NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':86 


「結局追い出されちゃうし」
 がくぅんっとうなだれ、皆と帰り道を歩くシンジ。
「ま、頑張れや」
 ポンと肩を叩き、トウジは明後日の方向へと道を変える。
「あれ?、何処か行くの?、じゃあ僕も…」
「バッカねぇシンちゃん」
 嬉しそうに着いていこうとしたのだが、首根っこを掴んで引き戻された。
「こんなに遅くに…、フケツなことです」
「あ、そ、そうなんだ…」
「あほぉ!、ハルカが遊びにいっとるから、迎えに行くだけや」
「…いい言い訳ですねぇ?」
「もうええわ!」
「怒らせちゃったじゃないかぁ…」
 恨みがましく目を向ける。
「これで邪魔者はマユミだけね?」
 逆にマナは嬉しそうだ。
「…別に邪魔はしませんけど、マナ、碇君を連れて帰ってどうなさるつもりですか?」
「どうって…、やだもうマユミったら☆、決まってるじゃない!」
 うれし楽しそうに恥じらい悶える。
「シンちゃんにご飯食べてもらってぇ、お風呂に入ってもらってぇ、背中流してあげてぇ」
 マユミはジト目の半眼になった。
「…マナって料理できましたっけ?」
「う…」
 硬直して汗を垂らす。
「ついでにユニットバスだから、背中を流すって無理ではないかと…」
「うう…」
 住居環境はいかんともしがたい、まさか便座に座ってもらうわけにもいかない。
「じゃ、そういうことで」
「ああんシンちゃあん!」
「帰るよ、離してよぉ!」
「あたしのために手料理作ってぇ!」
「僕料理なんて出来ないよぉ!」
「…ついでにガスじゃないんですよね、わたしたちのマンション、電熱器しか無いし」
「あたしったらどうしてカセットコンロくらい買っておかなかったのよぉ!」
「料理をしないからじゃないですか?」
「マユミぃ!」
「貸しませんっ!、この間鍋するからって持っていって、返してくれた時には黒焦げだったじゃないですか」
「…マナの料理って、一体」
 さすがに脅える。
「多分、碇君の方が上手いと思います」
「そ、そんなに…」
「袋入りのラーメンをお湯掛けるのが面倒だからって、そのままかじる人ですから」
「じゃ、僕やっぱり帰るから」
「そうだ!、こうなったらマユミの部屋でお泊まり会ってことで」
「嫌ですよっ」
「勘弁してよぉ〜」
「そりゃああたしだって?、シンちゃんにこれ以上虫付けたくないんだけどぉ」
「虫って誰のことですか?、わたしっ!?」
「何の話し?」
「冗談じゃありません!、なんでわたしが碇君なんかと」
「なんだよ、なんかって言い方は無いだろう?」
「やだっ!、その言い方、まさか碇君、わたしまで…」
「わたしってなんだよ、わたしって」
「うそ、マユミマジ?」
「わたしじゃありません!、信じられないっ、碇君!!」
「勝手に想像してるの、山岸さんじゃないかぁ!」
「いやらしい計算してるの、碇君でしょう!?」
「…似た者夫婦」
「誰が夫婦ですか!」
「何赤くなってるんだよ!」
「い、碇君だって、赤くなってるじゃないですか!」
「ほほぉ?、その辺の理由、もうちょっと詳しく教えてもらえないかしら?」
 やたら聞き覚えのある声だった。
 ほぼ物心ついた時から、聞き続けた声と言ってもいい。
 ざざぁっとシンジの顔から血の気が引いた。


