(あたたかい、ここは?)
 ふわふわとした感覚に虚ろに思う。
(良い匂いがする……、これは何?)
 さらりとしたものが頬の下に流れていた。
 すうと深く、香りを楽しむ。
(これ知ってる、アスカの匂いだ)
 その瞬間、シンジの意識は覚醒した。


Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'129

「このHANA咲くや」


きゃーーー!
 ぱーん!
 響く絶叫轟く平手。
 ビリビリと襖が震え、みんなも何だ何だと起き出した。
「スケベ、馬鹿、変態!、何考えてんのよ、えっちぃ!」
 パンッと襖が閉められる、覗き見た皆は呆然と転がっているシンジに顔を赤らめた。
 素っ裸だった。
「あらま、シンちゃん、大胆」
 言ったのはマナだった。
「きゃー!」
 叫ぶ薫、だが顔を被う両手の指は開いている、まん丸の瞳が覗いていた。
「シンジのって……、そうなんだ」
 これはミヤだ。
「ふわっ、ふわっ、ふわっ」
 慌てているミズホ、真っ先に問い詰めたのはレイだった。
「シンちゃん、何してたの!」
 びくりとして、シンジは己を取り戻した。
「え!?、あ、うっ……」
 最後にくぐもったのは、吐き気を堪えたからだった。


「う〜〜〜」
 とりあえず服を着たシンジであるが、真っ青になって膝の上にバケツを抱いていた。
「まったく、何考えてんのよ、この馬鹿!」
 アスカの罵声に頭を痛める。
「お願いだから、怒鳴らないで……」
「怒鳴らないでぇ?、パンツまで脱いで、人の布団に潜り込んで何するつもりだったのよ!」
「さあ?」
「さあぁ!?」
 ピクピクと引きつる、取り敢えずレイが止めた。
「で、アスカは?」
「は?」
「アスカは無実なのかって聞いてるの」
「何よ!、あたしが引っ張り込んだとでも……」
 ジトッとした目がこれだけ集まると引いてしまう。
「ま、まあ、それは置いとくとして」
「僕としては、実に聞きたい所なんだけどねぇ」
「なによ!」
「いくら酔った勢いとはいえ、シンジ君が自分から迫るなんてことは考えにくいよ、考えられるとしたら、それはアスカちゃんが大虎になって引っ張り込んだ、そうじゃないのかい?」
「あたしじゃないわよ!」
「信用できませぇーん」
「ミズホ!」
「やっぱ、日頃の行い?」
「悪いんだ、アスカさんって」
 外部の人間が勝手な事を言った。
「あんた達は黙ってなさいよ!」
「そうはいきませぇん、あたしだって、シンちゃんの貞操がどうなったか気になるもん」
「うん」
「あんた達には関係ないでしょ!」
「そう思ってるのはアスカだけ」
「うん」
 くっと歯噛みするアスカである。
 シンジは青い顔をして、拳を振るわせているアスカを見上げた。
「あの……、ごめん」
「何がよ!」
「いや……、良く分かんないけどさ」
 二日酔いが余程辛いのだろう、シンジは深く考えもせずに呟いた。
「寝ぼけて……、抱きついちゃったし」
 ぴくくぅっと反応があった。
「あったかかったな」
 手をわきわきとする。
「すべすべしてた」
「馬鹿!」
 だがアスカの焦りは遅かった。
「まさか……」
「アスカさん!」
「アスカも!?」
 愕然とするレイとミズホだ。
「やるぅ」
 と唇を吹き、マナはアスカの髪を一房取った。
「何よ!」
「さっきから気になってたんだけど、アスカ臭くない?」
「へ?」
「なんか生臭いの」
「ああ……、シンジが涎たらしてたのよ!、おかげで髪がべったべた」
 と首元の髪を掻き上げるアスカにマナは目を細めた。
「それって……、髪じゃなくて、首なんじゃないの?」
「は?」
「あ」
 ミヤが赤くなって言った。
「それって……、舐めてたとか」
 ぷしゅーっと蒸気が噴き上がった、薫だった。
「ああっ、薫ちゃん、大丈夫かい!?」
「う〜〜〜ん」
 パタンと力無く倒れたままだ、カヲルが抱き上げてもいつもの反応は帰って来ない。
「のぼせたの?」
「みたいだねぇ」
 カヲルは器用に、抱いたままで肩をすくめた。
「流石に刺激が強過ぎたみたいだよ」
「はぁ!?、でもいっつも、あんたと……」
 首を捻るアスカに苦笑いを浮かべる。
「猪突猛進と言う言葉を知ってるかい?、自分の時には気が付かない事もあるものさ」
「はぁ……」
 そのまま下に連れていくカヲルを見送る。
「で、アスカ」
 ポンとレイが肩を叩いた。
「白状して欲しいんだけど」
「何よ?」
「どこまでしたの!」
「はぁ!?」
「シンちゃんを襲ったの?、どうなの!」
「そうですぅ!」
「なんであたしが襲ったって事になってんのよ!、抱きついて来たのはシンジなのよぉ!?」
 アスカは半ば半泣きになって訴えた。
「あたしだって、知りたいわ……」
 苦悩気味に漏らすと、シンジが再び謝った。
「僕が悪いんだよ」
「シンちゃん!」
「だってアスカの部屋なんだよ?、忍び込んだのかな、僕……」
 うなだれる、そんなシンジをアスカは叱る。
「あのねぇ、取り敢えず謝っとこうってのはやめてよね、気持ち悪い」
「そっかな」
「そうよ!、訳が分かんないままじゃ気持ち悪いでしょうが、それに」
「なに?」
 吐き捨てるように言う。
「こんなの、最低じゃない」
「最低、か」
 ぐわんぐわんと頭で響く。
 勿論アスカが口にしたのは、最初がこんな形では最低だと言う話である、だが。
「最低、か」
 シンジは再び、くり返した。






