「な……」
「え?」
「はう?」
「ちょっと……、あんた急になに言ってんのよ!」
 真っ青になって怒鳴るアスカに、カヲルは軽口に近い口調で答えた。
「言ったろう?、第二東京に二人で出かけていた時、君はキスシーンを迫られた」
「あれは……」
「君は自棄を起こしていたね?、何処の誰とも知れない人に唇を奪われるよりは、僕の方がマシだと思ったんじゃなかったかい?」
「そうよ」
「失礼な話しだね、だから僕も断った」
 肩をすくめる。
「君がしたいのはシンジ君ただ一人だけだ、それが分かっていてどうしてそんな事ができるんだい?」
 カヲルはシンジへと鋭い目を向けた。
「シンジ君」
「なに?」
「アスカちゃんはもちろん、レイも、ミズホも女の子だよ」
「うん……」
「だからこそ難しい事もある、いつ……、どんな不満から、アスカちゃんのように自棄を起こすか分からない、アスカちゃんの時は、たまたま僕だったからね、良かったけど、三人とも人気はある、手短な誰かを引っ掛けるかもしれない、何しろ暴走した女の子は爆弾そのものだからねぇ、何をしでかすか分からないよ?」
 カヲルは脅し付けてから、口調を和らげた。
「君がプレイボーイになれるとは思えないからね、これは忠告だよ」
「忠告?」
「そうだよ?、彼女達はもう大人だ、自分で考え、自分で責任を持ち、取る事も出来る、ただ君に依存している部分があって、それが酷く幼い自分をさらけ出させるんだよ、言い換えれば、君に甘えようとする自分が居るんだ、君は、そんな彼女達をあやしてあげなくちゃいけない」
「あやすって、どうやって……」
「それは自分で考えなくちゃいけないよ」
 カヲルは微笑んだ。
「君はこれまで、それを自然とやって来た、でも、もう限界なんだよ、同じじゃいけないんだ、だって君も、みんなも成長してしまったからね?、だからその分、支えてあげられるように変わらなくちゃいけない、その強さは、身につけ方は、人に教わる物じゃないよ」
「だからって……、急に、そんな事を言われてもさ」
「実を言えばね、僕には……、君がどうしてアスカちゃんの布団に潜り込んだのか、またアスカちゃんが受け入れたのか、想像がついているんだよ」
「え!?」
 これにはアスカも驚いた。
「なんですって!?」
 レイが詰め寄る。
「カヲル!、どういうこと!?」
「シンジ君が潜り込み、アスカちゃんも招き入れたって事さ」
「そんな、嘘ですぅ」
「嘘じゃないよ、正気でもなかったけどね」
「どういう……、事よ」
「エヴァンゲリオン」
 口の端に苦々しく笑みが形作られる。
「アスカちゃんも、やはり僕達の仲間だと言う事なのさ」
 硬直するアスカの青白い顔を、シンジはぎこちなく見つめてしまった。






