NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':89 


「ところで…」
 二階を一斉捜索している最中。
「勝手に入ってもいいのかい?」
 いつの間にやら帰って来た様だ、今日は不調のカヲルである。
「非常事態だから良いんじゃない?」
「…後で怒られるような気がする」
 一番消極的なのはシンジだ。
「あ、シンちゃんそこダメ!」
「え?」
「そこ開けると、きっと後で殺されちゃうから」
「う…」
 脅えながら棚から下がる。
「何が入ってるんだろう?、下着とかはそっちのタンスだろうし…」
「アスカちゃんのことだからねぇ」
「なにしたり顔で頷いてるのよ!」
 すかんと辞書で一撃。
「早くしないと猫ちゃんがお腹空かせてるかもしれないじゃない!」
「わかったよ」
 肩をすくめる。
「真面目な話をすると…、居なくなったのはいつなんだい?」
「朝起きたら居なかったらしいよ?」
「ふむ…」
 カヲルは顎先に軽く握った拳を当てた。
「…じゃあそろそろ、本格的にマズイかもしれないねぇ」
「え?、どういうことさ」
「いいかい?、動物は小さいほど食物摂取のサイクルが早くなる」
 ふむふむと頷くレイとシンジ。
「それはつまり、排泄の期間も短くなると言う事さ」
「ええー!?、そんなの困るぅ!」
 一瞬で理解したレイは、確認のためにばたばたと自分の部屋へ駆け出した。
 それを見送りながらカヲルは続ける。
「まだアスカちゃんとレイはいいさ、シンジ君に当たるだけだろうからね?」
「それもかなり嫌なんだけど…」
「でもミズホは大変な事になるだろうねぇ」
「大変って?」
 悪寒がする。
「部屋を交換しろとか、暫く恐くて一人で寝られないとか言い出すんじゃないのかい?」
「う…」
 なんだか容易に想像できる。
「枕を持って、こっちで寝かせて下さいと頼みに来る姿が目に浮かぶようだよ」
「うう…、あり得る」
 せめて寝る時くらい、安らぎたいのが本当の所だ。
「よかったぁ、あたしの部屋じゃしてないみたい、匂いも無いし、ってどうしたの?」
「あ、ううん、なんでもないよ、なんでも…」
 でもなんだか沈痛な表情だ。
「シンちゃん…、カヲル?」
「シンジ君は優しいからねぇ」
 苦笑い。
 レイは対象に「?」マークを浮かべながら首を傾げる。
 シンジには見えるようだった。
 泣き縋られて、困りながらも邪険に出来ない自分の姿が。


(おっそーい!、あのバカなにやってんのよ!?)
 もうすぐお昼休みである。
 なのにシンジからの連絡は今だ無い。
 アスカはかなり苛立っている。
(シンジなんかに任せるんじゃなかった…)
 なにしろかかっているのは自分の命、必死にもなろうというものだ。
「惣流!、前に出てこれを解け!、まったく、なにそわそわしてるんだ」
 どっと笑いが起きる、赤くなりながらアスカは…
(これもシンジのぉ〜!)
 っと八つ当たり気味だった。


 ちなみにミズホは…
「う〜〜〜ん…」
 爆睡しながらうなされていた。






「シンちゃあん、アスカから電話ぁ、なんだかすっごく怒ってるけど…」
「なんだよもぉ…、こっちだって探してるんだから、適当に言っといてよ」
(いいのかなぁ?)
 もちろんよくはない。
 これでボコにされるのは決定したようなものである。
 しかしシンジも、これ程まで探しても発見できない事に焦りを感じていた。
(まさか本当に外に?、それならいいけど何処かで挟まって死んでたり…、ううんっ、そんなことあるもんか!)
「シンちゃんまた電話ぁ!」
「もう!、いい加減に…」
「赤木先生から…」
 ひゅうっと冷たい風が吹く。
「どどど、どうしよう!?」
「どうしようって…、あたしに聞かないでって!」
「そうだ!、と、とりあえずさ?、アスカいないからよくわかんないって言っといてよ」
「わかった」
「ふぅ…」
 汗を拭う。
「でもほんっとに居ないんだけど…、まさか母さんが洗濯物干そうとした時に外に出ちゃったとか…」
 何気にがらっと窓を開ける。
「え?」
「どしたの?」
「あ、うん…」
 シンジは身を乗り出して外を見た。
 だが先程ちらりと見えた影はもう見えない。
「なんだかああそこの電柱の向こうに…、こっちを見てる女の子が居たみたいなんだけど」
 女の子、の部分にレイの瞳が冷たくなる。
「シンちゃん…、そんなに飢えてるの?」
「え?」
 数秒間視線を交錯させ、ようやくシンジは意味を悟った。
「ち、違うよ!、誤解だよ!!」
「もう!、ここに食べ頃の美少女が居るんだからぁ!」
「ちなみに僕もいるんだけどね?」
「その変なポージングやめい!」
「くはっ!」
 股間部にバックキックを食らってうずくまる。
「でも僕は、前がダメでも後ろがOKなのさ…」
「てい!」
 そのまま半回転、アスカから盗んだ踵落としを頭部へ直撃。
 さすがにこれは効いたようで…
「ごきって、凄い音が鳴ったんだけど」
 シンジは見たくない見たくないと、顔は向けても目は逸らせている。
「どうせすぐに復活しちゃうから!、さ、シンちゃん今のうちに…」
「なにが今の内なんだよぉ!」
 引きずられていくシンジを横目に、すでにカヲルは復活している。
(おや?)
 そして起き上がりながら窓の外を見て、シンジの言った通り人影を発見。
(なんだろうねぇ?)
 危険は感じない、だが確かに妙な視線ではある。
 少女はやはり黒髪で長く、光ったのは眼鏡だろう。
「誰か助けて、助けてよぉ!」
「はっ、シンジくぅん!」
 今行くよぉっと点数稼ぎに切り替わる。
 少女のことはひとまず置かれた。


