NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':111 


「それで?」
 レイは青葉の話に引き込まれてしまっていた。
 そのために寒さもすっかり忘れてしまっていた。
「忘れてたなぁと…、思ってさ」
「なにをですか?」
「中学の時に、ギターをどうして覚えたか」
 それは学園祭のためだった。
「みんなで練習して、それを講堂で演奏して…、拍手を貰って、それが気持ち良かったはずなのに、いつの間にか目立つ事ばっかり考えてたからさ」
 そう言って、恥じ入るように頭を掻いた。
「みんな歌を聞いて、それでノってくれてたんだよ、なのに俺が目立ってれば、俺が歌ってたらそれで良いはずだ、なんてさ、曲はおざなり、歌も適当…、そりゃあ俺のファンでもなんでも無い連中ばっかりじゃ、ノリも悪くなるよなぁって」
「じゃあ…、やめなかったんですか?」
「バンドは解散したよ」
「え!?」
「俺には先生って、俺の歌のファンが出来たけど、後の二人はさ…、テンション落ちて冷めちゃっただろうね、自然消滅だよ」
「そんな…」
「でも俺はもう開き直ってた」
「開き直る?」
 不思議そうなレイに説明する。
「そ、少なくとも学校じゃ人気はあったんだからさ、同情してくれた奴らも居たし、そう言う奴らに、こいつはどうだって、取り敢えず趣味って感じからやり直したんだ、趣味なら…、いつまで続けてても勝手だろう?」
「はぁ…」
「プロになるわけじゃない、いつかそうなれたら良いとは今でも思ってる、けどまだ自分で満足できないなってね…、ま、結局あの時の事が恐くて、ああならないようにするにはどこまで頑張ればいいのかって、脅えてるだけなんだけどね」
 そう言って青葉は昔話を締めくくった。
「シンジ君も、そんな調子なんじゃないのかな」
「シンちゃんもですか?」
「人より良いものが出来ないからやめてしまおうかと考えてしまう、でも期待されるとそうそう投げ出せなくなるんだよね」
「どうすれば…、いいんですか?」
「どうにもならないさ」
 青葉は肩をすくめた。
「盛り上がってた分だけ、冷めてしまえば底無しだよ、続けるためには何かしらのモチベーションが必要なんだ、だけどそれが見つからない以上、誰が何を言ったって利きはしないよ」
「そんなぁ…」
「でもそれだけに開き直った時には何かを得られるさ、バカにされてもけなされても、それがどうしたって気持ちで頑張れる、一人でも二人でも聞いてくれる人が居るのなら、その程度には価値が在るはずだってね?」
「謙虚になれるって事ですか?」
「そんなに大袈裟な物でも無いけどね」
 今度は肩を揺らして彼は笑った。
 レイは答えには遠かったけれど、なにかしらの指針を見付けたような気がして、青葉につられて微笑をこぼした。






 シンジは強い風に吹かれながら、色々な事を考え続けていた。
 しかし答えが見えない以上、どうしても思考はループ状に固定されてしまう。
 結果は…、飽きが来るまでの思考の低迷であった。
 唇からは無意識の内にフレーズを紡いでしまっていた。
 癖だった、ぼうっとしていて、つい出してしまっただけのものだった。
「え?」
 シンジは足に触れた何かに、はたと我に返った。
 下を見ると、見上げてくるまあるい目と視線が合った。
「あ…、なに?」
 幼稚園ぐらいの女の子であった。
 ウサギの耳の付いた風船を胸に抱いていた。
 その子はにへらと笑うと、こう言った。
「お兄ちゃん、お歌、上手だねぇ…」
 一瞬呆気に取られたシンジであったが、すぐに苦笑してお礼を言った。
「ありがと」
「あのね、アキも、お歌覚えたの」
「そうなんだ…」
 そう言ってアキが歌ったのは、テレビのアニメの主題歌だった。
 それはシンジも知っている歌だった。
 明らかに歌詞は間違っている、だが、シンジは指摘しなかった。
(楽しそうに…、歌ってる)
 だから気が引けたのだが、結局歌は中断しなければならなくなった。
「アキちゃあん」
「ママぁ!」
 じゃあねっと手を振って女の子は走り去っていく。
 シンジは小さく手を振り返してから、少しだけ気が楽になっていることに気が付いた。
「…いいよな、好きに歌えるのって、楽しそうで」
 言ってから、シンジははたと我に返った。
「なに言ってんだ、僕…」
 シンジは汗ばんでいる自分の手をじっと見つめた。
 そうやっていると、この所のみんなとのいさかいが頭に浮かんで来た。
「歌いたいから…、歌ってたんじゃなかったの?」
 シンジはその答えを探すように、またしても柵にもたれて空を見上げた。
 ただし口から紡がれるフレーズは、今度は意識して漏らすものだった。






