NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':117
2018年、1月1日。
ユカタン半島付近に、とある海上プラントが存在した。
それはプラントと言うよりも人工の浮島であり、直径は一キロにも及び、海面下には地質調査のための穿孔ドリルが、島を保持する柱とともに突き立っていた。
約六千五百万年前、この地には宇宙から飛来した巨大隕石が衝突したとされている。
その衝撃で大爆発が起こり、大規模な火災が地表を覆い、巨大な津波が世界を席巻した。
激変した環境は世界を死へと導いたと言われている、この現象は『ジャイアントシェイク』と呼ばれた世界的大異変の後遺症と共通点が多く、研究目的自体も非常に多くの学者諸氏から注目を浴びていた。
例え表向きの建設理由がそれであったとしても、それだけの研究が行われているのは事実である。
そして本当の研究目的は、もっと下卑たものだった。
「……!」
誰かが叫んだ、戻って来いとでも言っているのだろう。
未だ拡張されている研究施設、その一端にある大型クレーンの先端に、一人の男が立っていた。
口元に奇妙な笑みを張り付かせている。
ゴウと風が吹き、彼を拐おうとした。
地上十数メートル、海上からは二十メートル以上、転落すれば命は無い。
白衣がはためく。
彼を説得しようと試みて、救急隊員もクレーンの上に上がって来ていた。
しかし声は届かない、吹きすさぶ風の圧倒的な轟音によってかき消されるだけだ。
世界が転んだ。
いや、転んだのは男だった。
男は笑ったままで落ちた、白波が人工島の岸壁を叩いている。
男の姿はその中へと消えていった。
ブツンと……
一部始終を収めていた映像が停止された。
「それで?」
誰かが訊ねた。
「サンプルはどうした?」
「サンプルだよ、サンプル!」
「あれが表に出れば」
「破滅だ、我々はお終いだ!」
暗闇の中でいくつもの絶叫が上がった。
どれも非常に切羽詰まったものを感じさせる。
「所在は確認しております」
落ちついた、聞き覚えのある声がした。
それに続いたのは、少女とも女性とも思える、狭間の時期にある娘の声だった。
「サンプルの収容ケースから発せられていたシグナルは、日本海近辺で途絶えました、おそらくは水圧に負けて圧壊したのかと」
「圧壊だと!?」
「バカな!、あれの耐久限度は」
「まさか日本海溝に!?」
動揺が駆け抜ける。
「だが」
落ちついた老人の声。
「不幸中の幸いとも言える」
この落ち着きは、逆に場の不興を買った。
「永遠に失われたというのにか!?」
「我らの希望が」
「夢が!」
老人は告げた。
「器は魂を求め、魂は心を求める、三者は互いに惹き合い、やがては一つに繋がる、我々の手の届かぬ所で行われてはならぬのだよ、もくずと消えたのであれば、また作ればよい」
「ふむ、魂は永遠に、器は再生を、心は育めばよいか」
「ですが」
娘が希望をついえさせた。
「シグナルの消失直前、ノーチラス号が未確認の潜航物体を捉えております」
「未確認だと?」
ざわめく。
「ノーチラスと言えば、あの潜水空母かね?」
「はい、全長570メートル、総重量5500t、二隻の攻撃型原潜と十四機の水中戦闘艇、さらに十機の水上翼機、さらには強襲揚陸艇二十隻を搭載している……」
「誰もそんな事は聞いておらん!」
「さよう、確認したものは物体と言ったかね?」
「はい、電磁推進器を利用したイオンジェット、またはそれに類似する無音潜水を行っており、その全長は少なく見積もっても十五メートル」
「クジラよりは小さいが、速力は?」
「水深1700メートルを70ノットで航行とあります」
拳を何かに叩きつける。
「バカな!」
「米海軍のシーバットですら1300メートルが限界のはずだ!」
「ノーチラスではどうかな?」
「確かにあれならば堪えうるだろうが、深海への沈降能力と引き換えに巨大化しておる」
「対圧装の弊害だな」
「しかし深海圧と言う絶対安全領域は必要だった」
「元々ノーチラスはジャイアントシェイクの『ゆり戻し』に対する方舟のプロトタイプとして建造された船だ、それに匹敵しうる潜航能力を持つとなると……」
ざわりと場がさざめいた。
「やはり、彼奴か?」
「甲一号」
「まったく、厄介なものを復元してくれたものだ」
嘆息が漏れる。
「心を守護する者、その擦り込みは十分に行わねばならぬというのに」
「最初に封印が解かれてしまった事も痛かった」
「災い為す者」
「常夜の落胤」
「闇の別称、黄泉」
「今はまだ完全ではない、奴自身、己が何のために何を求めているかも知らぬだろう」
「それを悟らせてはならんのだよ」
一同の気配が、娘と、娘を従えている男性に向けられた。
「ゆめゆめ、忘れるでないぞ」
「希望は常にそこにある、それに気付かぬは愚かに過ぎん」
「楽園への道は既に見え、我々は階段を踏みしめているのだからな」
男は何も答えなかった。
ただ闇を都合良しとして、口元に侮蔑を示しただけだった。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'117
「裏切りの首飾り」