 放課後。
「アスカ、どうしたの?」
「ヒカリぃ」
 涙目。
 アスカの中では既に頭にドリルが取り付けられている。
「さよならヒカリ…、あんたはあたしの一番の親友だったわ?」
「ちょ、ちょっとどうしたのよ!?」
「アスカさぁん、帰りましょう!」
 がらっと戸を開けてミズホ参上。
 アスカは恨めしげに目線を送った。
「あんたなんでそう元気なのよ?」
「ふえ?、なにがですかぁ?」
 ほんとに分かってないようだ。
「猫よ猫よ!、どうすんのよ!?」
「どうって…、なるようになれですぅ」
「あのねぇ…」
 あうぅっとつい顔を押さえて俯いてしまう。
「家に居ないって事はぁ、きっとご主人様を求めて旅立たれたんですぅ」
「ぁああああああああ!、赤木先生にはなんて説明すんのよ!?」
「約束したのはアスカさんですぅ」
「あんたねぇ!?」
「猫ちゃんの事なんて考えたくもありませぇん」
「…なんとなくだけど話は分かったわ?」
「ヒカリぃ!」
「アスカ…、あたしにはなにもできなけど、頑張ってね?」
「ヒカリぃ!」
 同じ言葉を違うイントネーションで続ける。
 アスカの表現力は、やっぱり結構ありそうだった。


 そして碇家では…
「うわああああ、もうHRも終わっちゃってるよぉ!?」
 シンジが錯乱モードに入っていた。
「どうするの?、シンちゃん」
「何落ちついてるのさぁ!?」
「いやぁ、安心して任せろって大見栄切ったの、シンちゃんだしぃ」
「冷たいね、君は」
「ううん、ちゃんと屍は拾って上げるから☆、一度死んだ王子様はお姫様のキスで生き返るって言うのが定番だしぃ」
「アスカちゃんなら骨までしゃぶって溶かしそうだけどね?」
「う…」
「僕、どうなるんだろう…」
 あうあうとへたり込んで天井を見上げる。
 しかし真上からレイが楽しそうに覗き込んで来たので、シンジは俯いてしまうのだった。


 さて、で、件の猫はというと。
「わざわざすみませんでした」
 ここはリツコの理科準備室だ。
「いいええ…、シンジ達、連絡着きました?」
「今忙しいみたいでしたわ?」
「ご主人にお届けものの帰りなんでしょう?」
「ええ、まあついでと思いまして、それに」
 にゃあっと彼女の膝の上、頭から背を撫でられて、気持ちよさげに声を上げる。
「無理なお願いをしましたし、ちゃんとお礼をと思いまして」
「そんな、わたし、猫好きですから」
 だから早よ渡せとうずうずしているのはリツコで…
 その前で、(面白いからもうちょっと焦らして見ようかしら?)とやっているのはユイだった。


「もう、どこ行っちゃったんだよぉーーー!」
「シンちゃん…」
 涙を堪え、柱の影からそっとごみ箱を漁るシンジを見つめる。
(さっき先生に教えてもらったんだけど、もうちょっと黙ってよう)
 ちなみに涙は、笑いを堪えてのものだった。


「それで、君は何をやってるんだい?」
「ひっ!」
 突然の背後からの声に振り向く。
「な、渚君…」
「山岸さん…」
 ふぅと溜め息。
「君なのかい?、あの猫は」
 マユミは数瞬迷ったが、結局コクリと頷いた。
「どういうつもりなんだい?」
「だって…」
 カヲルの重々しい言葉に、それ以上に思い口調でマユミは答えた。
「うち、ペット禁止だから」
 ひゅうと空しい風が吹く。
「な、ならシンジ君にでも頼めば良かったんじゃないのかい?」
「わたし碇君嫌いだから…」
「レイは…」
「そんなっ、レイにそんな迷惑を掛けるなんて!?」
「アスカちゃんは?」
「絶対に断られます」
「消去法…、人類が最後に残した選択肢なのか」
 カヲルはこめかみを揉みほぐした。
「それで、ミズホならいいと思ったのかい?」
「はい」
 きっぱりと。
「複雑な乙女心か…、僕には分からないよ」
 分かる必要も無いけどね、と…
 そっとマユミの真似をして、電柱からシンジが見えないかと覗き見る。
「そこ、わたしの電信柱なのに…」
 押しのけられたマユミは、ちょっと不満気な顔だった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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