 夜の公園というのはそれだけで妖しいのものである。
「シンジ…」
「あ、あの、さ…」
 なにどもってんのよ!
 酷い緊張感が間に漂う。
「…あんた何やってるか、わかってんでしょうね?」
「え?、な、なにって…」
「なにやってたのよ!」
「なにもやってないよ!」
「なにも!?」
「そうだよ!、なんにもしてないよ!」
「じゃあ!」
「なんだよ!?」
「あたしの誕生日なんて、どうでもいいって事なのね!?」
 あ…
 呆然とするシンジ。
 今日、何日だっけ?
 忘れていたわけではないのだ、忘れていたわけでは。
 シンジはこの時、ようやく怒っている理由が薫の事ではないと気がついた。
 さて、一方のアスカであるが…
 いいこと?、周りだってしてんだから気にしないの!、あれはカボチャよカボチャ、あるいはピーマン!、…ピーマンはちょっと苦いから嫌いなのよね?、じゃなくて!
 引っ張り込めそうな茂みを探す。
 探す。
 探す。
 無い。
 アベックで埋まってしまっている。
「だぁ!、なんでバカばっかりなのよ!」
「あ、アスカ!?」
「なんでもないわよ!」
 危ない危ない…、と演技に真剣な様である。
 浮気については後で問いただすことができる、しかしキスする機会は今しかないのだ。
 でなければレイとミズホも引っ込んでいてくれないだろう。
(もが〜〜〜!)
(ごめんっ、ミズホ!)
 近くの茂みに潜んでいる二人。
(しかし…)
 レイは周囲の状況を確認して赤面した。
 いちゃいちゃとやってるカップルが多い、まあもちろんそういう公園だからなのだが。
(はっ!、じゃ、じゃああたしとミズホって…、やだっ、ちょっと待ってよ!?)
 周囲に視線を走らせる。
 そんな目で見られているのかと脂汗が流れ落ちる。
 レイが慌てふためいている間にも、二人の言い争いは進行していく。
「ごめん、アスカ…」
「いいわよもう!、あたしのことなんてどうでもいいんでしょ?」
「そんなこと、ないよ」
「レイやミズホの事ならちゃんと考えるくせに」
「そんなつもりじゃ…」
「じゃあどんなつもりなのよ!」
(アスカったら、映画館での話し、気にしてたの?)
(計算に決まってますぅ!)
(はぁああ、真似しよっと)
 勉強になります!っと、体育会系な感じで頭を下げる。
「だって、アスカが怒ってるって聞いたから、だからそれどころじゃなくて…」
「なによ!、プレゼントぐらいいつでも用意できたでしょ?、棚に上げないで!」
「アスカ…」
「近寄らないでよ!」
 アスカの事は確かに気になる、しかしシンジは周囲の目も痛くなり始めていた。
 別れ話?
 もめてるぞ?
 そんな囁き声が聞こえて来る。
(そうよ?、もっと焦りなさい?)
 これまたアスカの計算であった、シンジの余裕を無くすための。
 でなければマナやマユミを睨んで追い払ったりはしなかったし、ここへ引っ張って来て「近寄らないで」などと相反したことは言わなかっただろう。
 本気で嫌ったのなら、そのまま無視し始めたはずだ、もちろん、その辺りの微妙な機微をシンジに感じさせることは忘れない。
「ごめん、でもほんとにアスカが大事じゃないわけじゃないんだ、ただ…」
「ただ?、ただなによ!」
「…前にも言ったけどさ?、アスカって居てくれるのが当たり前だから」
「だから?、だからつい忘れちゃったって言うの!?」
「…うん」
「バカ!」
 パンっとシンジの頬を叩く。
 アスカ!?
 シンジは驚きに目を見張った、余りにもその叩き方に力を感じなかったからだ。
 アスカ、泣いてるの?
 叩いた手を自分で包むアスカの仕草を、シンジは弱々しいと感じてしまう。
 やり過ぎちゃったかしら?
 もちろんアスカは、自分の演技の効果を確認しているにすぎない。
「アスカ…」
「シンジ」
 アスカは潤んだ目を作って顔を上げた。
 ラッキー、つい手が出ちゃったけど、結果オーライよね?
「…アスカ」
「あたしだって…、あたしだって泣きたくなるんだから」
「うん…」
 ごめん…、と抱き寄せるシンジ、この辺りに慣れが生じ始めている。
 アスカは素直に従い…、いつもならこの辺で終わるのだが、アスカは黙って目をつむった。
「ん…」
 唇も上向きに突き出される。
「あ…」
 こくりと生唾を飲み込むシンジ。
 どうしよう?、でもシなくちゃ、シなくちゃいけないんだ、じゃなかったら!
 さすがにここで終わってしまうと言う恐怖を感じる。
 ついでに周囲からの期待のこもった目もだ。
 一方…
「あああ、シンジ様!」
「ま、仕方ないんじゃない?、今日ばっかりは…」
「仕方ないってなんですかぁ!、って、ああ!?、なにリップなんて塗ってるんですか!?」
「ちゃはは〜、ここはやっぱり平等にってことで、次はあたしの番かなぁって…」
「レイさんの番なんて未来永劫ありません〜!」
「って言い過ぎ!、それ言ったらミズホなんて一生お子様扱いなんだからぁ!」
「うきゅー!」
「たはは…」
 困ったような感じでシンジは苦笑いを作った。
「ほんとにするの?」
 背後でのどたばたに、アスカの握り込まれた拳が血管を浮き上がらせる。
 雰囲気ぶち壊し、これで強行できたら逆に頭を疑われるだろう。
 ぶちん!
 何かが切れた。
「あんた達ぃ!」
「「きゃああああああああ!」」
 アスカ乱入の後、三大怪獣大決戦勃発。
「…結局こうなるんだよな?」
 一瞬の決意が無駄になってしまったものの、シンジはかなりほっとしていた。
 結局この騒ぎに夢中になって、キスの件はお流れになってしまうのであった。



続く







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