NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':119 


 こほこほと小さな咳が止まらない。
「マイ……」
 メイはマイの体を抱きしめて、胸に痛みを感じていた。
「メイぃ……」
 涙目で見上げる。
 メイは焦っていた。
(逃げるにしても……)
 ドームの構造は分からない。
 非常口も分からずに逃げ回り、煙に巻かれてしまうのは危険だった。
 逃げ惑った揚げ句の一酸化炭素中毒……、例え死なないにしても、いや、死ねないからこそ、その苦しみは避けたい。
(ドームを壊して、逃げる?)
 壁、あるいはガラスを壊して外に飛び出せば助かるかもしれない。
 だが周囲には消防が詰め掛けているかもしれないのだ、その様な派手な真似は……
 メイは知らない、ドーム中央は天井が破れたために、外は混乱のために、どちらにも逃げられる事を。
(サヨコ、どうして返事をしてくれないの?)
 いくら呼び掛けても反応がない。
 それはカヲル達の居る部屋に、特殊な結界が張られているためなのだが……
『誰か、助けて!』
 メイは力一杯叫んだ。
 対象もしぼらずに。
 そして。
『……誰?』
 冷静な返事が送られて来た。


「そんな、ことが……」
 カヲルはよろめいた。
 ここまで動揺することは珍しい、それだけテンマの語った話は衝撃的だった。
「わかるか?、生物は必ず生きる道を探り出す……、俺達『完成品』とは別に廃棄された何千と言う検体、その中には死の崩壊にさらされながらも、無限に近い修復能力を備えた者が居た、彼らは死ぬ事も出来ずに泣いていた」
 ミサトが殺した子供達のように。
「彼らは肉体の一部については完璧だった、無限に分裂する細胞、尽きる事ない血液、それを作り出す心臓、どの様なものでも見通す目、超合金ですら粉砕する拳、残像を残す速度で疾駆する足、部品として、彼らは完全だった」
「だからと言って」
「彼らは託した、仲間にな、生きてくれと託したんだ、中には拒絶反応で無念を抱いた者もいただろうな、だがああして、その結果、一人の『人間』が組み上がった」
「それが、あの……」
「追跡者、後藤だよ、後藤の本体は脳と神経程度だ、それが全てを統率している、あれにあるのは俺達への嫉妬だ、俺達完全体が、こうしてぬくぬくと生きている事へのな」
「だから、殺しに来たのかい?」
 はっとする。
「テンマ……」
「なんだ」
「浩一君は、僕達を守ると言ったね?」
「そうだな」
 今は姿は見えない。
「あれのことなのかい?」
 テンマは区切った。
「そうだ」
「なら、その始末を人に任せて……、君は言ったね?、どれだけぬくぬくと守られているのかと」
「なら、どうする」
「行くよ」
 キンと……
 一撃でガラスに切れ目が入った、ガラスは痛みに『身悶え』ると、ぐわんと歪んで道を開いた。
「倒すのなら、心臓を狙え」
 テンマは忠告した。
「あれが生物である以上、筋肉と言うチューブはポンプによって動かされている、全体がそれで死ぬわけではないだろうが、力は削ぎ落とす事は可能なはずだ」
「わかったよ」
 カヲルは宙へ身を躍らせた。






