「はぁ……」
アスカは黄昏ていた。
先日来、週が明けてもこの有り様である、土日などは結局、自室に篭ったままだった。
シンジには勿論、レイも掛ける言葉を見付けられなかったようで、ミズホに到っては何が問題なのか分からなかった程である。
自然と一人にされていたと言っても良い、どの道、アスカの悩みを解決してくれる人物など、存在していないのだが。
教室、こういった時、窓際の席でないのは微妙な話であった。
アスカの目に写るのは、窓枠によって分断された青い空だ、間に真面目に授業を受けているクラスメートが居るのだが、ぼやけてしまって意識の内には入って来ない。
ただ、そうして惚けているわけにもいかない、時折間の子が怪訝そうに顔を向け、意識を向けて来るからだ。
そうなるとぼやけていた焦点をつい合わせてしまう、ぼんやりと物事を考えていたと言うのに、舌打ちしたい気分にさせられ、酷く苛立つ。
が、窓際の席であったなら、日常に埋没し切れなかったであろう、あくまでも規則的な授業風景を眺めていたことから、意識を集中させずに、あるいは拡散させていられたのだから。
余計な事を考えずに済むというのは、それはそれでありがたい物である。
(寝不足……)
ふわっと欠伸が出てしまう、証拠的に家では良く眠れなかったのだ。
布団に潜って、夜の静けさ、耳が痛くなるほどの静寂の中に叩き込まれると、妙に想像が働いてしまって、落ち着かなかった。
(シンジの奴、よくぼけぼけっとしてられたもんね……)
蔑みではない、感心だった。
深く考えればこれ程落ち着かないことはない、なのに、シンジは『それ』を知ってからも、当たり前のように日常を重ねて来ている。
(不安……、ってんじゃないし、なに?)
落ち着かない理由が見当たらない。
それがアスカの、一番心乱されている理由でもあった。
自分が何者であるのか?
問われれば答えられる、自分は自分だ、と、ミズホのことが思い浮かぶ。
(結構凄い事なのね……)
ミズホは『自分が何者であるのか』知らないはずである、なのに、笑って毎日を楽しく過ごしている。
(何考えてんのか分かんないけどねぇ……)
口元に、久々の笑みが浮かんだ、すぐに消えたが。
(あたしはあたしよ、ミズホと違って、幼い頃からの記憶だってあるし、毎日普通に暮らして来たし、親だってはっきりと分かってる、何となく自分もそうだろうって言うのは気付いてた……、ううん、納得してたし、そんなの今更じゃない、小さい頃からシンジと一緒だった、今だって一緒に居る、何も変わってないし、何かが変わるわけじゃないのに)
ショックを受けている。
(どうして?)
その答えが内に無い。
キラリと反射した光が目に入って顔をしかめる。
(そっか、あたし……)
輝きは誰かのシャープペンシルの反射であったが……
(力ってのを持ってるって実感が無いから)
言葉の説明などでは納得できない。
アスカはようやく、満足できる答えを見いだし、自問の輪から抜け出す事に成功していた。
Neon Genesis
EvangelionGenesisQ'130
「ビーストマスター」
今日の下校の連れはレイだけであった。
「アスカ……、まだ変だったね」
一応、遠目には確認して来たようだ。
「いいの?、シンちゃん」
「何が?」
「だって……」
言い噤むレイに、シンジは笑って答えた。
「アスカは……、僕とは違うから」
「え?」
「アスカはね、自分で考えて、ちゃんと答えを見付けられるから凄いんだよね、だから何でも出来るんだ、出来るようになったって言った方が良いのかな?」
「そうかも……」
「ああいう時のアスカって、昔っからだけどさ、今考え事してるんだから、邪魔するなって怒るんだよね」
ふと、唇を尖らせていることに気が付いた。
「どうしたの?」
「何でもない!」
首を捻ったが、良く分からないシンジである、それが余計に苛立たせた。
(シンちゃん、あたしの時は気付いてくれないのに……)
理解し合っていると言う、そんな甘い理由でないのは分かっている、むしろ学習だ、何度も怒られたから、今のような状態の時は触れずにおこうと言う教訓を得ている。
だが、だからこそ寂しく感じさせられてしまっていた、分かり合う時などは一瞬で分かり合えるようになるものかもしれない、しかし、相手の癖や行動のパターンまで掴めるようになるには、単純に時間の積み重ねが必要なのだから。
