NEON GENESIS EVANGELION 
 Genesis Q':123 


 惨澹たる惨状の部屋で、シンジは朝日を迎えていた。
「勝った……」
 何が、かは分からないが、部屋の中央、布団の上には巨大な白い物体が転がっていた。
 ウサギに見えるのだが、本来顔があるであろう部位からは、黒い尻尾が生えている。
 掛け布団は部屋の隅に、机の上の本や化粧品の類は散らかり、元どおりに片付けるだけでも、一日仕事になりそうな雰囲気である。
 これで襖が破けていないのは、正に奇跡と言えるだろう。
「ふぅ……」
 シンジはそろりと起さない様に部屋を出た。
 後ろ手に襖を閉めて、柱にもたれ、安堵の息をつく。
 と、視線を感じて顔を上げた。
「あれ?、アスカ、レイ、帰ってたの?」
 シンジは本当に、天然状態で訊ねてしまった。
 いつもならもう少しは注意力を発揮しているはずだろう、やはり疲れているのか、気が散漫になっていた。
「何処行ってたの?」
 あくまでも爽やかに問いかける。
 疲労の見える隈を隠しもせずに。
 そこに至って、ようやくシンジは二人の様子がおかしいことに気が付いた。
 アスカとレイは、それぞれの部屋に襖に手を掛けたまま、強ばった顔でシンジを見つめていた。
 シンジの着崩れた寝間着を凝視して。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'123

「変」


 本日は天候にも恵まれて、空には青空が広がっていた。
 春前の冷たい風が心地好い、ここ、第三新東京市立第三高等学校には、休みだというのに多くの生徒が登校して来ていた。
「薫ぅ!」
 その中の一人が手を振って呼んだ、良く見れば子供達の制服はばらばらだ。
 今日は受験の合格発表の日なのだ、体育館の壁一杯に、合格者の番号が列挙されていた。
「ほら行くよ、薫!」
「ちょ、ちょっと待って……」
「はいはい、ちゃんと受かってるから、心配しないの」
「え?、どこ?、番号見つからないの!」
 抗うようにじたばたしているのはナカザキ薫であった、受験票を握り締め、必死に人垣の向こうを見ようと爪先を立てている。
「1192……、1192」
「あんたの背じゃ見えないって」
 番号は下の方にあるらしい、かと言って前に割り込んで行くには勇気が必要な感じだ。
「ほら!、あっちで書類だか何だか貰って帰れってさ」
「ああん、もうっ、和ちゃん!」
 恨めしげな目をして薫はむくれた。
「なによ?」
「もう!、人がせっかくドキドキしながら探してるのに」
「あんたに合わせてたら苛つくの!、とろくさいんだからもう、ほら行くよ!」
「ああー!、もうちょっと、せめてこの目で確認させてよぉ!」
 暴れる薫を引きずっていく。
 こういう扱いは慣れたものだ。
「今日は付き合ってる暇ないの!、遅れたらどうするのよ」
 薫はキョトンとした。
「……何か約束してた?」
 呆れる和子だ。
「あんたねぇ……、ほんっとカヲル先輩のこと以外は惚けてるんだから……、ってそっちでも惚けてるか」
 むぅっと頬を膨らませた薫の頭に手を乗せて、押えつけるようにぐしゃぐしゃ弄る。
「これから中学校に戻って、先生に報告するんでしょうが!」
「髪がばさばさになるじゃない、もう!」
「カヲルさんに見せるまでに直せばいいでしょ、どうせ、おめでとぉー、良くやったね、これは僕からのご褒美だよ、きゃーとか考えてたんでしょ?」
 真っ赤になって、口をパクパクと開け閉めする。
 どうやら図星を差したらしい。
「どうして」
「って、ほんとに考えてるとは」
 人差し指と親指で作ったL字を顎に当ててにやりとする。
「で、その妄想は何処までいっちゃったのかなぁ?、ほっぺにちゅー?、おでこにちゅ?」
「和ちゃん!」
「はいはい、ほんとのこと言われたからって怒らないの、受かったみんなでカラオケにも行くんだからね」
「え〜〜〜?」
 薫は遠慮がちに身を引いた。
「あたしは良いよぉ、そういうのは」
「だぁめ!、同窓会とかあったらどうするの、顔出しにくいからって逃げててもしょうがないでしょ?」
「でもぉ」
 脅えた目をして顔を伏せる。
「だぁいじょうぶだって、みんな遊んでくれるから」
 ね?、と薫の手を引いた。






