NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':74 


「なによこれぇ!」
 コンビニで買ったゴシップ誌を道端で広げる。
 つい先程タタキから電話を貰い、アスカはいつもの半分の時間で身仕度を整え、コンビニに向かって直行していた。
「アスカ…、これって」
 シンジも横から覗いている。
 ちらほらと登校を始めている生徒が見えるが、まだ時間は早い、人影は少ない。
 雑誌にはアスカのプロフィールと、例のテレビドラマの企画がすっぱ抜かれていた。


GenesisQ’第七拾四話
「鴇色(ときいろ)の仮面」


「それじゃあ、まだ君は承諾したわけではないんだね?」
「加持さん!」
 校長室、例によって担任と教頭も同室している。
「おいおい…、今はお仕事、せめて先生を付けてくれないとな?」
 苦笑いする。
「あたしはアルバイトしてみないかって誘われただけで、やるなんて一言も言ってません!」
「別にバイトしちゃいけないと言ってるわけじゃないんだ」
「じゃあなんで!」
 呼び出しされなきゃいけないのよ!
 これには教頭が咳払いした。
「何かと目立つからねぇ、中学生の頃から素行にも問題が…」
 一瞬口答えしかけたが、アスカは何とか堪える事に成功した。
 もっとも、射殺すような目線を作ってしまったために、余り意味は無かったが。
「雑誌に出ちゃったってのが問題なんだ、マスコミからも幾つか問い合わせが来てるし」
「そんなの…」
「もちろんプライバシーを盾に伏せてはいるけど、で、そのバイト、やるつもりは?」
 ありません!
 そう言いかけたのに、アスカはつい口ごもってしまった。
「迷ってる、のか?」
「え?」
「断ってもいないそうだな?、タタキに聞いたよ」
「タタキさんに…」
 アスカは体から力を抜いた。
「でも…、こんな風になるんじゃ…」
「やらない方がいいか?、なあ、アスカ」
 教頭の眉が跳ねる、何故か担任も。
 加持の顔が校長のものではなく、親しい間柄を示す人のそれになったからだ。
「人間、社会に出れば働かなくちゃならない、ああいう特殊な世界を直接経験する機会なんて、滅多にあるもんじゃないぞ?」
「はぁ…」
「確かに周りの騒ぎは嫌になるだろうが、それとこれとは別だ、すぐにとは言わないが…、そうだな?、放課後までにそのバイトを受けるかどうか、決めてくれないか?」
「ほ、放課後!?、そんなに早く?」
「アスカがどうするか決めてくれないと、こっちとしても対応できないだろぉ?」
「わかり、ますけど…」
 その迷いが、納得していない事を如実に語っている。
 しかし加持は気がついていながら、あえて無視した。
「悪いな?、とりあえずはそんなとこだ、今日は授業をサボってもいいから、ゆっくりと考えてくれ」
「はぁ…、失礼します」
 最後の挨拶は、加持ではなく残り二人に対するものだった。






「なんだか…、話が大きくなってるね?」
 教室で合流し、シンジはレイに話しかけた。
「アスカが悩んでたって、これのこと?」
 もう隠す必要が無いからか?、レイは素直に頷いて肯定する。
「シンちゃんはどう思う?」
「どうって…」
 質問の意図が読み取れない。
「アスカがテレビに出るのって、嬉しい?」
「どう、かな?」
 首を捻る。
「レイのバイトとどう違うのかよく分からないんだ」
「あれは地方のローカル放送だもん、でもアスカのは全国で…、それも有名な俳優さんとかもいっぱい出るし、きっと流行るんじゃないかなぁ?」
 この辺はもう憶測だ。
 単に量産されてるドラマの内の一つである以上、それもまた流行ると思っているだけなのだが。
「アルバイトって思ってOKしちゃうと、絶対後悔すると思う…」
「レイはしてるの?」
「全然!、って言うか、だってあたし達のはほんとに小さな放送だったでしょ?」
 そうかなぁと、ちょっとだけ考える。
「視聴率って恐いものだって分かっちゃったから…」
 徐々にその世界を見たから、まだ抵抗力を身に付けられたのだと言いたいらしい。
「それで最近、テレビのレポーター役やめちゃったの?」
「そう!、知らない人が後着けて来たりして恐いんだもん…」
 え!?っとシンジは青くなった。
「そんなことあったの!?」
「うん…、夜中にコンビニとか行くとね?、誰かがずっと着いて来るの…」
 シンジはキクの担任のことを思い出した。
「見たの?」
「影だけ…、ほら、電灯で伸びるでしょ?、それで気がついたの」
 不安げな顔を覗き込む。
「それで?」
「思い出すと恐いけど…」
「今は?」
「ボコボコにしてから消えちゃったし、大丈夫よ?」
 …なにをしたの?
 心配する相手を取り替えてしまうシンジであった。


