。
隣にあるレイの瞳。
それを見ればわかってしまう。
「ごめん…、結局愚痴っちゃって」
「ううん…」
レイの瞳はとても優しい。
優しいからこそ、とても辛い。
「シンちゃん、わかってる?」
「ん?」
「あたしが出て行くの、嫌なんでしょ?」
「うん…」
「あたしも同じ」
「え?」
「シンちゃんがいなくなるのは、嫌だもん」
ごめん…、とシンジはレイの髪に頬をすりよせた。
「ごめんね?、レイの言う通りだ」
「え…」
「思い上がりなんだよ、全部」
「違うわ…」
「だって僕なんかよりしっかりしてるもの…、僕がなにしたって関係」
「そんなことない!」
レイはギュッとしがみついた。
「レイ…」
シンジの袖を両手でつかみ、顔を見せないように顎を引いている。
シンジはこぼれそうになるココアを枕許に置いた。
震えてるの?
シンジは撫でようとして、先程こぼしたココアが手についているのに気がついた。
軽く舐めて拭き取り、震えるレイを抱きしめにかかる。
「シンちゃん…」
くぐもった声がした。
「やっぱり優しい…」
レイが顔を上げる、口元は笑っているが、どこかいびつ。
目が涙に潤んでいた。
「ごめんね?」
「なに謝ってるのさ…」
謝るのは僕なのに。
そう思う。
だって苦しめてるのは僕だから。
「どうしていいか分からなくなるの…」
レイの口からこぼれ出た。
今のように、いつかのように。
「そんな時…、いつもシンちゃんが来てくれたもの、シンちゃんだけだもん、ね?」
そうでしょう?
レイはおかえしとばかりに髪をすりよせた。
自然とシンジは腕を下へ差し込んでいく。
「…甘いね」
「なに?」
「シャンプーの香り」
レイの髪はまだ濡れていた。
間違いなくあの子自身の意思が介在していると言うのに、自覚が無いというのは…
屋根から屋根へと跳ね飛ぶ浩一。
「ロープロース!」
夜空の雲が明るく輝いた。
その向こうが月明かりとは違う金色の光に揺れ動く。
ゴゥ…
降りて来たのは一回りほど大きくなった怪鳥だった。
ワイヤーを折り合わせたような羽が金色に輝いている。
それは蓄積された莫大なエネルギーが表出しているためだろう。
翼の両端までの長さはおおよそ五百メートル。
この巨体を飛翔させるための重力制御システムは、翼の下に重力レンズを生み出し高エネルギーによる熱照射攻撃を可能にしている。
浩一が常人では不可能な高さへとジャンプした。
それをすくい上げるようにロプロスが低空を飛び、また上昇する。
それだけの巨体で輝きを放っていたにもかかわらず、その姿を視認した者は居なかった。
「…シンちゃんを好きになるのが早くて良かった」
「どうして?」
「今好きになっても…、きっとあれこれ考えちゃってたと思うから」
何処が好きなの?
何が好きなの?
側にいたいの?
見ているだけでいいの?
「好きって素直に言える時で、良かったと思う」
「うん…、僕もかな?」
二人は落ちついて鼓動を合わせた。
「ねえシンちゃん?」
「なに?」
急にレイが起き上がる。
布団をはがれて寒さが染みた。
「ギター、弾いて欲しい」
「え…、でも」
父に借りっぱなしになっているギターをちらりと見た。
「河原に行こう?、あそこなら近くに家ってないから大丈夫でしょ?」
「…ほんとに行くの?」
「うん」
「寒いよ?」
「いいから!」
「…はぁ、じゃあ着替えてきなよ」
「下に行っちゃったらアスカとミズホにバレちゃうでしょ?」
勝手にシンジの衣装ケースを漁り出す。
シンジはタンスの代わりに、ケースに服を放り込んでいた。
「ジーンズとトレーナーと…、コート貸してね?」
「いいけどさ…」
「じゃ、あっち向いてて?」
「え?、うわ!」
無造作に下を脱ぎ始めたレイに、シンジは慌てて反対を向いた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
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