NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':89 


「すぅずぅはぁらぁ!」
「痛い、痛いて、かんにんやぁ!」
 屋上に無情で見慣れた光景が展開される。
 まったく、っとジャージに着替えたミズホを胸で泣かせているのはアスカだった。
 トウジはゲシゲシとヒカリに蹴られて追い詰められていく。
「で、結局誰が置いたのよ?」
「こんな手紙があったぞ?」
「手紙?」
 情報収集はやはりケンスケの出番なのだろう。
 なんだか勝手に巻き込まれに来ている。
 アスカはそれを胡散臭げに受け取り広げる。
「えっと…、『信濃ミズホ様、たった百円でも落とし物は落とし物と落とされた方のことを心配されるあなたの優しさに、この人なら大切にしてくれると思い、ホームズをお渡しします、どうか可愛がってあげて下さい』、なにこれ?」
「ようするにだ、捨て猫だな」
「それはわかってるっての!」
 ぐしゃぐしゃと丸める。
「こんなの引き取る事無いわよ!、ようするに邪魔だから捨てたかっただけなんでしょ?、誰だか知らないけど!」
「そりゃまあ、でもさぁ」
 にゃあん☆
 ケンスケの膝の上でひと鳴きする。
 びくっと震えるミズホと、ひくっと食指を動かし鼻をひくつかせたアスカが対照的だ。
「か、可愛いわね?」
「嫌ですぅ!、猫は獰猛で野蛮でわたしの居場所を取るんですぅ!」
「何言ってるのよ?」
「んでさぁ、どうするんだぁ?」
「なにがよ?」
「言っちゃあなんだけど、惣流と信濃って碇ん家の居候なわけだし、飼うにしても」
「飼わないわよ」
「飼わないのか?」
「当ったり前じゃない!、誰が捨てたかも分からないような猫なんて!!」
「ありがとうございますぅ!、アスカさんは命の恩人ですぅ!!」
「きゃああ!、そんなとこに頬擦りするんじゃないわよ!」
「ぷるぷるしてますぅ!」
「このバカ!」
 ガン!
 めいいっぱいの力で粉砕。
「イタイですぅ」
 涙目で頭を押さえる。
 それを笑ってからケンスケは提案した。
「じゃあ広告でも出しとくか?、一人ぐらい居ると思うし」
「そうね、そうしてちょうだい」
「猫さんバイバイですぅ」
 なんだか非常に嬉しそうだが、仔猫のくりっとした無邪気な瞳にバツが悪そうに顔を逸らせる。
「じゃ、後はあっちの問題ね?」
「かんにんやぁああああああああ!」
 まだ暫くはダメらしかった。






「え?、ミズホ猫拾ったんだ」
「ミズホがぁ!?」
 帰って来たシンジとレイは、その異常な事態に戸惑った。
「拾いたくて拾ったんじゃないですぅ!」
「って言うか、役に立たないのよねぇ、こういう時だけ…」
 と言うか選択のミスだろう。
「ヒカリに頼めば良かったわ…」
 あの相田ケンスケの猫である!、っと言うわけで、女子は敬遠、男子は怪しい機能があるのではと殺到した。
 結局誰に渡してもまともに扱われることは無かろうと言う結論に達したのだ。
「普段どう思われてるかが分かるわね?」
「ケンスケだからねぇ…」
 苦笑しながら人差し指で猫をからかう。
「で、飼うの?」
「まさか!、学校の帰りに赤木先生に猫好きな友達居ないか聞きに行ったら…」
「行ったら?」
 ちょっと笑みをこぼす。
「学校には居なかったんだけど、ミサト先生が連絡付けてくれて、引き取るから明日連れてこいって」
「へぇ、そうなの?」
 レイもやっぱり猫好きっと微笑んだ。
「そう言えばカヲル君は?」
「ふっ、愛玩動物に必要なのは媚びと愛敬だね」
「カヲルく…、どうしたのさっ、その顔!」
「「「ぷっ」」」
 顔を斜めに四本の傷が走っている。
「やっぱり妖怪かどうかわかるらしいわ?」
「失敬な、この僕の、どこに、美が無いというんだい?」
「…一々ポーズ付けなくてもいいよ」
「ひ、酷いよシンジ君!」
「カヲル君、ちょっと見ない間にキャラ変わってくね?」
「それだけ変だって事よ!」
「みんなが僕をいじめるんだよー!」
「ああっ、カヲル君それ僕の台詞なのに!」
「なに情けないこと言ってんのよ!」
「あ、いやそうじゃなくて、えっと…」
 なんだか混乱しまくっている。
「とりあえずぅ、ミズホぉ、出て来たらぁ?」
「嫌ですぅ!」
 実は先程から部屋の隅で巨大白まんじゅうと化している。
「ねぇ?」
 レイがピコピコと尻尾を猫パンチしてじゃれるのだが、ミズホはお尻をもぞもぞ動かすだけで顔を見せようとはしないのだ。
「ほらほら、ホームズも遊びたいってぇ」
「ふぇえええん、シンジ様ぁ!」
 でもやっぱり顔を見せようとはしないのだった。






