NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':87 


 日常的に冗談と言うものは存在しているが、たまに洒落にならない事がある。
 その時がそうだった、ドラマを見ていたユイが一緒に煎餅をかじりながら見ていたシンジにこう問いかけたのだ。
「シンジ…」
「なに?」
「もしあたしとお父さんが離婚する事になったら、どっちに着いていく?」
「は?」
 母さん…、またドラマにのめり込んでるな?
 テレビドラマは今ちょうどそんな感じになっている。
 近所でも一回り若い奥様のグループに混じって井戸端会議を繰り広げても、なんらの違和感も感じさせない容姿を持っているユイではあるが、やはり精神的には歳とか年齢が見え隠れしている。
「母さん、電話鳴ってるよ?」
「あら誰かしら?」
 シンジの電話は携帯にかかる、この家の子供達は大概がそうだった。
 ほぼ自宅の電話はユイ専用と言っても過言ではない、対長話用決戦兵器はお昼にお得な契約付きである。
「はい碇です、あら冬月先生?」
『ああユイ君か、碇は居るかね?』
「それが何処に出かけたのか…」
『ふむ、やはりナオコ君か』
 ぴく…
 その瞬間のユイの引きつりに、シンジは何かを感じて振り返った。
 母さん?
 ユイからオーラが立ち上って見える、それはアスカ達を相手にして来て培った、シンジの第三の目が開眼した証拠なのかもしれない。
 カチャンと受話器が下ろされる。
「シンジ…」
「なにさ?」
 やたらと重々しい声だった。
「お父さんによろしくね?」
 にこにこと、ただにこにこと、ユイはにこにこと微笑んでいた。


Q_DASH87
「五時間目のヴィーナス」


「ごっめーん、アスカぁ」
 えへへへへっと、困ったような顔でレイは何かを差し出した。
「セーター縮んじゃった」
「あーーー!」
 無残に縮れた物体に悲鳴を上げる。
「それあたしのニットの…、高かったのよぉ!?」
 アスカは奪い取って広げてみたが…
「あああああぁ〜」
 もしそれをそのまま着れば、胸の下辺りでかなり扇情的な事になるだろう。
「あんたバカぁ!?、できないんなら洗濯なんてするんじゃないわよ!」
「むっ、ちょっと失敗しちゃっただけじゃない、洗濯ぐらいできるわよ!」
「普段からまともなもの着てないから気をつけないのよ!、今着てるのだってシンジのじゃない!、すぅぐ着る物に困ったらあたしかシンジの持ってちゃうし、あんたもちょっとは化粧っ気ってもんを覚えなさいよ!」
「ふんっだ!」
 さすがにここまで言われればムッと来る。
「あたしはアスカみたいに化粧なんてしなくても素で十分なんですぅだ」
「べーって、きぃいいいいいいい!、むかつくぅ!!」
「まあまあ…」
 シンジは疲れていた、と言うのもユイが出ていってしまったために、みんなの頭から「騒いでは近所迷惑になる」という、極普通の思考が抜け落ちてしまったからだ。
(母さんって凄かったんだなぁ…)
 そこに居るだけで静かにしなければいけないと思わせる。
 シンジはあらためて母の偉大さを実感している。
「なにボケボケッとしてんのよ!」
「え?」
「あんたも男なら!、もうちょっと何処に連れて行ってもさりげなぁくあんたのために着飾るような女の子を選びなさいよ!」
「なんでそうなるわけ?」
「それはぁ、わたくしのことでしょうかぁ?」
「どうせアスカの事だって言いたいんでしょお?」
「なによその目は…、やる気!?」
「来る!?」
「ファイトですぅ!」
 カーンとゴングを鳴らすミズホ。
「じゃなくて!」
 間に割り込む。
「アスカも!、なにもセーターぐらいでそんなに熱くならなくても」
「べーっだ」
「そう言う問題じゃないわよ、こいつ!」
「セーターぐらい買えばいいだろう?」
「高かったのよ?、これ!」
「わかったよ、もう…」
 溜め息を吐く。
「セーターぐらい買ってあげるからさぁ」
「ほんと!?」
「ずるいぃ!」
「レイにも奢ってあげるから、僕の服ちょろまかしてないでちゃんとしたの着ようよ、ね?」
 ぎゅ…
 くいくい…
 なんとなく裾の辺りを引かれて困る。
「…ミズホもね?」
「うわぁいですぅ!」
 しまった…
 これで三等分か。
 ちっと吐き捨て合う二人。
 そしてシンジは…
「母さん…、これを見こしてお小遣い置いていってくれたのか」
 そんなわけは絶対に無かった。






