NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':105 


 カツカツとチョークの音が眠気を誘う午後の教室。
「ねぇシンちゃん」
「なに?」
 特別教材である大判のフィルムブックを盾にヒソヒソと会話を交わす。
「次のデートは何処にしようか?」
「なにぃーーー!」
 ガタンと机が跳ね飛び上がる。
「わっ、鰯水君、どこから!」
「んなこたどうでもいい、碇、次とはどういう意味だ!」
「そうよっ、次のデートはわたしの番でしょー!」
「ま、マナまで…、いま授業中」
 突如として騒がしくなったシンジの机周辺に、幾つもの興味津々の目が向けられる。
「碇って綾波さんと付き合うことにしたのか?」
「じゃあ惣流さんは?」
「……」
「………」
「…………」
 やおら立ち上がり駆け出す少年達。
「ちょっと待て!」
「待てるか!」
「惣流さーん!」
 どたどたとあっという間に教室の半数が居なくなる。
 ベキ…
 入れた力の余りチョークが折れる。
 担当教諭の肩は背中が怒りの余りに震えている。
「ま、これもレクリエーションの一つって事さ」
 カヲルは悟ったように呟くと、ポカポカと暖かい陽射しを求めて窓の外を見た。
「平和だねぇ…」
 空気は今だ、穏やかなものだけを湛えていた。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'105
「1・2・3」


 一方その頃、長々とバスに乗った上で辿り着き、ようやく校門をくぐれて立ちすくんでいる少女達が居た。
「はぁ〜、なぁんか他の高校とは違うわねってなにやってんのよ」
「え?、な、なんでもない、なんでもないよ、うん」
 慌ててパタパタと手を振る黒髪の少女。
「はぁああああああああ…」
「なによぉ」
 とても長い嘆息にプッと頬を膨らませる。
「どうせカヲル君でしょ?、あ、もうすぐ渚先輩?」
「もう!、和ちゃん!!」
「はいはい、でも凄い学校よねぇ」
「どうして?」
 和子は自分達と同じように校舎に向かう人の流れを見た。
「だって見学、授業やってる時にやるのよ?」
「ああ…、教室に入って見学してもいいって、他の学校の人も結構来てるね?」
 薫はそう言って周囲に目を配った。
 中学三年と高校一年の間にそう差があるわけでもないのだが、同じ私服でもどこか着こなしが違って見える。
 わずかに子供子供した落ち着きのない少年少女達が、パンフを手に校内の何処へ向かうかを悩んでいた。
「ま、授業中じゃいくら探しても先輩は見つかんないわよ」
「う〜〜〜」
「ほらさっさと来る!」
 唸る薫の手を、和子はぐいぐいと引っ張った。
「普通科の塔はこっちだってさ」
「はぁ…、普通科って惣流さんと信濃さんが居たのよね」
「見つかったら覗くわよ」
 二人は連れ立って、校舎の一つへと消えて行った。






(なんだか落ちつかないわねぇ?)
 アスカはくるりとペンを回して弄んだ後で、ちらと後ろに目をやった。
 ちょろちょろと入って来ては、すぐに飽きたのか出て行く子供達が居る。
(授業なんて見たって面白くないでしょうに)
 第一、高校だからと言って特別に変わる事もない。
 アスカは目を黒板に戻そうとして、あれ?、と小首を傾げた。
 見知った顔が教室に入って来たためである。


「へぇ、あんた達ここ受けるのね」
 アスカの話し方はぞんざいだが、だからと言って年上ぶっているわけではなかった。
 誰に対してもざっくばらんなのがアスカだし、二人もそれは知っている。
 だから気さくに薫と和子の二人は話しかけていた。
「受けるって言っても普通科ですけどねぇ」
「普通科でいいんじゃないの?」
「あたしはそれで良いんですけど、薫がちょっと」
 和子の言葉に、アスカは頬杖をついて薫を見上げた。
 アスカの席に寄って親しげに話している、それだけでも二人は好奇の目に晒されていた。
 なにしろ中学時代はクラブ活動をしていなかったアスカである、親しい後輩が居るなどと言う話は聞かれなかったからだ。
「ああ、そう言う事ね」
 ようやく合点がいったのか、アスカは大仰に頷いた。
「まあ、あたしも人のことは言えないけど」
「もうっ、惣流さんまで、そんな」
 赤くなりながらも頬をぷぅっと膨らませる。
「別にそう言う理由でここを選んだんじゃありません」
「へぇ?、じゃあどうして?」
「それは…、えっと、リベラルな校風が気に入って」
「…あんた就職活動してるんじゃないんだから」
 はぁっと溜め息。
「いいじゃない、別に、どんな理由で学校選んだって」
 自分もシンジと同じ学校に通う事にはこだわっていた、だからアスカはそういうのだ。
「でもほんとは受入人数が多くて定員に余裕があったからなんですよ」
 けらけらと笑う和子。
「ついでに私服だし」
「やっぱり私服って人気あるの?」
 アスカはちょっと身を乗り出して尋ねた。
「今年出来た第四高校とか、私立の方は可愛いからってみんな流れてますけど…、公立じゃやっぱり私服ですよ、私服」
「そんなもんかしらねぇ」
 アスカはふぅんと感心した。
 自分の時は制服私服など考えていなかったからだ。
「こっちじゃ私服って言ってもピント来ないかもしれませんけど、田舎じゃ逆なんですから」
「そうなの?」
「前に住んでたとこの友達に聞いたら、私服の学校って倍率凄くて大変だそうですよ」
「後の苦労は考えてないのねぇ」
 アスカは苦笑した。
「大変…、なんですか?」
「そりゃ…、ね、毎日同じ物を着るわけにはいかないから、組み合わせだけで護魔化すにも限界あるし、季節ごとにってのもあるから、結局かなりの数の服を揃える事になるわね?」
「それはあたしにはわかんない悩みっすねぇ」
「そう?」
「和ちゃんの服って、ファンシーケース一つで収まっちゃうじゃない…」
「それは…、あんたもうちょっと揃えなさいよ」
 呆れるアスカ。
「こう見えても貧乏で」
「見たまんまじゃない」
「薫はうるさい!」
 アスカはくすっと笑った。
「どんなのでも良いってんなら、バイト先紹介してあげなくも無いけど」
「バイトは…、しますけどね?、高校入ったら」
「そうじゃなくて、黙ってると損をさせられるって話よ」
「は?」
 きょとんとする和子。
「勝手に人の写真、売ってるバカがいるのよねぇ」
「あ、相田さんっすか?」
「そうよ」
「そっかぁ…、それは薫の分も含めて、リベート要求しないとなぁ」
「どうしてあたしの分まで…」
「だってあたし、薫のマネージメント担当だからぁ」
 和子の言葉にげそっとする。
「…ついでにその分持ってっちゃうつもりなんでしょ」
「あ、酷いなぁ、薫ってばあたしのことそんな風に思ってたの?」
「うん」
「……」
「……」
「ちっ、手数料三割で我慢しとくわよ」
「じゃ、二割って事でよろしくね?」
「…あんた達、ほんと良いコンビだわ」
 アスカは呆れ顔で、そう評した。
「で、これからあんた達、暇なんでしょ?」
「もう後はホームルームだけですよね?、だからクラブでも見て回ろうかなって思ってたんですけど…」
「それならちょうど面白いものが見られるわよ」
「そうなんですか?」
「おまけもあるから、案内してあげるわ」
 そう言ってアスカは、いたずらを企んでいる目を二人に向けた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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