 ひょこ、ひょこ、ひょこっと、三つの顔が柱から覗く。
「ちょっとアスカ、邪魔!」
「なによ!」
「髪が鼻の穴に……」
「きゃあああああ!、吸い込むんじゃないわよ!」
「口に入りまぁす」
「……なんでバスガイド風?」
 アスカにレイにミズホだ。
 三人が覗いた部屋では、シンジがあぐらを組んでぼうっとしていた。
「で、今度は何を悩んでるんだい?」
 部屋の隅ではカヲルが片膝を抱いていた、横に置いた缶を取り口をつける。
 三人が覗いているのは、シンジの心配半分、カヲルへの警戒心が半分だった、すっかり相談役の地位が定着しつつある、精神的な意味でのお兄さんと言った所だろう。
 三人が警戒しているのは、別の意味での兄貴にならないようにであった。
「アスカがさ……」
 シンジのこぼした名に、それぞれがそれぞれに耳をすませた。
「最低だって、言ってたから」
 ギンッと睨み上げられて、アスカはウッと冷や汗を垂らした。
「ショックだったのかい?」
「え?、あ、そうじゃなくて」
 慌てて言い換える。
「別に、本当は嫌われてたんだとか、そんなことは思ってないよ」
「じゃあ、なんだい?」
「う、うん……」
 言い澱む。
「上手く言えないんだけどさ、そういうのをしたいって思うのって、やっぱり最低なのかなって思って」
 シンジにしては、やけに深い言葉であった。
「もし……、ほんとに僕が、酔った勢いで何かをしようとしたんだとしたら、そんなのに関係無くて、最低なんだけどね」
 苦笑いを浮かべるシンジに、カヲルも苦笑した。
「でも、その確証は無いんだろう?」
「うん……、けど、他には考えられないじゃないか」
 カヲルは突っ込んで訊ねた。
「何がいけないんだい?」
「え?」
「アスカちゃんとそうなっていたとしても、責任は取らされるかもしれないけれど、関係が一歩進んだだけで、彼女は許してくれるんじゃないのかい?」
 赤くなりつつ、うろたえるアスカに、二人が酷く剣呑な目を作る。
「だけど」
 だが歯ぎしりのみをして、レイもミズホもシンジへと振り返った。
「だけどお酒のせいなら、別にアスカを求めたんじゃないのかもしれない、アスカだって分からないまま、そんなことをしてたかもしれないんだよ?」
 カヲルはシンジの心配性に苦笑した。
「それを言うなら、もしかすると君はお酒の力で、普段気が付いていなかったものを素直に出せたのかもしれないよ?、本当はアスカちゃんのことが好きで……、まあ、これは恋心とか、そういう高いレベルの話じゃなくて……」
 言葉を濁したのは殺気を感じたからだった。
「そうだねぇ……、今、この家にはユイさんが居ない、だから君は無意識の内に安らぎを求めた」
「安らぎ?」
「夕べは一段と、凄かったからねぇ」
 暴れっぷりが。
「幼馴染で、いつも一緒に居たアスカちゃんにそれを求めたとしても不思議ではないよ、ユイさんに聞いた事があるんだけど、昔はお風呂も布団も一緒にしていたそうじゃないか」
 ガタンと物音が鳴った、ドタバタと走っていく音もする。
「聞いてたみたいだね」
「うん……」
 驚きに惚けるシンジだ。
「話を続けるけどね、君はお酒の勢いで幼児化し、アスカちゃんの布団に忍び込んだ、寝起きは心地好かったんだろう?」
「え?」
「言ってたじゃないか、自分で」
「ああ……」
 今思い出せば、大胆な事を口にしたものだ。
 微笑ましく見てから、カヲルは告げた。
「親と子供がそうだけど、君達には共通する匂いがあるからねぇ」
「匂い?」
「そうさ、赤ん坊が他の子の産着にくるまれると泣き叫ぶように、自分だけが落ち着ける匂いと言う物を誰しもが持っている、シンジ君とアスカちゃんは、そんな潜在的なものまで共有している、ユイさんが居なくなった事から、君は代理を求めた」
「マザコンって、こと?」
「そこまでは言わないけどね、アスカちゃんもレイもミズホも、料理一つ取ってもユイさんに似ているようで少しばかり味付けが違う、レパートリーも、何もかもさ、それに三人で競い合ったり、個々に出したりするからねぇ、三者三様の食に舌が苛立って、無意識の内に、そう、一番親しんできた物を求めてしまっているのかもしれない」
「だから……、母さんなの?」
「くつろげる何かに縋りたいって事さ」
 カヲルは缶を持ち上げると、乾杯、と何かに捧げた。







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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