NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':69 


「アスカ…」
 瞳にはいつもの輝きが無い。
 損なわれたブルーの輝き、今はただ曇ったガラスのようにくすんでいる。
 そしてその眉間には、能面のような表情を裏切る苦悶の皺。
 どうせつかまるんだ!
 もう逃げ場が無い。
「アスカ、今行くよ」
 地を蹴る。
 シンジを中心とした輪を組んでくれたおかげで、アスカまでの間に邪魔な存在はなにも無かった。
 それはアスカにとっても同じである。
 再び鞭がシンジを襲う。
 バシ!
 しかしそれは金色の光によって弾かれた。
「うわああああああああ!」
 シンジはその光に気付かないまま襲いかかる。
 アスカの両肩を押さえて押し倒す。
 そのまま眉間の勾玉に指を引っ掛ける。
「うあああああああ!」
 小指を除いた四本の指で引きはがしにかかった、しかし固い。
 ドン!
 アスカに突き飛ばされた。
「シンちゃん!」
 傍らにレイが降り立つ。
「酷い!」
 シンジの右手の爪がはがれ、血が流れ出していた。
「アスカを…、助けなくちゃ」
 シンジは他が見えていない。
「ダメよシンちゃん!」
「でもアスカが!」
 いつレイが来たのか?
 そんな事にすら気を回す余裕を失っている。
 ザッ!
 カヲルは二人の後ろへ降りた。
 そのまま左腕を右から左へ大きく振るう。
 フォン!
 金色の、いびつに歪んだ八角形の壁が一瞬浮かんだ。
 ぐらりと倒れる暴徒達。
「アスカちゃんは僕が助けるよ」
 アスカの首に白い指がかかった。
 どうやってか?、背後に浩一が立っていた。
 軽く触れた瞬間、アスカの体が痺れたように硬直する。
「オリジナル、これが欲しかったんだ…」
 浩一はアスカの腰に腕を回して抱き寄せると、首にかけていた手で栗色の前髪を掻き上げ、その勾玉に指をかけた。
「ロデム…」
 浩一の指先から黒い染みが吹き出す。
 それは勾玉を包むと、ポロリとはがれ落ちた。
 ガクン…
 アスカの体から力が抜ける。
 浩一はその体を腕一本で支え、ゆっくりと腰を下ろさせた。
 はっとするシンジ。
「アスカ!」
 慌てて駆け寄る。
 周りのアスカと同様だった者たちも沈黙している。
 その額の勾玉はくすんで灰色になっていた。
「しょせんは粗悪品か…」
「そうだね?、オリジナルの波動が無ければ輝きもしない」
 カヲルが中指で弾いて回る。
 勾玉が壊れる度に、その人その人は崩れ落ちた。
「アスカ、アスカは!?」
 レイも滑り込むように近寄り、シンジと共に抱きしめる。
「気を失っているだけだよ」
 浩一は無意味な微笑みを向ける。
 アスカの腕には黒いアメーバが張り付いていたが、それもしばらくしてはがれ落ちた。
 鞭を作り出した時の異常な傷が消えている。
 キッと睨み付け、立ち上がり、レイは浩一の頬を張った。
 パン!
 夕焼けの中に鳴り響く。
 ぐらつく浩一、レイの目尻には涙が浮かんでいる。
「…利用するなんて」
「他に適当な方法が見つからなかった」
「だからって!」
「キクちゃんがいないね…」
 カヲルのぼそっという呟きにドキリとする。
「…どういう、ことさ」
 シンジの押さえた声が漏れ聞こえて来た。
「アスカを、キクちゃんを…、なんのために」
「全てはみんなのために…、だよ」
「それでアスカをこんな目に合わせたって言うの!?」
 泣き叫ぶ。
 アスカは気を失いながらも震えていた。
 ガタガタと蒼白になって脅えている。
「他にベターな方法が見つからなかった…、最初はシンジ君にお願いするつもりだったんだけど」
「夕べの…」
 レイの瞳に敵意がみなぎる。
「今日も…、シンジ君に食いついてくれると思った」
「どうしてそんなにシンちゃんを憎むの!」
「憎んではいないさ」
「嘘!」
「少なくとも僕の気持ちは分かるはずだよ?」
 カヲルの言葉にレイは固まる。
「勾玉の力は見たね?」
 ギュッとアスカを抱きしめるシンジ。
「そしてその力の源を欲している敵が居る」
 レイが顔を上げる。
「敵?」
「そうだよ、999、あの列車での事件の関係者…、彼はキクちゃんの持つ勾玉を狙っていた」
「どうして!」
「同じ力で生き延びたからだよ…、そしてその力で復活を果たそうとしている」
「そんなの上げちゃえばいいじゃない!」
「彼の狙いがレイとシンジ君だとしてもかい?」
 ギシッとシンジは硬直する。
「…僕?」
「そうだよ?」
 カヲルはつとめて平坦に告げる。
「シンジ君とレイ、二人の歌があの列車を止めてしまった、それは事実だからね?」
「じゃあアスカは…」
「その情報をつかんでいたから、シンジ君のガードに着いて居た」
「僕のせいで?」
「キクちゃんがこれを手放すとは思わなかったんだよ」
 黒いゼリーで包まれた勾玉を拾い上げる。
「これはあの子にとっては母親も同じだからね?」
「そんな…、そんなのってないよ!」
「嘆くのはまだ早いんだ」
 浩一は冷酷に告げる。
「あの子が見えないのは、この事件の犯人の元に連れ去られたからだよ」
「助けなきゃ!」
 レイが立ち上がる。
「ベストで無かったことは認める、対処療法でしかなかったのは後手に回ったからさ」
「もっと良い方法だってあったでしょう!?」
「…これでもあの人に協力をお願いしているんだよ」
「あの人…、え!?」
 シンジを置いて、レイだけが驚く。
 お父様に!?
「でもこうなったのも今となっては幸運かもしれない」
「幸運…、運が良いだって!?」
 珍しいシンジの怒気を孕んだ声。
「そうだ、最近多発している行方不明者は、皆…」
 顎で倒れている人達を差す。
「君とレイなら、あの時のように止められる」
 999の時のように。
「そのために…、アスカ」
 シンジは苦しげに声を漏らす。
「心に傷を負わせてしまった、それは忘れさせることは出来るけどあえてしない」
「なんでさ!」
「いずれ吹き出す感情だからだよ」
 恋愛に対しての…、黒い感情。
「それは君達で乗り越えてもらうしかない、今は…」
 救急車のサイレンの音が近付いて来る。
「平和に見えるのは見せ掛けだけなんだよ、誰かが君達の安全を保証してくれている」
「父さん…」
「たまには自分で、それを守って見るべきだろう?」
 シンジはゆっくりと顔を上げた。
「でも、僕は君を許さない」
「構わないさ」
 肩をすくめる。
「僕は好かれようと思っていないからね?」
 何処か満足げな笑みを浮かべる。
 レイはシンジと見比べて焦燥感を募らせた。
 シンちゃん…
 シンジのその表情は、いつもと違う、人を傷つけようとしている人の顔だったから。


 来る…
 そして闇の中。
 まるでオブジェのように半身を生め込んだ彼が瞼を開いた。
 同時に基盤模様を描いて、光が外へと走って行く。
 一瞬何重にも重なったケーブルやパイプの上に、小さな女の子の影が見えた。
 キクだ。
 目はうつろで、足元もおぼつかない。
「僕には…、君が必要だ」
 彼は、オルバは歪んだ笑みをキクへと向けた。


続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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