「しかし、なんだね」
 カヲルは苦笑して部屋を見渡した。
 モニターがあって、その下にアンプがある。
 手元のテーブルにはマイクが二本とリモコンが一個にメニューが一枚。
 天上には角隅にスピーカー。
 実に典型的なカラオケボックスの個室だった。
「急に『声』を使って呼び出すから、何かと思って来たんだけどねぇ」
 苦笑を堪えて、隣を見る。
「話しでもあるのかと思えば、そんなに勉強を見て欲しかったのかい?」
 ミヤは顔を上げた、何処から持って来たのか、瓶底眼鏡を掛けている。
「だってテスト近いのよ……、合格ライン越えないと、大検受けられなくなっちゃうし」
「受けられないって事は無いだろう?」
「ううん、受けさせてもらえないの、落ちるって分かってるようじゃってね?」
 ミヤは再びノートに向かって顔を伏せた。
「みんなと勉強会ってことになるとねぇ、どうしても遊んじゃうから、でもカヲルって結構勉強できるんでしょ?」
「出来ないことは無いけどね」
 耳をすませる。
 隣からの歌声が聞こえた、多少調子が外れている。
「遊ばないって事を考えたら、もうちょっと場所を選ぶべきなんじゃないのかい?」
 少なくともカラオケボックスと言うのはどうだろうか?
「なぜまた、こんな所に?」
 ミヤは参考書の中身をノートに書き移しながら答えた。
「だって大学とか予備校の近くの個室図書館って、一時間500円も取るんだもん、それにあたしって静かな場所って駄目みたい、人の気配がしてる方が落ちついて集中できるの、安心できるのかな?」
「それで、なのかい?」
「うん、丁度良い感じにうるさいし、一人になれるし、それにカラオケっていくらか知ってる?、一人一時間80円よ?、ここってワンドリンク制だけど、おかわり自由だから幾らでも粘れるのよね」
 カヲルは背もたれに体を預けて伸びをした。
「それなら、ミヤの部屋って選択肢は無かったのかい?」
 ペン先を止める。
「……マイとメイが居てもいいならそれでもいいけど」
 カヲルは目だけ横向けた。
「まだこっちに居たのかい?」
「うん、向こうに帰り辛いみたい、どうしても甲斐さんに聞いちゃいそうだし、でも答えてくれなかったり、嘘吐かれるのが恐いって思ってるんじゃないかなぁ?」
 シャーペンの頭を齧った。
「それにね?、サヨコも何処かに行っちゃって……、もう完全に行方不明よ、何処に行っちゃったんだろ?」
 カヲルは溜め息混じりに言った。
「サヨコは何処にでも行けるからねぇ」
「うん……、今度のことはちょっとショックだったみたい、ねぇ、そっちはどう?」
 軽い調子の問いかけに、カヲルは苦笑して答えた。
「レイとアスカちゃんがうるさいよ」
「そう……」
「まあ、知りたくても答えは無いからね、納得できなくても、するしかないよ、うやむやになるのは嫌だろうけど、放っておけばその内諦めてしまうと思うよ?」
 ミヤは嘆息した。
「なんだかねぇ……、急に物事が動いちゃって着いていけないって感じなのよね」
「それは僕もそうだよ」
「カヲルでもやっぱり?」
 意外そうな目を向けてから、ミヤはカヲルと同じように体を伸ばした。
「あ〜あ、テンマじゃないけど、色々わかればいいのに」
 そのままぽてんと、カヲルの首元に倒れ込む。
 カヲルは笑って肩を抱いた。
「それはそれですっきりとするだろうけどね……、でも何でも見えるって事はそれだけ余計な事も見えてしまうって事さ、知りたくない事までね」
「それはそうだけど」
「まあ、僕達は僕達の生活が維持できるように身構えているしかないってことさ」
 顎で参考書を指し示す。
「う〜、なぁんでこんなに頭の作りが違うんだろ?」
 ミヤはテーブルに突っ伏した。
 目の前にあるシャーペンを、ふうっと吹いて、憂鬱に転がす。
「そんなに辛いって事はないだろう?」
 がばっと起き上がった。
「辛いって!、もう寝る時間も無くなってくんだもん」
「でも止めないのかい?」
「だって、そのためにこっちで頑張ってるんだし」
 肩をすくめる。
「それじゃああべこべだ」
「あべこべ?」
「違うのかい?、こちらで楽しく暮らしたいから来たのに、苦しみに喘いでる」
 うっと呻くミヤをそそのかす。
「そんなに辛いなら……、ズルい手でも使って見るかい?」
「え?」
 カヲルは妙に真剣な顔になった。
「簡単な事さ、ミヤは普通にテストを受ければいい、ただし答えを考える必要は無いよ、問題を『声』で教えてくれれば、僕が答えを教えてあげる」
「カヲル……」
「まあ、図形問題は少々てこずるかもしれないけどね」
「それは……、まあ、声って言ってもイメージを直接送れるから、でも」
「ほら迷ってる」
 カヲルは笑った。
「本当は、そうやって苦しんでるのも面白くて堪らないんだろう?、ただ楽をして面白い部分だけ味わいたいのなら、もっと簡単な方法が幾らでもあるのに、そう言った憂鬱さにも浸って、自分に酔って、遊んでる、違う?」
 ミヤは赤く染まった。
「そうかも……」
 カヲルはうつぶせになった頭をポンと叩いて立ち上がった。
「何処行くの?」
「トイレ、ついでにジュースを貰って来るよ」
 ドアを開けると、有線放送の曲がうるさく流れているのが耳に入った。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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