かろうじて始業のベルに救われたムサシであったが、その日は結局、第二次アタックをかけられないまま、戦略的撤退を余儀なくされることとなってしまったのだった。
「計画は完璧のはずだったのに」
よって愚痴は延々途切れることがない。
引っ越しの段ボール箱も散乱したままの狭苦しい部屋で、ムサシは頭を抱えていた。
「どうしてあの子が、こんなとこに居るんだよ!」
「さあ?」
丸刈りの少年がチップスを咥えたままで答えた。
ベッドに横になっている、ワンルームだというのに布団は二人分、雑魚寝なのだろう。
マナの部屋……、と思っているマユミの部屋を見たムサシにとっては、この不条理も感情の高ぶりに一役買っていた。
「なぁ、おかしいじゃないか、マナが知ってるってことは、上に情報上がってるって事だろ?」
「まあね」
布団に寝っ転がったままそっけなく返し、読んでいた漫画のページをぺらりとめくった。
真面目に聞くつもりはないらしい。
ムサシは怒鳴った。
「じゃあなんで現場に情報が来ないんだよ!」
「こっちに就いたばかりだからじゃないの?」
「んなわけあるかよ!」
ガンッと蹴り跳ばしたのは端末機だ、それも一秒間に数万回のコード変換を行う特注の。
「メインの仕事はあっちの監視だろう!?、情報も無しに守るもんを守れるかよ!」
溜め息が漏らされる。
「監視って言ったってさ」
「なんだよ!」
「何を監視するのか、まだはっきり分かってないじゃないか、分かったのは、あの子もこの街に居て、保護対象の一人としてこっちの仕事が増えそうだってだけでしょ?」
どっかりと腰を下ろす。
「あ〜もぉ!、ケイタ、代わってくれよ」
「やだよ」
冷たい。
「だから言ったんだ、仕事中にまずくないって」
「いつの話しだよ!」
「あっちでだよ」
それはミヤにちょっかいを出そうと決めた事に対する皮肉だ。
罰が悪そうに答える。
「だから……、考え直したんだろうが」
ケイタはようやく本を読むのをやめた。
「ちょっと遅かったって事だよね」
からかい口調にやり返す。
「お前だって、顔バレてるからって頭丸めたくせに」
ケイタは次の雑誌を手に取った。
ケイタとて、某ドラマの関係で知名度の点ではシンジ達に近いものがあるのだ。
「だからどうしようかって思ってるんじゃないか」
その愚痴は、なんでもかんでも仕事だと言って押し付ける、上に対するものだった。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'127
「女神転生」
一方、女性陣は女性陣で集まっていた。
「ま、ただの女の子じゃないと思ってたけど」
ミヤの言葉に、マナは苦笑した。
「ムサシと色々あったんだ?」
「あったって言うほどのことじゃないけどね」
「ふうん」
財布の中身を考慮してかも知れないが、マナとミヤ、二人はファーストフードショップに席を設けていた。
「まあ、あの場所に居たんだもんね」
ミヤのジャブにマナは返す。
「そっちこそ、急に出て来たくせに」
それはドームでのことだ、ミヤは目を細めた。
「ねぇ……、どうして、ムサシ君と知り合いだって分かったの?」
気まずげに告白する。
「居たの」
「え?」
「オーストラリア、あたしもね」
ミヤは息を呑み、それを吐くのに苦労した。
「……そう、そうなんだ」
「けど、まあ……」
ぽりぽりと首筋を掻く。
「何血迷ったんだろ?」
「え?」
シェイクのストローを咥えて遊び、マナは気まずげに言った。
「こう言っちゃなんだけどね、訓練メニューって別々って事は無かったの、当然、人工呼吸でキスとか、シャワールームは共用だとか、時間も決まってたから一緒に浴びてたし、部屋も雑魚寝、もう目の前に居るのも気にしないで着替えてたのよね、でないと時間とか、規則を守れなかったし」
想像を絶する軍隊生活だったのだろう。
「それが急に、ミヤちゃんに振られてから、あんな風に言い出したのよね」
「意識し出したってこと?」
にたらと続けるミヤ。
「マナが女の子になったからじゃないの?」
「は?」
「浩一君って、結構かっこいいんじゃない?」
ブゥッと吹き出す。
「ごほっ!、なんで、どうして!?」
「こっちにだって情報源くらいあるもん」
職業病なのか言葉の裏を読むマナに、ミヤは舌を出して教えてやった。
「そんなに深刻そうにしないでよ、レイの事よ」
「え?、ああ、なぁんだ」
ほっと胸を撫で下ろす。
「でも焦ったって事は、やっぱり?」
「違うっ!、浩一じゃなくて、あたしが好きなのは……」
「シンジ君?」
「今の所はねぇ」
予備に買っておいたコーラにストローを刺すマナだ。
「倍率高過ぎて、苦戦気味なんだけど」
「諦めればぁ?」
「それがそうもいかなくて」
むぅっと顔をしかめて言う。
「シンちゃんは良いのよ、これからもお友達で居よう、なんてことになっても、ほんとに友達で居てくれそうだから」
「じゃあ、何がいけないわけ?」
「嫉妬深いでしょ?、三人とも」
ああ……、と頷く。
「そりゃまあ、そうね」