 例によってジオフロント前である。
「じゃ、さっさと余計な買い物からすましちゃいましょうか?」
「それってあたしの分のこと?」
「決まってるじゃない」
「むぅ!」
 膨れるレイに、ふふんと余裕の笑みを見せて髪を掻き上げる。
「シンジ様ぁ、あっちに可愛いのがありますぅ」
「ってそっち下着のお店じゃないかぁ!」
「「ミズホ!」」
「ふぇえええん、だってだってぇ、やっぱり可愛いので気合いを入れてってぇ、ヒカリさんもおっしゃってましたからぁ!」
「「ヒカリが!?」」
 やるじゃない…
 侮れないわね?
 ちょっとショックを受けている二人。
「じゃなくてさ!」
 どうも脱線していく回数が多い。
 シンジはそれだけに疲労も感じている。
「今日は普通の買い物に来たんだろう?」
 はっと我に返った二人であったが…
 そうね?、せっかくシンジに買わせるんだから、時間を掛けて選ばないと…
 アスカなんかにペース握られたら選んでる時間取らせてもらえないじゃない、こうなったら…
 レイの買い物なんて切り上げさせて…
 アスカの買い物の時間に食い込んで…
 またも飛んでいた思考を引き戻す。
「なに考えてるの?、二人とも」
「怪しいですぅ」
「な、なんでもないわよ!」
「そ、そうよ!、さっ、行きましょ!?」
 二人は傍目にも分かるほど慌てた。
「ってあんた、いきなりジーンズショップに行こうとすんじゃないわよ!」
「なんでよ!、いいじゃない人がなに履いたって」
「あんたも女の子ならスカートぐらい履きなさいよ!」
「もう冬なんだからズボンの方がいいじゃない!」
「そんなだから色気が無いって言うのよ!」
「あたしはアスカと違って余計なお肉が付いてないから我慢できないの!」
「なんですってぇ!?」
「アスカはいいよねぇ?、皮下脂肪が厚くって!」
「必要な所にも付いてないくせに、何言ってんのよ!」
「ひっどーい、そこまで言う!?」
「先に太ってるって言ったのあんたでしょうが!」
「言ってないわよ!」
「言った!」
「あ〜あ…」
 シンジはいがみ合う二人に対し、顔面を押さえてうなだれた。
 路上にも関らず言い争っているのだから派手に目立つ。
「喧嘩するのは仲のいい証拠ですぅ」
「…そうかな?、そうなのかな?」
「はいですぅ」
 ミズホはニコニコと、『さらに』シンジに擦り寄った、そう…
 ヒートしている二人は気がついていなかったが、ミズホは先程からべったり腕を組んだままだった。


「どうシンジ?、ここが女の戦場、バーゲン会場よ!」
「ってひっどーい!、あたしのバーゲン品ですませるつもり!?」
 襟元を掴んでがくがくと揺する。
「はん!、シンジのなんてどれもこの辺りでパパッと揃えちゃってるんだから、あんたそれで満足してるんだから十分でしょう?」
 くっと口ごもる、ここで言い返せばシンジの着ているものに不満があると言うのと同じだ。
「あたしだって…、あたしだってホントならちゃんとしたいのが着たいけど、でもおばさまにそんなわがまま言えないから…」
「バイト代はどうなさってるんですかぁ?」
「余計な事を言ったのはこの口かしらぁ?」
「ひらいれふー!」
 思いきり口を引っ張られるミズホ。
「ははは…、ねぇ、ちゃんとした服を買ってあげるくらいの余裕、あるからさ?」
「さっすがシンちゃん!」
「そうなんれふかぁ?」
 頬が伸びてたれパンダ状態に入っているミズホ。
「でもあんた、ほんとに大丈夫なの?」
「うん…、今月余裕あるから」
 ミズホだけがそれを知っている。
「おばさまが臨時のお小遣いだって言ってましたぁ」
「なんですってぇ!?」
「わぁ!」
「あんたねぇ、そう言う事なら早く言いなさいよ!」
「な、なんでさ!?」
「行くわよレイ!」
「うん!」
「あ、シンジは後からゆっくり来なさい、そうね?、支払いに丁度行く時ぐらいでいいから」
「あ…」
「じゃあねぇシンちゃん、後で見せてあげるからぁ!」
「あのぉ…」
 シンジは二人を見送ってしまった。
 と言うか、見送らざるをえない早さだった。
「…凄い勢いでしたぁ」
「はぁ…、これじゃあ何にも残らないよ」
 あの様子だと、何を選ぶか分からないだろう。
「…もしかして言っちゃいけませんでしたかぁ?」
 ふきゅうっとちょっと窺うように顔を伏せる。
「あ、そうじゃないよ、どうせ母さんもそのつもりだったんだろうし」
「そうですかぁ…」
 それでもミズホはしゅんとした。
 シンジ様にご迷惑を掛けてしまいましたぁ。
 逆にシンジはさっぱりとしている。
 …お守をしとけって、そういうことだったんだろうな?
 あるいはフォローできないから、ちゃんと機嫌を取っておけ、か。
「ミズホ…」
「はい?」
「ミズホはどうするの?」
 明らかな迷いを見せる。
「えっとぉ…」
 ちょっとだけアスカ達の去った方向、エスカレーターを見るのだが、シンジに負担をかけるのも気が引ける。
「買いたい服があったんじゃないの?」
「ないですぅ、そんなのないですぅ!」
「そう?」
 ぷるぷると尻尾髪を振る態度に、シンジは怪訝そうに小首を傾げた。
「あ、じゃあ屋上にでも行こうか?」
「はい?」
「ちょっと寒いけど…、空中庭園、行った事無いんだよね?」
「は、はいぃっ、シンジ様となら何処までも!」
「そんな大袈裟な…」
 でもよかった、ミズホの機嫌が直って。
 シンジは単純にそう考えていたが…
(シンジ様とデートですぅ!)
 ミズホの思考は、さらにその向こうへと突っ走っていた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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