「待てこのぉー!」
 元気の良い声、下校する生徒の波を二つに分けて、腰だめに銃器を持った女の子が駆けて行く。
 いくらエアガンと言ってもガトリングガンになると反則だろう。
 ばららららららららっと、実に景気の良い音が木霊した。
「誰だぁ!、校庭でBB弾ばらまいてる奴はぁ!」
 そんな先生の注意もお構いなしだ。
 一日中逃げ回っていたムサシであったが、ついに鬼気迫る霧島マナの手によって追い詰められた。
「死ねっ、死ぬのよ!」
「あだだだだだだだだ!」
 校舎の角に追い詰められての連射は堪える。
「ちょっと待てって!」
 ムサシは身を小さくしながらも、涙目になって訴えた。
「俺が何したって言うんだよ!」
「何?、何したかって!?」
「そうだよ!」
 ふっふっふっと俯いて笑う、前髪によって生み出された影の中で、彼女の瞳は危険な輝きに満ちていた。
「これよ!」
 後ろ手を回し、何処に隠していたのか腰から何かを抜き出した。
 反射的に銃かと身構えるムサシ、だが、抜いた物は単なる小型の携帯端末であった。
「なんだよ、それがどうしたって……」
 ムサシの言葉は、後半で飲み下された。
「これって!?」
 かぶりつく、小さな液晶画面いっぱいに表示された一枚のフォト、窓越しのスナップ、布団に巻き付くあられもない少女の寝姿。
「この色気の無さ!、マナ!?」
 グシャ!
 ガトリングガンのバレルは、見事ムサシの頭と相打ちになった。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'128

「真・女神転生」


「どうしてあたしの写真が校内ネットで流れてるの!」
「知らないって、俺はほんとに!」
「嘘!、人の部屋に忍び込もうとしてたじゃない、あの時ね!?」
「だから!、俺じゃないって」
 そんなこんなで人の目を引きながら、二人が校庭を駆けていく。
 そんな姿をぼうっと眺めていたシンジに、カヲルが苦笑気味の言葉を掛けた。
「どうしたんだい?、シンジ君」
「カヲル君……」
 突っ伏し気味の頬杖を崩す。
「いや……、仲が良いなぁって思って」
 カヲルはくぐもった感じの笑いを漏らした。
「呑気だねぇ」
「そうかな?」
「そんなことだと、取られちゃうよ?、彼女」
「マナを?」
 シンジは首を傾げた。
「別にマナとは、そんなんじゃないんだけどな……」
 そのシンジの返事に、奇妙に口を歪めるカヲルである。
「それは……、彼女の前では口にしない方が良いね」
「え?、どうしてさ」
「本気で聞いてるのかい?」
 気まずく答える。
「分かってる……、けどさ」
 シンジは言い訳を試みた。
「そんな風に機嫌取ってたら、今度はアスカが怒るんだ……、きっとだけどね」
 目が細まる。
「その想像は……、当たってるだろうねぇ」
「でしょ?、付き合う気は無いんだ」
 珍しく、シンジははっきりと言い切った。
「それに、思い出したんだ……、前にマナに言われたこと」
「何だい?」
「付き合うとか……、そんなんじゃなくって、もっと気楽で、分かり合ってる様な、そんな友達になりたいって」
 カヲルは微笑む。
「でも彼女、忘れてるんじゃないのかい?」
「そうかもしれないけどね」
 机の上で伸びをする。
「僕も……、あんな感じなのかなって思ったら、ちょっとね」
 カヲルは呟いた。
「他人の振り見て、我が振り直せ、か」
「だからって、どうして良いんだか分かんないんだけどね」
 シンジはまたも、突っ伏した。