「それじゃあ、次、行くわよー!」
元気に声を張り上げる、アスカは暑さのためにブラウスのボタンを外し、お腹の前で結ぶようにしていた。
ちらちらと見える下着に、それ目当ての観客が足を止める。
アスカの魅力も手伝っているからか、ミズホはオープニングで歌った少女だと気付かれることなく、アスカのパートナーを務めていた。
「だけど、をぅをぅをっをっをー♪、あしたの予定もわからなぁいぃい〜」
着物のミズホと、私服の姿とに共通点が見られないからかも知れないが、不思議なほどに気付かれることなく済んでいた。
アスカのキーボードは、今のところ出番待ち状態である。
それだけ二人はのっていた。
「これじゃあ何のために来たんだから分かりゃしないよな」
ケンスケのぼやきにシンジは失笑した。
「いいんじゃないの?、これはこれでウケてるし」
「あほぉ、お前の自信回復が目的やったんちゃうんかい」
そんなこと言ったってさ、と口ごもる。
「そりゃちょっと落ち込んでたけど」
さっぱりした顔で言う。
「こうやってると、もういいやって感じがしてさ」
「やっぱ客が違うからな」
笑うケンスケ。
「学校の連中が酷かっただけだって」
「そうかもね」
「ま、経験だって思っとけば?、あれより酷い目はそうそう見ないからな」
わかってるよ、と答えようとしてできなかった。
「こらぁ!」
アスカの罵声が飛んできた。
「なぁに手ェ抜いてんのよ!、無駄口叩いてないでしっかりやんなさい!」
首をすくめる三人である。
「おおこわ……」
「シンジぃ、お前苦労するぞぉ?」
「なにがさ?」
「惣流ってさ、旦那のケツ引っぱたくタイプだって話だよ」
「そんなのもう、分かり切ってるじゃないか」
「あんた達ぃ!」
怒るアスカの後ろでミズホが飛び跳ねた。
「大丈夫ですぅ!、そんなことにぜぇえええったいになりませんからぁ!」
あまりの自信にキョトンとするトウジ。
「なんでや?」
「シンジ様の奥さんになるのは、わたしだからですぅー!」
ぽっと恥じらったミズホの背中で、アスカはキーッと唸りを上げた。
そんな一同を余所に、ぼけらっとしているのがレイだった。
「レイ?」
「あ、うん……」
ヒカリに生返事を返すレイ。
(なに?、この感じ……)
レイは腹部、下腹の奥に鈍い重みを感じていた。
胃の変調や生理ではない、精神的なものでも無い。
(気持ち悪い……)
レイは原因が掴めずに、込み上げ始めた嘔吐感を堪えていた。
●
「くぅ!」
電磁バリアーは基本的にエネルギー波を磁力の流れによって逸らすというものだ、故に直撃は避けなければならない。
面は点で突かれると弱いのである。
黒い豹となったマナは転がり避けた後で青ざめた。
「やっちゃった!?」
金色の槍が空調機に突き刺さっていた。
いや、槍ではない、真横に落ちた雷だった。
バチンと音が爆ぜて、エアコンが無秩序な暴走を始めた。
冷房と暖房をいい加減な割合で稼動する、当然それはドームの天井を支えている気圧にも影響する事だろう。
もはや止める術は無い。
「誰なの!」
マナは怒りを込めて敵を見定めた。
電気であると知れれば恐くは無い、ロデムの磁界であれば防ぐことは容易いからだ。
実弾や爆薬の方がよほど恐いのである。
その男はのそりと体躯を揺らして、通路へと抜け出して来た。
身長は二メートルちょい、体重は百キロ程度と言った所だろうか?
もちろん目測なのでなんとも言えないが、それでも筋骨隆々としていて、マナは息を飲んで後ずさった。
戦闘能力で言えばロデムが負けるはずは無い、それでも言い知れぬ恐怖を感じたのだ。
そんなマナに対して、男は言った。
「それでいい」
口元に笑みを張り付けている。
「その感覚は、戦士には必要なものだからな」
「あなたは、一体……」
男は何も言わずに、ニヤリと笑った。
「戦場では臆病者が生き残る、相手の力も分からずに息巻くのは素人だ、作戦は失敗した、なら即時撤退が最も優先されるはずだ、違うか?」
もちろんである、意地を張ったとて名誉の挽回にはならないのだ。
作戦は成功してこそ意味がある、失敗したものをどう取り繕ったとて、そこに価値は生まれない。
生まれるとすれば、自己満足だ。
だが。
「一つ教えて」
油断なく、逃げるために足を引きながらマナは訊ねた。
「目的は?」
男はにぃと笑った。
「翼を、刈る」
「え……」
一瞬、気を抜いてしまった。
「堕天使の翼をもぐ事だ」
男の右腕と左腕に、それぞれ別のベクトルの力が渦巻いた。
莫大なプラスとマイナスの電化が触れ合う。
プラズマが暴風と化して荒れ狂った、無秩序な電気の嵐は、電磁波との相性は悪かった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
Q'
は
Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
内容の一部及び全部の引用・転載・加筆その他の行為には
作者である私と原作者
nary
さんの許可または承認が必要です、ご了承ください。
本元
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