NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':115 


 ドタンドタンドタタン−−
 三月十四日。
 第三新東京市後楽園ドーム。
 その周辺に路上パフォーマーやバンドマン、またそれを当てにした屋台や出店、さらには様子を覗きに来た少年少女達が溜まり始めたのが、夕方の五時頃であった。
「こんなもんやな」
 その中でもシンジ達のバンドは、中々大がかりな方だった、ギター一本、あるいはベース、ギター、キーボードと、持ち運びが比較的楽な装備で繰り出して来た者が多い中で、ギター、ベース、キーボード、それにドラム、またギターとキーボードはそれぞれ二人準備をしている。
 ギターはシンジとレイ、ちなみにレイの赤いギターは、この日のために新調したものだった。
 ヒカリとアスカはキーボード、こちらは音色が重ならないように、また離れ過ぎないように調整を続けている。
「おおい、始まるみたいだぞぉ?」
 ケンスケの声に手を止めて、特設されたオーロラビジョンに顔を上げる。
 何やら司会者が話していたのだが、それについては誰も聞いていなかった。
 プシャー……
 ドライアイスが吹き出され、舞台は数秒、観客の視界から姿を消した。
 司会者がはけていく、階段の壇上からステージに最初の歌手が降りて来た。
 そこまではよくある演出であった。
 問題は最初のゲストであった。
 いつしか潮が退く様に、辺りも声を潜めていった、みな最初の歌だけは聞くつもりなのだろう。
『あーわーきぃ、ひかりたつにーわぁかあめー』
 ある意味、度肝を抜かれた選択であった、往年の曲のアレンジカバーを、その子は演歌調で歌い始めた。
 彼女は着物を着ていた。
 赤い生地に金と銀の光が散らされている。
 長い黒髪が日本人形のように背中に垂れ流されていた、普段尻尾髪にまとめているはずの黄色いリボンは、首の後ろから頭頂部に向かう形で結ばれ、まるでウサギの耳の様に跳ねていた。
 シンジ達一行は、その少女の登場に、周囲とは違った意味で顎を落とした。
「ちょっと……」
 ややあって叫んだのはアスカであった。
「何でミズホがあそこにいるのよ!」
「僕に言ったって知らないよぉ〜〜〜」
 首を掴まれ、がくがくと揺すられながらシンジは答えた。
『は〜るよー、とぉおきぃはーるよー』
 いま春真っ盛りの人達を相手にこんな歌をうたっているのは、信濃ミズホ、最近放っておかれていた彼女であった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'115
「我が呼び声に応えよ獣」


 一週間前−−
 しゃかしゃかしゃかしゃか……
 茶室に茶筅の音が心地好く響く。
 今日は珍しく着物を着ているミズホが、その女性にお茶を立てて貰っていた。
「どうぞ」
 すっと椀を差し出した拍子に、髪が肩から前へと流れるように垂れ落ちた。
 ついと撫で付ける仕草が艶めかしい。
 サヨコである。
 なぜ彼女がここ、小和田の茶室に居るのか?、それは誰にも分からない。
 本来であればミズホが問いただすべきであろうが……
(苦いですぅ……)
 心の中でうえっと舌を出す。
 だが表面上はお淑やかににこやかに。
「結構なお手前で」
 世辞を言う。
 ミズホにとって、サヨコはあまり接点のある相手では無かった。
 自分に、もしくはシンジに深く関わって来ない限り、ミズホが詮索することはないのかもしれない。
「信濃さん」
「はいですぅ」
 ミズホの返事に、サヨコはにこりと微笑んだ、彼女が他人行儀な態度を取ったのは警戒心を緩める必要があったからだ。
「今日は、あなたにお願いがあって、おいで頂いたの」
 背筋をしゃんと伸ばしているわけでも無いのに、サヨコの姿勢はとても正しく、しっかりしている。
 自然体と言えるかもしれない。
(奇麗ですぅ)
 ミズホはぽわんとして、サヨコに魅入っていた。
「お願いですかぁ?」
「ええ」
 頷き、サヨコはミズホへと座の向きを変えた。
「信濃さん」
「はい」
「結婚……、して頂けないかしら?」
「は……、ふぇええええええ!?」
 ミズホは腰を抜かして後ずさった。






