NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':73 


「ふへ?」
 ミズホはその申し出にキョトンとした。
「ひと月ほど、と申しました」
「ひ、ひと月ですかぁ?」
「はい」
 小和田家の座敷。
 着物姿で向かい合っているのは奈々とミズホだ。
「あなたには私生活にこそ正すべき問題があります」
「でもでもぉ」
「ここに居る内だけ気を張っていれば良いものではありません」
 ぴしゃりと言い放つ。
「起床より就寝まで、学ぶべき事は多々あります、よろしいですね?」
「ふにゅう…」
 しょぼくれる。
「これも将来のため、あなた…、いいえ、碇さんのためと思いましょうね?」
「シンジ様の?」
 ピョコンと髪が揺れる。
「ええ、碇さん、きっと喜んで下さいます」
「はふぅん☆」
 ミズホ妄想モードに突入。
『シンジ様…』
『ん、ミズホかい?』
『朝ですよ?、朝食の支度、今日は和食になさいますかぁ?』
『はは、ミズホ、また両方用意してくれたんだね?』
『シンジ様のためですぅ』
『でも僕は、この方が…』
はぁううううう!
 暴走完了。
 それを奈々はニコニコと見ていた。
「きっと上手くいきますわ?」
 だが奈々の計算は、「両想い」と言うことを前提に成り立っていた。






 ぬぅ…
 その日、葛城ミサトは最悪な気分を味わっていた。
 気分が悪くて寝坊した。
 リツコから「ちょっと何してるの!、今日は職員会議でしょ!」っとありがたい電話を貰ったものの、そのままダウン。
 長い二度寝の後に体温計を咥えれば、微熱から少し高い程度の数値が出た。
 病院へ…
 しかし足は学校に置いてきていた。
 歩いて?
 行くにしては遠い。
「むぅ〜、ダメよねぇ…」
 携帯を相手に頭を抱える。
 頼める友人は加持とリツコ。
 しかしリツコの運転は信用できない、加持も今は不真面目ながらも公務員だ。
 しかし背に腹は変えられない。
 元々他人の腹だと言う説もあるが。
「あ、加持ぃ?」
 と言うわけで呼び出せば。
「またかぁ?」
 病院のたらい回し。
「葛城、今なんてった?」
 目を丸くする友人に。
「…篠原産婦人科」
 と告げる不愉快さ。
 しかも唯一身に覚えのある相手。
「そうか…」
 加持は妙に落ち着いた態度でギアを入れた。






「それで…、ミズホちゃんはほんとに良いのね?」
「はいですぅ!」
 にこにことユイに報告する。
 もちろんユイには、奈々の師を通じて連絡が入っていたのだが。
「それで、シンジには?」
「シンジさまぁ!、シンジ様の寝顔を覗く喜びも、お風呂上がりの髪にドライヤーをかけて頂く楽しみともしばらくのお別れ、ミズホは、ミズホはぁ!」
「そう言う事じゃ…、なくてね?」
 さすがのユイも不安になった。
 本当に分かっているの?
 家を出る、ということの意味を。
 しばらくと言っても…
 接点は確実に減る。
 特にシンジとはクラスも校舎も違うのだから。
 ちゃんと話したのかしら?、シンジに…
 そんなわけはなかった。