「うん、シンちゃんが浮気できるとは思えないし、でもただ会って話し込んだだけでも、浮気したなって絶対勘繰るんじゃない?、あの三人は」
二人は、ふふっと軽く笑み合った。
「そうね、あたしもかな……、知り合いって言っても、友達かどうか分からないもんね」
「そうでしょ?、シンちゃんなら友達だって言ってくれるでしょうけどね、アスカ達とそこまで仲が良いわけじゃないでしょう?、シンちゃんにじゃれついてると絡んで来るから、仲が良いようには見えるんだろうけど……」
ミヤは傷つけないように訊ねた。
「寂しい……、わけ?」
微笑する。
「ちょっとねぇ……、一緒に遊びに出ない?、旅行に行こう?、なんて言えないじゃない、友達何人居るって聞かれて、答えられる?」
ミヤも難しい顔をした。
「数えられない……、かな?」
「でしょお?、これってすっごく寂しくない?」
「でも……」
身を乗り出す、唇を下で湿らせたのは、それだけ緊張感を強いる質問であったからだ。
「公私混同……、ってことにはならないの?」
マナはその質問に、ニヤリと返した。
「少年兵の大半って、ジャイアントインパクトで出生不明になった子供達なの、孤児院や施設が満杯で引き渡されたってわけ、兵役義務はあるんだけど、一応十七、八で終わるのよね」
はたとする。
「ずっるーい!」
「出会いのチャンスは友好的に、ね」
片目をつむる。
「そう言うわけだから、そっちと違ってもうすぐ自由なわけ、でもこの調子だとそっちへの監視って続きそうじゃない?、なら人に任せるよりも、ね」
ミヤは心配した。
「でもそれって……、シンジ君に」
友達を監視するというのはと暗に責めたのだが、マナはあっけらかんとして言った。
「大丈夫よ、シンジだってとっくに知ってる事なんだし」
ミヤは驚いた。
「そうなの?」
「そうなの、詳しいことは知らないはずだけどね、それでも普通に構ってくれるんだもん、そう言う人だから、ミヤちゃんとだって仲良く出来るんじゃないの?」
「かもね……」
マナはズズッと、最後を飲み切った。
「だから、ね……、ムサシって鬱陶しいわけ、人がせっかく気軽に楽しんでるのに、どうしてむさ苦しいの相手にしなくちゃなんないわけ?」
ミヤは苦笑した。
「同業だからじゃないの?」
「そりゃねぇ……、あたし言ったのよ?、ミヤちゃん騙して近付いて、後どうするつもりだったんだって」
「え?」
「こっちは仕事が仕事だもん、絶対に付き合えないじゃない、手紙のやり取りもできない、住んでる場所も教えられないのに……」
複雑な顔をするミヤだ。
最終的に離れて行ったのは自分なのだから。
ミヤは気付かれないように話を逸らした。
「じゃあ、マナは良いわけ?」
「あたし?、う〜ん、まあ定住しての仕事だし、正体バレてるし、隠す事も無かったし、知られて困るかと思ったけど、『向こう』は初めから知ってたらしいし、第一、あたしの『上役』、向こうと情報の交換し合ってるんだもん、シンジがこだわらないでくれるんなら、どうでも良いんじゃない?」
ミヤは呆れた。
「都合の良い話しね」
「おかげで随分助かってる」
マナはそう言って、朗らかに笑った。
ぼうっとしているからだろう。
なんとなくその頭を見ていると、疼くものがあってアスカは動いた。
ぺしっと一撃。
「なぁにぼけぼけっとしてんのよ!」
「え?、あ、ごめん……」
シンジはレイとミズホの姿が見えない事に気が付いた。
「あれ?、二人は……」
「ミズホは皿洗い、レイはお風呂よ」
「そっか……」
ぼりっと頭を掻いた。
「いや……、秋月さんとマナ、凄かったなって」
「ふぅん?」
「ムサシ君、あれからどうしたんだろう?」
「知らないの?」
「うん……、遅刻しそうだからって、教室に引き上げちゃったし、その後は何も無かったしね」
アスカは呆れた。
「あんたも心配症ねぇ」
ぶすっくれる。
「だってさ」
「そう心配しなくても大丈夫よ」
「え?、なんでさ」
「すっごく青い顔もしてたもん、あいつ」
「あいつって……、ああ、同じクラスだっけ?」
「そうよ、ちょーっと昔言い寄ってた相手が出て来たからって、おたついちゃってさ」
「そうだね……」
シンジは唸った。
「あんなに慌てること無いのに」
そんなシンジにジト目を向ける。
「なぁに言ってんのよ、あんたも似たようなもんじゃない」
「え?」
何を考えたか、アスカは寄り添い座ると、シンジの肩に頭を預けた。
「アスカ?」
「あーーー!」
背後からの声にぎくりとする。
「ミズホ!?」
「ずるいですぅ!」
エプロンを咥えて涙ぐむミズホに、シンジはなるほどなぁ、と納得してしまった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
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Genesis Q
の
nary
さんに許可を頂いて私
nakaya
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