NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':117 


 黒いコンバットスーツ姿で潜んでいたマユミだったが、今は姿を晒してじっと目を凝らし、天井を見つめていた。
「やっぱり揺れてる……、きゃ!」
 派手に上下した震動に揺さぶられて、危うく整備点検用のタラップから落ちかける。
 運が悪かった、としか言えなかった。
 もし今日のショーアップとして用意された映像がオーロラで無かったら。
 あるいはそのようなショーアップが無かったとしたら。
 誰か、誰でも、異常なほど振幅をくり返している天井に気が付いただろう。
 揺れる風船とは、すなわち萎み始めたゴム袋のことだ。
 張り詰めていた天井は破裂はしない、だがたるんだ覆いは垂れ下がって来る。
 総重量数千から数万トン。
 その恐怖は計り知れない。
 また、会場内はヒートアップしていたし、会場の外も遥か頭上のことになど気が付かない。
 だから最初に騒いだのは、遠くのビルの人間だった。






「はぁ?、なに言ってんの!」
 最初はそう言って取り合わなかった警備部であったが、やがていくつもの問い合わせに、三人ほど見回りに出かけた。
 その中でも、最も早く異変に気が付いたのは、地下に回ろうとした初老の男であった。
「大変だ……」
 味もそっけもない驚きようであったが、過度の衝撃は人からボキャブラリーを奪うものである。
「大変だ、消防に、違う、会場の人達を!」
 そこに思い至ったのは、まあ誉められる、しかしだ。
 会場内には十万人前後の人間がひしめいている。
 外にはそれに匹敵する少年少女達が集まっている。
 それだけの人間が巻き起こす混乱は?
 ここでの不用意な放送は、限りなく避けるべきだったのだ。
 だが彼らはやってしまった。
 そのもっともしてはいけない、引き金を引くに等しい行為をしてしまったのだった。






 この頃になると、流石に観客も異変に気が付き始めていた。
 川を為すオーロラを見つめていた少女が、それが迫って来ている事に気が付いた。
『落ちて来る……』
 ポロッと漏らした呟きが、周囲複数の人間と重なった。
 ジリリリリ!
 火災警報機が鳴った。
 バン!
 会場の全ての明かりが灯された。
 ライトアップされていたステージが途端に白ける。
 観衆が何事かと不安げに顔を見合わせた。
 そして気が付いたのだ。
 天井がたわんで、落ちて来ている事に。
 悲鳴が上がった、恐れるように後ずさり、後は一気に駆け出した。
 両開きの扉を押し開けようとする、その一瞬の停止が先頭の少年の命取りになった。
 背中から押されるままに扉に張り付けられ、そのまま後に続いていた群集に飲み込まれ、下敷きになった。
 事態はそれだけにとどまらない。
 廊下に出た同数の男女は、肺を焼く黒煙に目をやられてよろめいた。
 こすってもこすっても涙が滲み出てしまう。
 息も出来ない。
 またそんな躊躇も許さず、後方からなだれ出て来る人々に押しのけられてしまった。
 これがテンマの言う罪である。
 これだけの事態になると予測していながら、惨事になることを予見していながら、なにもせず、それが起こるのを見過ごした。
 いや、待っていたのだ。
 どのような結末に向かうのか、誰が終焉へと導くのか。
 自らの好奇心を満たすために、主役でも脇役でもなく、観客になったのだ。
 人の死すら、己の感動の糧とした。
 命を弄んだのだ、これに罪が無くて、なんだというのだろう?
『最低だね』
 カヲルがそういうのも、もっともだった。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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