「すっかり遅くなっちゃったな…」
 もう夜だ、街灯の明かりだけは心許ない路地も見えるが、家に帰るのにそんな道を通る必要は無い。
 シンジは何事もなく自宅の門の前に立つと、いつものように玄関の戸を開こうとした。
「〜〜〜♪」
「え?」
(庭の方?)
 横合いから何かの歌が聞こえて来る。
 シンジは戸にかけた手を離すと、庭の方へと足を向けた。


「ひっまわりさん、大きくなるからみんなのうしろでにっこりにっこり♪」
 なんとも調子っぱずれと言うか、奇妙な調子で口ずさんでいたのはミズホであった。
「ミズホ…、なにやってるの?」
「うきゅ!?」
 驚き、振り返ったミズホはそのまま真っ赤に染まって固まった。
 長靴に軍手にスコップ、胸にはごわついた厚手のエプロンを掛けていた。
 土いじりがしやすいようにだろうか?、ジーンズのスカートに色気のないトレーナーと言う出で立ちで、庭の隅の土を掘り返していた。
「き、聞きました?」
「うん…、ちょっと」
「うきゅうううう…」
 さらにさらに小さくなった。
 シンジは苦笑しながらも何をやっていたのか目で探った。
 腐葉土の袋が転がっている、ミズホが掘り返したらしい土と、石が山になっていた。
「花壇…、作ってたんだ」
「は、はいぃ…」
 まだ立ち直れないらしい。
「手伝おうか?」
「い、いいですぅ、自分でやりますから、やりたいんですぅ」
「そう…」
 その必死さは変な歌を聞かれたと言う恥ずかしさから来るものなのだが、シンジは単に自分でやりたいんだなと判断をつけた。
「じゃあ…、頑張ってね?」
「はいですぅ」
 ミズホは両手を前に組んでスコップをもじもじ弄りながら返事をした。


(よっぽど自分でやりたいんだな、ミズホ…)
「ただいまぁ」
 シンジは頭と胸の内で、違う事を考えながら敷居を跨いだ。
 ジオフロントでは、気分のままに口ずさんでいた。
 だからさっきのミズホも、そうなのだろうと当たりが付けられた。
(歌、かぁ…)
 シンジはこれまでに歌った歌のことを考えた。
(そう言えば、あの時は…)
 それぞれについて、その歌を作った時のことを考えていった。
 今までの自分は、伝えたい気持ちを曲にしていた。
 さらにその前には、期待に応えようとしてギターを弾いていた。
 では、この前までの行き詰まった自分は、カイザーの言う『自分の音』を探していた自分は、何のために歌っていたのか?
 カイザーに認めて貰うため?、バカにされないため?、今まで以上の自分になるため?
(え…)
 シンジは階段を踏みしめようとして、はたと足を止めた。
(違う、僕は…)
 最初にレイに歌を聞いてもらった時…、あの時は何を考えていたのだろうか?
 答えがそこにありながら、それを手にできないもどかしさを感じる。
 そんな金縛り状態を立ち切ったのは…
「あ〜〜〜、すっきりした」
 と言うアスカの大きな声であった。



続く







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Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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