 翌朝。
「え〜!?、逃げちゃったのぉ?」
 いきなりレイの悲鳴が響く。
「起きたら居なかったのよ!」
「でも窓とか全部閉まってるんだからどこかに…」
「そうなのよねぇ…」
 そして徹底捜索が始まった、が、女の子の朝は何かと忙しい。
「まずいわ」
「なにがさ?」
 ちらりと時計を見るのだが時間が足りない。
(もうご飯食べてる時間は無いわね?)
 しかし顔は洗いたい、簡単な身繕いにも時間はかかるのだ。
「赤木先生に今日連れてくって言っちゃったのよ…、あの先生の猫好き、有名でしょ?」
「きっと連れていかなかったら人体改造ですぅ」
 ぽそっときついことを囁くミズホ。
「嫌ぁあああああああ!、白まんじゅうになるのは嫌ぁあああああ!」
「ウサギですぅ」
 ぷんぷんと、まるウサギが歩いていく。
「ミズホ…、寝間着がわりにもしてるのか」
 はっきり言ってかなり邪魔だ、丸くて。
「ってそれどころじゃないわよ!、ああもうどうしよう、学校遅れちゃうし」
 アスカのじたばたにシンジは「はぁ」っといつものごとく溜め息を吐いた。
「分かったよ、僕が探しておくからさ…」
「は?、あんた学校は」
「日数余ってるし、今日一日くらい大丈夫だよ」
 几帳面にも出席日数はチェックしている。
 アスカには「大丈夫だよ」と微笑みで伝えた。
「そ、そう?、じゃあ頼んだわよ!」
 ちょっと赤面してしまっている。
「帰って来る頃には見付けておくよ」
「ありがと!」
 ちゅっと頬に一撃。
「ほらバカミズホ!、行くわよ!」
「ふきゅ〜!」
 自分もとシンジに手を伸ばしたままで引きずられていく。
「シンちゃあん」
 とんとんと肩に…
「ん〜〜〜」
 目を閉じてレイ、シンジは突き出されている唇に、自分がかじろうとしていたロールパンを押し当てた。


「猫ちゃあん」
 なんてベッドの下を覗いた所で居るはずが無く。
「もう!、何処に行っちゃったのよ」
 レイの苛々は募っていく。
 せっかくのサボりなのだから、時間は有効に使いたいのだ。
(ホームズちゃあんなんて、赤ちゃん言葉でシンちゃんと…)
 ぬふふとちょっと妄想にふける。
「行ったって言えば、父さんと母さん見ないね?」
 シンジは不意に思い出した。
「お父様は徹夜でお仕事、、お母様はお弁当と着替えを届けに出かけたよん」
「じゃあ僕達二人っきりかぁ」
 何気ない一言が妙に歯車を狂わせる。
 冷蔵庫横の隙間まで覗き込んでいるシンジの背後に、レイの魔の手が忍び寄る。
「本当に邪な存在だね?、君は」
「か、カヲル!?」
 ぎくっと振り返って見たりする。
「なんで!」
「ここに居るのかって?」
「そう言えば…、今朝僕が起きた時に寝るって言って布団に入ったんだよね?」
 シンジはああと振り返った。
「全然二人っきりじゃないじゃない〜!」
「そ、そんなこと言われたってさ」
 ポリポリと頭を掻く。
「そう言えば…、カヲル君、夕べはどうしてたの?」
「怪しい気配を感じたんでね…、徹夜で見張りだよ」
「妖怪?」
「どうしてだい?」
「カヲルの友達なのかと思って」
「ま、レイの友達には遠く及ばないさ」
「二人とも張り合ってないで、探してよぉ」
「そんなに怪しい友達いないもん!」
 泣きそうだ。
「おっかしぃな」
 シンジはあんまり取り合わない。
 ぷうっと頬を膨らませて、レイはテーブルの下などを探しに戻った。
「…階段を降りられるほど大きいくはないんじゃないのかい?」
 カヲルがシンジに忠告する。
「だったら上の部屋かなぁ?」
 アスカが自分のベッドで寝かせたのを思い出す。
「…アスカのお尻で潰れてたりして」
 レイもちょっと想像した。
「はは…、アスカ、寝相悪いから」
「まさにケツ圧と言うことかい?」
「「それってベタ…」」
 今度は無言で泣き出し、玄関から飛び出していくカヲルであった。


「ふがぁああああ、猫の毛が、猫の毛がぁああああああ!」
 今日は黒いシャツだけにかなり目立つ。
「黒猫の毛も結構光るのねぇ」
「なんでこんなに付いてるんですかぁ!?」
「ほらほら動かないの!」
 始業まではまだ時間がある。
 と言うわけで登校途中、二人は道端で毛を取るのに専念していた。
「どうしてアスカさんには付いてないんですかぁ!?」
「なんだかねぇ?、ミズホの部屋にでも居たのかしら?」
「ふえ?」
「あんたのタンスにでも入ってのかしらって言ってるのよ」
「ふええ!、それでは、わたしが今着ているものはぁ!?」
「あの子が寝てたのかもねって…、ああ!?」
「きゅう、ですぅ」
 ミズホ爆沈。
「あっちゃあ、言うんじゃなかったわ…」
 気絶したミズホを抱えて頭も抱える。
 かなり器用だ。
 そんな二人を電信柱からそっと覗いている影があった。
 長い黒髪と光る眼鏡、少女らしい影は誰かを探し、いないのを見届けるとそっとその場を離れたのだった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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