 場末のバー。
 その中ほどの席に、一人のトレンチコートの男が座っていた。
 コートの色は黒、東洋人だ、それも日本人特有のいかめしさに、笑ったような目の造りをしている。
 カランとドアベルが鳴った。
 金髪の男が入って来た、それも飄々とだ。
 何も言わずバーテンがビールの栓を抜く、差し出されたそれを横手に受け取り、どこにでも席は空いているだろうに、真っ直ぐ男の隣に腰掛けた。
「こんな所で待ち合わせかい?」
 金髪の……、アレクは揶揄した。
「甲斐」
 男の口元がさらなる笑みを形作る。
「子供達が世話になっているようだね」
「そりゃもう毎日が大変だよ、あの子達はこちらのチェック機能を知らないからね、E反応が連日記録されて、警戒態勢がずっと続いてるよ」
 ビールを煽ってから言う。
「北海道、ゲンドウの元にも一人居る、少し自由にさせ過ぎなんじゃないのか?」
 甲斐は笑って言った。
「僕は一度だってあの子達のやる事に反対したことは無いよ、困ると口にしたことは、まぁあるかもしれないけどね」
「だからお願いしてやらせているのか?、マインドコントロールをかけられていると疑ってる子も居るんだぞ?」
「僕はそんな事していないよ、去っていくなら自由にすればいい、子はいつか独り立ちする時が来るものさ、あの子達はもう、子供じゃあない」
「だが大人でも無い、叱って欲しい時だってあるだろうに」
 ま、と肩をすくめる。
「そんなだから、扱い易いんだけどな」
 アレクは追加で、ポークウィンナーの塩ゆでを頼んだ。
「で、用事ってのは?」
「色々と忙しくなりそうでね」
 甲斐はMOディスクを取り出すと、それを手渡した。
「これは?」
「特に意味のない情報だよ」
「ふうん?」
「問題はゲンドウがこの地を離れているって事さ、お前じゃ役不足だと判断したんだろう、この機会に、できるだけ情報を探ろうと言う腹積もりらしい」
「何処の機関だ?」
「何処だと思う?」
「国連……、のはずはないな、日本政府、内調か?」
「当たりだよ」
 くつくつと笑う。
「第三新東京市は日本の首都のようで米軍の基地並みに治外法権だからね、何をやってるのか気にしてるんじゃないか?」
「暇な連中だ」
「だけど鬱陶しいことこの上ない、必要なら子供達に声を掛けようかと思ってる、この街を守れってね」
 アレクは目を丸くして驚いた。
「何の冗談だ?」
「冗談じゃないよ、この街はね、君達が思っている以上に、その価値が買われているんだ」
 コーヒーの香りを楽しむ。
「最先端のハイテク都市、全ての情報は統括管理され、あらゆるハッキング、クラッキングに抗じて来ている、全世紀末を覚えてるかい?」
「どの話しだ?」
「インターネット普及後のネット犯罪だよ、不思議な物でね、コンピューターがそうだけど、最初の世代が慣れると、次の世代の子供はもう一段早い時期に習得するんだ、最初は大学生から、だけど気が付くと小学生が極当たり前のように利用している、理詰めにならない分、過程を無視して慣れるからだろうね、子供というのは恐ろしいよ」
 約数秒間、体を揺らして笑った。
「人間とは不思議な物だね、個々別種の人間でありながら、次の世代は前の世代の知識を、学ばずとも当たり前と手にして活用している、そしてその子供達が大人になって、必死に考えた事を、そのまた子供は小さな時から何を当たり前のことをと理解しているんだよ、子供というのは、大人が思ってる以上に賢しく、賢い」
 話が横道に逸れたね、と甲斐は言った。
「前世紀、インターネットが普及してからの五年と見ても、最初の年は数百件だった、翌年には数万件だった、その次の年には数百万件と犯罪は増えた、ところが政府は法を見直す、整備する、対応する、いつになったら?、来年を目処に、こう言うんだよ」
「それはいつものことだろう?」
「対応が遅い、初動が遅い、動き始めた時にはもう、手がつけられなくなっている、こうなると日本人って言うのは凄いね、平気で仕方が無いと許容する、例えそれが、どんなに許されない事でもね」
 アレクは目を細めた。
「何が言いたいんだ?」
「この街は違うと言う事さ」
 第三新東京市。
「例えペンタゴンであっても、ハッカーの前には苦労しているよ、ところがだ、この街は日々進歩し、進化し、さらには新種まで現れる技術屋を全て駆逐している、これが如何に凄い事か分かるかい?」
 面白げに言う。
「この街のシステムは、おおよそ考えられる世界の技術の数十年先は行っていると言う事さ、回りの進歩が追いつかない高みに既に在る、となれば、事実上世界のシステムを掌握する事も可能だと言うことだ」
「誰かが、その価値に気が付いた?」
「あるいは欲しているのかもしれない、けれどねぇ、困るんだよ」
 アレクは顔をしかめた。
「そんなことはないだろう?、確かにこの街の管理システムは素晴らしい、けど、お前の手にも同等の力はあるはずだ」
「表に出せない力がね」
 甲斐は足を組み、手を掛けた。
「この街は確かに部外者を受け入れない、けれどね、それは逆を言えば、この街は誰にとっても安全だと言う事になるんだよ」
「あの子達にとって?」
「正にその通りだよ、この街が正常に異邦人を排除し続ける限り、自由に入り込めるあの子達にとっては、ここはパラダイスになりえるんだよ、これを失うのは、僕にとっても辛い事になる」
 ブンと、その甲斐の姿がぶれた。
「僕には、協力する用意がある」
「ゲンドウが居ない内に、食い込もうというのか?」
「心外だね、僕はひとり勝ちする勝負に興味は無いよ、遊びは相手が居てこそ面白いんじゃないのかな?」
 真剣に言っているようだった。
「遊び相手、ね……」
「こちらも色々と準備はしている、だけど周りがうるさい、この頃はちょっかいも出せない、つまらない事だ」
 ノイズが酷くなる。
「それじゃあ、あの子達のこと、よろしく頼むよ」
 ついには消え去る。
『支社長代行』
「アナウンスにアレクは肩の力を抜いた」
『シナリオの終了を確認しました、お疲れ様です』
 人、物、カウンター、壁と、順番に物が消滅していく。
 そして最後に残ったのは闇だけだ、バクンと音がして、闇に横の切れ目が入った。
 開かれるカバー、アレクは『立ち上がった』
 ポッドから出る。
「どうでした、今日の追加シナリオは」
 何気ない研究員の台詞に、まぁまぁだったかなと答える。
「でも、これのソフトって、どこで開発してるんですか?」
 それは以前、シンジ達がモニターを頼まれたあのゲーム機だ。
「それはね」
「はい」
「ひ・み・つ・だよ」
 ポンと肩を叩いて通り過ぎる。
「あ、そうそう、セーブデータに新しいアイテムが記録されてるんだ、後で上に回しといてね」
「分かりました」
 首を傾げながらも研究員は、深く考えずに従った。



続く







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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。

Q'Genesis Qnaryさんに許可を頂いて私nakayaが制作しているパロディー作品です。
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