「はは……、で、俺の所に来たってわけか」
 ケンスケは眼鏡を掛け直した。
「僕が来たかったわけじゃないんだけどね」
「俺は知りたいんだよ!」
 屋上、昇降口の上である。
 シンジはむんっと拳を握るムサシに困り、ケンスケを拝んだ。
「頼むよケンスケ」
「まあ、校内ネットでばら撒かれたってんなら、調べるのは簡単だけどな……」
 ちなみに何故ケンスケが放課後に残っていたかと言えば、もちろん、商売のためである。
 ケンスケは携帯端末にジャックを繋ぐと、立ち上げた、どうやら無線通信仕様らしい。
「これで生徒会経由で繋いでっと……、出たぞ」
 ザッとサーバーへのアクセス記録が表示される。
「これで探してっと……、変だな」
「何やってるんだよ!」
 ムサシは奪い取ってキーを叩いた、検索する、しかし。
「なんだよ、これ」
「な?、おかしいだろ?」
 ムサシは顔をしかめた。
「ファイルのアップ者がスーパーユーザー権限で入ってる、じゃあ先生か?」
「いや、ユーザーが特定できないパスは発行されてないはずなんだよ、どうしてこんなのが……」
 ケンスケは本気で首を捻った。
「俺に対する挑戦……、か?」
「そんな」
 引きつるシンジである、が、ケンスケは本気のようだった。
「こんな犯罪そのものの手段まで使って、俺のルートを荒そうって言うんだ、これが挑戦でなくて何なんだよ?」
「ルート?」
 ケンスケは揉み手しかねない勢いでムサシに寄った。
「これだよこれ」
 ぴっとワンキーで、表示が『商売用』のカタログに変更される。
「なんだよ……、これ!?」
 驚くムサシにニヤリとする。
「マナ!?」
「え?、マナのもあるの?」
「もちろん、いいバイトになるからマージン一割寄越せばってOKだってさ、ほんと、惣流と違って優しいよな、そういうとこ」
「そう言う問題じゃない!」
 ムサシはいきり立った。
「どういう事だよ、これ!」
「どうって……」
 胸倉を掴まれながらも眼鏡をくいと持ち上げる。
「見たまんまだよ、一枚百円、大判刷り、ポスターサイズも受け付けてます」
「ますって、この……」
 ぐっと溜めてから言うムサシである。
「このNo.121!」
「毎度!、いやぁ、良いお得意さんになってくれると思ったよ」
「他には無いのか?」
「はいはい」
「おおっ、これは!」
「ムサシ!」
 ガン!、っと蹴り下ろされた踵がムサシの頭頂部に突き刺さった。
「その声は……、マナ?」
 だくだくと血を流しながらも、振り返らないムサシである、引きつった顔は笑みを形作っている。
「どうして、ここに……」
「何処に行ったかと思ってカヲル君に教えてもらったのよ!」
「カヲル君」
「やあ、シンジ君」
 マナの後から梯子を登って来た。
「それより霧島さん」
「なに?」
「その位置だと、ケンスケくんにもパンツ見えてるんじゃないのかい?」
「なに!?」
 振り返ろうとしたムサシは横からの衝撃に吹っ飛んだ、マナが身を捻るようにして残していた足を蹴り込んだのだ。
「あ〜〜〜〜〜〜……」
 下からドスンとグキッと言う音が同時に聞こえた。
「お〜い、大丈夫……、なわけないよな」
 ケンスケは肩をすくめると、覗くのをやめた。
「何もそこまでやんなくても」
「なぁんか嫌なの」
 マナは膝とスカートを一緒にして、はたいて言った。
「相田君って、カメラ持ってない時は安全なのよね、シンちゃんは論外だし」
「カメラって……」
「論外って……」
 二人してちょっと傷つく。
「だって、相田君、覗くより先にカメラ構えようとするでしょ?、だから間一髪で大抵間に合うんだけど」
「そーだったのかぁーーー!」
 やたら大袈裟に嘆きを上げた。
「俺は、俺はそんな所で損をしていたのか」
「目の保養はさせてあげてるんだから良いじゃない」
「うっ、……、いや、しかし瞬間の一枚は永遠に止めるからこそ素晴らしいわけで」
「でも」
 素朴にシンジが告げた。
「そんなのしょっちゅう撮ってたら、アスカが……」
 青ざめるケンスケである。
「そ、そうだよな、やっぱ人として最低限の節度は保って」
「あったの?、そんなの?」
 冷たいマナである。
「さっきの写真、何処で撮ったんだか教えて欲しいんだけど?」
「え?、そんなに凄かったの?」
「見なかったの?」
「見えなくて……」
 何故、と聞く必要は無いだろう、ムサシとケンスケが頬を引っ付けて代官と越後屋状態をしていて邪魔だっただけだ。
「なぁんだ、シンちゃんなら生で見せてあげるのに」
「いいよ、別に……」
「いらない?」
「後が恐いからね」
 マナは、おやっと言う顔をした。
「シンちゃん、ちょっと変わった?
「え?」
 はにかんで言う。
「前なら、赤くなって必死に否定してたのに」
「ムサシ君を見てて分かったからね」
「なに?」
「必死になるから、余計にからかわれるんだって」
「え〜〜〜?」
 指を咥えるマナである。
「面白くなぁい」
「面白くなくていいよ」
 シンジはカヲルを見上げた。
「カヲル君は、どうして?」
「それがね」
 ぷぷっと笑って暴露する。
「髪の長い子が来てるって教えてあげたら、急に青くなって……、あれがカヲル君の薫ちゃん?」
 はぁと溜め息。
「彼女は遠慮が無いからねぇ、視線が痛いよ」
 ケンスケが愚痴った。
「どいつもこいつも、春を満喫しやがって」
「拗ねないでよ」
「拗ねてないよ!、ちくしょう、俺だって」
「あ、じゃあデートしてあげたのに、そっちの奢りで」
 さっきまで居なかった第三者の声に驚き、ケンスケは声を出した。
「和子ちゃん」
 肩を落としたケンスケに、はぁいっと手を振る。
 どうやらかなり奢らされているようだ。
 一方、カヲルはカンカンと梯子を登って来る音に顔を硬直させ、脂汗をだらだらと流していた。
 それも、笑みを張り付けたままでだ、彼女が来たと言うことは……
 対になっているもう一人も、そこに居ると言うことなのだから。
(井戸の底からお化けが出て来るというのは、きっとこんな感じなんだろうねぇ)
 そこはかとなく、恐怖に陥るカヲルであった。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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