NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':71 


「コントロール回復」
「V.MAGI、再起動にかかります」
 オペレーター達の動きも元に戻る。
「コードナインより入電、以後は任せる、だそうで」
 ふん…っと冬月の鼻息。
 何処となく嘆息に近い。
「よし、クラッカーの位置を特定、敵性体を無力化、その後に物理的に確保せよ」
「了解しました」
 …碇、注文通り2300には蹴りをつけたぞ。
 夜遊びの内容がユイに知られるととてもまずい。
 その一点で二人の利害は一致していた。


いつも そばにいたくて
君の… 笑顔を見たくて

悲しい事ばかり、積み重ね過ぎて
本当の気持ちを、遠く…



隠して



心…  伝えることなく
君の  笑顔を曇らせ…

夢に見る事で、幸せ噛み締め
立ち去る事ばかり、選び…



苦しいよ



I can't come true.

Remember my heart to you.

二度と  戻れない君の


温もりが恋しい…


曇らせないでいて…


 レイ?
 レイが途中から声を合わせていた。
 違う、綾波?
 表情が消えている。
 瞳が赤い。
 しかし綾波とは思えないくらい、はっきりとその口を動かしている。
 泣いてるの?
 なにを?
 レイの瞳から涙が伝わり落ちる。
「ダメなのね、もう…」
「うおおおおおおおおおお!」
 オルバが悲鳴を上げた。
 ビシッ…
 ひび割れる。
 獣達の力の源が。
「ママ…」
 ミズホの首元からキクも顔を出す。
「ママ…、死んじゃうの?」
 口調が変わっている。
 キクは不安げにレイを見た。
「…いいえ」
 突き放すような声。
「もう、死んでいたのよ」
 キクはもう一度お腹に隠れた。
「キクちゃん…」
 大事そうにお腹を抱えるミズホ。
「死ぬものかああああああ!」
 僕は、僕はこの日の為に。
「兄さああああああん!」
 空しく響く、助けは来ない。
「どうして、何故なんだよ!」
 ブチン!
 機械化した身体には神経が通っていないのだろう、長い胴部を引きちぎられても気付かない。
 カヲルの声が声量を増した。
 音に乗った力が勾玉に作用する。
 パン、パパン…
 次々と破裂するように割れていく。
「凄い力だね…」
 浩一は感心する。
 精神に深く関係する神経束にまで食い込んでいる勾玉達を、障害が出ない形で破壊しているのだから。
 これもシンジ君に教えてもらった事だよ。
 カヲルは頭の中で答える。
 ナカザキ薫。
 彼女を助けるために心に触れたこと。
 今度はそれ程のことをする必要は無い。
 傷つけない程度に勾玉と心の接触を断って、その上で破壊するだけなのだから。
 そして関係を絶つのはその人達の心に任せればいい。
 その想いを誘発するために歌っているだけ。
 カヲルは満足げに歌い終え、浩一に軽く微笑んだ。
「あとは任せるよ?」
「分かっているよ」
 請け負う浩一。
 床面から染み出した黒い物が、まるで海底で沸き出した気泡のように怪物達を包んでいく。
 オルバも動かなくなっていた。
 巨大な白い手からも黒いコールタールのような物は染み出している。
 やがてオルバもその中に消えた。
「肉体的な損傷はこれで癒せる、僕はこれでリタイア、だけどね」
「浩一君?」
 へたり込む浩一。
「大丈夫だよ…、あっちのコントロールが忙しくてね?、身体のことまで気が回らないんだ」
「そんなに酷いのかい?」
 浩一は頷く。
「…感情が見えない、魂を封じ込めば融合できるからって、酷いよね?」
「どういう事?」
 綾波が尋ねた。
「コントロール下に置くために抵抗因子になるような記憶と感情を消去したんだ」
「そうなのかい?」
「…運が避ければ心をブロックされているだけですんでいるかも」
「でなかったら?」
 浩一の瞳が珍しく迷う。
「…言って」
 綾波のひと押しに、はぁっと溜め息。
「廃人になるだけならまだいい、魂のない人間は息をする事も忘れる」
 沈黙が重くのしかかりかける。
「…行こうか、シンジ君」
 シンジは気だるげに顔を上げた。
「もう、いいの?」
 一瞬シンジとカヲルの視線が交錯する。
「…事のあらましは、後で説明するよ」
 だがシンジは首を横へ振った。
「…いいのかい?」
 ゆるやかに堅くなっていた顔を崩すが、目は真剣なままだ。
「いいんだ、キクちゃんのこと、少しだけ分かったから」
「そう…」
 カヲルも満足げに頷き返す。
「もういいよ、そうだよね?、綾波、レイ…」
 シンジは全身の緊張を解いた。
「ではシンジ様、わたしの背中に…」
 いそいそとオプションパーツ、ダッ子ちゃんを取り付けるミズホ。
 ようするに薪を背中に背負うためのあれである。
「え?」
 せっかく戻って来たほがらかな笑顔が、またしても一気に冷めてしまった。


 んしょんしょとミズホが階段を上がっていく。
 そのお尻をレイが押して上がる。
 ジオフロントは直下型地震の直撃により大混乱を起こしていた。
 散乱した商品を踏まぬように注意して、従業員用の裏口から外に出る。
「…父さん」
 シンジはそこにいる人物に目を疑った。
 黒塗りの車で待ち受けていたのだから。
「終わりましたよ」
「そうか…」
 ゲンドウはカヲルの報告を一言で流す。
「シンジ…」
「なに?」
「今日はキクちゃんにも泊まってもらう」
「うん…」
 シンジは破顔した。
「僕もその方が嬉しいよ…」
 シンジはミズホの背から降りた。
「乗れ、帰るぞ」
「うん」
 シンジが何も言わないのなら何も言えない。
 レイはぐっと言葉を飲み込んだ。
「あ、でもミズホ」
「はいぃ?」
 元に戻っていた。
 いつもの恰好に。
 着ぐるみは何処へ?
「あの…、あ、やっぱりいい、うん…」
 世の中には聞いてはいけない事もある。
 今回の事件とミズホの秘密を同列視する事にだけ、どうしても抵抗を感じてしまうレイであった。


 家に帰るとキクとレイとミズホは一緒にお風呂場へ直行した。
 カヲルはゲンドウと共に再び外出。
 そしてシンジはアスカの枕許に静かに立つ。
 膝をついて、髪を一房軽く握る。
「ん…」
 薄目が開く。
「起こしちゃった?」
 いつもの笑みだが、疲れも見える。
 何があったの?
 どうしたの?
 色々と聞きたいのだが、どれもうまく言葉に出来ない。
 それにとても嫌な夢も見ていた。
 暗い部屋に二人きりで居る自分。
 嬉しいのよね…
 そのくせ嫌悪感を抱いている。
 自分自身に。
「…酷い顔ね」
 だから護魔化した。
「そうかな?」
「そうよ…」
 疲れ切った笑みを浮かべる。
「…夢を、見たんだ」
「夢?」
「うん…」
 アスカの手を握り、その甲に額を押し付ける。
「…奇麗な女の人が、泣いてた」
 嗚咽が漏れ出る。
「そう…」
 アスカは愛おしげにそんなシンジを見た。
 …奇麗なってのは引っ掛かるけど。
 自分の嫉妬などとは違う次元の事なのだろう。
 そんな触れてはいけないものを感じていた。
 濡れ始めた手の甲の感触から。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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