NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':116 


「はぁるよー、とぉおきぃいはぁるよー!」
 やはり選曲に無理があったようである。
 やたらと拳を入れて歌い上げるミズホ。
 会場中からはすすり泣きが聞こえ出していた。
 何がそう涙を誘うのだろうか?
 感動しているのだ。
 そう、会場の何パーセントかは確実に『ようやく手に入れた春』を感受している。
 歌詞に例えられる通り、縁遠い甘い世界に憧れてもいた。
 もはやそれも懐かしき想い出の日々である。
 これが懐古せずにいられるだろうか。
「問題は……」
 誰かが言った。
『最初に泣かせてどうするんでしょうか?』
「後の人、出辛いと思うなぁ……」
 苦笑したのはマナだ、耳に付けたマイク付きのヘッドフォンから、くすぐったい声が聞こえて来る。
『なにも信濃さんまで引き出さなくても良かったのに』
「他に適当な人が居なかったんだから、仕方が無いじゃない?」
 それに、と続ける。
 カンカンと音を響かせて階段を降りていく、地下だ。
「それに今日は一緒に居てもらわないと困るじゃない、一応、お願いされてるんだし」
『碇ゲンドウさんに、ですか?』
「そうそう」
 どさりと目の前で人が倒れる。
 空調の調節器の管理見回りをしていた青年だった。
 マナの手に握られている高圧注射器が原因である。
『あの人もどういう人なんでしょうか?』
「どうって?」
『だって……、国連を通じての正式な要請なんですよね?』
「上の考えてる事なんて分からないわよ、浩一の監視だった仕事が、いつの間にか協力しろ、次はシンジ達の護衛」
『監督って話はどうなったんですか?』
「手におえないって事でしょ?」
 ふむ、と辺り一通りの機械をチェックしていく。
 その間にも、バイトの青年は縛り上げて適当な配管の陰に転がしておいた。
 見かけによらず力の有るマナである。
 一方、そんな思惑に躍らされているとも知らず、ミズホは最後のフレーズに突入していた。
「なつかーしーきぃ、声がするぅ〜」


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'116
「我が夢に沈め楽園」


(どうなってるの?、わからない?、こっちが聞きたいって、サヨコ!)
 メイは隠れるように舞台裏で叫んでいた。
 ただし、頭の中の会話である。
 それでも苦々しい表情だけは隠せない、だからこそ潜んでいた。
(確かにミズホに誘いはかけたけど、それがどうしてこうなっちゃうのか……)
(トップで出るなんて、普通じゃないわ、スポンサーに働きかけることができる人って……)
 それはあらかじめ調べてあった事だ。
 その中から幾つか名前を上げ連ねて見るものの、どれも答えには辿り着けない。
(今の所、問題は無いんでしょう?)
(まあ、そうだけど)
(カヲル達の邪推はともかくとして、あなた達のお仕事は歌うだけよ、マイとしっかりとね?)
 メイは口の中でもごもごと愚痴をこぼした。
 カメラチェック様のモニターを、人垣の脇からちらりと覗く。
 ミズホが舞台袖に引っ込んでいく所だった。






(シンジ様、ミズホは、ミズホはやりましたぁ!)
 拍手と共に受け入れられて、ミズホはありがとうございますぅっと頭を下げながら控え室へと引き上げた。
「久しぶりだね、ミズホ」
「おじさま!」
 部屋で待っているのは彼ではないはずだった。
 予想外の人物に、目を丸くしてビックリする。
「おじさまが、どうしていらっしゃるんですかぁ?」
 はてなと首を傾げて、もう一人の人物を見やる。
「あなたにね、出演して欲しいと話を持っていらっしゃったのは、惣流さんなのよ」
「そうだったんですかぁ!」
 ぱっと表情を明るくする。
「あのぉ、それでシンジ様は……」
「いないわよ?」
「ふえ!?」
「彼、ここには入れないもの」
「ふええ……」
 泣きそうになる。
「どうしたんだい?」
「だってぇ、霧島さんがぁ、頑張ったらシンジ様が誉めて下さるってぇ」
 うんうんと頷くアレク。
「そうか、なら着替えてここへ行って来なさい」
「ふえ?」
 手渡された地図はドーム周辺のものだった。
 青インクで×印が付けられている。
「シンジ君ならそこに居るよ」
「わかりましたぁ!」
 アレクは一つ微笑むと、リツコを促して部屋を出た。
 ミズホに着替えさせるためだ。
「よかったよ、君が出演してくれる気になって」
「はいですぅ!」
 もう一つだけ、微笑みを残す。
 バタンとドアを閉じた所で、アレクはリツコへ目を向けた。
「やはり先生にお願いして正解でした」
「良く言うわ、母さん経由で、こんな」
「色々とありましてね、この世界には敵が多過ぎる」
 肩に回された手をリツコは弾いた。
「調停者、調整役も大変ね」
「それがまた面白い」
 アレクは肩をすくめて、冷ややかに笑った。
 彼にミズホの護衛を命じたのはゲンドウだった。
 そのゲンドウを弱みと見て、赤木ナオコを動かし、リツコを利用したのである。
 その利用先がマナ達だった。


 ドーム内ロビーにある中継用の小型テレビ。
 天井から吊るされているそれを見上げていた二人がようやく動いた。
 二人とも、スタッフと見紛えるようなジャケットを着ている。
 ミヤとカヲルの二人だった。
「で、どうするの?」
 ミヤは袖がすれ合う様な距離に近付いて訊ねた。
「役者を揃えたのは、間違いなくあの人だろうねぇ」
「惣流さん?」
「ただあそこまでやらせる意味が分からない、なぜ、ミズホなんだい?」
「あたしに聞かれても」
 口を尖らせる。
「これを」
 カヲルは建物の案内地図を手渡した。
「サヨコが居るのは?」
「VIPルームだって言ってた」
「そうか、じゃあそこへ行こう」
「入れてもらえるかな?」
 ミヤは自分の恰好を確認した。
「こんな服なのに……」
「押し入るだけさ」
 カヲルは事も無げに言った。
「大人しくしている必要は無いよ、どうせもみ消す苦労は向こうのものだ」
「あたしも、なんだけどね」
 はぁっと溜め息を吐く。
「なら帰るかい?」
「冗談……」
「本気だよ、別に僕は、ミヤの幸せまで奪うつもりは無い」
「幸せ?」
 ミヤは立ち止まった、遅れてカヲルも足を止める。
「違うのかい?」
「そりゃ……、今は楽しいけど」
 再び歩き出す。
「幸せなんてそんなものさ、求めている内に踏み込んでしまっている、贅沢を言わなければ、いつだって浸れるものさ」
「マイとメイは楽しそうなのに……」
「命令されていない事を祈るだけだよ」
 とカヲルは言った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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