「それじゃあ次、行くわよ?」
「カラオケちゃうっちゅうねん」
 言いつつトウジはスティックを叩いてきっかけを作った。
『なぁみだ、くん、かれにつーげて、あいがずぅっと、ひとりぼぉっちぃ……、よっと!』
 ドラムに合わせて口火を切るアスカ。
 狭いスタジオの中がアスカの声で満たされていく。
 曲目は『愛がひとりぼっち』、岩崎良美という年号が昭和だった頃の歌手が歌った曲のアレンジである。
「どうしたんだよ、ぼうっとして」
「あ、うん……」
 ベースを担当していたケンスケの問いかけに、シンジは慣れた手つきで演奏を続けながら小さく答えた。
「やっぱりこうしてるのもいいなぁって」
「まあな」
 ケンスケは苦笑を浮かべながらこう言った。
「やりたい事があるのはわかるけどさ、だからって捨てる必要は無いと思うぜ?、息抜きの遊びだと思えば良いんじゃないか?」
「でも、それじゃあ……」
「俺達がそこまでマジになってないのに、シンジだけ本気になってるのが問題なんだよ、趣味なの、俺は、少なくとも」
「はぁ……」
「だから遊び程度に付き合ってくれりゃいいわけよ、そう思い詰めた顔されてるとさ、こっちの気が引けるんだって」
「そこ!、真面目にやんなさいよ」
「はいはい」
 肩をすくめるケンスケに苦笑する。
「でもさぁ、ほんとに何とかなると思う?」
「そのなんとかってのがわからないけど、まあなんとかなるんじゃないの?」
「そっかな……」
「大体、どうしてそこまで『今回』にこだわるのか、理由を説明してもらってないんだぜ?」
 シンジはキョトンとした後、そう言えばそうだと頭を下げた。
「ごめん……」
「言えないってのがわかるから黙ってるけどな、まあ、そこそこは目立てると思うぞ?」
 −−そこそこじゃダメだって、言うんだろうなぁ。
 シンジははぁっと溜め息を吐いてアスカを見やった。
 気持ちよさそうに歌っているのは良いのだが……
「それにしてもヒカリとレイ、遅いわね?」
「洞木ってここ知ってるのかぁ?」
「迷うようやったら、電話がかかって来るやろ」
「お前、携帯なんか持ってたのか!?」
「えーっ、やだ、似合わなぁい!」
「うるさいわ!」
「でも、ここ、電波届かないんじゃ」
「そう思て、青葉さんに頼んであるわい」
「青葉さんに?」
 ちなみに青葉はカウンターで接客を……、つまり、このスタジオでバイトをしていた。


「レイ!」
 鞄から携帯電話を取り出した所で、見慣れた青い髪を見付けて思い直した。
「ヒカリ?」
 小走りに駆けて来たのは、めっきりお下げ髪から卒業してしまったヒカリであった。
「よかった、場所わからなくて迷ってたの、レイは?」
「あ、うん……、ちょっと」
(まだ伏せておいた方がいいよね?)
 レイはそれが自分の中でくすぶっているものへの逃避だとは考えなかった。
「買い出し?」
「そんなところ」
 いつもどおりに、頭の後ろを掻いてテヘッと舌を出す。
「ヒカリも着いて来て?、あたし一人じゃ持ち切れないから」
「それはいいけど……」
 ヒカリは首を傾げながらちらりと見上げた。
 商店街の谷間、目印にしろと言われた本屋の看板がそこにはあった。
(あっち……、のはずよね?)
 レイの歩き来た方向は逆である。
(やっぱり……)
 半地下にあるスタジオの看板が目に入った。
 それを通り過ぎてコンビニエンスストアを目指す。
 ヒカリはレイの背中に首を傾げた。
(どこに行ってたのかしら?)
 その答えは見つからなかった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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