 高圧の電流が空間を歪ませる、その中で、後藤は腕を刃に変えていた。
 使徒は電気の竜巻を力場で遮断して襲いかかった。
 ガキン!
 振り下ろした鎌が後藤の刃と責めぎ合う。
 使徒によってえぐられた肩は盛り上がり、そこから別の腕が新しく生えた。
 これは槍型に尖っていた。
「死ね」
 後藤は見抜いていた、使徒は付属物であり、本体はマユミであると。
 使徒の肩をかすめて、槍はマユミに向かって伸びた。
「あ」
 マユミは避ける事も出来ずに、貫かれた、と錯覚した。
「危なかったね」
 知った声にハッとする。
「渚くん?」
 カヲルが立っていた。
 肩越しに微笑している。
「あんた!」
 突然の声に、カヲルはそちらにも振り返った。
「あすかちゃんかい?、久しぶりだねぇ」
 緊張感のない声を出す。
 その間も黄金の壁は、必死にえぐろうとする槍の攻撃に爆ぜていた。
「無駄だよ」
 カヲルは冷笑に切り替えて後藤を睨んだ。
「肉体の形状は変えられても、力の本質には至っていないのか」
 同時に、とマユミにも忠告した。
「物理的な形で斬り付けるのは、迫力はあっても効果に乏しいよ」
 例えばと腕を振り上げる。
「こう……」
 振り下ろす。
 それだけで後藤の体が袈裟がけにずれた。
「うっ、お!」
 どさりと、右肩から左脇へと入った線に沿って落ちた。
「さあ、これで……」
 カヲルは剥き出しになった心臓に止めを刺すべく、金色の光を放った。
 弾けた。
 力が、弾かれた。
「まさか!?」
 カヲルは目を見張った。
 金色の壁が弾いたのだ。
「誰が、使えないと言った」
 後藤が喋った。
 体がずしゃりと踏み出した。
 右腕で胴体を持ち上げ、自分の上に乗せる。
 うねうねと筋肉が触手の様に蠢いて絡み合い、溶け合った。
 接合していく。
 膨らむ気配にマユミは叫んだ。
「危ない!」
 後藤の内側から、憎悪が溢れた。






 ミヤは震えていた。
 立とうとする足も挫けて膝をつく。
「ミヤ……」
「離して!」
 ミヤはサヨコの手を振り払った。
「あ……」
 そして目が丸くなっているサヨコに、自ら傷つく。
「ごめんなさい……」
「いいのよ」
 サヨコは許した、悪いのは……、自分だからだ。
「忘れていたわたしがいけないのよ、だから……、わたしは、甲斐さんの元に居たのに」
 苦いものを思い出したのか、唇を噛み締める。
 化け物。
 そう蔑んだのは誰か?
 自分達を作り出した創造主だ。
「人に知られてはいけないはずのわたし達が、好きにやり過ぎた、もっと……、注意してなくちゃ、いけなかったのに」
 その後悔は遅いか早いか?
「サヨコ」
 ミヤは声を振り絞った。
「あたしを、シンジ君の所へ連れていって」
 困惑するサヨコだったが、ミヤの縋るような目に、頷いた。


「レイ、大丈夫?」
 レイは青い顔をして、植木の側に腰掛けていた。
 見上げる、ドームがある、見ていると何かを感じられて、加速度的に吐き気が増した。
(この感じ……)
 レイの知らない事だが、それはシンジがオーストラリアで感じたものに非常に良く似ていた。
 ミヤが、シンジの血を飲んだ時の、共鳴に。
(シンちゃん……)
 アスカが苛立ち、ミズホも不安がっている。
 まるで他人事の様に見えるのは何故か。
(え?)
 意識が断続的に暗転する。
 フッと視界が暗くなり、戻った時には人の流れや立ち位置から、数秒から数十秒は気を失っていたと判断できた。
『助けて!』
 知った声が聞こえた。
 それを最後に、レイの意識は、『主導権』を奪われた。






「カヲル君……、山岸さん」
「なにやってるの、シンちゃん!」
「マナ……」
 シンジはギターを奪い取られた。
「逃げるの、良い?」
「え?、でも……」
「ここにいても何も出来ない!」
 ぴしゃりと口にされて、シンジは頷いた。
「そうだね……」
「じゃあ」
 行こう、と促されて駆け出し、シンジは一歩目で柔らかいものに鼻をぶつけた。
「うわ!」
 どたっと倒れる。
「あら」
「え?、あ……」
 見上げると、赤い顔をしたサヨコが胸を抱き隠していた。
「ごめんなさい、大丈夫?」
「シンジ君!」
「あ、サヨコ、さん、秋月さん……」
 手を借りて立ち上がる。
「良かった、無事で」
「え?、あ!?」
 涙ぐんだミヤに抱きつかれて混乱する。
「ちょっとシンちゃん!、なにやってんの!!」
 炸裂したのはマナの嫉妬であった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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