NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':98 


『あけまして、おめでとうございまぁっす!』
 テレビで明るく業務用スマイルを振りまいているのはあすかである。
 それはさておき。
「おめでとうございますぅ」
「ってシンちゃんは?」
 律義にテレビに頭を下げるミズホを受け流しつつ。
「その辺に転がってるんじゃない?」
 正月も三が日が過ぎれば落ちつくもので、やる事も無い三人はぼうっとテレビの再放送に見入っていた。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'98
「誕生」


「この辺、かな?」
 その頃シンジは近所の本屋で、普段手に取った事も無い雑誌のコーナーを覗いていた。
「結構色々あるんだよな…」
 その一冊を手に取ろうとして、背後から首に回された腕に驚いた。
「こんな所に居たのかい?」
「カヲル君…」
 背中から抱きしめて来たのはカヲルだった。
「どうしたんだい?、みんな探していたよ」
「あ、うん…」
 離れてくれないかなぁと少し引きつる。
 周囲のヒソヒソと言う会話と、妖しいものを見るような目がとても痛い。
「どうしてここが?」
「僕達は赤い糸で繋がっているからねぇ?」
「え…」
「運命って事さ」
「か、カヲル君!?」
 周囲から人気が引くのを感じて無茶苦茶焦る。
「冗談だよ」
 カヲルはくっくと笑いながらシンジを離した。
「買い出しだよ、仰せ付かってね?」
「そっか」
 この先にスーパーがある、ここは通り道になっているのだ。
「で、何を見ていたんだい?」
「これだよ」
「これは…」
 目を妖しく光らせる。
「デートマップ、かい?」
「うん…」
 シンジは適当なページを開いた。
「第三新東京市にも色んな所があるんだなって思って」
 パラパラとめくる、都心部だけでもシンジの知らない飲食店や映画館などが載っているのだ。
「ほら、こんな所にボーリング場とかあるよ?」
「行くかい?」
「え?」
「ボーリングだよ、それとも」
「な、なに?」
「もっといい所がいいのかい?」
「た、例えば…」
「海の見えるホテルとか」
「ええ!?」
「シンジ君と一緒なら何処でもいいって事さ」
 バサバサバサ…
 大量の本の崩れ落ちる音がする。
「カヲル君…」
 その声にカヲルの表情は強ばり固まった。
 ゆっくりと目で示しているシンジに、いやいやと首を振る。
 しかしさらに訴えるような引きつった笑みを返されて、カヲルはゆっくりと振り返った。
「気をしっかり持って、薫!」
 本棚に寄りかかっている薫と、それを支える和子の姿が居る。
「や、やあ…、薫ちゃん、どうしてここに?」
「あははははは、偶然通りかかって」
「こ、ここは君達の家からはかなり遠いと思うよ?」
「そこはそれってやつでして」
「ちょっと和ちゃん!、あたしが話すから黙ってて!」
「はいはい」
 和子はシンジに目配せを送った。
 頷くシンジに、カヲルは情けない顔で助けてよ、と訴える。
「それじゃあ、僕…」
 それをごめん、と無視するシンジ。
「ここは若い者に任せますので」
 さっとシンジの腕を取る。
「じゃ、じゃあ」
「ごゆっくり」
「ああっ、シンジ君!、和子ちゃあん!」
 シンジは「振り向いちゃ駄目だ」とくり返しながら店を出る。
 周囲からは『両刀?』などの言葉が聞こえるが気にしない。
「…カヲル君が和子ちゃんの名前まで呼ぶなんて」
「よっぽど切羽詰まってるんですねぇ」
 意地の悪い笑みを見せる和子に、シンジは『確信犯だな』と一歩引いた。






「デートっすか」
「う、うん…」
 ジュゴーッとジュースをすする和子に呆れる。
(女の子っぽくないよなぁ…)
 男でもこのような恥ずかしいことは…
(トウジならやるかな?)
 っと自分を無理に納得させる。
 駅前の喫茶店を選んだのは、家の近くでは見つかってしまうからだった。
「まあこういう本も悪くはないっすけどねぇ」
 ぱさっと放り出したのは、シンジが棚に戻せなかったデートマップだった。
 戻るのも嫌なので、そのまま買ってしまったのだ。
「だめなの、かな?」
「ま、いんじゃないっすかぁ?」
(もしかして、バカにされてる?)
 自信を無くす、それ程に和子の態度は白けていた。
「こういうとこに行けばカップルばっかりだしぃ、そん中に混ざってたらそう言う雰囲気になるってのはあるでしょうけどねぇ?」
 そういうのが目的?、と目で問われて少し焦る。
「周りに当てられて居られなくなるってのもあるかも」
 言われて初めて、シンジはその状況を想像した。
(僕はそっちの方だな…)
 甘ったるい人達に囲まれて、「行こうか?」と逃げ出す自分が思い浮かんだ。
「ね?、先輩…」
「はい?」
「今あたし達ってなにしてます?」
「なにって…、お茶?」
「ブーっ!、これがデートっすよ」
「え?、え!?」
 急に赤くなるシンジ。
「だ、だって別に、僕と和子ちゃんは…」
「じゃなくってぇ」
 さり気なく呼び寄せたウエイトレスにお代わりを追加する。
「男の子と女の子が、二人っきりで遊んでりゃデートに見えるっすよ」
「そ、そんなものなの?」
「そうそう、で、ここからが問題っす」
「え…」
「より完璧にデートしたって言うためにはぁ、後はなにが足りないでしょうか?」
「足りてない?、えっと…」
 ちっちっちっと、急かすようにカウントする。
「ブーっ!、残念でした、正解は」
「正解は?」
「これが先輩の奢りになるかどうかってこと」
 和子はちろっと舌を出した。


「そっか、なるほど…」
 和子の言ったことは的を得ていた。
『奢るって言えば『優しくしたい』、イコール気を引きたいって事でしょ?、でもそのつもりが無いのなら…』
「そっけなく割り勘にすればいいって事か」
 では自分はどうだったかと考える。
「う…、無理矢理奢らされてる様な気がする」
 ずーんっとシンジは暗くなった。
 例え口にされなくても奢っていただろう。
 だがそれは、そうするものだと教育され、仕込まれているからなのだ。
「昔は良かったなぁ…」
 しみじみと呟き、遠い目で第三新東京市の夕焼けを眺める。
 少し遠出して、マップに載っていた峠の高台に足を伸ばしていた。
「昔、か…」
 よくアスカに引きずられて出かけていた、しかしレジではお互いに自分の払いをしていたはずだ。
「それが今じゃ三人分だよ」
 とほほっと肩を落とす。
「暗い、暗過ぎる…」
 そんな時に、シンジの背中から声がかけられた。
「え?」
 振り返る、と、何処かで見たような顔である。
「君は…」
 何かが引っ掛かる。
 それ程奇麗ではない、部類としては可愛い方だろう。
「あれぇ?、薄情者ぉ、忘れちゃったの?」
「あ…」
 にこにことした顔が記憶の中で照合された。
「秋月、…さん?」
「そ、やっぱり覚えててくれたんだぁ!」
「あ、あの!?」
 跳びかかるように抱きつかれて異常に焦る。
 首に回された腕、鼻孔をくすぐる髪からはむせるような女の子の臭いがした。
「ど、どうしてここに…」
 慌てて引き離す。
「ちょっとした用事」
 ミヤはちょろっと舌を出した。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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