NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':81 


 電車は第三新東京市駅に着いた、ここからは乗り換えである。
 快速電車で市内へ、ラッシュを過ぎた時間帯はのんびりと座れるだけにありがたい。
 プラットホームには逆方向、都心へ向かう人達が見える、そうまだ朝なのだからこちら向きの車両に人が少ないのは当然なのだろう。
 隣の男は誰の真似をしているのか?、ヘッドフォンから流れる誰かさんの曲に聞き入っている。
 それは本来、あたしのために送られた物のはずだ、膝の上でリズムを取る白魚のような指が、男の癖にとちょっとムカツク。
 こうして見ると第三新東京市はほんとうに近代科学が結集された街だと思える。
 少なくとも第二東京市駅よりは整理整備されている。
 人もそれに対しては負い目や引け目を感じているのか?、モラルを几帳面な程に守っている。
 しかしあたしにとっては生まれた時から見て来た駅だ。
 第三新東京市は狩り場だ、と父は言った。
 何を狩るの?、とあたしはキラキラとさせた瞳で純真に尋ねたことがあるのだが、母の泣き真似と父の焦る姿だけが記憶に残された。
 あほらしい。
 大体、昔からお隣と同じでどこか父は母に弱い、よくよく考えてみればそれは次の代でも同じであろうから、そう言う血筋なのかもしれない。
 あいつに聞けばどう答えてくれるだろうか?
「まあ、仕方ないよ…」
 ああ、くらくらする、歯をキラリと輝かせ、女の子のように少し濡れた瞳で屈託無く、そう情けない言葉を臆面も無く吐く幼馴染が見えてしまった。
 またその幻想も、おそらくは現実と99.89%まで合致するであろう事が、長年の経験と付き合いから想像できてしまう。
 血筋で片付けてしまっていいのだろうか?
 うっかり人を突き飛ばし車に轢かせておいてから、「てへっ、やっちゃった」なんてのが『性格』の一言で護魔化されていいはずが無い…
 …一瞬、現在のもう一人の同居人で青い髪のライバルが思い浮かんだ、あいつならやりかねないわ。
 ま、そんなアンニュイな思索を続けている内に…
「アスカちゃん、降りないのかい?」
「え?、あ、ちょっと!、あー!」
 乗り過ごしちゃったってわけよ!、まったくもう!!


Q_DASH81
「小娘オーバードライブ」


「やあアスカちゃん、早かったね?」
 問答無用の一撃を与える。
「早かったね?、じゃないわよ!、あんたねぇ、着いたんならさっさと教えなさいよ!」
 ちなみに快速だったので、かなりの駅を通り過ぎてから戻って来ていた。
「自分一人だけ先に、まったく!」
 携帯で指定された喫茶店、アスカはカヲルの前にドカッと座った。
「まあ許してくれないかい?、僕としても少しばかり気がはやっていたものでね?」
「なによそれ!」
「あれだよ」
「なっ!」
 喫茶店の奥を見る、と同時にアスカは奇声を上げて立ち上がった。
 んふふぅ、シンちゃん、はい、ジュース☆
 や、やめてよ、まずいよ!
 むぅ!、おいしいって、あたしの味も付いてるしぃ☆
 アテレコするまでもないようなラブラブぶりを発揮している二人が、なにやらあたふたとやっている。
「あのバカ!」
 ちなみに席の方向からシンジはカヲルとアスカに気がついていた。
 ズカズカとアスカの近寄った直後に聞こえたゴキン!と言う音が、果たしてアスカの拳の音かそれとも異様な角度に曲げられたレイの首が立てた音なのか?
 判断はかなり微妙な所であった。