(三年、か……)
中学二年生から始まって、三年、高校一年、そしてようやく丸三年になろうとしている。
(もっと一緒に居たみたいだけど……)
密度は高いかもしれないが、その点で口にすればアスカも同じことになる。
(埋まらない……)
この差だけは、絶対に埋まることは無いのだ。
レイは横目にちらりとシンジを見上げた。
すっかり高くなった背、髪形をもう少し大人っぽく変えても良いと思える。
それぐらいに、シンジはかっこ良くなりつつある。
顔が、と言うのではなく、雰囲気が、だ。
(くやしい、かな?、多分……)
レイは自分の心理をそう分析した。
良く本にある、空気のような存在、意識せず、常に側にあって、しかし無いと生きて行けない、そんなものを上げるなら、確かに自分ではなくアスカとなってしまう、レイにはそれが分かっていた。
(だって……)
先の考えがぶり返す。
(シンちゃんは気付いてないけど、アスカの考えやアスカの想いが分かるって事は……)
気遣いが出来ると言うことなのだ、例えば今、シンジが彼女を苛立たせないように、わざと一人にさせているように。
そこには、答えを見つければ自分から戻って来ると言う、信頼が存在している。
アスカは今、その事に気が付いていないだろう、だがそれこそが重要でもある、まさにシンジは、アスカにとっては空気なのだ、側に居ながらも、意識させないのだから。
(あたしじゃ、そんなの無理……)
独りで居ようとするシンジを、苛立たせてしまうほど、心配で側に居てしまうだろう、これまでのことからもそれは分かっていた。
また、心配で堪らない、とても今のシンジのように、安心して見守るなど出来はしない。
これが出来るようになっただけでも、シンジは確実に逞しく、かっこ良くなっていると言えるのだ、見えるのだ、少なくとも、レイの目には。
(シンちゃん……、あたしが悩んでると、優しくしてくれる、それって)
つまりは、アスカほどには強さを認めてくれていない、と言うことになってしまう。
(あたしが隠れて何かしてたら、心配してくれる、不安になってくれる)
それはそれで嬉しい事だが、例えば浩一との事で、過去に行き違いがあったように。
(信じ切ってくれない)
胸を掻きむしりたくなるほどの『痒さ』に囚われる。
それは嫉妬だ。
(でも、心配してくれないのも嫌、感じられないのも落ち着かない、アスカはどうなの?、クラブとか、ヒカリと遊びに行ったりしてる時、シンちゃんのこと忘れてるよね?、でも楽しそう、シンちゃんが居ると、もっと楽しそうになる)
そして、ミズホだ。
(ミズホは?、ミズホ、この頃ずっと一人なのに……)
常にシンジを感じている。
(シンちゃんのことばっかり考えてるから?)
それにしては、不安に陥ろうとしない。
(信じてる?)
レイはまたもシンジの顔を、今度はじっと見つめた。
(だから、シンちゃん、安心してるの?、ミズホは、居なくなったりしないって)
好きで居てくれていると、分かっているから。
(じゃあ、あたしは?)
信じてもらって、ない?
レイはぷるぷると首を振った。
サイドの髪が、ぱたぱたと頬を叩く。
(そう言うんじゃない、信じてくれてる、あたしが居なくなるなんて、嫌だって思ってくれてるから、こうして一緒に居てくれてる)
不安、と言う言葉が脳裏を過った。
(あたし、どこかでシンちゃんを信じ切ってない?)
それは何故か。
(独占、したいの?)
レイはぼんやりと考え込んで……
「レイ!」
「え?、きゃ!」
腕を掴んで引き戻された、信号は、赤だった。
「危ないよ、どうしたの?」
「え?、ううん、なんでもないの……」
「そう?」
シンジは首を傾げて言った。
「アスカも変なんだから、レイまで考え込まないでよ」
「うん……」
レイは思い切って訊ねた。
「ねぇ、シンちゃん」
「なに?」
「シンちゃん……、キスしたいって、思うこと、ないの?」
シンジは真っ赤になって、小さく喘いだ。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
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Genesis Q
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