「え?」
 シンジはきっかり十秒は呆然としていた。
 気がつけばレイが代わりに詰め寄っていた。
「ミズホ、出てっちゃうの!?」
「違いますぅ、花嫁修業ですぅ!」
 プゥッと膨れる。
「花嫁って…、誰の?」
「それはもちろん…」
「ええ!?」
 ミズホの頬を染めた期待の視線にシンジは焦る。
「シンちゃん!」
「知らないって!」
「じゃあまたミズホの先走り?」
 …そんな言い方、ないですぅっとむくれる。
「ミズホぉ、僕達まだ高校生なんだよ?」
「そうですぅ!、結婚まであと一息…」
「そうじゃなくて、あの、まだ早過ぎるって…」
「シンジ様はお嫌なんですかぁ?」
「い、嫌じゃないよ、あああ、だから泣かないで!」
 しかし時既に遅く、ミズホの『つぶらな瞳』からだぱぁっと涙がこぼれ出している。
「シンジ様、結婚して下さるんですねぇ?」
 …どこかで涙の意味が反転したようだ。
「ま、いいんじゃないの?」
「アスカ?」
「え〜、アスカどうしてそう言うこと言うの?」
 二人は嫌そうにアスカを見る。
「最低一ヶ月って事でしょ?、なら文化祭も学園祭もミズホと一緒ってわけにはいかなくなるわね?」
「うん…、でも元々クラスも違うじゃない?」
「そうよ?、これからは登下校も一緒にならないし、ミズホの生活はスケジュール管理されるから、前みたいにシンジの様子を覗きに来れなくなるし、大変よねぇ?」
 大変、の意味が非常に微妙だ。
「そっか…、ミズホ、戦線から姿を消しちゃうんだ」
 にやりとレイ。
「まあ、あたしもレイ一人の方が相手しやすくていいわ」
「それはこっちのセリフ!」
「…シンジ様、わたしは信じてますぅ」
 パワーバランスって奴だったのかな?
 シンジは『三すくみ』と言う言葉を思い出す。
「ミズホは…」
 そんなに行きたいの?
 シンジはその言葉を飲み込んだ。
 はい!っと口にされなくても、その全身からにじみ出ている雰囲気で答えは分かる。
 なに聞こうとしてるんだろう?、僕…
 まるで引き止めるみたいにと、シンジは続きの言葉を飲み込んだ。






「よぉ、あすかちゃん、こんなとこで何やってんの?」
「こんなとこって…」
 テレビ局のロビー。
 雑誌から顔を上げたあすかは、タタキに向かって少し呆れた。
「仕事に決まってるじゃない」
「こんな地方でかぁ?」
 ちなみに遷都したとはいえテレビ局などは今だ第二東京に集中している。
「こんなとこで有名になってもしようが無いだろう?」
「こっちの方が音響奇麗なんだもん」
「まあ向こうの機材は古いからなぁ…」
 テレビ局が移転しない理由は他にもあった。
 芸能人の入居先が「何故か」第三新東京市には見つからないのだ。
 都市圏外からではさすが交通に時間がかかる、不便ではない、異常なほどに整備されているため、渋滞が起こる事も無い、それでもだ。
「それで…、あの話、どうしたのよ?」
「あの話?」
「あのねぇ…」
 剣呑な表情を作る。
「あんたでしょうが!、当てがあるからってあたしのメイク案蹴ったのは!」
 実は少しだけ大人っぽい恰好が出来ると喜んでいたのだ。
「ああ…、交渉中ってとこかな?」
「なによそれぇ…」
「相手素人さんだから」
「あたしの代役だし、三話に一回は出番があるのよ?、何が不満なのよ!」
 バンッと雑誌をテーブルに叩き付ける。
「んじゃあ…、あすか、お前この仕事、ほんとにやりたいのか?」
「なんでよ?」
「そりゃOPにお前の歌使ってもらえるけどさ…、グラビアもそうだ、ほんとに、やりたかったのか?」
 あすかはぐっと歯を噛み締めた。
「役者に、なりたかったのか?」
「…あたしは、歌いたかったのよ」
「だろ?、楽しくない仕事でも頑張れる理由があった」
 タタキはタバコに火を付けた。
「その子にはそれがなくてな?」
 あすかも、どこか無理矢理楽しみを見付けている節がある。
「だからあすかみたいに我慢する必要は無い、必要も無いのに嫌だったり面倒だったりする事を引き受けるこたぁないさ」
 タタキらしくない言い方に戸惑う。
「ま…でもそんなの困るじゃない」
「ああ」
 ニヤリとタタキ。
 だから姑息な事もさせてもらうさ。
 スケジュールは遅延させない。
 それがタタキのやり方だった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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