 空、青い空、白い雲、お腹空いたわねぇ…
 屋上、加持の言葉を鵜呑みにして、アスカはしっかりとサボっていた。
「あ〜、ほんとに来てるわ…、どうしよう?」
 校門をちらりと眺めれば、いかにもそれらしい記者がうろついている。
「暇な奴らよねぇ?、でも…」
 変よ、これ、絶対。
 アスカは気になっていた。
 確かに出るかもってことにはなったけど…
 スタント同様、そんな人間のことが雑誌に載るものだろうか?
 タタキさんの陰謀?、まさかね…
 めんどくさい、その感情が先立ち始める。
「やっぱ断る方が無難よねぇ?」
 アスカは廊下の公衆電話を使うべく起き上がった。


 時間が授業中だけに他に耳は無い。
 タタキの名刺のTEL番にかけて、反応を待つ。
『ふぉ〜い』
 受話器から聞こえる気の抜けた声。
「タタキさん?」
『アスカちゃんか?、悪い、迷惑かけちゃって』
 まるで居住まいを正したかの様に声質が変わった。
「そりゃもうすっごい迷惑よ!、校長室にまで呼び出されちゃって…」
『校長って加持君だろう?、まあいいけど』
「それよりぃ!、どうしてこんな大騒ぎになるのよ!」
『あ、ああ、それねぇ、一応極秘情報なんだけどさぁ』
「はぁ?」
『今度うちから売り出す大型新人ってのが居てな?、そいつが準主役ってことになってるんだよ』
「それで?」
『で、もう一人俺のプッシュでアスカちゃんの名が出ちゃったもんだからさ』
「巻き添えって事?」
『ご明察』
「冗談じゃないわよ!、なんであたしが…」
『ドラマの録りが終われば騒がれることもなくなるさ』
「それまで我慢してろってぇの!?」
『バイトの話を無くせば、こっちのキャスト発表と同時に…、あっ』
 がたがたと電話を取り合う音がする。
『ちょっとあんた!』
「え?」
『あたしよあたし!、あすか!!』
「あ、あすかちゃん?」
『あ・す・か・!、あんた断るつもりじゃないでしょうねぇ!』
「へ?」
『困るのよ!』
「どうして?」
『こっちはもうそういうことでイメージ作ってるんだから!』
「あのねぇ、あたし演技なんて練習したこと無いのよ?」
『そんなもん、あたしだってないわよ!』
「…何考えてんのよ」
『話題さえありゃけっこういけるのよ!』
「…あんたその内、殺されるわよ?」
『とにかく!、あんたはあたしのために出ればいいの!』
「無茶言わないでよぉ…」
『この根性無し!』
「そう言う問題じゃないわよ!」
『じゃあどういう問題なのよ!』
「あたしは芸能人になんてなりたくないの!」
『あたしの仕事、バカにする気!?』
「あたしには関係無いわよ!」
『なんですってぇ!?』
「なによ!」
『あんたバイトしなさい!』
「なんでよ!」
『この仕事の辛さも知らないくせに』
「知るもんですか」
『あたしが教えてあげるわよ!』
「あんたなんかに教わりたくないわよ!」
『やっぱり恐くて逃げてるんじゃない!』
「なんでそうなんのよ!?」
『恐いんでしょ?』
「違うわよ!、いいわよ、行ってやるわよ!」
『バイトするのね?』
「バイトじゃないわ!、お金もいらない、あんたの仕事を見に行くだけよ!」
『だって、タタキさん、はい』
 え?
『いやぁ、受けてくれる気になって良かったよ、しかもタダ働きで』
「あ、ちょっと…」
『正直大騒ぎになってるからさぁ、どう収拾つけようか迷ってたんだ、あ、加持にはこっちから連絡しとくから』
「あ、あ…」
『じゃあよろしくなぁ〜』
 しまった、と思った時には遅かった。
 ツーツーツーっと無情な音を立てる受話器に、アスカはしばし呆然としてしまうのだった。






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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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