「なんで、なんで、なんで!」
 アスカはクッションを放り捨てた。
「何であんたが見えるのよ!、何であんたなの、なんで!」
 ヒステリックに喚き上げる。
「どうして、シンジ!」
 愛したい、愛されたい、愛し合いたい。
 それは『彼ら』が求めて止まなかった物だ。
 また、電子の世界のアスカが最も欲した感情でもある。
 嗚咽にむせぶと、声がした。
『アスカ』
「カヲル!?」
 頭の中から声がした。
「カヲル?、どこ!?、カヲル!」
『僕はいないよ』
「どうして!」
『僕が居るのは、夢と現実の、狭間の世界だからさ』
 カヲルの幻が見え、アスカは見上げた。
 透けている。
「あたし、狂ってるの?」
『いいや?、まだ、そうなっていない、でも、君が望めば、夢の世界にも、現実の世界にも帰れるさ、けれど、他人の温もりを信じれば、同時に寂しさにも曝される事になるよ?、苦しみを感じる事になる』
「そう……」
『どうする?、僕と、永遠のまどろみを楽しむかい?』
 アスカは頷こうとして、できなかった。
『それでも良いのかい?』
「だって……、だって、それは違う、違うって分かっちゃったから!」
 現実のシンジの存在感は、遥かに大きい物だから。
「確かに、あんなことがあったのかもしれない、でもレイの、ミズホの、カヲルの過去は、あいつらの過去だもの、同じじゃない、卑怯だったのね、直接聞くのが恐くて、傷つけてしまいそうだったから、パパなんかに聞いちゃって」
『もう、恐くないのかい?』
「友達だから」
『だから、良いのかい?』
「きっと、話してくれるから……、伝えたい時に」
『そうだね』
 微笑みがかすれる。
 アスカは一つだけ訊ねた。
「でも、あたしの中に居るあんたは、誰?」
『幻さ』
「幻?」
『そう……、ただのプログラム、電子基盤の幻影が、君の中に焼きついてしまっただけ……』
「カヲル……」
『悲しむ事は無いよ、君には、君を抱き締めてくれる人が側に居るから』
 声が聞こえた。
「歌……」
 もう『カヲル』の声は聞こえなかった。
 ぐいと腕で涙を拭い、大声で叫んだ。
「馬鹿シンジぃ!」
 すっきりするまで、叫び続けた。


「あ……」
 一つ歌うと、胸のつっかえが取れて、どこか気分が晴れていた。
 アダムカドモンは気を失っていた、崩れた体を浩一が抱き止めていた。
 シンジとミズホを真似るように。
「心配することは無いよ、命には復元しようとする力がある、生きて行こうとする心さえあれば、幸せを求めて生きて行くさ、だって、もうこの子は独りじゃないから」
「浩一君……、君は、君は」
 シンジは言いかけた言葉を噤み、頭を振った。
「もう、良いんだね?」
 言い直された言葉に微笑む浩一。
「ああ……、生まれて来てどうだったのかは、この子が自分で見付けるべきだよ、シンジ君」
「なに?」
「君は、カヲル君が言う通りの人だったね……」
「え?」
「好意に値するよ」
「好意?」
「好きって事さ」
「え?、あの!?」
 何故だか赤面するシンジにむっとする。
「シンちゃあん?」
「ち、違うって、そうじゃなくて」
「はは……、じゃあ、僕は先に帰っているよ」
「え!?、あ……、消えた」
 呆然としてから、シンジは力を抜いた。
「なんだったんだよ、もう……」
「さあ?」
 シンジはふうと息を吐いた、ミズホの体を、重く感じる。
「……帰ろう、か」
「え?」
 シンジは唐突に呟き、微笑んだ。
「帰りたいんだ……、帰って、話したい事があるから」
「……そうだね」
 柔らかく微笑む、誰に話したい事があるのか、言わずとも同じだった。
 ところで。
(んむ〜〜〜、まだですかぁ?、シンジ様ぁ)
 ミズホはまだまだ、ひたすら期待をして待っていた。






 帰って来た、と言うよりも、帰って来てしまった、と言う雰囲気だった。
「ほらっ、シンちゃん!」
「あ、う、うん……」
 なんとなく雰囲気で帰りたいと言い、宿泊を切り上げて帰って来たまでは良かったが、考えて見れば自分一人が興奮していただけである。
(アスカ、怒ってるだろうなぁ……)
 何故だろう?、それ以外の不安はもうなかった。
 諦めなのか、それとも開き直りなのか、アスカの気持ちなど気にならなかった。
 震える手を扉に掛けて、目を閉じ、ごくりと生唾を飲み下す。
 カッと見開き、思い切って戸を開けた。
「ただいま!」
「馬鹿シンジぃ!」
「え!?」
 パシンと一発。
「わっ!」
 そのまま腕を掴まれ、引き込まれる、
 びしゃんと閉じるドア、揚げ句にがちゃりと鍵。
「あ!」
 呆然としたレイとミズホは慌ててドアノブを握った。
「ちょっとアスカ!」
 がちゃがちゃとやるが開かない。
「ふえええええん!」
「ミズホ、待って!」
 びたっと張り付く。
(酷いよ!、叩くなんて)
(酷いぃ?、酷いのはどっちよ!、何処行ってたの!?)
(お、温泉に……)
(温泉〜〜〜!?、あっ、そう!、二人といちゃついて来たってわけ?、そうなんでしょ!)
(違うよ!、そんなことしてないって!)
(どうだか!、前だってそうだったじゃない!)
(前ってなんだよ!)
(レイと二人っきりで何してたんだか!)
(そんな昔のこと、もう忘れたよ!)
(開き直ったわね!?、なによ!、馬鹿シンジ!、もう知らない!!)
(何泣いてるんだよ!)
(泣いてない!)
(泣いてるじゃないか!)
(泣いてないもん!)
(怒るか泣くか、どっちかにしてよ!)
(酷い!、シンジのばかぁあああ……、ああああああ)
(あああああ!、悪かったよぉ、だからもう泣かないでよぉ!)
(シンジはあたしよりレイとミズホの方がいいんだ、だから捨てるんだぁ!)
(捨てないって、変なこと言わないでよ!)
(じゃあ好き?)
(うっ……)
(ううううわああああああ!)
(ああっ、好きっ、好きだから泣かないでってば!)
(ほんと?)
(う、うん……)
(じゃあちゅーして)
(な、なんで!)
(シンジぃ、ん〜〜〜)
(うわあああああっ!?)
「シンちゃん!、シンちゃん!」
 慌て、ノブを持ったまま足でフレームを必死に蹴るレイ。
「シンジ様ぁ、シンジ様ぁ!」
 一方ミズホも見かけによらず頑丈な扉にやくざキックで対抗、ところで。
 すぐ横から庭に回れば縁側は空きっぱなしだったりするわけで……
「シンちゃあん!」
「シンジさまぁあああああ!」
 心理的には十センチも水かさがあれば溺れられるのと同じパニック状態なのかもしれない。
「ん〜〜〜、シンジぃ、あのねぇ?、寂しかたのぉ、それでねぇ?、いろいろあってぇ」
「うう、汚された、汚されちゃったよ、レイ、ミズホ、うっう……」
 結局中で何があったのか?、それは永遠に謎になるのだが、ミズホとレイが裏口の存在を思い出すには約十五分もの時間が掛かってしまったわけで、それは手遅れというには実に十分な時間であった。



続く







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