NEON GENESIS EVANGELION
Genesis Q':117
黒いコンバットスーツ姿で潜んでいたマユミだったが、今は姿を晒してじっと目を凝らし、天井を見つめていた。
「やっぱり揺れてる……、きゃ!」
派手に上下した震動に揺さぶられて、危うく整備点検用のタラップから落ちかける。
運が悪かった、としか言えなかった。
もし今日のショーアップとして用意された映像がオーロラで無かったら。
あるいはそのようなショーアップが無かったとしたら。
誰か、誰でも、異常なほど振幅をくり返している天井に気が付いただろう。
揺れる風船とは、すなわち萎み始めたゴム袋のことだ。
張り詰めていた天井は破裂はしない、だがたるんだ覆いは垂れ下がって来る。
総重量数千から数万トン。
その恐怖は計り知れない。
また、会場内はヒートアップしていたし、会場の外も遥か頭上のことになど気が付かない。
だから最初に騒いだのは、遠くのビルの人間だった。
●
「はぁ?、なに言ってんの!」
最初はそう言って取り合わなかった警備部であったが、やがていくつもの問い合わせに、三人ほど見回りに出かけた。
その中でも、最も早く異変に気が付いたのは、地下に回ろうとした初老の男であった。
「大変だ……」
味もそっけもない驚きようであったが、過度の衝撃は人からボキャブラリーを奪うものである。
「大変だ、消防に、違う、会場の人達を!」
そこに思い至ったのは、まあ誉められる、しかしだ。
会場内には十万人前後の人間がひしめいている。
外にはそれに匹敵する少年少女達が集まっている。
それだけの人間が巻き起こす混乱は?
ここでの不用意な放送は、限りなく避けるべきだったのだ。
だが彼らはやってしまった。
そのもっともしてはいけない、引き金を引くに等しい行為をしてしまったのだった。
●
この頃になると、流石に観客も異変に気が付き始めていた。
川を為すオーロラを見つめていた少女が、それが迫って来ている事に気が付いた。
『落ちて来る……』
ポロッと漏らした呟きが、周囲複数の人間と重なった。
ジリリリリ!
火災警報機が鳴った。
バン!
会場の全ての明かりが灯された。
ライトアップされていたステージが途端に白ける。
観衆が何事かと不安げに顔を見合わせた。
そして気が付いたのだ。
天井がたわんで、落ちて来ている事に。
悲鳴が上がった、恐れるように後ずさり、後は一気に駆け出した。
両開きの扉を押し開けようとする、その一瞬の停止が先頭の少年の命取りになった。
背中から押されるままに扉に張り付けられ、そのまま後に続いていた群集に飲み込まれ、下敷きになった。
事態はそれだけにとどまらない。
廊下に出た同数の男女は、肺を焼く黒煙に目をやられてよろめいた。
こすってもこすっても涙が滲み出てしまう。
息も出来ない。
またそんな躊躇も許さず、後方からなだれ出て来る人々に押しのけられてしまった。
これがテンマの言う罪である。
これだけの事態になると予測していながら、惨事になることを予見していながら、なにもせず、それが起こるのを見過ごした。
いや、待っていたのだ。
どのような結末に向かうのか、誰が終焉へと導くのか。
自らの好奇心を満たすために、主役でも脇役でもなく、観客になったのだ。
人の死すら、己の感動の糧とした。
命を弄んだのだ、これに罪が無くて、なんだというのだろう?
『最低だね』
カヲルがそういうのも、もっともだった。
続く
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
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Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
が制作しているパロディー作品です。
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