「はは、お帰り…、あの、もう帰って来ちゃったの?」
「早くて悪かったわね!、どうせいちゃいちゃできなくなって「残念だなぁ」とか思ってんでしょ!」
「うう、酷ぉい、アスカ…」
「あんたもう用済みよ!、しっしっ!」
「犬じゃないもん…」
 涙目で目の前のストローからジュースをズゴーっとすする。
 間接キスできなくて、その味は当社比62%程落ちていた。
「このあたしがアイドルデビューを棒に振ってまで帰って来てやったってぇのに、あんた達は…」
「え?、アスカやめたの?」
「おかげ様でね!、あんたがあんな曲送って来るからよ!」
 その発言にレイの犬耳がピンッと立った。
「曲!?、なにそれ!」
「ふふぅん、聞きたい?」
「ぐっ、いいもん、曲ならあたしも貰ってるもん…」
「シンジたら嫌よねぇ?、いっくらはっきり口に出来ないからってぇ、「キスしてもいいですか?」なぁんて歌詞入れちゃって!」
「シンちゃん!」
「いいのよぉ?、別にいつでもぉ」
「アスカもにやけないでよぉ!」
「で、シンジ君は元々誰に上げるつもりだったんだい?」
「え?」
「曲だよ、あれはアスカちゃんが悩んでいたから送っただけなんだろう?」
「あ、そうだアスカぁ」
「なによレイ…」
「キスシーンどうなったの?、ねぇ!」
 一瞬シンジはビクッと震えた。
「…聞きたい?」
「うん!」
 二人とも横目でシンジを見る、がシンジは動揺をコーヒーカップを持ち上げる事でごまかそうとした。
 目がそっぽを向いていたので失敗しているのだが。
「可愛い子だったわよぉ?、シンジ似で」
「えー!?、しちゃったの!?」
 シンジも硬直した。
「…もったいなかったかもね?」
「アスカ、安売りしちゃったんだ…」
「ばっか、逆よ逆」
「へ?」
「嫌だっつって逃げて来ちゃったわよ」
 ほぉ…っとシンジは息を吐きながらカップを置いた。
「ふふぅん、びっくりした?」
「う」
 覗き込まれて返答に困る。
「それともシンジはぁ、あたしが誰としても何とも思わないのかなぁ?」
「…酷いよアスカぁ」
「はぁい、でもほっとくと不満だって溜まるのよ!、あんたが何とかしてくんなきゃ…」
 耳まで赤くなるアスカ。
「え…」
 虚を突かれたように赤くなって顔を見るシンジ。
「むぅ!」
 真っ赤になった二人にレイがむくれる。
「むむむむむ…」
「まるで久方振りに会って、お互いの恋心に火の点いた幼馴染のようだねぇ?」
「ってそのままでしょー!、冗談じゃないわよ、なんでアスカなんかにぃ」
「なんかってなによ!、なんかって!」
「せっかくシンちゃんとらぶらぶだったのに」
「ぬわぁにぃがぁ、「らう゛らう゛」よ!」
「…そう言えば、ミズホはどうしたんだい?」
 カヲルは足りない空気に違和感を感じた。
「あ、まだだよ、…最近はなんだか男の人と一緒だし」
「なにそれ!、どういうことよ!」
「さあ?」
「さあって…、あんた心配じゃないわけ!?」
「…シンジ君、信じている、なんて言うのは男の余裕にはならないよ?」
「え?」
「そうして気付かない内に離れていく物さ、好きと言う感情はね?」
「そうなの、かな…」
「二人の思いがどれ程繋がっていようとも、ほんのわずかな油断がゆるんだ結び目をそのままほどいてしまうんだ、でも「僕達」には引き結び直すだけの時間が…、ってシンジ君?」
 もういない、と言うか、レイとアスカの姿も無い。
「冷たいね、シンジ君」
 カヲルはさめざめと手元に残されたレシートの金額に目をやった。






「ってわけで、おば様から場所も教えてもらったし、覗きに行くわよ!」
「…なんでそうなるんだよ」
「いいのよ!、あたし達の間に隠し事なんてさせちゃいけないわ!」
「…面白そうだって思ってるだけの癖に」
 もうそのそわそわとした態度から、何を考えているかバレバレである。
「ううん、アスカのことだから「ライバルが減るかも」くらいは思ってるかも」
「あたしはそこまで根性汚くないわよ!、レイじゃないんだから」
「ひっどーい!、アスカそれ言い過ぎ!」
「ついさっき抜け駆けしてたのはどこの誰よ!」
「くっ!」
「さっ、シンジ!、腕組むわよ腕!」
「ええ!?、な、なんでさ…」
「いいじゃない、久しぶりなんだから☆」
「アスカずるい!、あたしも!」
「ってレイまで、そんなぁ…」
「えっと、小和田先輩のお家はっと…」
 結構遠い。
 ここでゲームブックであれば幾つかの選択肢が並んでいる。
 1:やめる。
「電車代もったいないよぉ」
 2:帰る。
「恥ずかしいよ、それに先輩だって迷惑すると思うし」
 3:逃げる。
 ちなみに両腕を捉まれ連行モードに入っているので、この選択肢は不許可である。
「レイも止めてよぉ」
「や!、アスカどうせやめないもん」
 そう言ってより一層強く腕を抱き込む。
 だめだ、対抗しちゃってる…
 反対側ではアスカが余裕の笑みを浮かべていた。
「いいから!、行くのよ!」
「はい…」
 アスカの中には選択肢そのものが存在していないらしい。






 ミズホは困っていた。
「おば様、すねちゃいましたぁ…」
 基本的に躾の面では美代が面倒を見ていただけに、相手をしてもらえなくなって困ってしまっている。
「いつものことです」
「そうそう、おばさん、縁談がまとまらないとすぐすねるんだ」
 奈々は話を打ち切ると、二人を促すように立ち上がった。
「さ、まいりましょうか」
「ほえ?」
「碇のおばさんから、ミズホちゃんの着物を見てくれないかってね?、これから生地を見に行こう」
「え?、ほんとですかぁ?」
「はい」
「でも、クニカズさんのお車はたしかぁ…」
 二人しか乗れない。
「ああ、今日は別の車だよ、ちゃんと三人乗れるから大丈夫さ」
「わかりましたぁ!」
 なんだかんだと言ってもあたらしい着物には心惹かれるミズホであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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